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悪魔な旦那様と暮らしてます。
その11 夏があんまり暑かったから・・・1★
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「師匠、もう我慢できません」
「耐えろ」
「嫌です!」
「もうちょっと」
「無理です」
「あと少し」
「だー! 師匠、動く気ないでしょ! 私はもう無理です、水浴びに行きます!」
暑いのだ。
まあ夏なんだから暑くて当たり前なんだけど、この辺境領は高地になるので普通はいくら夏でもそれほど暑くならない。
なのに今年は例年になく暑い上に、暑さに強いアーロンが昼間っからべったりくっついてくるので余計、暑苦しい。
「大体こんなシャワーもない状態で夏に昼間っからイチャイチャなんて無理です。夜涼しくなるまで1メートル以内、侵入禁止!」
私の叫びにアーロンが面倒くさそうにのっそりと頭を上げた。
「お前本気で言ってるのか? この俺に近づくなと」
「師匠はやっぱり竜ですよね! 爬虫類だから暑くても大丈夫なんですよ! 私もう茹だって悪い頭が停止直前ですから冷やさなきゃ壊れます!」
「お前、竜を爬虫類呼ばわりするか!」
「だって良く考えてみたら翼の付いた大きなトカゲですよね。ずるいです。だから暑くないんだ。私なんて、私なんて、こんな髪いらない!!!」
「わ、やめろ風の刃で髪を切ろうとするな!」
トチ狂った私が繰り出そうとした風の刃をアーロンが慌てて対消滅させた。
「分かった、分かったから落ち着け。じゃあ、部屋にシャワーがあればいいんだな」
「そんな無理ですよ、王都じゃあるまいし。この辺境は水源が少ないんですから」
「お前、魔術師が何を言っている。俺達の水源は水精霊界だ。この世界の地理など関係なかろう」
「あ、そっか」
私の間抜けな返事にアーロンが胡乱な目で私を見返す。
「お前、スチュワードにちゃんと教わってるのか? 長く放っておきすぎたか?」
「ちゃんと勉強してますよ」
「じゃあ、いい機会だ、ちょっと見てやろう」
そう言って、アーロンは私を引き連れて庭の裏に回る。
屋敷の裏側にはガラス張りの温室と、その向こうは深い森が続いてて、その先には山脈をまたいで隣国アレフィーリアへと続く街道が走ってる。
この辺境自体、王都などに比べると山地と言えた。
「地理的にもここは本来、水源があっておかしくない場所なんだ。その証拠に森が充分潤っている」
歩きながらアーロンが説明してくれる。
「それを、かつて竜族の一員がこの辺りで暴れまわり、地表を溶かし、水流を地表からかなり下に沈めてしまった。だからここで水精霊界から水を引き出してしまうと水気が強くなり過ぎ、逆に水害を引き起こしてしまう恐れがある」
「師匠、前にも気になってたんですけど皆が皆、水精霊界から水を引き出したら、いつか水がなくなっちゃうんじゃないですか?」
「お前、精霊界の勉強ちゃんとしてるのか?」
アーロンがため息をつくとまた説明を始めた。
「精霊界ってのはこの世界とは別の次元だ。だが重なっている。精霊界にある水分とこの世界にある水分は同一の物だ。魔術で水を引き出すということは、この世界全体から呼び出す分だけの水分を集めることとも等しい」
「え? じゃあ、私が水魔法使うと喉が渇くのってやっぱり水を体内から取っちゃうからですか?」
「いや普通それはないはずだぞ? 水魔法で精霊界に干渉した場合、不特定多数の場所から微量の水分を集めて来るから、一箇所に影響が集まるようなことはないはずなんだが」
「じゃあやっぱり私の気のせいでしょうか?」
「……ちょっと今ここで使ってみろ」
そう言って私の肩に手を置く。
途端アーロンの魔力が微量ながら私の身体を流れ始めた。
この感覚久しぶり。やっぱり温かくて気持ちいい。
私は指を立てて水をチョロチョロと流し始める。
するとアーロンの魔力が指先に向けて流れ始めた。
「……確かに俺も喉が渇いてきた。同調したからお前に吸われてるな。一体どうやったら自分の体内の水にそこまで干渉できちまうんだ?」
アーロンが首を傾げている。
お、私の気のせいじゃなかった模様。
「今度は俺に同調してみろ」
「どうやるんですか?」
「魔力を薄く引き伸ばして俺の体内に満遍なく流す感じだ」
「師匠、背が高いから肩に手が届きません!」
「馬鹿。別に肩である必要はない。ほら手をかせ」
言われた通りアーロンと両手を繋いでアーロンの中に魔力を流し始める。最初は大きな抵抗があって全然流れ込まなかったのだが、アーロンがちょっと眉根を寄せて唇を噛むとゆっくりと流れ込み始めた。
「……お前の魔力は温かいな」
「師匠の魔力もいつも温かいですよ」
「そうなのか?」
「そうなのかって……知らなかったんですか?」
「……普通、他人の魔力を受け入れることなんてないからな」
「え? じゃあ師匠、もしかしてこれが初めて?」
「……ああ」
うわ、なんか嬉しくなっちゃうよ。アーロンはちょっと赤くなりながらも、大きく咳払いをして先を続ける。
「今度は俺が水魔法を使うからそれを感じ取ってみろ」
そう言って片方の手を離し、手の平から水を溢れさせる。ズルっと私の魔力がつられて流れ出した。だけど身体の方にはなんの影響もない。結構な水が流れ出ているのに、喉が渇いてきたりしない。
「本当ですね。全く喉が渇いてきません」
「だろ? 本来こうなんだ。そのままだと身体への影響が大きくて大きな水魔法を使うのは危険だ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。しばらくは俺の監視下で練習するしかないな」
そう言って水を止める。
「マズい。何か変な気分になって来た」
「へ?」
「とりあえず水源に転移する」
突然、ソワソワし始めたアーロンが私を抱え上げ、いつもの転移が始まった。
「師匠、また真っ暗で見えません!」
