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―楽園編―
お金は大事
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「あのさ、ミィコ……教会に火をつけたら、罰金で銀貨1枚。それなら、城に忍び込んで財宝をくすねて、運悪く衛兵に捕まったとしたら、僕はどうなるのだろう?」
「サトリ、それを考えるのは精神衛生上よろしくないと思われます」
ミィコさん、それって、つまり……?
「きっと、大丈夫ですよ! ミコちゃんなら、そうならないように作戦を練ってくれるはずです!」
藍里はミィコを信用してそう言っているのだろうけど、逆に、その言い方がミィコにとって重荷になるのではないかとちょっとだけ心配になった。
「そうです、任せてください、サトリ!」
僕の予想とは裏腹に、ミィコにとって、藍里の言葉は重荷になるどころか、ミィコの満ち溢れる自信に磨きをかけてしまったようだ。
ある意味、相性のいい二人のようで安心した。
僕たちは雑談しながら夜道を歩き、酒場を兼ねた宿屋の前まで移動していた。
ここは1階が酒場、2階は宿になっているようだ。構造的にも、この宿屋はファンタジー世界における定番中の定番だ。
建物に入ると、ガラの悪そうな冒険者や労働者で店内は賑わっていた。
そのテーブルの上には、大きな骨付き肉や木彫りのジョッキに色の濃いビールのような液体が注がれている。
おそらく、この飲み物も、定番の酒、エールなのだろう。
「サトリとアイリは、そこの空いているテーブルを確保しておいてください。ミコは部屋を借りて食事の注文をしてきます」
「了解」
僕はミィコに一言そう告げてから、隅の方の空いているテーブルを確保した。
テーブルの上に背の低い蝋燭があり、灯された火が揺らめいている。電気という概念のない世界のため、光源の確保には苦労しているのだろう。
「ミコちゃん……お金は足りているのでしょうか? お買い物したり罰金支払ったり、今は銀貨1枚くらいしか残っていないはず……です。ちょっと、心配です」
藍里は僕にそう話しかけてから、カウンターで交渉中のミィコを見た。
ミィコは淡々とした口調で店主と交渉をしているようだ。ここからではどんな話をしているのかまでは分からない。
「ミィコのことだから心配ない――って言いたいところだけど、心配だね」
「そうですよね、ミコちゃん、背伸びして頑張っている部分があるから……私も、物心ついた頃からお父さんに認められたくて、ずっと背伸びしていたんです。ミコちゃんも、褒めてほしい、認められたい、対等でありたいっていう気持ちが強いのかもしれません、きっと」
ミィコも、小さい頃から誰かに認められたいと背伸びをして頑張っていたのかもしれない。きっと、藍里と同じなのだろう。
承認欲求が満たされなければ、いずれ、自尊心まで失ってしまう……そんなのはよくない。
人は――僕を含め、他人からは知り得ることのできない、苦悩と言う重荷を背負って生きている。
実を言うと、僕も背負った重荷を他人に肩代わりしてもらうことで、ずいぶんと身軽になった経緯がある。
それは、僕がまだ小さい頃のことだ――
幼少期、当時の僕は泣き虫で、同じクラスの園児からよくいじめられていた。
先生も他の園児に軽く怒ったり、僕のことを『泣かないでね~』とあやしてくれたりしたのだが、したたかにもいじめっ子達は陰湿ないじめ方を学び始める。彼らは誰も見ていないところで僕の足を引っかけたり、僕を後ろから押し倒したり、挙句の果てには関係のない園児たちに事実無根な僕の悪口を吹き込んだりと、やりたい放題だった。
そんな僕はいつしか孤立し、先生までもが別の園児から聞いた話を信じるようになっていた。
そんな中、それだけでは飽き足らなかったいじめっ子達は、僕を人気のない場所に呼び出した。
――幼いながらに、僕はその状況を理解していた。
