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後夜祭はマイムマイム?
32話 かなり重かった
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「僕の遺伝子的な父はハーフなんだ」
公園のベンチに並んで座った私たちは、しばらくなにも話さなかった。
先輩とは沈黙が続くのが当たり前の日常茶飯事で、それは別に気にならなかった。
しばらくして日が沈み、蛍光灯の灯りがベンチを照らす中、先輩がやっと口を開いた。
「父と母が離婚したのは、僕がまだ小学校の時。父とはそれっきり会ってない。……アメリカに帰ったって兄貴が言ってた」
淡々と話す先輩の話は、かなり重かった。
普通に両親と暮らしてきた私には、それがどれほど辛いことか全然想像できない。
「父と離婚して、母は実家のあるこの街に戻ってずっと家で働いてたよ。外聞が悪いって祖母がね、母を家から出したがらなかったんだ。母は嫌そうだったけど、僕はそれまで忙しかった母がいつも家にいてくれるのが新鮮だった」
お母さんが家にいてくれることがそんなに特別であるのが、私には少し驚きだった。私にとって、それはあまりに当たり前すぎて。
「だけど、高校に入る少し前、買い物に出たっきり母が帰って来なかった」
先輩の声が、少し小さくなる。私は聞き逃さないように、心持ち先輩に顔を向け、表情を盗み見た。
「しばらくして手紙が届いたよ、再婚したって。相手は以前世話になった医者で、離婚したあと色々相談してたらしい。一緒に住もうって言われて、相手にも引き合わされた」
こんな話をしていても、先輩は無表情で、声のトーンもほとんど変わらない。
多分、こうやって他人事みたいに話すことで、先輩は色々と自分と切り離そうとしているのかも。
「その相手の男がね、僕を見て最初に言ったんだ。『前の旦那さんに似てるね』って。僕の色の薄い目を見てちょっと嫌そうにね」
ここで初めて、先輩の言葉に感情が滲み出した。間違いようのない、嫌悪。
私がそれに気付いて身動ぎしたのを見た先輩は、私を気遣うように笑顔を見せる。
「だから髪を伸ばしてカラコンを使い始めたんだ。父のほうが髪のクセが強かったし、目の色は薄かったみたいだから。多分、今の僕はかなり父に似てるんじゃないかな」
でもそれは斎藤先輩の笑顔じゃなくて、いつも『城島先輩』が浮かべてる、なんか綺麗すぎる笑顔で。
「お陰で僕は、未だに祖父母の家で暮らしてるってわけ」
先輩は笑顔を貼り付かせたまま、そう言って私を見た。
公園のベンチに並んで座った私たちは、しばらくなにも話さなかった。
先輩とは沈黙が続くのが当たり前の日常茶飯事で、それは別に気にならなかった。
しばらくして日が沈み、蛍光灯の灯りがベンチを照らす中、先輩がやっと口を開いた。
「父と母が離婚したのは、僕がまだ小学校の時。父とはそれっきり会ってない。……アメリカに帰ったって兄貴が言ってた」
淡々と話す先輩の話は、かなり重かった。
普通に両親と暮らしてきた私には、それがどれほど辛いことか全然想像できない。
「父と離婚して、母は実家のあるこの街に戻ってずっと家で働いてたよ。外聞が悪いって祖母がね、母を家から出したがらなかったんだ。母は嫌そうだったけど、僕はそれまで忙しかった母がいつも家にいてくれるのが新鮮だった」
お母さんが家にいてくれることがそんなに特別であるのが、私には少し驚きだった。私にとって、それはあまりに当たり前すぎて。
「だけど、高校に入る少し前、買い物に出たっきり母が帰って来なかった」
先輩の声が、少し小さくなる。私は聞き逃さないように、心持ち先輩に顔を向け、表情を盗み見た。
「しばらくして手紙が届いたよ、再婚したって。相手は以前世話になった医者で、離婚したあと色々相談してたらしい。一緒に住もうって言われて、相手にも引き合わされた」
こんな話をしていても、先輩は無表情で、声のトーンもほとんど変わらない。
多分、こうやって他人事みたいに話すことで、先輩は色々と自分と切り離そうとしているのかも。
「その相手の男がね、僕を見て最初に言ったんだ。『前の旦那さんに似てるね』って。僕の色の薄い目を見てちょっと嫌そうにね」
ここで初めて、先輩の言葉に感情が滲み出した。間違いようのない、嫌悪。
私がそれに気付いて身動ぎしたのを見た先輩は、私を気遣うように笑顔を見せる。
「だから髪を伸ばしてカラコンを使い始めたんだ。父のほうが髪のクセが強かったし、目の色は薄かったみたいだから。多分、今の僕はかなり父に似てるんじゃないかな」
でもそれは斎藤先輩の笑顔じゃなくて、いつも『城島先輩』が浮かべてる、なんか綺麗すぎる笑顔で。
「お陰で僕は、未だに祖父母の家で暮らしてるってわけ」
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