22 / 97
―邂逅編―
脳内ワールド
しおりを挟む
「巻き込むような形になって本当に申し訳ない。藍里のこと、お願いします」
「はい」
「分かりました」
「任せてください!」
それぞれ、海風博士に返事をした。
「あの、海風博士、最後に一つだけよろしいでしょうか?」
海風博士にそう聞いたのは、雪音さんだ。
「うん?」
「先ほど、貴方は“火星”と仰っていましたけど――」
確かに、海風博士はキューブと火星になんらかの繋がりがありそうなことを呟いていた、ような気も……?
「そうだったかな? ごめん、忘れてしまったよ」
海風博士はおちゃらけた様子で否定した。
「そうですか……ともあれ、今日はありがとうございました」
雪音さんは丁寧にお辞儀をした。
「いや、こちらこそ、ありがとう」
そう言って、海風博士は僕らに優しく微笑みかけた。
――そうして、海風博士はみんなに一礼してその場から立ち去ろうと背を向けた。
すると、藍里が――
「お父さん、私、お父さんが帰ってくるのを、待っているから……」
藍里がそういうと、海風博士は振り向き、にこりと微笑んでからその場を後にした――
「行っちゃったね――」
雪音さんがなんだが寂しそうにそう言った。
藍里も寂しそうな表情をしながら、雪音さんのその言葉に頷いた。
――僕らはそのまま、当てもなく彷徨い、いつしか海の見える公園のベンチに4人並んでただ座っていた。4人とも口を閉ざしたまま。
寒空の下、茶褐色の水面と、肌を刺すような冷たい海風によって、その場の空気は一層どんよりとしたものになっていた。
「未知の技術によって生み出された謎の能力、か。私の能力もキューブみたいなものなのかな……」
場の空気に耐えられなくなった雪音さんがそう呟いた。
「え?」
僕は顔を上げて雪音さんを見た。
「ねぇねぇ、試してみない? 私の能力。幾何学的楽園の力を!」
雪音さんは何を考えているのだろうか? 無暗に能力を使えば、異能超人対策課に目を付けられてしまう。
それどころか、今しがた海風博士と交わしたばかりの約束を反故にする気なのだろうか?
「ユキネ、いったい何を考えているんですか?」
ミィコは、少し強い口調で雪音に聞いた。
「待って待って、私の能力はね、電脳空間のようなものを構築して、人の意識をその世界に接続させることができるのよ。簡単に言えば、そうね……人間の身体から魂を引っ張り出して、それを別の世界――いわば仮想空間に引っ張り出した魂をコネクトさせちゃえるっていう、そういうすごい能力なの! しかも、その世界は私の想像通りに構築されているっていうね! ま、まぁ、その世界のすべてに私が直接関与できるわけじゃないのだけれどもね……」
雪音さんは突拍子もないことを言い出して、最後の方はみんなに聞こえないほど小さな声でモゴモゴと言っていた。
でも、海風博士の話を聞いた今なら、雪音さんが『ミニキューブ』みたいな存在になっていてもなんら不思議はないと思える。
きっと、僕は、この異常ともいえる世界に順応し始めているのだろう。
「ちなみに、雪音さんが構築した世界ってどこに繋がっているんですか? 脳内? 異次元? アカシックレコード?」
僕は雪音さんに疑問を投げかけた。
「うん、その構築された世界はどこに存在しているのかなって私も考えてた。私の脳内はまずあり得ないし、そうすると異次元かしら……? アカシックレコードのキャッシュメモリの中でも、本来使われることのない領域に保存されているのかしら……? アカシックレコードには、あのキューブですら直接的にアクセスすることができなさそうだから、アカシックレコードに私の世界が記録されているのもあり得ないわね」
雪音さんからしても謎の多い世界のようだ。
「それでも、雪音さんが思い通りに世界を構築することができるんですよね?」
僕は続けて聞く。
「えっとね、私の脳内ワールドで妄想炸裂、みたいな世界だと思うでしょ? 私も最初はそんなのを考えていたんだけど、なんだか違うみたい。私の脳がデータベースとなっているのは間違いないのだろうけど――私の価値観や思想、思考がちゃんと反映されつつも、私の想像を遥かに超えて、世界が自動生成されていく……そんな印象。うーん、なんていうか、私はただ、『こんな感じで世界を創ってもらえますか?』ってお願いしているだけの立場なのかも――そう、本当に謎だらけなのよ」
雪音さんも僕と同じで自分の能力がよく分からないようだ。
だから、不安なのかもしれない。そんな風に見えない雪音さんでも、きっと……そうであってほしい。雪音さんが純粋に実験のためだけに僕らを利用しようなどと考えてないことを願った。
「分かりました。試してみましょう。でも、その仮想空間とやらに行くのは僕だけですからね」
「もちろん! 能力者かどうかも定かではない藍里ちゃんには残ってもらうし、ミィコは危険すぎて連れていけないもの」
そうだよな、藍里もミィコちゃんも危ない目にあわせられないもんな――
「ユキネ、私が危険ってどういう意味ですか……」
「え、だって、ミィコは私の仮想空間を滅ぼしてしまいそうだから――」
「断じてないです! ユキネはミコの能力を過大評価しすぎています。そんな、悪の大魔王みたいな能力を持っていたのなら、この世界だってとっくに滅びています!」
「で、でも――」
とんでもない発言をしているミィコに、雪音さんはたじろいでいる。
「いいですか? ユキネ。ミコは、絶対にユキネの仮想空間というのに行きます」
そう、僕は大きな勘違いしていたのだ。危険なのはミィコの能力だったようだ。ミィコのそこまで危険な能力とはいったい――
「と、とにかく、雪音さんの能力はとても興味深いですし、そこで有益な情報を得られる可能性だってあります! 私たちで試してみましょう」
え、『私たち』? 藍里は乗り気だ。もしかして、藍里も一緒に行くつもりなのでは……?