「ああ。俺にはよく見えるがな」
「……竜って暗いところでも目が効くんですか?」
「そういうことだ。そのままじっとしてろ」
着いた先は真っ暗闇で、私には何も見えないのに、アーロンはそのままスタスタと歩いていく。
なんか下から結構な水音が聞こえる気がする。外と違って結構肌寒く、薄いワンピースしか着てない私はアーロンにしがみつく。
「ここはどこですか?」
「辺境伯邸のかなり地下の水脈が潜っている所だ。ちょっと待て岩場まで行く」
しばらくそのまま進むとアーロンが突然立ち止まり、私を抱えたまま座り込んだ。私はと言うと、コアラのように抱っこされたままアーロンの膝に乗せられてる。
「師匠、こんな所に座り込んで何するんですか?」
「……まずはこれが先だ」
そう言って私の顔を上に向けてキスを始めた。
突然与えられた甘い唇と舌の感触にビクリと身体がはねた。
「アムンっ、はむっ……」
暗闇でアーロンの腕が私の背中を支え、抱きよせる。アーロン手が優しく私の背中を撫で始めた。
「師匠……アーロン、顔が見えない」
「俺にはお前の蕩けた顔がちゃんと見えるぞ」
「ずるいです」
「たまにはいいだろ」
ドキドキが止まらない。
「ここならひと目も気にならないみたいだしな」
「……皆が働いてる時に同じ屋敷でエッチなことするのは恥ずかしくてイヤなんです」
「俺は別に見られても構わんがな」
「構って下さい……!」
話している間も、アーロンの両手が私の身体を隅々まで撫でまわす。
「気持ちいいのか?」
「……はい」
「服は……脱がすわけにいかないな」
「……ワンピースの中に手を入れてください」
「珍しく積極的だな」
「だって、さっきの魔力を流し込むの、気持ち良かったから……」
「これか?」
そう言ってアーロンが背中を撫でる指先から魔力を流し始める。
「んんっ!」
ゾクゾクっと背中をアーロンの魔力が這い上がってくる。顔さえ見えない真っ暗闇なのに、魔力を流されるとアーロンの存在がすごく近く感じられてなにか切ない。
アーロンの唇が私の首筋を食みはじめると、彼の長いサラサラの髪が私の膝にかかる。
「アーロン、髪がくすぐったい」
「好きなんだろ」
「膝はダメです」
「うるさいことを言う」
文句をつけながらも、一旦手を止めて髪をかき上げてくれた。
「このまま入れても大丈夫か?」
「……はい」
身体はとっくに準備できてしまってた。アーロンが私の腰を引き上げ、下着を横にずらして自分のものを押し当てる。
「ゆっくりと一気に、どっちがいい?」
「ゆっくりが……!」
返事を返してる途中で一気に挿れられた。
未だ慣れない大きな存在感に、身体がひくひくと勝手に反応してしまう。
アーロンの意地悪!
「どっちもいいんだろ?」
「そうだけど、ひどいです!」
「意識がそれた間に挿れたほうが気持ちよさそうだぞ」
変な所よく見ているなぁ。
「少し自分で動いてみろ」
「無理です、もうこのままでもキツすぎて……」
アーロンの物に体が馴染むのを静かに待ってたのに、私の言葉が終わらないうちにアーロンが腰を揺らし始める。
「動いたほうが早く馴染むだろ」
「ん、ぐっ、そんなこと、ないです! つらい!」
「じゃあ代わりにこっちを撫でてやる」
騒ぐ私をなだめるように片手で私の腰を抱えながら、アーロンがもう一方の手で背中を優しく撫で始めた。私がアーロンに背中を撫でられると落ち着くのをすっかり見抜かれちゃってる。
「アーロン、そろそろ大丈夫です」
「ほらみろ、動いた方が早い」
顔が見えなくても、得意そうにニヤッと笑っているのが感じ取れた。アーロンの腰の動きが少しずつ激しくなってくる。
「今から、始めれば、今日は、充分、時間が、あるな」
「なん! なに、あっ、言って、るんですか! むり! あっ」
「安心しろ、文句も言えなく、してやる!」
「ああっ!」
下から激しく突き上げられ、身体が痺れて震えだす。そのまま声も出せずに軽くいってしまった。
「一回目は早かったな」
それに気づいたアーロンは、一旦腰を止めてまたゆっくりと私を揺らしはじめる。
「そんなに何度もいやです、また訳分からなくなっちゃう」
「だからいいんだろ?」
「良くないです! 大体、師匠何回いってもすぐおっきくなっちゃうじゃないですか!」
「それはお前のせいだ」
「ううっ、一体、師匠には、限度、ないんですか?」
私が『師匠』と呼び始めると、アーロンはほんの少し理性を取り戻してくれる。それを最大限利用して時間を稼ぐ。
「俺か? 多分ないな。お前が許す限り何回でも続けてやるぞ」
「それ全然うれしくない! それじゃあ、師匠、全然満足してないってことですか?」
「そんなことはない。毎回毎回ちゃんといってるだろう。ただ、お前が可愛いからすぐまた欲しくなる」
うわ、顔が見えないからっていつもより甘いこと言ってくれてる。嬉しいのと恥ずかしいので、ついしがみついてしまった。
「ほら、そうやって俺を煽る。だからまたこうやって! 鳴かせて! やりたくなる!」
「あうっ! あっ! あっ! まって、」
「待たない! いけ」
またガンガン突かれて頭が真っ白になっていく……
でも今回は私がフルフルと震えて達してからもなかなかやめてくれない。
「息、苦しい、許して、」
「まだ、大丈夫、だろ、」
「うっ、むり!」
私がもう気を失う寸前で、最後の一回を強く叩きつけたアーロンが大きく息を吐き出しつつやっと腰の動きを止めてくれた。
「はっ、はっ、はーぁ!」
「少し休むか?」
「少し、休むじゃ、ないです! おしまい!」
「俺はまだいってないぞ」
「そんなの師匠が、悪い!」
「……いい加減、名前で呼べ」
「アーロン、許して、あと一回でいって下さい」
「仕方ない」
そう言いながらも、優しいアーロンは私の息が落ち着くのを待ってくれてる。
「そろそろ平気か?」
「もうちょっと。始める前に少し抱きしめてください」
途端、アーロンのガッチリした腕が身体を二つに折る勢いで締め付けた。
私、少しって言ったよね!?
