CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH

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―煽動編―

約束

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 目的駅に電車が着くと、ミィコは瞑っていた目を開け、何も言わずに僕を引っ張って電車を降りる。そのまま、駅を出る。
 そして、何も言わずに僕を引っ張って歩き始める。
「ミィコ――」
 僕が口を開くと、ミィコが僕の言葉を遮る。
「どうして、ミコは潜入メンバーに加えてもらえなかったのでしょうか……ミコも、サトリたちの力になりたかったんです。確かに、ミコの能力、普通に使えるようなものではないのかもしれません……でも、やっぱり、ミコも一緒に、行きたいです……」
 ミィコは、ずっと悩んでいたのかもしれない。僕は、なんて声をかけてあげればいいのだろう? ミィコが足手まといだとは、僕は思わない。遊園地では、まあ、連れて行かれそうになったとはいえ、幾何学的楽園ジオメトリック・エデンをミィコなしでは攻略できなかった。ミィコの鋭い観察眼は、潜入作戦できっと役に立つ、と思う。
「あのさ、ミィコ、明日、潜入前に三ケ田さんに相談してみるよ! ミィコも一緒に潜入メンバーに加えてもらえないかって」
 これでミィコに、もしものことでもあれば、すべて僕の責任だ。だけど、僕は、僕の能力を信じる。僕は、僕の仲間を信じる。そして、ミィコを信じている。
「本当ですか、サトリ!? ありがとうございます! サトリ、大好きです!」
 ミィコは、そう言って大喜びしている。まさかの大好き発言だ。うん、これはこれで悪い気はしない。
 
 ――帰り道、ミィコは上機嫌で、鼻歌交じりにスキップしながら家路をたどる。
 ミィコの住居は――タワーマンション……そういえば、この周辺は高級住宅街で、高級マンションが建ち並ぶエリアだったな。
「ミィコの家、お金持ちなんだね……」
 僕は呟く。
「そうかもしれません。でも、ミコの親は、いつも遅くまで仕事をしていて深夜にならないと帰ってこないので――もっと、一緒にいてほしいと思うのですけどね……」
 ミィコは鍵っ子なのだろう。きっとミィコは、親に心配かけまいと、一生懸命背伸びして頑張っているのだろう。
「ミィコ、無理しなくても、いいからね」
 僕はそう言って、ミィコをぎゅっと抱きしめた。
「サトリ、ありがとうございます――も、もう、いいです! 早くミコを離さないとアイリとメイさんに言いつけますよ!」
「はい、はい!」
 僕はミィコに言われてさっと離れた。ミィコは照れていたが、嬉しそうにもしていた。
 そんなミィコと別れの挨拶をして、僕は帰路についた。今日も、色々なことがあったけれど、みんなとの絆が、より一層深まった気がした――

 ――自宅。
 帰宅した僕は、寝る準備をした後に、リビングでテレビを見ながら家族とくつろいでいた。
 夜のニュースでは、やはり異能超人関連の話題が多い。遊園地の一件は特に話題にはなっていないようだが、周辺地域で獣人化してしまった異能超人がたびたび目撃されているようだ。おそらく、目撃されている異能超人の中に、黄泉比良坂の信者も少なくないのだろう。
 それでも、大した被害もなく、目撃談だけで済んでいるというのは、ある意味、奇跡的だと思う。元日では、多少異能超人が暴れていたようだが、次の日からは、そういったニュースがまったくないのは異能超人対策課のおかげなのだろうか? それとも、異能超人が信者となって、黄泉比良坂で管理されているから?
「なあ、さとり。父さん、手が、熊の手になるんだが、これ、今話題の異能超人というやつだよな、きっと」
 父親が、テレビを見ながらさらりと謎の発言をしてきた。
「いや、それ――間違いないだろ……」
「だよなぁ……まあ、他人に危害を加えるようなことはないけど、突然変わったりしたら驚かせちゃうだろうなぁ」
 父親は呑気に自分の手を見ながらそう僕に呟いている。母親が横で、父親と僕を見ながら『ふふふ』と笑っている。母親も何らかの能力を持っていそうだけど、能力に目覚めない方が、もしかしたらいいのかもしれない……。
 こんな風に、キューブの力を使って、人々のゲノムを改ざんした海風博士、いくらこれが過失だとしても、許されることではないような気もするが……藍里の気持ちを考えると海風博士を責めていいものかと悩む。
 ――そして、海風博士に対する、ずっと消えない疑念……海風博士は、故意に、この事態を引き起こしたのではないのだろうか、という考えが、ずっと僕の頭から離れない。

『――行方不明の舞岡 伊織さんの情報をお持ちの方は、こちらまでご連絡ください。引き続き――』
 テレビからは舞岡 伊織の捜索に関する情報が流れている。イオ――彼女は間違いなく、舞岡 伊織だった。白夜が言っていた『次に余計なことをしたら』というのは、僕がイオの目撃情報を提供したりするから? さすがの僕も、そんなことはしないと思う……となると、今後、彼らの不利益になり得ることを僕がしでかすとでもいうのか? 彼らを敵に回したくはないな……。
 なんだか、問題は山積みのような気がする。とにかく今は、目の前の問題にだけ集中するんだ。
 明日の潜入作戦に備えて、もう寝ることにしよう――
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