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―楽園編―
ガンスリンガーズ
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しかし、ミィコは首の吹き飛んだ海竜を指さし――
「いいえ、サトリ! まだです!」
ミィコの声をかき消す大きな音とともに、水面を荒げてもう一方の首が海中から出現し、撃ちぬいた方の頭も再生し始めた!
この海竜は、二つの頭を持つ、双頭の竜だったのだ。
「これは、もしや!?」
僕は目を疑った。
「『ダブルヘッドシーサーペント』ですね!」
藍里はいつも通り、見たままの名前を勝手につけていた。
「実はこのモンスター、『シーサーペント』のネームドモンスターで、同時に二つの頭を落とさないとすぐに再生してしまうのですが――」
ミィコは衝撃的事実を今更ながら僕に伝えてきた!
「ミィコ、もっと早く教えて!」
「まさか、ここまで回復が早いとは思いもしませんでした……」
ミィコも予想外の展開だったようだ。これは厳しい。
船員たちがカノン砲を撃ち、この海竜を何とか船体に近づかせまいと頑張っている。
僕はミィコを見る。ミィコも僕を見る。ミィコは何か閃いたようだ――
「サトリ、そのまま『シーサーペント』に飛び込んでください! そして、この縄を使って二つの首を一つに縛り、それをサトリが一気に切り落とすのです!」
「ミィコさん、無茶言わないでください」
ミィコは僕に無茶ぶりした後、僕に予備の魔弾銃を手渡そうとしていた藍里のことをじっと見つめた。
「え? なになに? ミコちゃん、どうしたの?」
困惑する藍里――ミィコに続いて僕も藍里の方を見た。
そうか、藍里が僕と同時に海竜のもう一方の頭を撃ちぬけばいいのか!
「アイリがその予備の魔弾銃でもう一方の頭を撃ちぬくのです!」
「え? 私? 無理、無理!」
「藍里ならできる! 大丈夫、問題ない!」
つい勢いで無責任なことを僕は言ってしまった。だが、藍里ならきっとやってくれる。
それに、僕よりも藍里の方がこの銃についての知識がありそうだ。
「アイリ、大丈夫です。この世界にはいわゆる“補正“というものが存在しているのです。信じてください」
「うん、ミコちゃんとさとりくんがそう言うなら……私、やってみます!」
「さすがアイリです! 各自、別々の頭を狙ってください! サトリは右、アイリは左です!」
「了解!」
「はい!」
しかし、僕は、この魔弾銃にルーンを装填する方法を知らなかった!
「ちょっと! ちょっと待って! これ、どうやってリロードするの!?」
肝心なことを知らなかった僕は、慌てて装填方法をミィコに聞く。
「このルーン石をここに――これでロックがかかれば完了です」
ミィコが僕にくっついて丁寧に説明してくれている……ちょっと近い。
「これでいいかな?」
僕はミィコに教えてもらった通りに魔弾銃をリロードする――“ガチャン“という音とともにルーン石のロックがかかり、魔弾銃のリロードが完了した!
「上出来です、サトリ!」
「やりましょう、さとりくん!」
僕も藍里も、準備万端だ!
藍里は魔弾銃を構え、海竜に向ける。
そして、左側の頭に狙いを定めた。
藍里に続き、僕も右側の頭に狙いを定める。
その瞬間、右側の頭が何かを吐き出そうとしている。
“ブレス”――そう、こういうモンスターは決まって、炎、氷、毒、酸といった超危険な吐息攻撃を使ってくるのだ! 迷っている暇はない!
「今です!」
ミィコの掛け声とともに、僕と藍里は同時に引き金を引く――
一瞬、僕の持つ魔弾銃の銃身がぶれるような感覚に陥った――僕の構えが甘かったようだ……しくじった!
