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陽動役と襲撃役を分けて事を実行することにした。陽動役は俺で、襲撃役はイリナ。適材適所ってヤツだ。
エレベーターを出てすぐ標的が歩いているのを見つけた。例の特徴があるウェイターで、小走り気味に扉の方へ向かっている。
イリナと目を合わせる。俺の意図はすぐに伝わったようで、ニヤリと笑って彼の後ろに回る様に走り出した。
彼の後を追い、声を掛ける。
「Puis-je avoir une minutes」
「え?」
突然のフランス語に、ウェイターは一瞬だけ硬直してしまう。……それが命取りだとも知らずに。
その時、後ろから迫っていたイリナの腕が彼の首に巻き付いた。彼は慌てて首に絡みつく腕を解こうとするが、その腕はものの数秒で力無く垂れ下がった。落ちたのだ。
頸動脈を圧迫された事で頭に血が回らなくなり、脳が少ない酸素で生命維持をしようとして意識を失う。
ウェイターが落ちた事を確認したイリナは、首から腕を解いた。床に倒れたウェイターの身体を二人して引きずり、専用エリアまで運ぶ。
「お前上半身。俺下半身」
「了解」
ポケットを漁ろうとジャケットの裾を捲った途端、とんでもない物が目に飛び込んできた。それは俺だけに見える幻ではないようで、イリナもそれに視線を注いでいた。
ホルスターに収められた拳銃。俺は銃をグリップを握り、そのまま引き抜く。
現れたのはグロック19。オーストリア製のグロック17のコンパクトモデルだ。マガジンリリースボタンを押し、中のマガジンを出す。
重さからして、十五発の九ミリパラベラム弾が装填出来るマガジンには弾がフル装填されているようだ。
「……いよいよ、きな臭くなってきたな」
マガジンを再び銃に挿し込み、スライドを引く。確かな手応えを感じると同時に、金属が擦れ合うメカニカルな音が静かな通路内に響いた。
「こんなもん持ってるなんて、少なくともカタギじゃない」
「同感。……でも変ね。昨日とか見て回った時、銃持ってたら気が付いたはずだけど」
何人ものウェイターを見てきたが、その中の誰も銃を持っている気配も様子も無かった。なのに何故、今は持っているのか。
絞め落とされたウェイターは、このエリアに向かっていた。状況証拠から鑑みるに、答えはカードキーの扉の先に隠されているとみていいだろう。
「……どうやら、俺達以外にもマトモじゃない人間がいるみたいだ」
「だね」
罪悪感と呼ばれる感情が霧散していく。
「グロック、お前使うか?」
「いい。亮平が使ってよ」
「じゃあ遠慮なく」
グロックは初めて使うが、要領は他の拳銃と同じだろう。
壁に向かって銃口を向け勘を取り戻していると、イリナがウェイターの胸ポケットからカードキーを、ベルトにあったマガジンポーチから予備マガジンを見つけ、マガジンのほうを俺に寄こした。
予備マガジンは二つ。弾は今銃にあるのを含め、四十五発。
何が待ち受けているか分からないし、弾も少ないが、贅沢は言えない。
「……行くか」
「ええ」
予備マガジンをベルトに挟み、固定する。これで態勢は整った。
心臓が力強く脈動を始め、身体の芯が熱を帯びだす。
銃を手にすると、いよいよ本当に昔に戻ったみたいだ。しかし、俺が今いるのは中東の砂漠でも、東欧の市街地でもない。新たな戦場だった。
おまけに、戦う理由もあやふやだ。
砂漠では反政府で野蛮な過激派を撃滅する為。東欧では超大国の大義無き侵略から属国の自主独立を守る為。
それぞれに戦う理由、大義名分があった。
だが、今の俺にはその理由がほぼ無い。この船で何が行われているかを知りたいという、大義名分にしては弱い理由から動いている。
イリナにも言ったように、俺達は探偵でもジャーナリストでもない。真実を追い求めるなんて、本気で戦うには弱すぎる理由だ。
理由無き争いほど虚しい物は無いし、目的なき軍隊は自滅するなんて言葉もある。この場合の目的というのは、存在理由と言い換えた方が良いだろう。
何事にも。特に生と死をやり取りする、殺し殺されする戦闘には理由がなければならないのだ。自分が命を懸けるに足る、それ相応の理由が。
「……………………」
俺が顔や声に出さずに考え込んでいる間に、イリナがリーダーにカードキーを通し扉を開けた。
そこには扉のプレート通り、下へと続く階段があった。
誤射などの危険があるので俺が先頭になって、先に進む。ここからは完全アウェーだ。何が来てもおかしくはない。
それこそ、進行方向からマシンガンで撃たれてもなんらおかしくはない。
「さて、何が出るかねぇ」
「亮平。ちょっと、楽しんでない?」
「まさか」
一階分下った先にも、扉があった。鍵は掛かっていない。
「三・二・一のタイミングで行くぞ」
「OK」
「……三・二・一!」
左手でノブを捻り、それを蹴りによって一気に開け放つ。銃を構えながら突入した先は広い空間だった。
そして。
俺達の目の前には檻があった。それも古典的な鉄棒だけで形成された物ではなく、鉄棒と鉄棒の間を目の細かい金網で塞いだ強固な物だ。