だから、その時、僕は勇気を振り絞ったんだ。『このままではやられる、弱者のままではいられない!』と、僕はいじめっ子のリーダーに殴りかかった。
その拳は相手に直撃し、いじめっ子のリーダーは涙を流しながら『やめて』と懇願し、その場にへたり込んで泣きわめいていた。
そんなリーダーの姿を見た僕は、『残りは4人――いける!』と心躍り、その顔からは笑みがこぼれていたのだと思う。
その瞬間、いじめっ子達は僕を袋叩きにした。手加減もない。
そう、その状況を見て、いじめっ子達は恐怖に陥ったのだ。僕が恐ろしい魔物のようにでも見えたのだろう。
丸まって身を守る僕に対し、複数人から容赦のない蹴り攻撃。
次の瞬間、僕への攻撃が止まったかと思うと、泣き叫ぶ声が一人、二人と増えていく。
僕はその状況を確認するために顔を上げた。すると――僕に手を差し伸べる園児が一人。それが銀太で、いじめっ子達を全員撃退してくれたのだ。
「一人であいつらのボスをやっつけるなんて、お前もなかなかやるな!」
銀太は倒れている僕に手を差し伸べながら、そう言って褒めてくれたのだ。
彼のその言葉のおかげで、今の僕がいる。僕にとって、銀太はヒーローのような存在でもあり、負けたくないライバルでもあり、かけがえのない親友なのだ。
あの時、僕は銀太と出会えたことを本当に感謝している。
だから、銀太が変わってしまっても、僕にとってはかけがえのない親友のまま、なのだ。
それがたとえ、大人たちに理解してもらえないことであっても、銀太という心強い仲間ができたことにより、僕の心は随分と軽くなっていった。
僕の重荷を、銀太が半分背負ってくれたんだ。
余談だが、僕と銀太は、他の園児に怪我をさせたということで、後で大人達にこっぴどく叱られ、二人とも問題児として扱われるようになったのは言うまでもない。
それでも、銀太という味方が出来たのは心強く、銀太となら、どんな苦難だって乗り越えられる、そう思ったのだ。
――人は誰かに認めてもらうことで自信を持てる、その自信が他の誰かを救うこともある。そうして、連鎖する人の心は互いを高め合い、そこに絆が生まれ、一つのコミュニティが出来上がる。
人は、一人では生きられない――
「サトリ、それを考えるのは精神衛生上よろしくないと思われます」
ミィコさん、それって、つまり……?
「きっと、大丈夫ですよ! ミコちゃんなら、そうならないように作戦を練ってくれるはずです!」
藍里はミィコを信用してそう言っているのだろうけど、逆に、その言い方がミィコにとって重荷になるのではないかとちょっとだけ心配になった。
「そうです、任せてください、サトリ!」
僕の予想とは裏腹に、ミィコにとって、藍里の言葉は重荷になるどころか、ミィコの満ち溢れる自信に磨きをかけてしまったようだ。
ある意味、相性のいい二人のようで安心した。
僕たちは雑談しながら夜道を歩き、酒場を兼ねた宿屋の前まで移動していた。
ここは1階が酒場、2階は宿になっているようだ。構造的にも、この宿屋はファンタジー世界における定番中の定番だ。
建物に入ると、ガラの悪そうな冒険者や労働者で店内は賑わっていた。
そのテーブルの上には、大きな骨付き肉や木彫りのジョッキに色の濃いビールのような液体が注がれている。
おそらく、この飲み物も、定番の酒、エールなのだろう。
「サトリとアイリは、そこの空いているテーブルを確保しておいてください。ミコは部屋を借りて食事の注文をしてきます」
「了解」
僕はミィコに一言そう告げてから、隅の方の空いているテーブルを確保した。
テーブルの上に背の低い蝋燭があり、灯された火が揺らめいている。電気という概念のない世界のため、光源の確保には苦労しているのだろう。
「ミコちゃん……お金は足りているのでしょうか? お買い物したり罰金支払ったり、今は銀貨1枚くらいしか残っていないはず……です。ちょっと、心配です」
藍里は僕にそう話しかけてから、カウンターで交渉中のミィコを見た。
ミィコは淡々とした口調で店主と交渉をしているようだ。ここからではどんな話をしているのかまでは分からない。