耳をつんざく発砲音とともに、僕の魔弾銃から放たれた魔弾が右側の頭をぶち抜いた、ように見えた。
「しくじっ――てない!?」
しかし、僕にそんなことを考えている余裕もなく、ミィコがまた海竜を指さし――
「まだです、サトリ!」
吹き飛んだ右側の頭が見る見るうちに再生されていく――
「ごめんなさい! 外しちゃいました!」
藍里が攻撃を外した? ――違う、右側の吐息攻撃のモーションに気付いた藍里は、機転を利かせ、万が一に備えて僕と同じ頭を狙ったのだ。
右側の頭を貫いたのは、藍里が放った弾丸だ! もし、藍里が左側を狙っていたら、僕たちは今頃――考えただけでも恐ろしい。
藍里に感謝の気持ちを伝えようとしていた僕だが、藍里は僕に『フォローします』と言わんばかりの微笑みを向けてから、何事もなかったかのように魔弾銃をリロードする――その姿を見て、僕は言葉に詰まってしまった。ありがとう、藍里。
そして、僕は確信した――次はやれる! 僕も急いでルーン石を魔弾銃に込めて、リロードを完了する。
「準備完了!」
僕は二人に伝える。
「装填完了です! 次、いけます!」
藍里がなんだか頼もしいし、カッコいい。こういう何にでも前向きな姿勢の藍里は、僕の弱気を打ち消してくれる。
藍里と一緒なら、何でもできる……そう、そんな気にさせてくれる。
そんなことを考えながらも僕は右側の頭に狙いを定めた。
「藍里、この一撃で終わらせよう!」
「はい!」
僕らの息はピッタリだった。
「今です!」
ミィコの掛け声とともに、海竜、いや、『ダブルヘッドシーサーペント』の双頭目掛け、僕と藍里、二人同時に引き金を引く。
独特な発砲音と共に、魔力光が双頭を貫く!
ダブルヘッドシーサーペントの双頭が吹き飛び、首から噴き出した鮮血が辺り一帯の海面を赤く染めていく。
「やったぞ!」
僕は言葉にした。今度こそは間違いない!
ついに、その巨体は崩れ落ち、真っ赤に染まった海面に、ただ浮かぶだけの骸となったのだ――
船員たちはボートを海面に降ろし始めた。数名がボートに乗り込んで、戦利品の回収作業に向かう。
――感無量。
「やりましたね……!」
「さすがアイリです!」
藍里とミィコは、二人でピョンピョンと飛び跳ねながら、その喜びを分かち合っている。
「お疲れ様」
僕は二人を労った。
「サトリもお疲れ様です!」
ミィコ的には『サトリ”も”』ということらしい。ま、まあ、なんとなくそれを否定する気にはなれなかった。
いや、それは考えすぎで、僕の『お疲れ様』に対して『サトリ”も”』と言っただけなのかもしれない。
「さとりくん、私のことを信じてくれて、ありがとう……感謝です」
「そんなこと……ただ、僕は藍里と一緒なら何でもできるんじゃないかなって、そう思っただけだから。ありがとう、藍里」
「え!? そ、そんなことないです! それは褒めすぎです!」
藍里は赤くなって照れている。
「サトリ、それはちょっと……臭いセリフすぎますし……あの、そういうの、やめましょうね」
ミィコは軽蔑の眼差しで僕を見ている――その視線に耐えられない。
「ご、ごめんなさい」
ミィコの視線に耐えられなくなった僕は、本能からミィコに謝っていた。
「でも、サトリ、本音を言うと……実はミコも、そういうセリフをちょっとだけ言われてみたいって、藍里が羨ましいって思いました。本当にちょっとだけですからね。ちょっとだけ」
そんな素直なミィコに驚きつつも、僕はミィコに、どんな言葉を返してあげようか迷っていた――
「ミコちゃん、私もミコちゃんと一緒なら何でもできるって気がするよ?」
だが、藍里に先を越されてしまった。
「そうだね、僕もこの3人でなら、なんだってできる気がする」
僕は心からそう思った。
「なんだかミコ、照れてしまいます。もう、いいですから!」
ミィコは『えへへ』と笑ってから、僕と藍里の持っていた魔弾銃を奪い取り、逃げるようにして船室へと入っていった。
――藍里と二人きりになった。なんだか藍里は僕の顔をじっと見つめている。
藍里は、僕に何か言いたげな感じだ。
「いいえ、サトリ! まだです!」
ミィコの声をかき消す大きな音とともに、水面を荒げてもう一方の首が海中から出現し、撃ちぬいた方の頭も再生し始めた!
