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悪魔な旦那様と暮らしてます。
その22 番外編:キノコ事件
しおりを挟む「きのこの日」にツイッターで突発的に書いたので番外編とします。内容はR18ですが★なしです。
──────
「フフフ……師匠出来ました~♡」
「出来たってお前、昨日からキッチンに籠って何やってたんだ?」
私がホクホク顔でハンカチのかけられた銀のトレイを持ってアーロンのいる執務室に飛び込むと、アーロンが片眉を上げて私を見返した。
「何って今度こそ師匠が食べても大丈夫なお菓子作りです。ジャジャーン!」
トレイにかけられてたハンカチを取りながら、ブリジッタさんと一緒に作った私の最高傑作を喜び勇んでアーロンに披露した。
「これはなんだ?」
「え、チョコレートで作ったお菓子です。この部分はクッキーで出来てまして、この頭の部分がチョコレートで出来てるんです。これだとチョコレートが手につかないし、執務中でも一口で食べられるでしょ?」
「だが、なんでこの形なんだ?」
「なんでってそれは……」
あ、しまった。向こうでいつも食べてたからとは言えない。
「この見た目、どう考えても……『萎え茸』だよな」
『へ? ナエダケ? いえ、これ一応キノコの形なんですけど」
「ああ、だから『萎え茸』だ。確か隣国の山奥でしか見つからず、今や各国で栽培禁止になっている」
「え、毒キノコですか?!」
「いや、……まあ、そんなもんだな」
うう、折角作ってあげたのに、これも失敗だろうか。執務室でアーロンがお仕事してる間、何もないとただただエッチいことばかりされちゃうから、これで少しは気を紛らわして欲しかったんだけどな。
「そんな見た目じゃ嫌ですよねぇ。じゃあこれは残念ですが私が全部頂きます」
「いや、別に食べないとは言ってない」
私がションボリとトレイを持って下がろうとすると、アーロンがヒョイっと一つ摘んでポイッと口に放り込んだ。
「味は悪くない」
サクサクと音を立てながら咀嚼するアーロンを見て幸せな気分になる。良かった。今回は食べてもらえそう。
「これで師匠のお仕事中の手持ち無沙汰が少しは解消されますね」
「待て、俺は別に手持ち無沙汰でお前をかまってるわけじゃないぞ。いや、強いて言えばお前をかまうついでに仕事してるだけだ」
「それ絶対ダメな考え方です! 辺境伯のお仕事はちゃんとやりましょうよ」
とんでもない言い訳を展開するアーロンは、喋りながらも私を膝に引っ張り上げてイタズラをはじめてる。でもしばらく弄くり回されて私の息が切れてきた頃にアーロンがピタリと手を止めた。
「おい、真面目にこれに何か入れたか?」
「ふぇ?」
もうかなり蕩けてきてた私にはアーロンが何を言ってるのか分からない。
「この菓子だ。何か混ぜたか?」
「いいえ何も。普通にクッキーとチョコレートだけですよ。クッキーだって普段使ってる材料しか入れてません」
「そ、そうか……アエリア、済まない急用を思い出した。ちょっとピピンのところに行ってくる。マイアたちに夕食はいらないと伝えて来てくれ」
そう言いながら私を膝からおろして立たせてくれた。
「え、あ、はい。じゃあ行ってきます」
アーロンがこんな中途半端で投げ出すなんて初めてのことだったので驚きつつも、私は言われたとおりマイアさんを探しに独りすごすごとキッチンへと向かった。
▽▲▽▲▽▲▽
「ピピン!」
「……今度はどうされました?」
急遽ピピンの部屋に飛ぶと珍しく執務机ではなく本棚を片付けていたピピンが疲れた表情で俺を振り返った。
「あー……、あのだな、あ……」
しまった。なんて切り出しゃいいんだ?
こんなこと相談出来るのはこいつだけなんだがなんとも切り出しづらい。
「……? 何か問題でも起きましたか?」
「いや問題というか……重大な問題なんだが……だが個人的なことでだな……」
「子供でも出来ましたか?」
「い、いやそうじゃなくてだな、その逆と言えばいいのか……?」
「……へ? ま、まさか……」
「実は、だな──」
仕方なく細かい経緯を俺が説明し終えるとピピンが目の前で転げ回って笑いだした。チクショウ、何が悲しくてこんな理由で笑われなきゃならないんだ!
「りゅ、竜王が……、た、勃たないってお前、……アエリア様……最高……」
あ、こいつ地に戻ってやがる。
「いい加減にしろ! 俺はお前を笑わすために来たんじゃないぞ!」
キレかけてる俺の様子にもお構いなしに、未だ笑いの渦から抜け出せないでいるピピンが目尻の涙を拭いつつ執務机に座ってこちらを見上げた。
「いいからその椅子を持ってこっちへおいで」
……凄く久しぶりにピピンが兄モードで話しかけてきた。王室に呼ばれてお袋に俺の従者を言いつけられて以来初めてだ。その事実に少しばかり気恥ずかしい思いで椅子を持ってきてピピンの横に座った。
「いいか、それは単なる自己暗示だ。なまじお前が『萎え茸』の効用をよく知ってたが故に身体が勝手に信じ込んじまってるだけだ」
「そんな馬鹿な」
俺が疑いの目で見返すと、ピピンが肩をすくめて俺を見る。
「男ってもんは、本来メンタルに左右されやすい生き物なんだよ。それだけ、お前はアエリア様の前では『人』と変わらない情愛を示してるって証拠だ」
そうなんだろうか。まあ思い当たらないこともない訳じゃない。本来の竜王では考えられないほど、俺はアエリアを抱いていない。四六時中抱かなくても、それでも愛おしさにかわりがない。ならば逆にこんなこともありうるのかも知れない……
「……じゃあ、結局どうすりゃいいんだ?」
「心配するな。そのうちもとに戻る。男なら必ず一度は経験するもんだ。まあ、竜王で経験したのは多分お前が最初だろうがな」
俺の問いかけにピピンが何やら同情の込もった目で俺を見た。はっきりとは言わないが、これはこいつにも身に覚えがあるという事だろうか。俺の視線に気づいたピピンが少し気まずそうに椅子を動かして、自分の後ろのキャビネットの奥から小さな瓶を取り出した。
「これは『竹』という渡来品の新芽から作られた酒だ。なんでも『タケノコ』と言って、唯一『萎え茸』の効用をおさめてくれる効果があるらしい。被害者が出た場合に備えて手に入れておいたものだが気休めに一本持っていけ」
「た……助かる」
手渡された小瓶を大切に胸ポケットに収めてピピンに頭を下げると、ピピンがなんとも言い難い表情を一瞬見せてそして椅子を元に戻した。
「ではアーロン様。早くアエリア様のご懐妊の報告が頂けるのを楽しみにお待ちしてます」
いつも通り、表情の読みづらい大公弟の作り笑いに戻ったピピンがそう言って俺を送り出してくれた。
▽▲▽▲▽▲▽
夕食の終わった頃に戻ってきたアーロンはやけにご機嫌だった。珍しく私抜きでお酒にアレを混ぜて飲んできたらしい。そのままエリーさんたちを下がらせて、いつも通りの夫婦の夜が更けていく。気のせいか、その夜のアーロンはいつも以上に丁寧に私を愛でまわし慈しんでくれた。
キノコ事件(完)
──────
蛇足ですが、ピピンさん、一瞬アエリアがアーロンに愛想を尽かして出ていってしまったと疑った模様。アーロンに渡したお酒は多分単なる愛用の滋養強壮剤。
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