「し、しぬっ!」
「すまん、つい……」
私の絞り出した声に慌てて力を緩めてくれた。
「アーロンのキュウしてくれるの好きなんですよ? だからちゃんと優しくしてください」
「分かった」
今度は優しく抱きしめてくれる。
息も落ち着いて、やっと身体が反応できるところまで戻ってくると、またアーロンがゆっくりと腰を揺らし始めた。
「アーロンちょっと待ってください。私が自分で動きます」
このままだと、私だけまたいかされてしまう。私が自分で調節できるよう、アーロンをけん制してみる。私の要求からほんの少し間をおいて、アーロンが腰を止め、掴む手を緩めてくれた。
改めてアーロンの肩に掴まりながら、岩肌に膝をついてゆっくりと自分で腰を振りつけてみる。
これだと中をキツく押し上げられないので、自分の気持ちい範囲で動かせて少し楽だ。
「ぐっ……んっっ……」
すぐ、私の動きに合わせて、アーロンが堪えるようにくぐもった吐息を漏らし始める。自分がアーロンにそんな声を出させてるっていうのに興奮して、思わず腰を動かすスピードが上がってくる。途端、自分自身も昇りつめ始めてしまった。
「師匠、アーロン、いって、いっしょ、いって」
一生懸命我慢して、アーロンが同じところまでくるのを待つ。
「駄目だ、動くぞ」
折角私が我慢してたのに、突然もう耐えきれないというようにアーロンが下から腰を振りつけはじめる。私の動きを無視してガンガン突き上げられて、逃げ場もなく昇りつめていく……
最後は背に回した腕で動けない程しっかりと抱きしめられ、身体ごと上下に振り付けるようにして腰が叩き込まれ。そしてとうとうビクンビクンとはねながら、アーロンが中で沢山吐き出し始めた。
「もう、はいんない、とめて!」
「とまるか!」
アーロンの大きなもので占められてた私の中に大量に吐精され、熱いだけじゃなくて苦しい。
やがて吐き出しきったアーロンの物が徐々に小さくなると、代わりにねっとりとした精液が下に垂れていく。
「師匠、服……」
「そんなものはあとで洗浄を掛ける。いいから動くな」
アーロンは私の身体をしっかりと抱きしめ、私の肩に顔を埋めた。アーロンの全身がまだ少し痙攣してる。
アーロンはいく時、本当に気持ちよさそうにしてくれる。それがもしかすると、自分がいくのよりうれしくて、実は私のほうがまたしたくなったりするのだが、これはアーロンには絶対に秘密だ。
しばらくそのまま余韻に浸っていたアーロンが、一つ小さくため息をついてから私を離してくれた。
「ちょっとそこに立ってろ」
そう言ってすぐに魔力が動いて、私とアーロン、両方の身体に付いていた体液がきれいに消え去る。
洗浄魔法って本当に便利だよね。
「師匠、私にも洗浄魔法を教えて下さい」
「後でな。まずは水源の確保だ。まずは手の上に火を出して周りを見てみろ」
言われるまま、以前アーロンがやっていたように、手のひらサイズの火の玉を出してみる。
照らし出された洞窟は思っていたよりも狭く、私たちの乗っている岩場の両脇はそれぞれ車道一本分くらいの幅しかない。そこを結構なスピードで水が流れていく。
天井も、アーロンが手を伸ばせば充分に届きそうだ。ありがたいことに、目で見える範囲に天敵の姿はなかった。
「アエリア、まずはこの岩場のすぐ下流の所を空間魔法で切り取ってみろ」
私は言われた通り、空間魔法でベッド程の空間を固定してみる。すると、さっきまで渦を巻いて流れていた水がそこだけ突然静かになり、代わりに私が切り取った空間の下流で新しい渦を巻き始める。
「よろしい。次にその空間の水を全て転移で横に追い出せ」
これも結構簡単に出来た。
「よし。中に転移するぞ」
そう言って、私の手を掴んで一瞬で水の抜けた地面に移動する。
「では次に地面を均して熱魔法で溶かして固めろ」
「それは流石に出来ません!」
「お前、前に自分の首輪の留金溶かしてただろう」
「あれは溶けたんじゃなくて、勇者に覚醒した時にすっ飛んじゃったんです」
「……じゃあ仕方ないか。ここだけ手伝ってやる」
文句を言ってるのにアーロンがなぜか嬉しそ
う。私を抱えて軽く浮遊し、手から業火を噴き出して、まだ少し水気の残る地面をあっという間に溶かし均してしまう。
業火に晒された地面が煙をあげながら、みるみるうちに夏のアスファルトのように溶け、溶岩になってまた固まる様はまるで地獄絵図のようだ。
いや、これ、普通に他の魔術師にだって出来ないでしょ。
「師匠もしかして竜王の力とか使ってませんか?」
「どういう意味だ?」
「だって。こんなに高温になる火魔法ってありですか?」
「まあ、高等魔術以上は実際比較対象がほとんどいないから定義されていないが、相対的に比較すれば現在の火力は火魔法の中級と高等の差の20倍くらいはあるな。この辺りは魔術師の力量次第だ」
私の質問に、魔術を続けながら小首を傾げてアーロンが答えてくれる。
「20倍って。そんな訳分からない量の魔力を一度に放出できるの、師匠くらいしかいないじゃないですか!」
「そうかもな」
「師匠、師匠の魔力には限度はないんですか?」
「あるぞ。前に見たろう。龍脈次第だ」
「ああ、そっか。って、あんなものきりがないっていうのと何ら変わらないじゃないですか!」