この海竜は、二つの頭を持つ、双頭の竜だったのだ。
「これは、もしや!?」
僕は目を疑った。
「『ダブルヘッドシーサーペント』ですね!」
藍里はいつも通り、見たままの名前を勝手につけていた。
「実はこのモンスター、『シーサーペント』のネームドモンスターで、同時に二つの頭を落とさないとすぐに再生してしまうのですが――」
ミィコは衝撃的事実を今更ながら僕に伝えてきた!
「ミィコ、もっと早く教えて!」
「まさか、ここまで回復が早いとは思いもしませんでした……」
ミィコも予想外の展開だったようだ。これは厳しい。
船員たちがカノン砲を撃ち、この海竜を何とか船体に近づかせまいと頑張っている。
僕はミィコを見る。ミィコも僕を見る。ミィコは何か閃いたようだ――
「サトリ、そのまま『シーサーペント』に飛び込んでください! そして、この縄を使って二つの首を一つに縛り、それをサトリが一気に切り落とすのです!」
「ミィコさん、無茶言わないでください」
ミィコは僕に無茶ぶりした後、僕に予備の魔弾銃を手渡そうとしていた藍里のことをじっと見つめた。
「え? なになに? ミコちゃん、どうしたの?」
困惑する藍里――ミィコに続いて僕も藍里の方を見た。
そうか、藍里が僕と同時に海竜のもう一方の頭を撃ちぬけばいいのか!
「アイリがその予備の魔弾銃でもう一方の頭を撃ちぬくのです!」
「え? 私? 無理、無理!」
「藍里ならできる! 大丈夫、問題ない!」
つい勢いで無責任なことを僕は言ってしまった。だが、藍里ならきっとやってくれる。
それに、僕よりも藍里の方がこの銃についての知識がありそうだ。
「アイリ、大丈夫です。この世界にはいわゆる“補正“というものが存在しているのです。信じてください」
「うん、ミコちゃんとさとりくんがそう言うなら……私、やってみます!」
「さすがアイリです! 各自、別々の頭を狙ってください! サトリは右、アイリは左です!」
「了解!」
「はい!」
しかし、僕は、この魔弾銃にルーンを装填する方法を知らなかった!
「ちょっと! ちょっと待って! これ、どうやってリロードするの!?」
肝心なことを知らなかった僕は、慌てて装填方法をミィコに聞く。
「このルーン石をここに――これでロックがかかれば完了です」
ミィコが僕にくっついて丁寧に説明してくれている……ちょっと近い。
「これでいいかな?」
僕はミィコに教えてもらった通りに魔弾銃をリロードする――“ガチャン“という音とともにルーン石のロックがかかり、魔弾銃のリロードが完了した!
「上出来です、サトリ!」
「やりましょう、さとりくん!」
僕も藍里も、準備万端だ!
藍里は魔弾銃を構え、海竜に向ける。
そして、左側の頭に狙いを定めた。
藍里に続き、僕も右側の頭に狙いを定める。
その瞬間、右側の頭が何かを吐き出そうとしている。
“ブレス”――そう、こういうモンスターは決まって、炎、氷、毒、酸といった超危険な吐息攻撃を使ってくるのだ! 迷っている暇はない!
「今です!」
ミィコの掛け声とともに、僕と藍里は同時に引き金を引く――
一瞬、僕の持つ魔弾銃の銃身がぶれるような感覚に陥った――僕の構えが甘かったようだ……しくじった!
