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倉庫の中
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沿岸警備隊の男から押収品倉庫の暗証番号を聞き出し、イリナを連れ立って倉庫へ向かう。
そこは、宝の山だった。
早速、俺はガンロッカーを開け、ショットガンを手に取る。密輸品ながら状態はよく、懐かしいガンオイルの匂いが鼻を突く。
実包も別のロッカーにたんまりとあるので、弾切れの心配はしなくても良さそうだった。
「見て、亮平」
後ろを見ると、イリナがどこから引っ張り出してきたのか、グレネードランチャーを振り回している。
楽しそうに重火器を持っている彼女を見ていると、胸の奥が温かくなっていくようだ。
「……なんか、久し振りだな。お前のそんな姿を見るのは」
「そう? 『リンカーン』でも見たじゃない」
イリナはそう言うが、俺には物凄く久し振りに感じる。
「まぁ、そうなんだがな。……船を降りてから、こうなるまでは平和だったからさ」
銃器を選びながら、俺は色んなことを思い出した。
砂浜で遊んだこと。三人一緒に飯を食べたこと。アラモアナセンターに行ったこと。
今の状態から考えれば夢のようだが、紛れもない現実だ。
でも、エレナを奪われたせいで、その日々も奪われてしまった。
だから、取り返す。当然のことだ。
俺は倉庫の中でひと際大きい木箱に手を付けた。茶色い紙の梱包材に埋もれていたのは、旧ソ連製のAKS74Uだった。黒光りする銃身に、俺は思わず口笛を吹く。
おそらく、さる超大国からの横流しだろう。
「三年前の戦争じゃ、武器が足りねぇとか言って、モシンナガン持たされてたのになぁ……あるところにはあるもんだ」
「まぁ、戦場に渡すより横流しした方が、よっぽど得だし」
「世知辛いねぇ……」
そうは言いつつも、俺は沢山ある内の一丁を取る。弾も弾倉も箱の底にあった。弾はまだ湿気ていない。
他に箱の中からは、マカロフ拳銃やビソンサブマシンガンが出てきた。俺はマカロフを、イリナはビソンを選び、弾もごっそり頂いて押収品倉庫を出る。
外では、コッポラが待機していた。
俺とイリナが物色している間、彼には見張り兼バハマへの足の確保を頼んであった。
こちらに気がついて、笑顔でサムズアップをしたので上手くいったらしい。
もっとも、次の瞬間には顔を引きつらせたが。
「……凄いですね」
戦争が出来るほどではないが、それでも大量の武器弾薬を抱える俺達を見ての反応だ。
俺はショットガンを背負ってAKを持ち、イリナはサブマシンガンを首から提げて、グレネードランチャーを脇に抱えている。
腹を括っても、シュールすぎるものを目にしたら人間誰でもこうなるのだろう。
「どうせ、あのおいちゃんの奢りだ。派手に行こう」
俺が用意してあった鞄に、銃器と弾を詰めていると。コッポラはボソリと言った。
「あの人、もうクビじゃなくて、首を括ることになるな」
彼は哀れんでいるようだったが、俺は日本語で。
「自業自得だ」
と言った。
外では、ナザロフが笑顔で防弾ベストを持って待っていた。その隣では、沿岸警備隊の男が茫然自失といった顔で立っている。
「ここの装備品倉庫からパクってきました」
よく見ると、そのベストの背中と胸のところに、何かを引き剥がしたような痕がある。
「沿岸警備隊」と刺繍されたワッペンでも貼ってあったのだろう。そのままでは盗んだことが丸分かりなので、ワッペンを引っ剥がしたに違いない。
俺とイリナはナザロフからそれを受け取り、早速身に着けた。サイズは合っている。
「似合ってますね」
世辞か本音かは分からなかったが、コッポラは俺達の格好を褒めた。
俺は適当に返し、イリナはファッションモデルよろしく、その場で一回転してみせる。
そんなやり取りをしてから、ベストを鞄の中へ突っ込んだ。
これで、準備は整った。
持つ物は持ったし、伝えておくべきことも伝えた。もう、この地でやり残したことはない。
「……じゃあ、行くか」
俺の言葉にイリナが頷く。
ここで、ナザロフとコッポラ、ついでに男ともお別れだ。
二人には鉄火場に立つ以外に、やってほしいことがあるからだ。
「……また、お別れっすね」
ナザロフが寂しそうに言う。思えば、彼にはホノルルに来てから迷惑掛けっぱなしだった。
なのに、こうして別れを惜しんでくれている。それがとても嬉しかった。
「……今生の別れじゃないんだ。また会えるさ」
「今度は夏に、エレナちゃんを連れて、三人で遊びに行くからさ。待っててよ」
俺とイリナはそれぞれ言葉を掛け、別れのハグをする。
それが終わってから、コッポラの方を向く。
「コッポラ、世話になったな」
最初は彼を舐めていたが、彼なりの正義に触れたり、エレナのことで色々と骨を折ってもらい、認識を改めた。
立派なFBI捜査官だ。
「なに、このくらい」
頭を搔きながら、コッポラは照れる。俺の作戦だと一番の貧乏くじを引くことになっているのに、文句を口にしない。
「……後を頼んだ」
「任せてください」
コッポラは力強く頷いた。
「こっちはこっちで頑張りますから、お二人は、エレナちゃんを迎えに行ってあげてください」
