61 / 70
倉庫の中
しおりを挟む
沿岸警備隊の男から押収品倉庫の暗証番号を聞き出し、イリナを連れ立って倉庫へ向かう。
そこは、宝の山だった。
早速、俺はガンロッカーを開け、ショットガンを手に取る。密輸品ながら状態はよく、懐かしいガンオイルの匂いが鼻を突く。
実包も別のロッカーにたんまりとあるので、弾切れの心配はしなくても良さそうだった。
「見て、亮平」
後ろを見ると、イリナがどこから引っ張り出してきたのか、グレネードランチャーを振り回している。
楽しそうに重火器を持っている彼女を見ていると、胸の奥が温かくなっていくようだ。
「……なんか、久し振りだな。お前のそんな姿を見るのは」
「そう? 『リンカーン』でも見たじゃない」
イリナはそう言うが、俺には物凄く久し振りに感じる。
「まぁ、そうなんだがな。……船を降りてから、こうなるまでは平和だったからさ」
銃器を選びながら、俺は色んなことを思い出した。
砂浜で遊んだこと。三人一緒に飯を食べたこと。アラモアナセンターに行ったこと。
今の状態から考えれば夢のようだが、紛れもない現実だ。
でも、エレナを奪われたせいで、その日々も奪われてしまった。
だから、取り返す。当然のことだ。
俺は倉庫の中でひと際大きい木箱に手を付けた。茶色い紙の梱包材に埋もれていたのは、旧ソ連製のAKS74Uだった。黒光りする銃身に、俺は思わず口笛を吹く。
おそらく、さる超大国からの横流しだろう。
「三年前の戦争じゃ、武器が足りねぇとか言って、モシンナガン持たされてたのになぁ……あるところにはあるもんだ」
「まぁ、戦場に渡すより横流しした方が、よっぽど得だし」
「世知辛いねぇ……」
そうは言いつつも、俺は沢山ある内の一丁を取る。弾も弾倉も箱の底にあった。弾はまだ湿気ていない。
他に箱の中からは、マカロフ拳銃やビソンサブマシンガンが出てきた。俺はマカロフを、イリナはビソンを選び、弾もごっそり頂いて押収品倉庫を出る。
外では、コッポラが待機していた。
俺とイリナが物色している間、彼には見張り兼バハマへの足の確保を頼んであった。
こちらに気がついて、笑顔でサムズアップをしたので上手くいったらしい。
もっとも、次の瞬間には顔を引きつらせたが。
「……凄いですね」
戦争が出来るほどではないが、それでも大量の武器弾薬を抱える俺達を見ての反応だ。
俺はショットガンを背負ってAKを持ち、イリナはサブマシンガンを首から提げて、グレネードランチャーを脇に抱えている。
腹を括っても、シュールすぎるものを目にしたら人間誰でもこうなるのだろう。
「どうせ、あのおいちゃんの奢りだ。派手に行こう」
俺が用意してあった鞄に、銃器と弾を詰めていると。コッポラはボソリと言った。
「あの人、もうクビじゃなくて、首を括ることになるな」
彼は哀れんでいるようだったが、俺は日本語で。
「自業自得だ」
と言った。
外では、ナザロフが笑顔で防弾ベストを持って待っていた。その隣では、沿岸警備隊の男が茫然自失といった顔で立っている。
「ここの装備品倉庫からパクってきました」
よく見ると、そのベストの背中と胸のところに、何かを引き剥がしたような痕がある。
「沿岸警備隊」と刺繍されたワッペンでも貼ってあったのだろう。そのままでは盗んだことが丸分かりなので、ワッペンを引っ剥がしたに違いない。
俺とイリナはナザロフからそれを受け取り、早速身に着けた。サイズは合っている。
「似合ってますね」
世辞か本音かは分からなかったが、コッポラは俺達の格好を褒めた。
俺は適当に返し、イリナはファッションモデルよろしく、その場で一回転してみせる。
そんなやり取りをしてから、ベストを鞄の中へ突っ込んだ。
これで、準備は整った。
持つ物は持ったし、伝えておくべきことも伝えた。もう、この地でやり残したことはない。
「……じゃあ、行くか」
俺の言葉にイリナが頷く。
ここで、ナザロフとコッポラ、ついでに男ともお別れだ。
二人には鉄火場に立つ以外に、やってほしいことがあるからだ。
「……また、お別れっすね」
ナザロフが寂しそうに言う。思えば、彼にはホノルルに来てから迷惑掛けっぱなしだった。
なのに、こうして別れを惜しんでくれている。それがとても嬉しかった。
「……今生の別れじゃないんだ。また会えるさ」
「今度は夏に、エレナちゃんを連れて、三人で遊びに行くからさ。待っててよ」
俺とイリナはそれぞれ言葉を掛け、別れのハグをする。
それが終わってから、コッポラの方を向く。
「コッポラ、世話になったな」
最初は彼を舐めていたが、彼なりの正義に触れたり、エレナのことで色々と骨を折ってもらい、認識を改めた。
立派なFBI捜査官だ。
「なに、このくらい」
頭を搔きながら、コッポラは照れる。俺の作戦だと一番の貧乏くじを引くことになっているのに、文句を口にしない。
「……後を頼んだ」
「任せてください」
コッポラは力強く頷いた。
「こっちはこっちで頑張りますから、お二人は、エレナちゃんを迎えに行ってあげてください」
彼のその言葉に背中を押されるように、俺達は空港へと向かった。