「いや、そうでもないぞ。俺は今まで温存して来ているからそこそこ溜め込んでいるが、現に前代の竜王は勇者との戦いで一度使い切ったからな」
また勇者か。勇者ってそんなに強いのかな。
「私どう考えてもそんなに強くなるとは思えませんが」
「……勇者の力は桁違いだ。お前たちはこの世界に愛されている。お前たちに力が必要なら、世界はこの世界がなくなるまで無限に与え続ける」
「それ、勇者無茶苦茶悪者っぽいですよ」
「何をして悪者と言ってるのか分からないが勇者と覇者は同義だな。何人よりも強く、望めば世界をも破壊できる」
「全然嬉しくないです!」
そう言いつつ、ふと昔、師匠の心を手に入れる為なら世界を壊してでも、と思ったのをちょっと思い出した。
「し、師匠が私を捕まえておいてくれる限り、そんなことには絶対なりません」
私がちょっと涙目で訴えると、アーロンは火魔法を一旦止めて優しく私を抱きしめてくれた。
「安心しろ。お前は俺のただ一人の番だ。絶対に逃さない。俺は竜王だぞ。お前以外に俺を止められる奴はいない」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。俺は親父のように世界を破壊もしないし人間を殲滅もしない。女を攫ったり監禁してやり壊したり、食い殺したりもしない。お前がいる限り」
あれ? ちょっと待って。
もしかしてこれ、よく考えると、結局私がアーロンの最終ストッパーになってしまったってことなのだろうか。この場合、私が勇者で良かったのかもしれない……
そう思って見上げると、凄く寂しそうな顔のアーロンと目が合った。何で──
「師匠どうしたんですか?」
「いや、何でもない。ほら岩盤が平らになったぞ。魔法陣を描き込め。転送魔法の摂取陣はもう習っただろう」
「はい。でも教わった魔法陣は中級までです」
「宜しい。では最後を閉じずに中級を直径がお前の指先から肘までの長さになる程度で描いてみろ」
私は言われた通り、摂取陣を描き出す。
こんなふうに自然物に魔法陣を描く場合、普通は地面に傷をつけて描き込むんだけど。
早々ここまで来れないだろうし、より長持ちするように空間魔法で陣を深く切り込んでいく。
最後の円を閉じずに終了すると、アーロンがそこから描き足して魔法陣を2倍近い大きさに広げた。
「これは魔法陣を遠方から操作するための追記魔法陣だ。覚えておけ」
「お、覚えておけって、そんな簡単に言わないで下さい」
「今見てただろう?」
「普通、これだけ複雑なものを見ただけで覚えたり出来ません……ってまさか師匠覚えられるんですか?」
「見た物は大体一回で覚えるな」
「うわ、だからそんなに優秀なんですね。羨ましい」
「……必ずしもいいことばかりではないがな。お前の身体のことは隅々まで覚えた」
「うわ! そんな記憶今すぐ飛ばしてください。それかせめて私に一部修正入れさせてください」
「嫌だ。お前の記憶は一片だって絶対に手放さん」
「そんな、どうせ毎日見れるんですから細かいところは忘れましょうよ」
特に一部の身体の部分なんて、絶対鮮明に思い出して欲しくない。
「うるさい。これは俺のだ。ほら、一度魔力を通して発動しておけ」
誤魔化すようにそう言いつけられ、仕方なく言われた通り魔力を流すと、ズルズルと中級じゃ済まない量の魔力が吸い出されていく。
「師匠すごく魔力が取られてますが?」
「まあそれは高等以上流さないと発動しないからな。一度発動したらやめていいぞ」
しばらくして陣が発動し、淡く輝き始める。
「これでしばらくは持つな。次は排出側だ」
そう言いながら私ごと横を流れていく水面上まで飛翔する。そのまま水面の上で浮遊しつつアーロンが手をひとふりすると、それまで水を堰き止めていた私の空間魔法がいとも簡単にキャンセルされ、どっと水が流れ込む。
途端、今描いた魔法陣が水底に沈み、微かに淡い光が水底に見て取れるだけになってしまった。
「火魔法を消せ。次は屋敷に戻るぞ」
私が慌てて火魔法を消した次の瞬間には、私たちは薄暗い屋根裏に立っていた。
「耐えろ」
「嫌です!」
「もうちょっと」
「無理です」
「あと少し」
「だー! 師匠、動く気ないでしょ! 私はもう無理です、水浴びに行きます!」
暑いのだ。
まあ夏なんだから暑くて当たり前なんだけど、この辺境領は高地になるので普通はいくら夏でもそれほど暑くならない。
なのに今年は例年になく暑い上に、暑さに強いアーロンが昼間っからべったりくっついてくるので余計、暑苦しい。
「大体こんなシャワーもない状態で夏に昼間っからイチャイチャなんて無理です。夜涼しくなるまで1メートル以内、侵入禁止!」
私の叫びにアーロンが面倒くさそうにのっそりと頭を上げた。
「お前本気で言ってるのか? この俺に近づくなと」
「師匠はやっぱり竜ですよね! 爬虫類だから暑くても大丈夫なんですよ! 私もう茹だって悪い頭が停止直前ですから冷やさなきゃ壊れます!」
「お前、竜を爬虫類呼ばわりするか!」
「だって良く考えてみたら翼の付いた大きなトカゲですよね。ずるいです。だから暑くないんだ。私なんて、私なんて、こんな髪いらない!!!」
「わ、やめろ風の刃で髪を切ろうとするな!」
トチ狂った私が繰り出そうとした風の刃をアーロンが慌てて対消滅させた。
「分かった、分かったから落ち着け。じゃあ、部屋にシャワーがあればいいんだな」
「そんな無理ですよ、王都じゃあるまいし。この辺境は水源が少ないんですから」
「お前、魔術師が何を言っている。俺達の水源は水精霊界だ。この世界の地理など関係なかろう」
「あ、そっか」
私の間抜けな返事にアーロンが胡乱な目で私を見返す。
「お前、スチュワードにちゃんと教わってるのか? 長く放っておきすぎたか?」
「ちゃんと勉強してますよ」
「じゃあ、いい機会だ、ちょっと見てやろう」
そう言って、アーロンは私を引き連れて庭の裏に回る。
屋敷の裏側にはガラス張りの温室と、その向こうは深い森が続いてて、その先には山脈をまたいで隣国アレフィーリアへと続く街道が走ってる。
この辺境自体、王都などに比べると山地と言えた。
「地理的にもここは本来、水源があっておかしくない場所なんだ。その証拠に森が充分潤っている」
歩きながらアーロンが説明してくれる。
「それを、かつて竜族の一員がこの辺りで暴れまわり、地表を溶かし、水流を地表からかなり下に沈めてしまった。だからここで水精霊界から水を引き出してしまうと水気が強くなり過ぎ、逆に水害を引き起こしてしまう恐れがある」
「師匠、前にも気になってたんですけど皆が皆、水精霊界から水を引き出したら、いつか水がなくなっちゃうんじゃないですか?」
「お前、精霊界の勉強ちゃんとしてるのか?」
アーロンがため息をつくとまた説明を始めた。
「精霊界ってのはこの世界とは別の次元だ。だが重なっている。精霊界にある水分とこの世界にある水分は同一の物だ。魔術で水を引き出すということは、この世界全体から呼び出す分だけの水分を集めることとも等しい」
「え? じゃあ、私が水魔法使うと喉が渇くのってやっぱり水を体内から取っちゃうからですか?」
「いや普通それはないはずだぞ? 水魔法で精霊界に干渉した場合、不特定多数の場所から微量の水分を集めて来るから、一箇所に影響が集まるようなことはないはずなんだが」
「じゃあやっぱり私の気のせいでしょうか?」
「……ちょっと今ここで使ってみろ」
そう言って私の肩に手を置く。
途端アーロンの魔力が微量ながら私の身体を流れ始めた。
この感覚久しぶり。やっぱり温かくて気持ちいい。
私は指を立てて水をチョロチョロと流し始める。
するとアーロンの魔力が指先に向けて流れ始めた。
「……確かに俺も喉が渇いてきた。同調したからお前に吸われてるな。一体どうやったら自分の体内の水にそこまで干渉できちまうんだ?」
アーロンが首を傾げている。
お、私の気のせいじゃなかった模様。
「今度は俺に同調してみろ」
「どうやるんですか?」
「魔力を薄く引き伸ばして俺の体内に満遍なく流す感じだ」
「師匠、背が高いから肩に手が届きません!」
「馬鹿。別に肩である必要はない。ほら手をかせ」
言われた通りアーロンと両手を繋いでアーロンの中に魔力を流し始める。最初は大きな抵抗があって全然流れ込まなかったのだが、アーロンがちょっと眉根を寄せて唇を噛むとゆっくりと流れ込み始めた。
「……お前の魔力は温かいな」
「師匠の魔力もいつも温かいですよ」
「そうなのか?」
「そうなのかって……知らなかったんですか?」
「……普通、他人の魔力を受け入れることなんてないからな」
「え? じゃあ師匠、もしかしてこれが初めて?」
「……ああ」
うわ、なんか嬉しくなっちゃうよ。アーロンはちょっと赤くなりながらも、大きく咳払いをして先を続ける。
「今度は俺が水魔法を使うからそれを感じ取ってみろ」
そう言って片方の手を離し、手の平から水を溢れさせる。ズルっと私の魔力がつられて流れ出した。だけど身体の方にはなんの影響もない。結構な水が流れ出ているのに、喉が渇いてきたりしない。
「本当ですね。全く喉が渇いてきません」
「だろ? 本来こうなんだ。そのままだと身体への影響が大きくて大きな水魔法を使うのは危険だ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。しばらくは俺の監視下で練習するしかないな」
そう言って水を止める。
「マズい。何か変な気分になって来た」
「へ?」
「とりあえず水源に転移する」
突然、ソワソワし始めたアーロンが私を抱え上げ、いつもの転移が始まった。
「師匠、また真っ暗で見えません!」
「ああ。俺にはよく見えるがな」
「……竜って暗いところでも目が効くんですか?」
「そういうことだ。そのままじっとしてろ」
着いた先は真っ暗闇で、私には何も見えないのに、アーロンはそのままスタスタと歩いていく。
なんか下から結構な水音が聞こえる気がする。外と違って結構肌寒く、薄いワンピースしか着てない私はアーロンにしがみつく。
「ここはどこですか?」
「辺境伯邸のかなり地下の水脈が潜っている所だ。ちょっと待て岩場まで行く」
しばらくそのまま進むとアーロンが突然立ち止まり、私を抱えたまま座り込んだ。私はと言うと、コアラのように抱っこされたままアーロンの膝に乗せられてる。
「師匠、こんな所に座り込んで何するんですか?」
「……まずはこれが先だ」
そう言って私の顔を上に向けてキスを始めた。
突然与えられた甘い唇と舌の感触にビクリと身体がはねた。
「アムンっ、はむっ……」
暗闇でアーロンの腕が私の背中を支え、抱きよせる。アーロン手が優しく私の背中を撫で始めた。
「師匠……アーロン、顔が見えない」
「俺にはお前の蕩けた顔がちゃんと見えるぞ」
「ずるいです」
「たまにはいいだろ」
ドキドキが止まらない。
「ここならひと目も気にならないみたいだしな」
「……皆が働いてる時に同じ屋敷でエッチなことするのは恥ずかしくてイヤなんです」
「俺は別に見られても構わんがな」
「構って下さい……!」
話している間も、アーロンの両手が私の身体を隅々まで撫でまわす。
「気持ちいいのか?」
「……はい」
「服は……脱がすわけにいかないな」
「……ワンピースの中に手を入れてください」
「珍しく積極的だな」
「だって、さっきの魔力を流し込むの、気持ち良かったから……」
「これか?」
そう言ってアーロンが背中を撫でる指先から魔力を流し始める。
「んんっ!」
ゾクゾクっと背中をアーロンの魔力が這い上がってくる。顔さえ見えない真っ暗闇なのに、魔力を流されるとアーロンの存在がすごく近く感じられてなにか切ない。
アーロンの唇が私の首筋を食みはじめると、彼の長いサラサラの髪が私の膝にかかる。
「アーロン、髪がくすぐったい」
「好きなんだろ」
「膝はダメです」
「うるさいことを言う」
文句をつけながらも、一旦手を止めて髪をかき上げてくれた。
「このまま入れても大丈夫か?」
「……はい」
身体はとっくに準備できてしまってた。アーロンが私の腰を引き上げ、下着を横にずらして自分のものを押し当てる。
「ゆっくりと一気に、どっちがいい?」
「ゆっくりが……!」
返事を返してる途中で一気に挿れられた。
未だ慣れない大きな存在感に、身体がひくひくと勝手に反応してしまう。
アーロンの意地悪!
「どっちもいいんだろ?」
「そうだけど、ひどいです!」
「意識がそれた間に挿れたほうが気持ちよさそうだぞ」
変な所よく見ているなぁ。
「少し自分で動いてみろ」
「無理です、もうこのままでもキツすぎて……」
アーロンの物に体が馴染むのを静かに待ってたのに、私の言葉が終わらないうちにアーロンが腰を揺らし始める。
「動いたほうが早く馴染むだろ」
「ん、ぐっ、そんなこと、ないです! つらい!」
「じゃあ代わりにこっちを撫でてやる」
騒ぐ私をなだめるように片手で私の腰を抱えながら、アーロンがもう一方の手で背中を優しく撫で始めた。私がアーロンに背中を撫でられると落ち着くのをすっかり見抜かれちゃってる。
「アーロン、そろそろ大丈夫です」
「ほらみろ、動いた方が早い」
顔が見えなくても、得意そうにニヤッと笑っているのが感じ取れた。アーロンの腰の動きが少しずつ激しくなってくる。
「今から、始めれば、今日は、充分、時間が、あるな」
「なん! なに、あっ、言って、るんですか! むり! あっ」
「安心しろ、文句も言えなく、してやる!」
「ああっ!」
下から激しく突き上げられ、身体が痺れて震えだす。そのまま声も出せずに軽くいってしまった。
「一回目は早かったな」
それに気づいたアーロンは、一旦腰を止めてまたゆっくりと私を揺らしはじめる。
「そんなに何度もいやです、また訳分からなくなっちゃう」
「だからいいんだろ?」
「良くないです! 大体、師匠何回いってもすぐおっきくなっちゃうじゃないですか!」
「それはお前のせいだ」
「ううっ、一体、師匠には、限度、ないんですか?」
私が『師匠』と呼び始めると、アーロンはほんの少し理性を取り戻してくれる。それを最大限利用して時間を稼ぐ。
「俺か? 多分ないな。お前が許す限り何回でも続けてやるぞ」
「それ全然うれしくない! それじゃあ、師匠、全然満足してないってことですか?」
「そんなことはない。毎回毎回ちゃんといってるだろう。ただ、お前が可愛いからすぐまた欲しくなる」
うわ、顔が見えないからっていつもより甘いこと言ってくれてる。嬉しいのと恥ずかしいので、ついしがみついてしまった。
「ほら、そうやって俺を煽る。だからまたこうやって! 鳴かせて! やりたくなる!」
「あうっ! あっ! あっ! まって、」
「待たない! いけ」
またガンガン突かれて頭が真っ白になっていく……
でも今回は私がフルフルと震えて達してからもなかなかやめてくれない。
「息、苦しい、許して、」
「まだ、大丈夫、だろ、」
「うっ、むり!」
私がもう気を失う寸前で、最後の一回を強く叩きつけたアーロンが大きく息を吐き出しつつやっと腰の動きを止めてくれた。
「はっ、はっ、はーぁ!」
「少し休むか?」
「少し、休むじゃ、ないです! おしまい!」
「俺はまだいってないぞ」
「そんなの師匠が、悪い!」
「……いい加減、名前で呼べ」
「アーロン、許して、あと一回でいって下さい」
「仕方ない」
そう言いながらも、優しいアーロンは私の息が落ち着くのを待ってくれてる。
「そろそろ平気か?」
「もうちょっと。始める前に少し抱きしめてください」
途端、アーロンのガッチリした腕が身体を二つに折る勢いで締め付けた。
私、少しって言ったよね!?
「し、しぬっ!」
「すまん、つい……」
私の絞り出した声に慌てて力を緩めてくれた。
「アーロンのキュウしてくれるの好きなんですよ? だからちゃんと優しくしてください」
「分かった」
今度は優しく抱きしめてくれる。
息も落ち着いて、やっと身体が反応できるところまで戻ってくると、またアーロンがゆっくりと腰を揺らし始めた。
「アーロンちょっと待ってください。私が自分で動きます」
このままだと、私だけまたいかされてしまう。私が自分で調節できるよう、アーロンをけん制してみる。私の要求からほんの少し間をおいて、アーロンが腰を止め、掴む手を緩めてくれた。
改めてアーロンの肩に掴まりながら、岩肌に膝をついてゆっくりと自分で腰を振りつけてみる。
これだと中をキツく押し上げられないので、自分の気持ちい範囲で動かせて少し楽だ。
「ぐっ……んっっ……」
すぐ、私の動きに合わせて、アーロンが堪えるようにくぐもった吐息を漏らし始める。自分がアーロンにそんな声を出させてるっていうのに興奮して、思わず腰を動かすスピードが上がってくる。途端、自分自身も昇りつめ始めてしまった。
「師匠、アーロン、いって、いっしょ、いって」
一生懸命我慢して、アーロンが同じところまでくるのを待つ。
「駄目だ、動くぞ」
折角私が我慢してたのに、突然もう耐えきれないというようにアーロンが下から腰を振りつけはじめる。私の動きを無視してガンガン突き上げられて、逃げ場もなく昇りつめていく……
最後は背に回した腕で動けない程しっかりと抱きしめられ、身体ごと上下に振り付けるようにして腰が叩き込まれ。そしてとうとうビクンビクンとはねながら、アーロンが中で沢山吐き出し始めた。
「もう、はいんない、とめて!」
「とまるか!」
アーロンの大きなもので占められてた私の中に大量に吐精され、熱いだけじゃなくて苦しい。
やがて吐き出しきったアーロンの物が徐々に小さくなると、代わりにねっとりとした精液が下に垂れていく。
「師匠、服……」
「そんなものはあとで洗浄を掛ける。いいから動くな」
アーロンは私の身体をしっかりと抱きしめ、私の肩に顔を埋めた。アーロンの全身がまだ少し痙攣してる。
アーロンはいく時、本当に気持ちよさそうにしてくれる。それがもしかすると、自分がいくのよりうれしくて、実は私のほうがまたしたくなったりするのだが、これはアーロンには絶対に秘密だ。
しばらくそのまま余韻に浸っていたアーロンが、一つ小さくため息をついてから私を離してくれた。
「ちょっとそこに立ってろ」
そう言ってすぐに魔力が動いて、私とアーロン、両方の身体に付いていた体液がきれいに消え去る。
洗浄魔法って本当に便利だよね。
「師匠、私にも洗浄魔法を教えて下さい」
「後でな。まずは水源の確保だ。まずは手の上に火を出して周りを見てみろ」
言われるまま、以前アーロンがやっていたように、手のひらサイズの火の玉を出してみる。
照らし出された洞窟は思っていたよりも狭く、私たちの乗っている岩場の両脇はそれぞれ車道一本分くらいの幅しかない。そこを結構なスピードで水が流れていく。
天井も、アーロンが手を伸ばせば充分に届きそうだ。ありがたいことに、目で見える範囲に天敵の姿はなかった。
「アエリア、まずはこの岩場のすぐ下流の所を空間魔法で切り取ってみろ」
私は言われた通り、空間魔法でベッド程の空間を固定してみる。すると、さっきまで渦を巻いて流れていた水がそこだけ突然静かになり、代わりに私が切り取った空間の下流で新しい渦を巻き始める。
「よろしい。次にその空間の水を全て転移で横に追い出せ」
これも結構簡単に出来た。
「よし。中に転移するぞ」
そう言って、私の手を掴んで一瞬で水の抜けた地面に移動する。
「では次に地面を均して熱魔法で溶かして固めろ」
「それは流石に出来ません!」
「お前、前に自分の首輪の留金溶かしてただろう」
「あれは溶けたんじゃなくて、勇者に覚醒した時にすっ飛んじゃったんです」
「……じゃあ仕方ないか。ここだけ手伝ってやる」
文句を言ってるのにアーロンがなぜか嬉しそ
う。私を抱えて軽く浮遊し、手から業火を噴き出して、まだ少し水気の残る地面をあっという間に溶かし均してしまう。
業火に晒された地面が煙をあげながら、みるみるうちに夏のアスファルトのように溶け、溶岩になってまた固まる様はまるで地獄絵図のようだ。
いや、これ、普通に他の魔術師にだって出来ないでしょ。
「師匠もしかして竜王の力とか使ってませんか?」
「どういう意味だ?」
「だって。こんなに高温になる火魔法ってありですか?」
「まあ、高等魔術以上は実際比較対象がほとんどいないから定義されていないが、相対的に比較すれば現在の火力は火魔法の中級と高等の差の20倍くらいはあるな。この辺りは魔術師の力量次第だ」
私の質問に、魔術を続けながら小首を傾げてアーロンが答えてくれる。
「20倍って。そんな訳分からない量の魔力を一度に放出できるの、師匠くらいしかいないじゃないですか!」
「そうかもな」
「師匠、師匠の魔力には限度はないんですか?」
「あるぞ。前に見たろう。龍脈次第だ」
「ああ、そっか。って、あんなものきりがないっていうのと何ら変わらないじゃないですか!」
「いや、そうでもないぞ。俺は今まで温存して来ているからそこそこ溜め込んでいるが、現に前代の竜王は勇者との戦いで一度使い切ったからな」
また勇者か。勇者ってそんなに強いのかな。
「私どう考えてもそんなに強くなるとは思えませんが」
「……勇者の力は桁違いだ。お前たちはこの世界に愛されている。お前たちに力が必要なら、世界はこの世界がなくなるまで無限に与え続ける」
「それ、勇者無茶苦茶悪者っぽいですよ」
「何をして悪者と言ってるのか分からないが勇者と覇者は同義だな。何人よりも強く、望めば世界をも破壊できる」
「全然嬉しくないです!」
そう言いつつ、ふと昔、師匠の心を手に入れる為なら世界を壊してでも、と思ったのをちょっと思い出した。
「し、師匠が私を捕まえておいてくれる限り、そんなことには絶対なりません」
私がちょっと涙目で訴えると、アーロンは火魔法を一旦止めて優しく私を抱きしめてくれた。
「安心しろ。お前は俺のただ一人の番だ。絶対に逃さない。俺は竜王だぞ。お前以外に俺を止められる奴はいない」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。俺は親父のように世界を破壊もしないし人間を殲滅もしない。女を攫ったり監禁してやり壊したり、食い殺したりもしない。お前がいる限り」
あれ? ちょっと待って。
もしかしてこれ、よく考えると、結局私がアーロンの最終ストッパーになってしまったってことなのだろうか。この場合、私が勇者で良かったのかもしれない……
そう思って見上げると、凄く寂しそうな顔のアーロンと目が合った。何で──
「師匠どうしたんですか?」
「いや、何でもない。ほら岩盤が平らになったぞ。魔法陣を描き込め。転送魔法の摂取陣はもう習っただろう」
「はい。でも教わった魔法陣は中級までです」
「宜しい。では最後を閉じずに中級を直径がお前の指先から肘までの長さになる程度で描いてみろ」
私は言われた通り、摂取陣を描き出す。
こんなふうに自然物に魔法陣を描く場合、普通は地面に傷をつけて描き込むんだけど。
早々ここまで来れないだろうし、より長持ちするように空間魔法で陣を深く切り込んでいく。
最後の円を閉じずに終了すると、アーロンがそこから描き足して魔法陣を2倍近い大きさに広げた。
「これは魔法陣を遠方から操作するための追記魔法陣だ。覚えておけ」
「お、覚えておけって、そんな簡単に言わないで下さい」
「今見てただろう?」
「普通、これだけ複雑なものを見ただけで覚えたり出来ません……ってまさか師匠覚えられるんですか?」
「見た物は大体一回で覚えるな」
「うわ、だからそんなに優秀なんですね。羨ましい」
「……必ずしもいいことばかりではないがな。お前の身体のことは隅々まで覚えた」
「うわ! そんな記憶今すぐ飛ばしてください。それかせめて私に一部修正入れさせてください」
「嫌だ。お前の記憶は一片だって絶対に手放さん」
「そんな、どうせ毎日見れるんですから細かいところは忘れましょうよ」
特に一部の身体の部分なんて、絶対鮮明に思い出して欲しくない。
「うるさい。これは俺のだ。ほら、一度魔力を通して発動しておけ」
誤魔化すようにそう言いつけられ、仕方なく言われた通り魔力を流すと、ズルズルと中級じゃ済まない量の魔力が吸い出されていく。
「師匠すごく魔力が取られてますが?」
「まあそれは高等以上流さないと発動しないからな。一度発動したらやめていいぞ」
しばらくして陣が発動し、淡く輝き始める。
「これでしばらくは持つな。次は排出側だ」
そう言いながら私ごと横を流れていく水面上まで飛翔する。そのまま水面の上で浮遊しつつアーロンが手をひとふりすると、それまで水を堰き止めていた私の空間魔法がいとも簡単にキャンセルされ、どっと水が流れ込む。
途端、今描いた魔法陣が水底に沈み、微かに淡い光が水底に見て取れるだけになってしまった。
「火魔法を消せ。次は屋敷に戻るぞ」
私が慌てて火魔法を消した次の瞬間には、私たちは薄暗い屋根裏に立っていた。
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