斎藤先輩はSらしい

こみあ

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後夜祭はマイムマイム?

30話 君は泣かないんだね

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 あのあと、私の鞄を取りに教室に戻り、腫れが酷くなった顔を心配した先輩に連れられて保健室に来た。

 先輩じゃないけど私の顔は結構腫れてて、唇もちょっと切れちゃってる。
 放課後も遅い時間のせいか、保健室の先生は不在で、仕方なく私は自分で勝手に治療することにした。

 先輩は一度も私を慰めることなく、保健室に来ても治療を手伝ってくれる訳でもなかった。
 ただ黙ってジッと私を見てる。私が淡々と顔を洗って、薬塗って、服を整えるのを。

「君は泣かないんだね」

 作業が終わる頃、先輩がボソリと呟いた。

「つまらない」

 そう言って、ちいさな絆創膏を取り出して私に向き直る。それを片手に私の頭に手を伸ばした。
 言われた言葉の意味を考えて反応が遅れた私は、先輩の大きな手で後ろ頭を支えられてしまい、いいように絆創膏を貼られてしまった。
 切れた唇が擦れて痛くて、ついちょっと顔を顰めた。

 それを見た先輩は、ほんの少しだけ口元を笑ませて、私に貼った絆創膏の上を指で押す。

「んっ!」

 また走った痛みに思わず声が出た。気を抜いてたから涙も滲む。

「殴られても声上げなかったのに、僕が押しただけで声が出るんだね」

 その言葉にふと疑問がよぎった。

「先輩、いつからあそこにいたんですか?」

 私の問に答えつつ、先輩が今絆創膏を貼った手を私の頬に添えた。

「最初から」

 気のせいか、先輩のカラコンの目が輝いてる気がする。
 私の頬を包む先輩の手は、大きくてちょっと冷たかった。

「言ったよね、僕は多分Sだって」

 そう付け加えた先輩の顔が私の顔にゆっくり近づいて来て。
 金色の瞳に吸付けられて、私も視線が外せなくて。

 私は真っ直ぐ先輩を見返したまま、口を開いた。

「でも私が他の先輩たちに虐められてるのを楽しめた訳じゃないんですね」

 私の言葉を聞いて、先輩の顔がピタリと静止する。
 ジッと私を見つめる目を私はやはり視線を外さずに見返すけど、作り物みたいな綺麗な笑みは消えちゃった。

 さっき一瞬見えた目の輝きは、あれは喜んでるものじゃなかった。
 先輩はなにかを誤魔化そうとしてる。そう感じたから私は視線を逸らさない。

 先に視線を逸したのは先輩だった。
 ふぅと一つため息をついて、私から手を外して結ってた自分の髪を解く。

「ちょっと待ってて」

 そう言って、保健室の鏡の前で器用にコンタクトを外してケースにしまい、ちょんちょんと目薬して眼鏡をかけて。制服をきちんと整えて。

 最後にクシャクシャと髪をかき混ぜると、『城島先輩』がいなくなって『斎藤先輩』が現れた。

「これ見せたの、君が初めてだよ」

 そう言って口元を笑ませたのは、間違いなくいつもの斎藤先輩だった。
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