「あの、藍里……まさか、一緒に行くなんて言わないよね……?」
僕は恐る恐る藍里に聞いた。
「もちろん、一緒に行きます! 面白そうとか、そういうのではなくて、単純に、何かの手掛かりが見つかるかもしれないとか、そういうのです!」
藍里は、絶対に雪音さんの仮想空間が面白そうだと認識している。そうに違いない。
「もう、仕方ない。いいよ、みんなで一緒に行こう。4人パーティーだし、冒険にはピッタリな人数よね。さ、場所を変えましょう。精神体の状態は肉体が無防備になってしまうから安全な場所に……」
「え、雪音さん、パーティー? 冒険って何ですか――」
「それは後のお楽しみ! あ、その前に! みんなで連絡先交換しておこうよ!」
僕の質問は軽くスルーされ、雪音さん、藍里、ミィコの3人で連絡先を交換し始めた。渋々と、僕も3人に混ざるような形で連絡先を交換した。
ミィコは僕に対して『どうしてこの人と連絡先を交換しなければいけないの?』と言わんばかりの眼差しを向けているのは言うまでもない。
なんか、つらい――
そうして、連絡先を交換した僕らは、雪音さんに続いて場所を移動し始めた。
「はい」
「分かりました」
「任せてください!」
それぞれ、海風博士に返事をした。
「あの、海風博士、最後に一つだけよろしいでしょうか?」
海風博士にそう聞いたのは、雪音さんだ。
「うん?」
「先ほど、貴方は“火星”と仰っていましたけど――」
確かに、海風博士はキューブと火星になんらかの繋がりがありそうなことを呟いていた、ような気も……?
「そうだったかな? ごめん、忘れてしまったよ」
海風博士はおちゃらけた様子で否定した。
「そうですか……ともあれ、今日はありがとうございました」
雪音さんは丁寧にお辞儀をした。
「いや、こちらこそ、ありがとう」
そう言って、海風博士は僕らに優しく微笑みかけた。
――そうして、海風博士はみんなに一礼してその場から立ち去ろうと背を向けた。
すると、藍里が――
「お父さん、私、お父さんが帰ってくるのを、待っているから……」
藍里がそういうと、海風博士は振り向き、にこりと微笑んでからその場を後にした――
「行っちゃったね――」
雪音さんがなんだが寂しそうにそう言った。
藍里も寂しそうな表情をしながら、雪音さんのその言葉に頷いた。
――僕らはそのまま、当てもなく彷徨い、いつしか海の見える公園のベンチに4人並んでただ座っていた。4人とも口を閉ざしたまま。
寒空の下、茶褐色の水面と、肌を刺すような冷たい海風によって、その場の空気は一層どんよりとしたものになっていた。
「未知の技術によって生み出された謎の能力、か。私の能力もキューブみたいなものなのかな……」
場の空気に耐えられなくなった雪音さんがそう呟いた。
「え?」
僕は顔を上げて雪音さんを見た。
「ねぇねぇ、試してみない? 私の能力。幾何学的楽園の力を!」
雪音さんは何を考えているのだろうか? 無暗に能力を使えば、異能超人対策課に目を付けられてしまう。
それどころか、今しがた海風博士と交わしたばかりの約束を反故にする気なのだろうか?
