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―邂逅編―

流行りのオンラインゲーム

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 さて、外に出て時間を潰すか、部屋で考え事でもするか、それとも、読書でも――勉強机の上にパソコン情報誌。
 そういえば、せっかく電気街まで行ったのに、結局パソコンパーツ見てこなかったな。

 僕は残念な気持ちになりながらパソコン情報誌を手に取り、ベッドに腰かけた。
 ペラペラとページをめくる。
「なるほど、なるほど……」
 パソコン本体やパーツのハードウェア関連の情報しか見ていなかったが、ソフトウェア関連の情報が載っているページを改めて見てみると実に興味深い。
 進化したOS、超絶便利ツール、新作ゲーム。

 パソコンのゲームと言えば……真っ先にアドベンチャーゲーム的なものを想像する。
 だが、そこで紹介されていたものは予想とは全然違っていた。
 中でも、特集になっていたのはコアなゲーマーに人気の多人数参加型オンラインロールプレイングゲーム、通称”MMORPGエムエムオーアールピージー”だ。
 自分の分身となるキャラクターを一人作り、中世が舞台の世界で冒険するらしい。職業は多種多様で、戦闘職だけでなく、職人や羊飼い、農民、物乞いといった職業まであるらしい。まあ、物乞いが職業なのかどうかは謎なのだが……。
 ゲームというよりも、ファンタジー世界での生活シミュレーションといったものなのだろうか? 僕なら屈強な戦士を職業として選んでプレイしたい。王道中の王道だ。
 序盤は倒したモンスターから素材を手に入れて、それを売って生計を立てていくようだ。いわゆる生産系と呼ばれる職業は戦闘職が手に入れたモンスターの素材から色々なものを作り出すことができるのだ。モンスター等から得られた素材は、素材を加工する職業が買い、加工された素材は、職人が買い、加工された素材から造られる多数の武器や防具は戦闘職が買う、というサイクルが出来上がっているようだ。
 また、こうした職業が活動しやすいように、商人組合がプレイヤー間で作られていて、仲介手数料をもらって素材の買い取りから供給、武器や防具の販売に至るまですべてを取りまとめ、生産系ユーザーの販売に関わる負担を軽くしているのだとか。
 こうしたコミュニティをゲーム内で形成できるというのが、このゲームの醍醐味らしい。少し感動した。

 僕は夢中になって特集を読んでいたようだ。随分と時間が経過していた。約束の時間が迫っている……急がないと。
 僕は急いで部屋を出る――

「行ってきます」
 足早に玄関を出た僕は、駆け足で駅へと向かった。

 ――間に合った。
 僕が駅前に着くと、藍里は僕よりも先に来て、待ち合わせ場所で待っていた。昨日と違い、藍里の服装は至ってカジュアルだ。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
「いえ、そんなことないです! 目的地が少し遠いので、早めに来てルートを調べたりとかしていました。目的地が港の方にある駅なので……でも、車内から見える海の景色はちょっと楽しみです!」
 藍里は目が輝いている。
「確か、数年前に開通した、新交通システムとかいうモノレールみたいな乗り物に乗って行くんだよね」
 僕は、どこかで聞きかじったことを藍里に話した。
「そうなんです! 楽しみです!」
 おそらく、目的地までは1時間近くかかるだろう。
 それでも、藍里の楽しそうな顔を見ると、目的地まで旅行気分で行くのも悪くないのかもしれない。

 それにしても、今日はビラ配りがやけに多い。
 警察官らしき人物までチラシを配っている……『能力者には気を付けよう』というチラシなのだろうか。僕が言うのもなんだが、物騒な世の中になったものだ。

「あと、これ、助かったよ。ありがとう」
 僕はそういって、思い出したように、藍里から借りていたハンカチを手渡した。
「あ、いえ! お役に立ててよかったです!」
 ニコニコした藍里の笑顔は僕を元気にしてくれる。
 ハンカチを綺麗にしてアイロンがけまでしてくれた母親に感謝した。

 僕らは乗り換えのある駅までの切符を購入した。
 すると、タイミングよくホームに電車が到着したので、僕らは駆け込み乗車にならない程度の速足で乗車した。
「よかった、間に合ったね」
「はい!」
 藍里はニコニコしている。僕もニコニコしているのだろうか。
 僕はドア窓に映る自分の顔でニコニコしていないかを確認していると、ニコニコした藍里が僕と同じドア窓を見ている姿が映る。一瞬焦ったが、藍里の見ているものは窓越しに映り込む僕の姿ではなく、車窓から見える外の風景だ。
「と、とりあえず、座ろうか」
 僕は咄嗟にそう言った。
 思っていたより車内が空いている。明日のこの時間は、仕事始めの満員ラッシュだろう。
 
 僕らは空いている席に座り、無言で外の景色を眺め続けていた。先ほどまでにこやかにしていた藍里の表情には心なしか陰りが見える。この先に待ち受ける真実は受け入れがたいものなのかもしれない。もし、人類滅亡や、世界の終末が迫っているのだとしても、僕は身命しんめいしてでもこの世界を守りたい。
 僕がいなくなっても、藍里が笑顔でいられる、そんな世界であってほしいから。
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