しかも、その中には何人もの子供が閉じ込められていた。
エレベーターを出てすぐ標的が歩いているのを見つけた。例の特徴があるウェイターで、小走り気味に扉の方へ向かっている。
イリナと目を合わせる。俺の意図はすぐに伝わったようで、ニヤリと笑って彼の後ろに回る様に走り出した。
彼の後を追い、声を掛ける。
「Puis-je avoir une minutes」
「え?」
突然のフランス語に、ウェイターは一瞬だけ硬直してしまう。……それが命取りだとも知らずに。
その時、後ろから迫っていたイリナの腕が彼の首に巻き付いた。彼は慌てて首に絡みつく腕を解こうとするが、その腕はものの数秒で力無く垂れ下がった。落ちたのだ。
頸動脈を圧迫された事で頭に血が回らなくなり、脳が少ない酸素で生命維持をしようとして意識を失う。
ウェイターが落ちた事を確認したイリナは、首から腕を解いた。床に倒れたウェイターの身体を二人して引きずり、専用エリアまで運ぶ。
「お前上半身。俺下半身」
「了解」
ポケットを漁ろうとジャケットの裾を捲った途端、とんでもない物が目に飛び込んできた。それは俺だけに見える幻ではないようで、イリナもそれに視線を注いでいた。
ホルスターに収められた拳銃。俺は銃をグリップを握り、そのまま引き抜く。
現れたのはグロック19。オーストリア製のグロック17のコンパクトモデルだ。マガジンリリースボタンを押し、中のマガジンを出す。
重さからして、十五発の九ミリパラベラム弾が装填出来るマガジンには弾がフル装填されているようだ。
「……いよいよ、きな臭くなってきたな」
マガジンを再び銃に挿し込み、スライドを引く。確かな手応えを感じると同時に、金属が擦れ合うメカニカルな音が静かな通路内に響いた。
「こんなもん持ってるなんて、少なくともカタギじゃない」
「同感。……でも変ね。昨日とか見て回った時、銃持ってたら気が付いたはずだけど」
何人ものウェイターを見てきたが、その中の誰も銃を持っている気配も様子も無かった。なのに何故、今は持っているのか。
絞め落とされたウェイターは、このエリアに向かっていた。状況証拠から鑑みるに、答えはカードキーの扉の先に隠されているとみていいだろう。
「……どうやら、俺達以外にもマトモじゃない人間がいるみたいだ」
「だね」
罪悪感と呼ばれる感情が霧散していく。
「グロック、お前使うか?」
「いい。亮平が使ってよ」
「じゃあ遠慮なく」
グロックは初めて使うが、要領は他の拳銃と同じだろう。
壁に向かって銃口を向け勘を取り戻していると、イリナがウェイターの胸ポケットからカードキーを、ベルトにあったマガジンポーチから予備マガジンを見つけ、マガジンのほうを俺に寄こした。
予備マガジンは二つ。弾は今銃にあるのを含め、四十五発。
何が待ち受けているか分からないし、弾も少ないが、贅沢は言えない。
「……行くか」
「ええ」
予備マガジンをベルトに挟み、固定する。これで態勢は整った。
心臓が力強く脈動を始め、身体の芯が熱を帯びだす。
銃を手にすると、いよいよ本当に昔に戻ったみたいだ。しかし、俺が今いるのは中東の砂漠でも、東欧の市街地でもない。新たな戦場だった。
おまけに、戦う理由もあやふやだ。
砂漠では反政府で野蛮な過激派を撃滅する為。東欧では超大国の大義無き侵略から属国の自主独立を守る為。
それぞれに戦う理由、大義名分があった。
だが、今の俺にはその理由がほぼ無い。この船で何が行われているかを知りたいという、大義名分にしては弱い理由から動いている。
イリナにも言ったように、俺達は探偵でもジャーナリストでもない。真実を追い求めるなんて、本気で戦うには弱すぎる理由だ。
理由無き争いほど虚しい物は無いし、目的なき軍隊は自滅するなんて言葉もある。この場合の目的というのは、存在理由と言い換えた方が良いだろう。
何事にも。特に生と死をやり取りする、殺し殺されする戦闘には理由がなければならないのだ。自分が命を懸けるに足る、それ相応の理由が。
「……………………」
俺が顔や声に出さずに考え込んでいる間に、イリナがリーダーにカードキーを通し扉を開けた。
そこには扉のプレート通り、下へと続く階段があった。
誤射などの危険があるので俺が先頭になって、先に進む。ここからは完全アウェーだ。何が来てもおかしくはない。
それこそ、進行方向からマシンガンで撃たれてもなんらおかしくはない。
「さて、何が出るかねぇ」
「亮平。ちょっと、楽しんでない?」
「まさか」
一階分下った先にも、扉があった。鍵は掛かっていない。
「三・二・一のタイミングで行くぞ」
「OK」
「……三・二・一!」
左手でノブを捻り、それを蹴りによって一気に開け放つ。銃を構えながら突入した先は広い空間だった。
そして。
俺達の目の前には檻があった。それも古典的な鉄棒だけで形成された物ではなく、鉄棒と鉄棒の間を目の細かい金網で塞いだ強固な物だ。
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