「ミィコのことだから心配ない――って言いたいところだけど、心配だね」
「そうですよね、ミコちゃん、背伸びして頑張っている部分があるから……私も、物心ついた頃からお父さんに認められたくて、ずっと背伸びしていたんです。ミコちゃんも、褒めてほしい、認められたい、対等でありたいっていう気持ちが強いのかもしれません、きっと」
ミィコも、小さい頃から誰かに認められたいと背伸びをして頑張っていたのかもしれない。きっと、藍里と同じなのだろう。
承認欲求が満たされなければ、いずれ、自尊心まで失ってしまう……そんなのはよくない。
人は――僕を含め、他人からは知り得ることのできない、苦悩と言う重荷を背負って生きている。
実を言うと、僕も背負った重荷を他人に肩代わりしてもらうことで、ずいぶんと身軽になった経緯がある。
それは、僕がまだ小さい頃のことだ――
幼少期、当時の僕は泣き虫で、同じクラスの園児からよくいじめられていた。
先生も他の園児に軽く怒ったり、僕のことを『泣かないでね~』とあやしてくれたりしたのだが、したたかにもいじめっ子達は陰湿ないじめ方を学び始める。彼らは誰も見ていないところで僕の足を引っかけたり、僕を後ろから押し倒したり、挙句の果てには関係のない園児たちに事実無根な僕の悪口を吹き込んだりと、やりたい放題だった。
そんな僕はいつしか孤立し、先生までもが別の園児から聞いた話を信じるようになっていた。
そんな中、それだけでは飽き足らなかったいじめっ子達は、僕を人気のない場所に呼び出した。
――幼いながらに、僕はその状況を理解していた。
だから、その時、僕は勇気を振り絞ったんだ。『このままではやられる、弱者のままではいられない!』と、僕はいじめっ子のリーダーに殴りかかった。
その拳は相手に直撃し、いじめっ子のリーダーは涙を流しながら『やめて』と懇願し、その場にへたり込んで泣きわめいていた。
そんなリーダーの姿を見た僕は、『残りは4人――いける!』と心躍り、その顔からは笑みがこぼれていたのだと思う。
その瞬間、いじめっ子達は僕を袋叩きにした。手加減もない。
そう、その状況を見て、いじめっ子達は恐怖に陥ったのだ。僕が恐ろしい魔物のようにでも見えたのだろう。
丸まって身を守る僕に対し、複数人から容赦のない蹴り攻撃。
次の瞬間、僕への攻撃が止まったかと思うと、泣き叫ぶ声が一人、二人と増えていく。
僕はその状況を確認するために顔を上げた。すると――僕に手を差し伸べる園児が一人。それが銀太で、いじめっ子達を全員撃退してくれたのだ。
「一人であいつらのボスをやっつけるなんて、お前もなかなかやるな!」
銀太は倒れている僕に手を差し伸べながら、そう言って褒めてくれたのだ。
彼のその言葉のおかげで、今の僕がいる。僕にとって、銀太はヒーローのような存在でもあり、負けたくないライバルでもあり、かけがえのない親友なのだ。
あの時、僕は銀太と出会えたことを本当に感謝している。
だから、銀太が変わってしまっても、僕にとってはかけがえのない親友のまま、なのだ。
それがたとえ、大人たちに理解してもらえないことであっても、銀太という心強い仲間ができたことにより、僕の心は随分と軽くなっていった。
僕の重荷を、銀太が半分背負ってくれたんだ。
余談だが、僕と銀太は、他の園児に怪我をさせたということで、後で大人達にこっぴどく叱られ、二人とも問題児として扱われるようになったのは言うまでもない。
それでも、銀太という味方が出来たのは心強く、銀太となら、どんな苦難だって乗り越えられる、そう思ったのだ。
――人は誰かに認めてもらうことで自信を持てる、その自信が他の誰かを救うこともある。そうして、連鎖する人の心は互いを高め合い、そこに絆が生まれ、一つのコミュニティが出来上がる。
人は、一人では生きられない――
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