斎藤先輩はSらしい

こみあ

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十一月は波乱の季節

50話 一緒にいたいんです

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「先輩、今日も電話しちゃって本当に大丈夫だったんですか?」

 宿題の答えは準備できたけど、スマホを握って電話が掛かってくるのを待つ間、じっくり三十分は待ってた。やっと鳴った先輩からの通話に、ワンコールで飛びつくように通話に出た。

「問題ないよ。ちょうどいい息抜きになるし……気がかりを残すよりはね」

 なんか先輩の声が最後、ちょっと凄みを帯びた気がするのは気のせいだろうか?

「それで宿題の答えは準備出来た?」

 先輩に催促され、プレッシャーで焦る気持ちを深呼吸して落ち着かせてから、私は一息吸って口を開いた。

「この一週間、図書室に先輩の姿がないのが凄く変なんです。帰り道も先輩と一緒にいるのが当たり前になってたから、一人で帰るとなんか道が広くて長くて寂しくて……」

 二人の間に自分の声しかしないのが緊張する。

「それでよく考えてみたら、先輩とは結構前から図書室でずっと一緒だったし、喋らなくても、誰かがずっといてくれるのはやっぱり嬉しかったんだなって今更気づきました」

 それでも言おうと思ってたことを順番に辿っていく。

「いつの間にか、先輩は空気みたいにいてくれるのが当たり前になってたから、先輩がいないのは寂しいって言うよりなんか先輩欠乏症で息苦しいんです」

 言っているそばから胸が苦しくなってきて、今にも息が止まるような気さえする。
 そこでさっきから先輩の声が全くしないことに気がついた。

「先輩?」

 あれまさか途中で切れちゃってた!?

 心配になって尋ねた私に、一瞬の間を置いて、先輩の声が響いた。

「ごめん、言葉にしてもらったら思ってた以上にきた……。市川さんは言葉選びが独特だけど丁寧だね」
「え、そ、それはありがとうございます」

 先輩に褒められてるけど一体なにを褒められたのかよくわからない。だけどそれに安心して、私は先を続けた。

「それでですね、アッコちゃんにも相談しちゃったんですけど……」

 あ、特に怒られないから相談したのは問題なかったみたい。
 ならばと覚悟を決めて、私は自分の出したファイナルアンサーを口にした。

「どうやら先輩は、今の私にとってすごく特別な存在みたいです……いつも先輩と会いたいし、一緒にいたいんです」

 言ってしまってから、一気に気持ちが高ぶって、突然猛烈な恥ずかしさが襲ってきた。
 以前先輩の髭が見えてしまった、あの時よりもっと恥ずかしい。

 恥ずかしい、苦しいのに、死ぬほどドキドキした。胸が痛くて、熱くて、逃げ出したくて。
 ほんの数秒の沈黙に焼き殺される気がして。

 耐えきれずに声をあげて誤魔化そうとする寸前、スマホのスピーカー越しに先輩の重く切な気なため息が聞こえた。

「失敗した。今聞くんじゃなかった……」

 そう言った先輩の声が本当に悔しそう。

「あ、あの私なにか困らせてしまいましたか?」

 心配になって尋ねたら、スマホから先輩のクツクツ笑いが漏れ聞こえた。

「ごめん、確かに困ってる。僕も市川さんに会いたくなった」

 それを聞いた途端、全身が震えた。

 会いたい。
 それが自分だけじゃない。

 たったそれだけの言葉がどうしてこんなにも嬉しいんだろう。
 心がハイになる。
 浮き上がって飛んでいく……

「次の宿題は僕の番だね。来週僕に会ったら色々大変だから覚悟しといてね」

 先輩の言葉は、まるでスペースシャトルみたいに私の気持ちを高く高く打ち上げた。
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