【完結】転生令嬢は逃げ出したい~穏便に婚約解消されたのにバッドエンドの監禁魔が追ってきます。

こみあ

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婚姻編

婚姻編9 魔王様が魔王様(意味不明)

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 あれから二日。
 カーティスは宣言通り、ただただ私を愛でまわしてくれました。

 カーティスが勝手にノーラから許可を取ってきたせいで、薬局もお休みしてほぼカーティスの部屋に監禁状態です。
 あの夜に味をしめたカーティスは、毎食食べ物を部屋に持ち込み、食事の時間までほとんど私を放してくれません。
 失神……じゃなくて寝ていないときは話をしているか、なにか余計なことをしているかのどちらかです。
 夜の数時間、カーティスが必要最低限のお仕事をこなしに魔王城に戻る以外、私たちはただただずっと一緒にいました。
 正直、お一人様が長い私としてはいい加減しばらく放置して一人にしてほしいです。
 おかげさまで、私はこの二日の記憶があやふやで……。

 そしてとうとう三日目の今日。
 昼を過ぎてやっと目を覚ました私にカーティスが告げます。

「今日は出かけるぞ」
「え、今から?」

 目は覚めていてもイマイチ頭が回っていない私は、今が朝なのか夕方なのか分からず周りを見回して、ここが自分の部屋で自分のベッドの上で寝ていたことに驚きました。
 そこにカーティスの指示でメイド長と数人のメイドが、着替えに必要なものを手に入ってきます。

「身綺麗であれば適当でいい。どうせ出先で着替える」

 そう言いおいて、カーティスが部屋を出ていきました。
 久しぶりのお出かけにちょっと気分が上がってます。
 でもその後は、今日こそ本当の本当にカーティスに最初を奪われるわけで……。
 正直、かなり本気で逃げ出したいです。

 いえ、別に初めてだから怖いとか、魔族になってしまうのが怖いとか、そんなことではないのですよ。
 まあ少しはありますがホントにそこは大した問題じゃもうなくて。
 問題はもっと切実なものであり、どうしようもないもので……。
 だって、ですね、カーティスの、その、持ち物があまりに立派すぎまして。

 いやあの筋肉量ですし、魔王様だし、それなりにはあるだろうとは思っていました。
 でも実際目にしたあれは凶器です。
 しかも刺殺系じゃなくて鈍器系……。
 いや無理です。絶対痛いです。

 そんなことを考えているうちに、気づけば身支度が終わってしまい、部屋を出れば同じく身支度のすんだカーティスが私の部屋の前で待ち構えていました。

「行くぞ」

 そう言って、私に肘を突き出します。
 当たり前のようにエスコートしてくれるらしいです。
 契約以来、こういう扱いは初めてで、ちょっとだけドキドキしてしまいました。

「一体どこに行くの?」

 でもそれが気恥ずかしくて、カーティスの腕に手を乗せつつ、思わずつっけんどんな声が出ます。
 それを気にしたふうもなく、カーティスが私を連れだって歩き出しました。

「行ってみてのお楽しみだな」

 そう言って、私を伴ってたどり着いたのはいつもの木の扉。どうやらノーラの薬局に向かうようです。
 でも驚いたことに、いつもはそこで「行ってらっしゃいませ」と私たちを送り出してくれるセバスチャンが私たちと一緒に扉を抜けます。

「安心しろ、コイツは俺の副官だ」
「副官……って」
「魔王の副官を勤めます『セバスチャン』と申します」

 え、副官さんなのに、やっぱりセバスチャン?

「こいつは元々名前がセバスチャンなだけだ」

 驚いた私にカーティスが補足を入れてくれました。
 それはまた都合のいい……じゃなくてこの職にぴったりな。

「はい、今日はお二人の補佐をさせていただきます」

 セバスチャンさんがニコリと笑んで、いつもの落ち着いた声でそういうのですが。

 補佐っていったい何の補佐でしょう……?
 なぜかあまりいい予感がしないのですが?
 
「他はすべてもうついているか?」
「はい、全て準備が整っています。あとはお二人が到着されればいつでも」

 二人は話しながら、いつものノーラの薬局の部屋を横切り、以前私がどこにつながっているのか尋ねてやめた、あの真ん中の木の扉を開きました。

「戻った」

 とても短くそう言うカーティスに手を引かれて入ったそこは、こじんまりとした石造りの一室で、入った途端、三人の白い布を纏った侍女らしき人たちが、待っていましたとでもいうように私を取り囲みます。

「こいつを頼む」
「え、待って……」

 引き止める私を振り返りもせず、カーティスがセバスチャンさんと一緒に部屋を出ていってしまいました。焦る私に顔まで白い布に包まれた彼女たちが様々なものを手に無言で迫ってきて。

「あ、あの……?」

 ひとり置き去りにされて、困って私が声をかけても、誰一人何も言ってくれません。それどころか、顔まで全て布に覆われているので、一体どこを見ているのかさえも不明です。
 ですがカーティスが部屋を去った途端、三人が一斉に寄ってきて私の服を着替えさせてくださいます。

「え、これって……?」

 彼女たちが手にしていた服は一枚生地の長く美しい絹で、一糸まとわぬ姿に脱がされた上に上手に巻き付けられていきます。
 結構ぐるぐると巻きつけられている気がするのですが、羽のように軽く、身につけている気がしません。
 途中、幾つもの飾りが挟まれたり縫い付けられて、気づけば美しいドレープの重なる白いドレスに仕上がっていました。
 続いてされるがままに化粧を施され、髪を結上げられて頭上に細い金冠を載せられて部屋を後にします。

 部屋を出ると、すぐ扉の前でセバスチャンさんが待っていました。

「参りましょう」

 そこからはセバスチャンさんが先導して、先程の白い女性たちに囲まれて細い廊下を無言で進んでいきます。
 狭い階段と狭い廊下を抜けると、突然天井の高い小広い場所に出ました。でもそこにはそこに至るための幾つかの階段と、そしてやはり白い布を身に着けた、大柄な数人の兵士に守られた、大きな扉が一つだけ。

 そしてセバスチャンさんを見た彼らがその大きな扉を開き──

「うぁ……」

 ──思わず感嘆の声が漏れてしまいます。

 そこはまるで前世、どこかの教育番組の映像で見たヨーロッパの古い教会のような、荘厳な石造りの広間でした。
 明かりが届ききらないほど高い天井は吹き抜けで、天井を幾重ものアーチが支え重なり合い、不思議な幾何学模様を作り出しています。
 アーチのところどころには金の意匠が施され、そこに縦長な部屋のあちこちに置かれた幾つもの蝋燭の明かりが反射して、暗い天井に散りばめられた星のように輝いて。
 
 決して明るくない広間の一番奥には、まるで教会の祭壇のようなひな壇が置かれ、その上に黄金に輝く重厚な椅子が二脚、並んで置かれていて。

「あ、あ、あ、あの、セバスチャンさんここって……?」

 これはもう流石に尋ねずにはいられない!

 そう思って声をかけたのに、人差し指を立ててシっと言われてしまいました。しかも静まり返った広間に自分の声がやけに大きく響いて、慌てて口を押さえます。

 でもそんな私の声を消し去るように、懐かしいパイプオルガンの荘厳な調べが響き出し。
 でもこれ、なんか葬送曲っぽく聞こえるのは気のせいでしょうか?

 そして極めつけ。

 見るのも怖いのですが、広間の両脇には低い階段状の椅子がずらっと並んでいて、その長い部屋いっぱいに人々が隙間なく座っているのです。
 その全員が、さきほど着替えを手伝ってくれた女性たち同様、なぜか顔まで白い布で隠しています。
 いえ、数人だけ、前方のほうに顔の見える人たちがいました。
 あれは──

「お父様とお母様!? それにネイサンも!」

 よく見れば、奥にはノーラも座っています。
 が、お父様もお母様も顔色が真っ青に見えるのは気のせいでしょうか?
 二人の間に座ってるネイサンだけが、ひとりウキウキと嬉しげにこちらを見て小さく手を振ってくれています。

「では参りましょう」

 そこでパイプオルガンの曲が変わり、それを合図にすぐ横に立っていたセバスチャンさんが私にエスコートする為の肘を差し出してくださいました。
 それに引かれて、長い椅子の間を歩いてその縦長な部屋を進みます。

 そして沢山の人たちに見下されつつ、中央の長い小道をまっすぐに歩いて向かうその先は、前方のひな壇の上に腕組をして立ち、その場の全ての者を見下ろしてる、とっても偉そうなカーティスで。

 その服装ときたら。
 上から下まで前が開いた黒光りするシャツの上に床に届きそうな黒のローブを羽織り、その手には金の錫杖、頭には重そうな金の冠、そして首にも肩にもジャラジャラと、沢山の金の装飾品が光っています。

「うわ、王様みたい」

 その出で立ちに思わず心の声が漏れてしまいました。

 それを聴いた隣のセバスチャンさんが苦笑いして答えてくれます。

「ええ、我々の魔王様その人であられますから」

 あ、そうでした。
 そうなんですけど……。
 その厚い大胸筋の谷間と綺麗に割れた腹直筋がしっかり見える服装は、まさか私に見せるために作ったのでしょうか?

