戦う理由

タヌキ

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戦闘の中

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 ウェイターは胸と喉に弾を受け、糸が切れた操り人形の如く崩れ落ちた。
 床にジワリと広がっていく鮮血の赤。唐突に現れた死を前にして、子供達は叫ぶでもなく呆然としているだけだった。
 俺達も「ああ……死んだな」と特に感慨も無く思うだけで、感情の無い目で死体を見下ろすだけだ。
「……どうするか」
 俺はウェイターの死体からMP5Kを取り、マガジンの残弾を確認する。当然、この銃からは一発も撃っていないので弾はフル装填されていた。
「……どうするか、な」
 銃声を派手に響かせたからには、今頃ウェイター軍団がここに駆け付けているに違いない。俺達に残された道は少なく、選択するべき道は一つしかない。
 行き当たりばったりもここに極まれりだが、ここでにっちもさっちもいかなくなってた状態よりかは幾分かマシだ。本当にとんでもない事に興味本位で首を突っ込んでしまった。
「……操舵室に行こう」
 俺は顔を上げ、表情を引き締める。
「場所は?」
「多分、一番上の一番前だ。船を見て回った時に、それらしい場所にを見た」
「よし」
 イリナがその目に闘志を燃やす。
「子供達は?」
「連れて行こう。ごたごたやっている間に、殺されでもして証拠隠滅されたら最悪だからな」
「異議なし」
 俺達は改めて、檻の中の少女を見た。
ven conmigo si no quieres morir死にたくなければ、俺達について来い
 大人顔負けの眼力を向けながら、少女は何度も頷く。
dile a otros niños他の子供にも伝えろ
「……Lo entiendes分かった
 少女は身振り手振りを交えて、縮こまっている他の子供に俺達について行く事を教える。その間に、俺とマリアは装備を整えた。イリナも部屋の隅にあったロッカーに仕舞われていたMP5Kを持ち、同じくロッカーにあったグロックを俺へ寄こしてくる。
 コッキングを済ませ檻を開けようとイリナが近づくと、ウェイターが入って来た方からドタドタと音が聞こえだした。
「……来たか」
 安全装置を確認し、引き金に指を掛ける。
「子供は任せた!」
「了解!」
 イリナの返事の最後を掻き消す様に、扉が開け放たれた。俺はそこに鉛弾をぶち込んだ。三発分、リズミカルに引き金を引く。
 初撃で一人が死に、もう一人が怪我を負う。それから扉から出てこれない様に適度に弾を撃ち込む。
 今の攻撃を見て分かった。相手は訓練を受けただけの実戦素人だ。
 実戦を経験していたら、待ち伏せを考慮してもう少し慎重に動いていたはずだ。突入時の動きとしては間違ってはいないのだろうが、実戦においては経験が運命を左右する事が多い。
 もっとも、訓練で基礎的な能力を磨いている事が前提だが。それに、死んでいく仲間を見て学ぶのも、また実戦である。
「子供達を出した!」
 イリナが叫ぶ。銃を持つ手をそのままにして後ろを向き、彼女たちの様子を確認する。
 二十人の子供達を背にして、イリナは真剣な表情で軽く銃を構えていた。子供達の方も慌てず騒がず、彼らなりになんとしても生き残ろうとする意志が垣間見える。
「走れ! 俺が殿になる!」
 顔を前に向け直しながら、銃声に負けじと俺も叫んだ。背後で何人もの人間が走り去る気配を感じつつ、俺は銃の残弾を気にしだす。
(そろそろ逃げるか……)
 そう思っていると。
¡Tío!おじさん!
 背後から少女の叫ぶ声がした。もう一度振り向けば、例の浅黒い肌を持つ少女が扉の所に立っていた。
「っ!」
 俺はMP5Kを弾切れまで撃ってから放棄し、グロックに持ち変え少女の元へ走った。
 射撃が途切れた事によってウェイター軍団が身体を出し、ついさっきの俺と同じ様にMP5Kを撃ち始める。俺はそれに、銃だけを後ろに向けてやたらめったらに撃つ事で牽制する。
 扉の所で少女の手を掴み、そのまま引っ張って階段を駆けあがった。最初のカードキーの扉の所まで戻ると、イリナが待ってくれていて、俺と少女が出てきたのを見ると彼女は扉を閉める。
「これで少し、時間は稼げるでしょ」
「……行こう」
 息もロクに整えないまま、俺達は再び走り出した。
「階段を使って上に行くんだ!」
 指示を先頭のイリナに向かって伝えながら、俺は走った。身体が悲鳴を挙げているのがよく分かる。
 脚は重いし、肺は酸素を取り込もうと必死に膨らんだり萎んだりを繰り返し、心臓もこのまま破裂してしまうのではないかと思うくらいバクバクしているし、汗も滝のように流れ出ている。
 下手すれば死んでしまう。今の俺を第三者が見たら、そんな感想を抱くかもしれない。
 けれど、俺自身からすればこれ以上ない程気分が良かった。この苦しみが、何とも言えない感情を掻き立てているのだ。
 これまで何しても手に入れられなかった高揚感が、再び俺の胸に舞い戻ってきた。
 ただ戦う事に興奮しているんじゃない。何かを守る為に戦う自分に興奮しているのだ。すっかり衰えたと思っていた感情が、俺の胸を燃やしている。
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