CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH

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―楽園編―

見た目で判断してはいけない

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『サトリ、落ち着いてください。それも想定済みです! ポーチの中に薄汚れたグローブが入っていませんか? それを装着してください』

 ミィコに言われた通りにポーチの中から薄汚れた革のグローブを取り出した。
『このグローブ、なんだかボロボロだよ』
『それでいいのです。そのグローブ、指先の感覚を鋭くするマジックアイテムらしいです。本来はとても高価な物なのですけど、そのグローブは使い古されてボロボロだったので格安で手に入りました。とっても運が良かったのです』
『マジックアイテムってそんな便利なものが……』
 僕はマジックアイテムの存在に感心した。
『私が見た限り、【感覚が鋭くなるポーションに浸漬させてから特殊な加工を施して作り上げたグローブ】……概ね、そんな感じでした』
『なるほど、ということは、藍里もマジックアイテムを作ろうと思えば作れるわけか』
『多分、無理ですね……特殊な加工を施さなければ効果を維持することができないのです。その特殊な加工はミコちゃんにもよく分からないとか』
『ミコ的には、【簡単に作れちゃったら悔しい】みたいな、そんな感じでユキネの意地悪なところが思いっきり反映されているんだと思います! なので、マジックアイテムの製作には秘伝のレシピとかそういう類のものが必要になっているのかもしれません』
『え、どうにもならないの?』
『はい、今のミコたちにマジックアイテムは作れそうもないです』
『それは残念だ』

『そんなことよりも! サトリ、マジックアイテムを身に付けている時間が長ければ長いほど、その効力が失われていくのです! つまり、今、サトリが身に付けているボロボロのグローブは今にもその効力が失われてしまうかもしれない――そんな、ギリギリの状態なのです』
『うわ、マジか!?』
 その言葉を聞いて僕は焦った。ここでグローブが効力を失ったらこの作戦は間違いなく失敗する。僕は焦りながらも慎重に鍵開け作業を再開した。

 ――カチ……カチ……。
 ここか!? 僅かな変化を感じ取った僕は勝利を確信した。
 宝物庫の扉はガチャリと音を立てる――解錠成功。

『開いた! 開いたよ!』
『さとりくん、やりましたね!』
『サトリ、喜ぶのはまだ早いです。最後の敵はもっと手強いです』
『そうだった……ね』

 僕は宝物庫の内部を慎重に見まわした。高い値が付きそうな金銀財宝が大量に保管されているが、『盗品は処分するルートがないからダメです』とミィコに念を押されている。だからノータッチだ。
 豪華な装飾が施され、竜の刻印が入った宝箱を発見した。この中に『魔剣グラジール』が納められているのだろう――間違いない!
『見つけた……竜の刻印の入った宝箱』

 ――僕は、この神々しささえ感じさせる装飾の入った宝箱の前で物思いにふけた。
 これは――ラストバトルだ。武器庫の扉<ウェポンズゲート>を倒し、宝物庫の扉<トレジャーズゲート>に苦戦しつつも仲間のサポートによって何とか打ち倒し、そして、ラスボスは魔剣の宝箱<ガーディアン・オブ・ザ・グラジール>だ。激しい戦いになるだろう。
 そう、僕たちの戦いはここから始まるのかもしれない――

『サトリ、サトリ? 聞いていますか? 時間が――』
 ミィコの声で現実に引き戻される。そうだった、時間がない。気合を入れよう!
『うおぉぉぉ――』
『サトリ、何ですか急に!?』
『さとりくん、やる気ですね!』
『はい、気合を入れるためのウォークライです』
 僕は念話で気合を入れつつ、魔剣の宝箱らしき箱の解錠にすぐさま取り掛かった。

 ――見える、見えるぞ!
 『ピッキングツール』がグローブを通して僕の指先に伝える『ロック』の鼓動。それはまるで、上質な音楽を奏で、ハードなビートを刻み――そんなことを考えつつ作業をしていると、呆気なく解錠に成功していた。
 あ、あれ……? 拍子抜けした僕は無言のまま宝箱を開けたようとした――

 すると、装着していたグローブがキラキラした塵となって崩れ落ち、その塵は地面に落ちる間もなく消滅した。
 ありがとう、古びたグローブ――

 僕は気を取り直し、箱の中に納められている『禍々しいオーラを帯びた漆黒の剣』に手を伸ばした。
 これが、『魔剣グラジール』なのだろう――そのズッシリと重たいその両手剣を、僕はゆっくりと持ち上げた。
『【魔剣グラジール】を手に入れました』
『さとりくん、ついにやり遂げたのですね!』
『サトリ、よくやりました! 今夜はご馳走です! すぐに脱出してください』
『了解!』

 僕は魔剣を背負って宝物庫の外に出た――
 僕は隠し通路から武器庫へと抜けた――
 武器庫から階段を上がり、広間に――
 そして、広間から中庭へと――抜けられなかった。

『まずい、衛兵がいて中庭に出られそうもない』
 中庭は、アヒルちゃんによって集結した傭兵たちで埋め尽くされていた。
『さとりくん、透明薬の出番ですね! でも、中庭を駆け抜けて、城壁塔を駆け上がって、フックをかけて城壁を下りる……効果時間的に厳しいかもしれません』
『サトリ、透明薬の効果時間は数十秒です。時間内に脱出できなければ、その場で動けなくなるでしょう』
『数十秒……具体的には?』
『おそらく、長くても30秒でしょう』
 ミィコの言葉に僕は息を詰まらせた。つまり、短ければ10秒だったり20秒だったりするかもしれない、ということなのだろう。
『さとりくん、安心してください。短くても20秒は大丈夫なはずです!』
 藍里さん……それ、安心していいものだろうか?
『ここから全力で駆け抜ければ……20秒――なんとかなりそうだ』
『でも、無茶はしないでくださいね……』
『城から脱出できればどんな状態でも回収しに行きますのでご安心ください』
 ミィコ、ちょっと、その言い方……。
『よし、20秒後にまた会おう!』

 ――僕は透明薬の小瓶を飲み干し、一気に駆け出した。

 衛兵の横をすり抜け、広間から中庭に出る。

 5秒――

 中庭から城壁塔に駆け込む。

 10秒――

 城壁塔の螺旋階段を駆け上り、扉を勢いよく開け、フックを準備しつついつでも投げられる体勢で城壁の通路に飛び出る

 20秒――

 城壁塔から通路に出た僕は、目の前にある胸壁(城壁の最上部にある凸凹状の壁)を飛び越えるとともにくるりと向き直る。
 城の外に向かって後ろ向きでその身を投げ出した僕は――落下し始めると同時に、胸壁に向かって構えていたフックを投げる。
 フックが引っかかった反動で、僕は城壁に叩きつけられた。痛みに耐えながらも城壁を必死でロープを掴み、滑り降りる。
 なんとか半分くらいのところまで滑り降りたが――意識が吹っ飛んだ。
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