そこは、宝の山だった。
早速、俺はガンロッカーを開け、ショットガンを手に取る。密輸品ながら状態はよく、懐かしいガンオイルの匂いが鼻を突く。
実包も別のロッカーにたんまりとあるので、弾切れの心配はしなくても良さそうだった。
「見て、亮平」
後ろを見ると、イリナがどこから引っ張り出してきたのか、グレネードランチャーを振り回している。
楽しそうに重火器を持っている彼女を見ていると、胸の奥が温かくなっていくようだ。
「……なんか、久し振りだな。お前のそんな姿を見るのは」
「そう? 『リンカーン』でも見たじゃない」
イリナはそう言うが、俺には物凄く久し振りに感じる。
「まぁ、そうなんだがな。……船を降りてから、こうなるまでは平和だったからさ」
銃器を選びながら、俺は色んなことを思い出した。
砂浜で遊んだこと。三人一緒に飯を食べたこと。アラモアナセンターに行ったこと。
今の状態から考えれば夢のようだが、紛れもない現実だ。
でも、エレナを奪われたせいで、その日々も奪われてしまった。
だから、取り返す。当然のことだ。
俺は倉庫の中でひと際大きい木箱に手を付けた。茶色い紙の梱包材に埋もれていたのは、旧ソ連製のAKS74Uだった。黒光りする銃身に、俺は思わず口笛を吹く。
おそらく、さる超大国からの横流しだろう。
「三年前の戦争じゃ、武器が足りねぇとか言って、モシンナガン持たされてたのになぁ……あるところにはあるもんだ」
「まぁ、戦場に渡すより横流しした方が、よっぽど得だし」
「世知辛いねぇ……」
そうは言いつつも、俺は沢山ある内の一丁を取る。弾も弾倉も箱の底にあった。弾はまだ湿気ていない。
他に箱の中からは、マカロフ拳銃やビソンサブマシンガンが出てきた。俺はマカロフを、イリナはビソンを選び、弾もごっそり頂いて押収品倉庫を出る。
外では、コッポラが待機していた。
俺とイリナが物色している間、彼には見張り兼バハマへの足の確保を頼んであった。
こちらに気がついて、笑顔でサムズアップをしたので上手くいったらしい。
もっとも、次の瞬間には顔を引きつらせたが。
「……凄いですね」
戦争が出来るほどではないが、それでも大量の武器弾薬を抱える俺達を見ての反応だ。
俺はショットガンを背負ってAKを持ち、イリナはサブマシンガンを首から提げて、グレネードランチャーを脇に抱えている。
腹を括っても、シュールすぎるものを目にしたら人間誰でもこうなるのだろう。
「どうせ、あのおいちゃんの奢りだ。派手に行こう」
俺が用意してあった鞄に、銃器と弾を詰めていると。コッポラはボソリと言った。
「あの人、もうクビじゃなくて、首を括ることになるな」
彼は哀れんでいるようだったが、俺は日本語で。
「自業自得だ」
と言った。
外では、ナザロフが笑顔で防弾ベストを持って待っていた。その隣では、沿岸警備隊の男が茫然自失といった顔で立っている。
「ここの装備品倉庫からパクってきました」
よく見ると、そのベストの背中と胸のところに、何かを引き剥がしたような痕がある。
「沿岸警備隊」と刺繍されたワッペンでも貼ってあったのだろう。そのままでは盗んだことが丸分かりなので、ワッペンを引っ剥がしたに違いない。
俺とイリナはナザロフからそれを受け取り、早速身に着けた。サイズは合っている。
「似合ってますね」
世辞か本音かは分からなかったが、コッポラは俺達の格好を褒めた。
俺は適当に返し、イリナはファッションモデルよろしく、その場で一回転してみせる。
そんなやり取りをしてから、ベストを鞄の中へ突っ込んだ。
これで、準備は整った。
持つ物は持ったし、伝えておくべきことも伝えた。もう、この地でやり残したことはない。
「……じゃあ、行くか」
俺の言葉にイリナが頷く。
ここで、ナザロフとコッポラ、ついでに男ともお別れだ。
二人には鉄火場に立つ以外に、やってほしいことがあるからだ。
「……また、お別れっすね」
ナザロフが寂しそうに言う。思えば、彼にはホノルルに来てから迷惑掛けっぱなしだった。
なのに、こうして別れを惜しんでくれている。それがとても嬉しかった。
「……今生の別れじゃないんだ。また会えるさ」
「今度は夏に、エレナちゃんを連れて、三人で遊びに行くからさ。待っててよ」
俺とイリナはそれぞれ言葉を掛け、別れのハグをする。
それが終わってから、コッポラの方を向く。
「コッポラ、世話になったな」
最初は彼を舐めていたが、彼なりの正義に触れたり、エレナのことで色々と骨を折ってもらい、認識を改めた。
立派なFBI捜査官だ。
「なに、このくらい」
頭を搔きながら、コッポラは照れる。俺の作戦だと一番の貧乏くじを引くことになっているのに、文句を口にしない。
「……後を頼んだ」
「任せてください」
コッポラは力強く頷いた。
「こっちはこっちで頑張りますから、お二人は、エレナちゃんを迎えに行ってあげてください」
彼のその言葉に背中を押されるように、俺達は空港へと向かった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる