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決断の中
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一度仕切り直す為に、酒をスコッチに変える。話題もカードキーの扉をどう突破するかに変える。
出来るなら乱暴狼藉は働かない方向で行きたい。何かやってるの何かの部分が分からないのに、下手な事はしたくない。目覚めが悪い事もだ。
早速運ばれてきたスコッチを舐めつつ、俺は口火を切った。
「さて、どうするね」
「私達に出来る方法としては、二つに一つ。盗むか壊すか」
「……一応、それ以外にも方法はあるっちゃあるんだよな」
「例えば?」
「誰かがカードキーの扉開けたら、閉まり切る前に押し入る」
「強盗の手法ね」
「うるせぇ。……ただまぁ、人が来るのを待たないといけないからな。そこら辺が欠点なのと、それなら盗むのと大差ないってのがな」
「そうよねぇ……」
イリナもそう返して考え込む。俺も腕を組んで唸る。そうしながら図を眺めていると、ある考えが浮かんできた。
押してダメなら引いてみろ。
何も、あの扉だけにこだわる必要は無いのだ。あのカードキーの扉の先。その目星を付けたのだから、まずはそこに行ってからでも遅くはないだろう。
「……行ってみるか」
俺の呟きに疑問符を浮かべるイリナへ思い浮かんだことを説明すると、即断即決と言わんばかりに彼女はグラスのスコッチを一気飲みし、無言で俺の手を引いていく。
その目は爛々としており、俺はグラスに残った酒を急いで飲み干してバーを出て行く羽目になった。アルコールが容赦なく喉を焼く。
「酔ってんのか?」
むせそうになりながら、イリナをジト目で見る。
「まさか。ギンギンよ」
エレベーターに乗り、先程までウロチョロしていたフロアの一階下のフロアで降りる。案内図を元にあの空白の方へ進んで行く。
客室が並ぶエリアの先。そこにあったのは何の変哲もない壁だった。扉も何も無い。試しに回り込んでみたが、反対側にも扉は無かった。
更に試しで壁を叩いてみたが、軽い音は一切しない。逆に重い音がする。結果としては、この船が如何に頑丈に作られているかを改めて思い知らされただけだった。
たまたま通りかかった客に変な目で見られながら、その場から立ち去る。傍目から見れば、俺はなにも無い壁を叩いて回る変人でしかないからだ。
「……さて、これからどうするね」
エレベーターホールまで戻り、ソファーに腰掛ける。柔らかい背もたれに身を預け、イリナを見上げた。
「劇場の方に行ってみるわ」
「それもいいが、望薄と思うぞ」
「どうしてよ」
「昨日、船の中を見て回ったんだがな……。劇場の周りには、出演者控室や楽屋や倉庫がまとめられていた。図にも用途不明の空白は無かったし、さっきの壁より望みがない」
「………………」
イリナはムスッとした顔をしたが、自分の中でも納得がいったのか特に反論はしなかった。
「……さて、これからどうするね」
俺はさっき口にした言葉と一言一句同じ言葉を口にした。
「俺達に残されてんのは、二つ……いや、三つか」
「三つ?」
「カードキーを盗むか、扉を壊すか……見た物を忘れ、知らんぷりするか」
「………………」
「まぁ、要するに。回れ右するなら今の内って事だ」
「回れ右って……」
「考えてみろよ。そもそも、俺達はジャーナリストでも探偵でも正義の味方でもない。興味本位で嗅ぎまわっている一般人だ」
違うか? とイリナに向かって目で語りかける。流石のイリナもそこまで図々しくはないようで、俺の言葉に否定はしなかった。
「本来なら、ここまで踏み込む権利も義務もない。更に言えば、こっから先に踏み込むには、どう足掻いても法を犯す。それも、誤魔化すのが難しいくらいのな」
不法侵入を既にやらかしているとはいえ、その時を誰にも見つけられていないので動かぬ証拠でも出されない限り、シラを切ればある程度は誤魔化せる。
だが、扉を突破するには傷害か器物破損しか方法が無い。しかも、そのどちらも被害者と壊した扉という証拠を残してしまう。バレなければどうって事ないが、バレた時が一番マズイだろう。
日本での安寧を失う可能性が高い。
「……亮平。止める気なの?」
「俺じゃなくて、お前はどうなんだ? イリナ」
「私は別に。むしろ、どんとこいって感じ」
彼女の表情からも、その言葉が痩せ我慢とかそういうのではなく本気なのが伺える。
「そうか」
「……で、亮平は?」
「こんな質問しておいて、俺だけ抜けたはないだろ」
俺がそう返すと、イリナは一瞬だけ目を見開いた後、歯を見せつける形で笑った。
「そうこなくっちゃ」
彼女に投げ返す様にして、俺も笑う。
「いつやる?」
「すぐだ。……一晩置いたら、考えが変わっちまいそうだし」
「それは困っちゃうね。じゃあ行こうすぐ行こう」
中学生のガキみたいなテンションでイリナは言う。
「……よっこいしょ」
それに対して、俺は立ち上がる際に爺臭い事をやってしまった。思わず苦笑するがすぐに取り直し、イリナとどうウェイターを襲うかを考える。
なるべく顔を見られない様にする方法は何かと、案を出し合う。