「ユキネ、いったい何を考えているんですか?」
ミィコは、少し強い口調で雪音に聞いた。
「待って待って、私の能力はね、電脳空間のようなものを構築して、人の意識をその世界に接続させることができるのよ。簡単に言えば、そうね……人間の身体から魂を引っ張り出して、それを別の世界――いわば仮想空間に引っ張り出した魂をコネクトさせちゃえるっていう、そういうすごい能力なの! しかも、その世界は私の想像通りに構築されているっていうね! ま、まぁ、その世界のすべてに私が直接関与できるわけじゃないのだけれどもね……」
雪音さんは突拍子もないことを言い出して、最後の方はみんなに聞こえないほど小さな声でモゴモゴと言っていた。
でも、海風博士の話を聞いた今なら、雪音さんが『ミニキューブ』みたいな存在になっていてもなんら不思議はないと思える。
きっと、僕は、この異常ともいえる世界に順応し始めているのだろう。
「ちなみに、雪音さんが構築した世界ってどこに繋がっているんですか? 脳内? 異次元? アカシックレコード?」
僕は雪音さんに疑問を投げかけた。
「うん、その構築された世界はどこに存在しているのかなって私も考えてた。私の脳内はまずあり得ないし、そうすると異次元かしら……? アカシックレコードのキャッシュメモリの中でも、本来使われることのない領域に保存されているのかしら……? アカシックレコードには、あのキューブですら直接的にアクセスすることができなさそうだから、アカシックレコードに私の世界が記録されているのもあり得ないわね」
雪音さんからしても謎の多い世界のようだ。
「それでも、雪音さんが思い通りに世界を構築することができるんですよね?」
僕は続けて聞く。
「えっとね、私の脳内ワールドで妄想炸裂、みたいな世界だと思うでしょ? 私も最初はそんなのを考えていたんだけど、なんだか違うみたい。私の脳がデータベースとなっているのは間違いないのだろうけど――私の価値観や思想、思考がちゃんと反映されつつも、私の想像を遥かに超えて、世界が自動生成されていく……そんな印象。うーん、なんていうか、私はただ、『こんな感じで世界を創ってもらえますか?』ってお願いしているだけの立場なのかも――そう、本当に謎だらけなのよ」
雪音さんも僕と同じで自分の能力がよく分からないようだ。
だから、不安なのかもしれない。そんな風に見えない雪音さんでも、きっと……そうであってほしい。雪音さんが純粋に実験のためだけに僕らを利用しようなどと考えてないことを願った。
「分かりました。試してみましょう。でも、その仮想空間とやらに行くのは僕だけですからね」
「もちろん! 能力者かどうかも定かではない藍里ちゃんには残ってもらうし、ミィコは危険すぎて連れていけないもの」
そうだよな、藍里もミィコちゃんも危ない目にあわせられないもんな――
「ユキネ、私が危険ってどういう意味ですか……」
「え、だって、ミィコは私の仮想空間を滅ぼしてしまいそうだから――」
「断じてないです! ユキネはミコの能力を過大評価しすぎています。そんな、悪の大魔王みたいな能力を持っていたのなら、この世界だってとっくに滅びています!」
「で、でも――」
とんでもない発言をしているミィコに、雪音さんはたじろいでいる。
「いいですか? ユキネ。ミコは、絶対にユキネの仮想空間というのに行きます」
そう、僕は大きな勘違いしていたのだ。危険なのはミィコの能力だったようだ。ミィコのそこまで危険な能力とはいったい――
「と、とにかく、雪音さんの能力はとても興味深いですし、そこで有益な情報を得られる可能性だってあります! 私たちで試してみましょう」
え、『私たち』? 藍里は乗り気だ。もしかして、藍里も一緒に行くつもりなのでは……?
「あの、藍里……まさか、一緒に行くなんて言わないよね……?」
僕は恐る恐る藍里に聞いた。
「もちろん、一緒に行きます! 面白そうとか、そういうのではなくて、単純に、何かの手掛かりが見つかるかもしれないとか、そういうのです!」
藍里は、絶対に雪音さんの仮想空間が面白そうだと認識している。そうに違いない。
「もう、仕方ない。いいよ、みんなで一緒に行こう。4人パーティーだし、冒険にはピッタリな人数よね。さ、場所を変えましょう。精神体の状態は肉体が無防備になってしまうから安全な場所に……」
「え、雪音さん、パーティー? 冒険って何ですか――」
「それは後のお楽しみ! あ、その前に! みんなで連絡先交換しておこうよ!」
僕の質問は軽くスルーされ、雪音さん、藍里、ミィコの3人で連絡先を交換し始めた。渋々と、僕も3人に混ざるような形で連絡先を交換した。
ミィコは僕に対して『どうしてこの人と連絡先を交換しなければいけないの?』と言わんばかりの眼差しを向けているのは言うまでもない。
なんか、つらい――
そうして、連絡先を交換した僕らは、雪音さんに続いて場所を移動し始めた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)
あおっち
SF
港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。
遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。
その第1次上陸先が苫小牧市だった。
これは、現実なのだ!
その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。
それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。
同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。
台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。
新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。
目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。
昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。
そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。
SF大河小説の前章譚、第4部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる