斎藤先輩はSらしい

こみあ

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十月、ハロウィンはいつどこで?

42話 あれからずーっと

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 あれからずーっと。
 私の顔を見るたびに、先輩が手で口元を覆って笑う。
 帰りがけに入ったファーストフードでも、大した話はせずに先輩が笑ってた。

 これはデートとしては失敗じゃないだろうか?

 それでも普段無表情が多い先輩がこんなに笑ってるのは、見てるこっちも嬉しくなる。
 『城島先輩』の時みたいな、変に綺麗な笑顔じゃないし。
 でもやっぱりちょっと悔しくて嫌味を言ってみた。

「私が困ってるところを見るのがそんなに面白かったんですか?」
「ごめん、でも面白かった。ほら、言ったでしょ、僕Sだし」

 尋ねた私を見つめて、眼鏡の向こう側の目が少し悪戯っぽく笑う。
 それがなんか変に綺麗で、なんだろう、ちょっとドキリとしてしまった。
 それが恥ずかしくて、むず痒くて、誤魔化したくて残ったポテトを漁りながら言い返す。

「そりゃ先輩は色々経験が豊富で揺れ揺れペアシートくらい笑って楽しめるんでしょうけど」

 唇を尖らせて、ポテトを片手にそう言うと、先輩がプッと吹き出した。

「揺れ揺れ、ペアシート、って、あはは」

 お、珍しい。先輩が声を出して笑ってる。
 新しい反応を頂いたぞ。
 こんなことを考える私は、いつか斎藤先輩マスターになれそうだ。

 またしばらくクツクツ笑いをしてた先輩は、私のポテトを一本引き抜いて、テーブルに肩肘をついてポテトで私を指す。

「市川さんは僕がそんなに経験あるって思ってるんだ」
「違うんですか?」

 いや、私だってそこまで馬鹿じゃない。
 斎藤先輩はともかく、あれだけ追いかける人が絶えない『城島先輩』に、今まで誰も付き合った人がいなかったなんて信じられない。

 私のポテトを齧りながら先輩はからかうように続ける。

「信じてくれそうもないけどね。まともなお付き合いをするのは本当に市川さんが初めてだよ」
「でも喧嘩するほど女子がいっぱい申し込んできてたんですよね?」

 モテるんだから一度くらいは、そう思う私とは裏腹に、斎藤先輩の顔が少し曇る。

「ああ、いたね」
「一度くらい付き合おうって思わなかったんですか?」
「素の僕と付き合いたいなんて思う人はきっといないよ」
「そんなことは──」
「現に今まで誰一人、図書室にいた僕に声かけてきた人はいなかったし」

 私が言い終わるより早く先輩がキッパリと言い切って。
 そこでふと笑って付け加えた。

「いや、いたか。『冴えない三年生』に声かけてきた人が一人」

 残りのポテトをムシャムシャと食べつつそう言って私を見る。

「まだそのネタ引きづりますか」

 少しげんなりして思わずそう言い返すと、先輩が突然こちらに腕を伸ばしてきて、私の頭をワシャワシャとかき回した。
 髪をクシャクシャにされ、前方が見えなくなって焦る間に、トレイを持って先輩が立ち上がってた。

「そろそろ帰ろうか」

 そう言った先輩の顔は少し赤く、なぜかちょっとムッとしてる気がした。

 私のポテトがほとんど先輩に食べられちゃってた事実には、結構後になってから気がついた。
 先輩はポテトが好きらしい。
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