こんな風な、行動の合間でする作戦会議というのも、久し振りだ。なんだか、昔に戻った気がした。
出来るなら乱暴狼藉は働かない方向で行きたい。何かやってるの何かの部分が分からないのに、下手な事はしたくない。目覚めが悪い事もだ。
早速運ばれてきたスコッチを舐めつつ、俺は口火を切った。
「さて、どうするね」
「私達に出来る方法としては、二つに一つ。盗むか壊すか」
「……一応、それ以外にも方法はあるっちゃあるんだよな」
「例えば?」
「誰かがカードキーの扉開けたら、閉まり切る前に押し入る」
「強盗の手法ね」
「うるせぇ。……ただまぁ、人が来るのを待たないといけないからな。そこら辺が欠点なのと、それなら盗むのと大差ないってのがな」
「そうよねぇ……」
イリナもそう返して考え込む。俺も腕を組んで唸る。そうしながら図を眺めていると、ある考えが浮かんできた。
押してダメなら引いてみろ。
何も、あの扉だけにこだわる必要は無いのだ。あのカードキーの扉の先。その目星を付けたのだから、まずはそこに行ってからでも遅くはないだろう。
「……行ってみるか」
俺の呟きに疑問符を浮かべるイリナへ思い浮かんだことを説明すると、即断即決と言わんばかりに彼女はグラスのスコッチを一気飲みし、無言で俺の手を引いていく。
その目は爛々としており、俺はグラスに残った酒を急いで飲み干してバーを出て行く羽目になった。アルコールが容赦なく喉を焼く。
「酔ってんのか?」
むせそうになりながら、イリナをジト目で見る。
「まさか。ギンギンよ」
エレベーターに乗り、先程までウロチョロしていたフロアの一階下のフロアで降りる。案内図を元にあの空白の方へ進んで行く。
客室が並ぶエリアの先。そこにあったのは何の変哲もない壁だった。扉も何も無い。試しに回り込んでみたが、反対側にも扉は無かった。
更に試しで壁を叩いてみたが、軽い音は一切しない。逆に重い音がする。結果としては、この船が如何に頑丈に作られているかを改めて思い知らされただけだった。
たまたま通りかかった客に変な目で見られながら、その場から立ち去る。傍目から見れば、俺はなにも無い壁を叩いて回る変人でしかないからだ。
「……さて、これからどうするね」
エレベーターホールまで戻り、ソファーに腰掛ける。柔らかい背もたれに身を預け、イリナを見上げた。
「劇場の方に行ってみるわ」
「それもいいが、望薄と思うぞ」
「どうしてよ」
「昨日、船の中を見て回ったんだがな……。劇場の周りには、出演者控室や楽屋や倉庫がまとめられていた。図にも用途不明の空白は無かったし、さっきの壁より望みがない」
「………………」
イリナはムスッとした顔をしたが、自分の中でも納得がいったのか特に反論はしなかった。
「……さて、これからどうするね」
俺はさっき口にした言葉と一言一句同じ言葉を口にした。
「俺達に残されてんのは、二つ……いや、三つか」
「三つ?」
「カードキーを盗むか、扉を壊すか……見た物を忘れ、知らんぷりするか」
「………………」
「まぁ、要するに。回れ右するなら今の内って事だ」
「回れ右って……」
「考えてみろよ。そもそも、俺達はジャーナリストでも探偵でも正義の味方でもない。興味本位で嗅ぎまわっている一般人だ」
違うか? とイリナに向かって目で語りかける。流石のイリナもそこまで図々しくはないようで、俺の言葉に否定はしなかった。
「本来なら、ここまで踏み込む権利も義務もない。更に言えば、こっから先に踏み込むには、どう足掻いても法を犯す。それも、誤魔化すのが難しいくらいのな」
不法侵入を既にやらかしているとはいえ、その時を誰にも見つけられていないので動かぬ証拠でも出されない限り、シラを切ればある程度は誤魔化せる。
だが、扉を突破するには傷害か器物破損しか方法が無い。しかも、そのどちらも被害者と壊した扉という証拠を残してしまう。バレなければどうって事ないが、バレた時が一番マズイだろう。
日本での安寧を失う可能性が高い。
「……亮平。止める気なの?」
「俺じゃなくて、お前はどうなんだ? イリナ」
「私は別に。むしろ、どんとこいって感じ」
彼女の表情からも、その言葉が痩せ我慢とかそういうのではなく本気なのが伺える。
「そうか」
「……で、亮平は?」
「こんな質問しておいて、俺だけ抜けたはないだろ」
俺がそう返すと、イリナは一瞬だけ目を見開いた後、歯を見せつける形で笑った。
「そうこなくっちゃ」
彼女に投げ返す様にして、俺も笑う。
「いつやる?」
「すぐだ。……一晩置いたら、考えが変わっちまいそうだし」
「それは困っちゃうね。じゃあ行こうすぐ行こう」
中学生のガキみたいなテンションでイリナは言う。
「……よっこいしょ」
それに対して、俺は立ち上がる際に爺臭い事をやってしまった。思わず苦笑するがすぐに取り直し、イリナとどうウェイターを襲うかを考える。
なるべく顔を見られない様にする方法は何かと、案を出し合う。
こんな風な、行動の合間でする作戦会議というのも、久し振りだ。なんだか、昔に戻った気がした。
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