 非常にいたたまれない気持ちのまま通路を歩ききり、やっとひな壇の前まで辿り着いた私をカーティスがドヤ顔で見ています。
 そしてセバスチャンから私の手を受け取るように手を伸ばし、壇上に引き上げながら、いい笑顔で私を見下ろして。

「驚いたか」

 嬉しそうにそういうものですからつい、

「中二病、ここに極まれり」

 本音がポロリと漏れました。
 もちろんカーティスがそんな言葉を知ってるわけもありませんから、不審そうに見返してきますが、

「非常に際立った服装ですね、という意味です」

 と言って微笑み返してあげました。

 そんなやり取りを小声でしているうちに、ひな壇に並んで立った私達に注目を集めるように、パイプオルガンの音が一層高く鳴り響き。

 まるで演劇の舞台装置のように、突然私達の真上の尖塔の小窓が開かれ、一条の光が真っ直ぐ私とカーティスの二人だけを照らし出します。
 その光に包まれた中、カーティスが大声で宣告し始めました。

「ここに我が妻リザを我が生涯の伴侶としてこの城に迎える。今日この日より、この城のもう一人のあるじとなる我が妻を讃え、あがめ、たてまつれ!」

 とんでもないカーティスの宣言に私が飛び上がってやめさせようとするよりも早く、ザッという音が広間に響く勢いで、その場に集まっていた人たちが全員立ち上がり、そして深く頭を垂れました。

 え、まさかこれ、本当に私を崇めてるんでしょうか?!!

 その異様な光景に背筋が凍り、ジリジリと焦りがつのって足が震えはじめます。

「さあ我妻よ、それが今日からお前の座るべき椅子だ」

 そんな私のことなど気にもせず、そう言って指し示されたのは先程部屋の端からも輝いて見えていた、見まごうことなき玉座なんですが。

 私にこれに座れと???
 本気ですか?
 いや、カーティスが魔王様なのはもう分かりましたからこのまま帰っちゃダメですか??

 困り果ててカーティスと玉座を見比べてるのに、この悪魔、

「お前が座らなければこの場の誰も座ることができんぞ」

 などと言って私を脅してきます。
 もう他に選択肢もなく、ついでに足も震えすぎてて恥ずかしいので、結局私はその金色に輝く椅子に浅く浅く腰掛けました。
 ……金の肘掛けが硬くて冷たくて、座り心地は決してよくありません。

 それでも私が腰をおろしたのを合図に、その場で起礼していた人々が一斉に座り直しました。

 そこからは。

 セバスチャンさんが耳に慣れない名前を呼びあげる度に、一人ひとりひな壇の前に進み出て、改めて頭を下げてお祝いを告げてくださいます。
 その姿を見ているうちに気がついたのですが……。

 進み出る人たちは、長いしっぽが見えてたり、頭の上が尖っていたりと、どう考えても人間とは思えない人たちが結構な数混じっていらっしゃいます。
 お祝いの言葉も片言だったり、私には聞こえにくかったり……。

 ええ。
 もういまさら尋ねる必要もありませんが、

「カーティス、一応聞くけど、ここってどこです?」

 それでもやっぱりはっきりさせておきたいのです。
 尋ねた私にとぼけた顔の魔王様が答えてくれます。

「決まってるだろう、俺の城だ」

 ……私、今、魔王城の玉座に座ってるらしいです。
 もうお願いですから、早く終わってください……。

 それからどれくらいの時間が経ったのでしょう。
 長い長いご挨拶もやっと全部終わって、ホッとするのもつかの間。

 玉座の前で立ち上がり、その場にいる全員を見渡したカーティスが、私の手をひいて立たせ、いつもの如く腰を抱き寄せます。
 そして。

「愛しているぞ」

 とろけるような声でそう宣言して、私をその腕に抱えあげ堂々と部屋を後にしました。
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登場人物をまとめてみました。:登場人物
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