耳をつんざく発砲音とともに、僕の魔弾銃から放たれた魔弾が右側の頭をぶち抜いた、ように見えた。
「しくじっ――てない!?」
しかし、僕にそんなことを考えている余裕もなく、ミィコがまた海竜を指さし――
「まだです、サトリ!」
吹き飛んだ右側の頭が見る見るうちに再生されていく――
「ごめんなさい! 外しちゃいました!」
藍里が攻撃を外した? ――違う、右側の吐息攻撃のモーションに気付いた藍里は、機転を利かせ、万が一に備えて僕と同じ頭を狙ったのだ。
右側の頭を貫いたのは、藍里が放った弾丸だ! もし、藍里が左側を狙っていたら、僕たちは今頃――考えただけでも恐ろしい。
藍里に感謝の気持ちを伝えようとしていた僕だが、藍里は僕に『フォローします』と言わんばかりの微笑みを向けてから、何事もなかったかのように魔弾銃をリロードする――その姿を見て、僕は言葉に詰まってしまった。ありがとう、藍里。
そして、僕は確信した――次はやれる! 僕も急いでルーン石を魔弾銃に込めて、リロードを完了する。
「準備完了!」
僕は二人に伝える。
「装填完了です! 次、いけます!」
藍里がなんだか頼もしいし、カッコいい。こういう何にでも前向きな姿勢の藍里は、僕の弱気を打ち消してくれる。
藍里と一緒なら、何でもできる……そう、そんな気にさせてくれる。
そんなことを考えながらも僕は右側の頭に狙いを定めた。
「藍里、この一撃で終わらせよう!」
「はい!」
僕らの息はピッタリだった。
「今です!」
ミィコの掛け声とともに、海竜、いや、『ダブルヘッドシーサーペント』の双頭目掛け、僕と藍里、二人同時に引き金を引く。
独特な発砲音と共に、魔力光が双頭を貫く!
ダブルヘッドシーサーペントの双頭が吹き飛び、首から噴き出した鮮血が辺り一帯の海面を赤く染めていく。
「やったぞ!」
僕は言葉にした。今度こそは間違いない!
ついに、その巨体は崩れ落ち、真っ赤に染まった海面に、ただ浮かぶだけの骸となったのだ――
船員たちはボートを海面に降ろし始めた。数名がボートに乗り込んで、戦利品の回収作業に向かう。
――感無量。
「やりましたね……!」
「さすがアイリです!」
藍里とミィコは、二人でピョンピョンと飛び跳ねながら、その喜びを分かち合っている。
「お疲れ様」
僕は二人を労った。
「サトリもお疲れ様です!」
ミィコ的には『サトリ”も”』ということらしい。ま、まあ、なんとなくそれを否定する気にはなれなかった。
いや、それは考えすぎで、僕の『お疲れ様』に対して『サトリ”も”』と言っただけなのかもしれない。
「さとりくん、私のことを信じてくれて、ありがとう……感謝です」
「そんなこと……ただ、僕は藍里と一緒なら何でもできるんじゃないかなって、そう思っただけだから。ありがとう、藍里」
「え!? そ、そんなことないです! それは褒めすぎです!」
藍里は赤くなって照れている。
「サトリ、それはちょっと……臭いセリフすぎますし……あの、そういうの、やめましょうね」
ミィコは軽蔑の眼差しで僕を見ている――その視線に耐えられない。
「ご、ごめんなさい」
ミィコの視線に耐えられなくなった僕は、本能からミィコに謝っていた。
「でも、サトリ、本音を言うと……実はミコも、そういうセリフをちょっとだけ言われてみたいって、藍里が羨ましいって思いました。本当にちょっとだけですからね。ちょっとだけ」
そんな素直なミィコに驚きつつも、僕はミィコに、どんな言葉を返してあげようか迷っていた――
「ミコちゃん、私もミコちゃんと一緒なら何でもできるって気がするよ?」
だが、藍里に先を越されてしまった。
「そうだね、僕もこの3人でなら、なんだってできる気がする」
僕は心からそう思った。
「なんだかミコ、照れてしまいます。もう、いいですから!」
ミィコは『えへへ』と笑ってから、僕と藍里の持っていた魔弾銃を奪い取り、逃げるようにして船室へと入っていった。
――藍里と二人きりになった。なんだか藍里は僕の顔をじっと見つめている。
藍里は、僕に何か言いたげな感じだ。
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