斎藤先輩はSらしい

こみあ

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後夜祭はマイムマイム?

24話 のぞいてごらん

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 もう土下座の勢いで、どこまでも頭を下げまくる。
 これはあんまりだ。
 失礼にも程がある。
 どうやら皆様のアイドルらしい先輩相手に、私は一体なんてこと──

「でも嬉しかったよ」
「へ?」

 怒涛の後悔の沼に沈みきってた私に、先輩の思いがけない言葉が降ってきた。

「ほら、冴えない『斎藤』に告白してくる子なんていなかったし」
「せ、先輩、」
「それに僕だって卒業前に『アオハル』してみたかったし」
「ううっ、もうそれ以上はどうかお許しを」

 先輩の追撃でさらに深く沼に沈み込む。

 もう穴があったら底を掘ってマントル付近まで深く潜りたい。

「こっちきて」

 深く深く頭を下げて縮こまってる私の背を、先輩の手が軽く叩いた。
 見上げると、困ったように苦笑いした先輩が、私を促して教室の奥へと進んでく。

 昨日も来た教室は迷路部分が取り外され、喫茶エリアの机も片付けられてた。
 入り口のカバーが取り外されてて、廊下から差し込む外の明かりで前回より中は薄明るい。

 その奥、窓に貼り付けられたカーテンはそのままで、黒いカーテンの仕切りに囲まれた後ろ側には、まだ簡易の給湯セットが置きっぱなしになってた。

 先輩が指差すその後ろの窓には、ちょうど私の目の位置辺りに、小さな仕切りが切られてる。

「のぞいてごらん」

 そう言って先輩が片手で仕切りを塞いでた布をずらすと、まるで絵のように校庭の様子が切り取られて、目に飛び込んできた。

「うわ、すごい」

 校庭にはキャンプファイヤーの薪みたいにゴミが積み上げられ、ちょうどそれに火がつけられて燃え上がるところだった。

 炎の灯りがよく見えるよう、どうやら校庭の照明は全て消されたらしい。
 炎の周りを囲う生徒たちが手に持つペンライトの明かりが、暗い校庭にチラチラ光ってまるで星みたい。

 驚いて声をあげ、下の様子に見入ってた私のすぐ横に、ヌッと先輩の顔が突き出された。

「一緒に下に行くと、多分大変だからね」

 そう言って、すぐ横から目だけでこちらを見ながらニッと口の端を上げて笑う。

「血、地、知、近いです、先輩」

 焦ってドモリながら身体を引こうとしたら、背中がなにか柔らかいものにぶつかった。
 気づけば、私の両脇を囲うように、先輩が両肘を窓についてる!

 え、っと、これ、って、壁ドン?
 壁じゃなくて窓だから、窓ドン?
 いや、ドンって言ってないし窓──

「あ、あそこにいるの君の友人じゃない?」
「あ、ほんとだアッコちゃん。やっぱり目立つなぁ」

 指差されて思わず窓の外に顔を戻した。
 でも先輩の顔はまだすぐ横にある。

 先輩、今私ぶつかったんですけど、どいてくれるつもりはないんですね。

 先輩は全然普段通りだし、なんならいつもの無表情だし、きっとこれは意味あってしてる訳じゃないんだよね。
 顔はすぐ横にあるけど、ボサボサの髪でよく見えない。
 見えないから、気になんてならないはずなのに。

 斎藤先輩の薄い目が、眼鏡越しにこちらを見てるのが、見える気がした。気になって、チラチラ見てしまう。でもやっぱりよく見えない。
 触れてる訳でもないのに、先輩が温熱ランプみたいに発熱してる気がして、存在がやたら主張してきて落ち着かない。

 そっと視線を窓の外に固定する。

 私は深く考えるのをやめた。

 下を見ると、アッコちゃんに数人の男子生徒が群がってる。
 あれは間違いなく後夜祭の熱に浮かされた告白ラッシュだ。

 先輩も下にいたらああなってたのかな?

「確かに下に行くよりは安全そうですね」

 思わずそう言うと、先輩がまたクツクツと笑った。
 先輩のクツクツ笑いは、中々収まらなかった。
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