彼のその言葉に背中を押されるように、俺達は空港へと向かった。
そこは、宝の山だった。
早速、俺はガンロッカーを開け、ショットガンを手に取る。密輸品ながら状態はよく、懐かしいガンオイルの匂いが鼻を突く。
実包も別のロッカーにたんまりとあるので、弾切れの心配はしなくても良さそうだった。
「見て、亮平」
後ろを見ると、イリナがどこから引っ張り出してきたのか、グレネードランチャーを振り回している。
楽しそうに重火器を持っている彼女を見ていると、胸の奥が温かくなっていくようだ。
「……なんか、久し振りだな。お前のそんな姿を見るのは」
「そう? 『リンカーン』でも見たじゃない」
イリナはそう言うが、俺には物凄く久し振りに感じる。
「まぁ、そうなんだがな。……船を降りてから、こうなるまでは平和だったからさ」
銃器を選びながら、俺は色んなことを思い出した。
砂浜で遊んだこと。三人一緒に飯を食べたこと。アラモアナセンターに行ったこと。
今の状態から考えれば夢のようだが、紛れもない現実だ。
でも、エレナを奪われたせいで、その日々も奪われてしまった。
だから、取り返す。当然のことだ。
俺は倉庫の中でひと際大きい木箱に手を付けた。茶色い紙の梱包材に埋もれていたのは、旧ソ連製のAKS74Uだった。黒光りする銃身に、俺は思わず口笛を吹く。
おそらく、さる超大国からの横流しだろう。
「三年前の戦争じゃ、武器が足りねぇとか言って、モシンナガン持たされてたのになぁ……あるところにはあるもんだ」
「まぁ、戦場に渡すより横流しした方が、よっぽど得だし」
「世知辛いねぇ……」
そうは言いつつも、俺は沢山ある内の一丁を取る。弾も弾倉も箱の底にあった。弾はまだ湿気ていない。
他に箱の中からは、マカロフ拳銃やビソンサブマシンガンが出てきた。俺はマカロフを、イリナはビソンを選び、弾もごっそり頂いて押収品倉庫を出る。
外では、コッポラが待機していた。
俺とイリナが物色している間、彼には見張り兼バハマへの足の確保を頼んであった。
こちらに気がついて、笑顔でサムズアップをしたので上手くいったらしい。
もっとも、次の瞬間には顔を引きつらせたが。
「……凄いですね」
戦争が出来るほどではないが、それでも大量の武器弾薬を抱える俺達を見ての反応だ。
俺はショットガンを背負ってAKを持ち、イリナはサブマシンガンを首から提げて、グレネードランチャーを脇に抱えている。
腹を括っても、シュールすぎるものを目にしたら人間誰でもこうなるのだろう。
「どうせ、あのおいちゃんの奢りだ。派手に行こう」
俺が用意してあった鞄に、銃器と弾を詰めていると。コッポラはボソリと言った。
「あの人、もうクビじゃなくて、首を括ることになるな」
彼は哀れんでいるようだったが、俺は日本語で。
「自業自得だ」
と言った。
外では、ナザロフが笑顔で防弾ベストを持って待っていた。その隣では、沿岸警備隊の男が茫然自失といった顔で立っている。
「ここの装備品倉庫からパクってきました」
よく見ると、そのベストの背中と胸のところに、何かを引き剥がしたような痕がある。
「沿岸警備隊」と刺繍されたワッペンでも貼ってあったのだろう。そのままでは盗んだことが丸分かりなので、ワッペンを引っ剥がしたに違いない。
俺とイリナはナザロフからそれを受け取り、早速身に着けた。サイズは合っている。
「似合ってますね」
世辞か本音かは分からなかったが、コッポラは俺達の格好を褒めた。
俺は適当に返し、イリナはファッションモデルよろしく、その場で一回転してみせる。
そんなやり取りをしてから、ベストを鞄の中へ突っ込んだ。
これで、準備は整った。
持つ物は持ったし、伝えておくべきことも伝えた。もう、この地でやり残したことはない。
「……じゃあ、行くか」
俺の言葉にイリナが頷く。
ここで、ナザロフとコッポラ、ついでに男ともお別れだ。
二人には鉄火場に立つ以外に、やってほしいことがあるからだ。
「……また、お別れっすね」
ナザロフが寂しそうに言う。思えば、彼にはホノルルに来てから迷惑掛けっぱなしだった。
なのに、こうして別れを惜しんでくれている。それがとても嬉しかった。
「……今生の別れじゃないんだ。また会えるさ」
「今度は夏に、エレナちゃんを連れて、三人で遊びに行くからさ。待っててよ」
俺とイリナはそれぞれ言葉を掛け、別れのハグをする。
それが終わってから、コッポラの方を向く。
「コッポラ、世話になったな」
最初は彼を舐めていたが、彼なりの正義に触れたり、エレナのことで色々と骨を折ってもらい、認識を改めた。
立派なFBI捜査官だ。
「なに、このくらい」
頭を搔きながら、コッポラは照れる。俺の作戦だと一番の貧乏くじを引くことになっているのに、文句を口にしない。
「……後を頼んだ」
「任せてください」
コッポラは力強く頷いた。
「こっちはこっちで頑張りますから、お二人は、エレナちゃんを迎えに行ってあげてください」
彼のその言葉に背中を押されるように、俺達は空港へと向かった。
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