戦う理由

タヌキ

文字の大きさ
上 下
65 / 70

屋敷の中

しおりを挟む
 梁の別荘は高い塀に囲まれ、建物の様子は伺い知れない。出入口は木製の大きな門一つだけで、裏口は無さそうだった。
 タクシーから降りたイリナは中腰気味にグレネードランチャーを構え、二回引き金を引いた。
 くもぐった音が続き、何かがランチャーから飛び出してきたかと思えば。固く閉ざされていた木製の門は木っ端みじんになった。
「派手なチャイムね」
「開幕のゴングさ」
 そんなことを言い合いながら、門だった場所を歩く。緑豊かな芝生敷きの庭の先、二階建ての洋館から銃を手にした男達が、わらわらと出てくる。
「下手な小細工なんぞいらん。立ち塞がる奴は全員殺す。異議は?」
「なし!」
 馴染みの友人に手を振るみたいな気軽さで、イリナはまたランチャーを撃った。男達が臨戦態勢を取るより先に、屋敷の玄関が吹き飛ぶ。
 舞い上がった埃が落ち着くまで少し待って、様子を見る。
 何人かは逃れたようだったが、二人ほど巻き込まれたらしい。
 脚が生えた下半身らしき肉塊と、銃のグリップを握ったまま千切れた腕と半分欠けた頭が爆発の跡に転がっていた。脚の持ち主は分からないが、欠けた頭には見覚えがあった。アラモアナセンターで襲いかかってきた連中の一人だ。
「ほぉ……」
 俄然やる気が湧いてきた。そのやる気に応えてくれるように、MP5サブマシンガンを持った敵が現れた。
 俺はイリナを下がらせ、ショットガンを構える。
 引き金を引き、目の前に散弾に入った鉛玉をばら撒く。数メートル先にいた男の肩が血煙と化し、真っ白い外壁に赤く幾何学的な模様を付ける。
 更に、引き金を引いたままポンプを前後させ、薬室に散弾を送り込む。
 次の瞬間、肩が無くなった男の隣にいた奴の頭が轟音と共に消えた。
 本来、ポンプアクションでは一発目を撃ってから二発目を放つまで、少しのタイムラグがある。
 しかし、俺が持つウィンチェスターM1897は古い散弾銃で、現代の物にはある機関部と散弾が収まるチューブを区切る機構が無いのだ。なので、俺がしたように、引き金を引きっぱなしにしたままポンプを前後させると、連発が出来るのだ。これをスラムファイアという。
 威力はお墨付き。
 第一次世界大戦の塹壕戦において、その撃ち方が猛威を振るい、トレンチ塹壕ガンという異名が付けられ、自軍の犠牲を重く見たドイツが散弾銃の使用を「条約違反だ」と抗議したなんてエピソードがあるくらいだ。
 俺は肩を無くして、もがいている男へ近づき、胸に一発撃ってトドメを刺した。
 こうしてグレネードとスラムファイアで敵の第一陣を粉砕し、俺達は屋敷内へ侵入した。
 イリナは得物を背中のビソンに変え、近接戦に備える。俺もショットガンを構えたまま、周囲をザッと見渡した。
 屋敷内は静かで、妙に殺風景だった。生活感がまるで無い。モデルルームにいるみたいだ。
「……エレナはどこだ?」
「セオリー通りなら、寝室は上よね」
「じゃあ上だ」
 俺が階段に足を掛けようとすると、肩を引っ張られた。次の瞬間、目の前に弾丸が降り注いでくる。待ち伏せされていたのだ。
 こういうときに、ツーマンセルだと便利だ。
「あぶねぇあぶねぇ」
 後ろを見ると、俺の肩を握ったままイリナがドヤ顔をしていた。
「お礼は?」
「どうもありがとう」
「どういたしまして」
 軽口を叩きつつ、イリナはランチャーを俺へと渡してきた。
「適当に撃って。私が突っ込むから」
「分かった」
 彼女からランチャーを受け取り、タイミングを合わせる。
「今!」
 三発ほどグレネード弾を発射して、それらが炸裂したのを確認してからエレナの背中を叩く。叩くというか、触れると同時に彼女はすっ飛んでいく。
 それから数秒開いて、けたたましい銃声と叫び声が聞こえてきた。
 それが十秒ほど続いて、急に何も聞こえなくなった。
 更に数秒待ってから、階上に向かって叫ぶ。
「生きてるか?」
 すぐに返事がきた。
「生きてる!」
 イリナの声だった。俺はホッと息を吐き出し、弾痕が多数残る階段を上がっていく。彼女がむざむざとやられる訳がないとは思っているが、やはり緊張するものだ。
 二階に近づいていくにつれ、焦げ臭いにおいが強くなっていった。階段を上がった先は、死屍累々の光景が広がっていた。
 廊下の窓ガラスは全て割れ、グレネード弾が着弾したであろう場所は焦げている。高そうな絨毯もまくれあがり、一部は千切れていた。
 その上には、死体が転がっている。
 死体とも呼べないような肉塊から、頭を一発撃たれただけの比較的綺麗な物もある。実にバラエティー豊かだ。
 そして、死体の山の中心にはイリナが立っていた。
 彼女は何処も怪我をしておらず、元気そうだったが、返り血を顔に浴びていた。
 俺が指で血が付いているのを示すと、彼女は顔を拭い、手に付いた血を舐めた。
「……ヴァンプの活躍どころってか?」
「そのあだ名、久し振りに聞いた」
「そうか? 俺、船で呼んだぞ」
「そうだっけ?」
 ケタケタと笑うイリナ。その様子は、昔の彼女を彷彿とさせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...