CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH

L0K1

文字の大きさ
上 下
2 / 97
―邂逅編―

少女と不思議な宝石

しおりを挟む
 僕はテレビを消して初詣に行く支度をした。
 無難路線で、白のパーカーに黒いジャケット、黒っぽいジーンズだ。今日は親友の『黒金くろがね 銀太ぎんた』と一緒に初詣へ行く約束をしていた。僕は携帯電話を持っているのだが、彼はポケベル(小型の端末で、数字、カタカナ、アルファベットを使用した短文メッセージのやり取りが可能。液晶画面に受信したメッセージが表示される)しか持っていない。
 余談だが、銀太の見た目は僕と対照的だ。彼の身長は僕より高く、それでいてやや細身だが、しっかりと筋肉質。いかにもスポーツマンタイプで喧嘩も強そうに見える。
 子供の頃から銀太と一緒にいるおかげで、無暗やたらに喧嘩を吹っ掛けられることもない。まさに魔除けのような存在だ。

 ――仕方なく僕は彼の自宅に電話をかけた。呼び出し音の後、程なくして彼の母親が電話に出た。
「もしもし」
「あ、僕は銀太の友達のさとりといいます」
「さとり君ね! いつも、うちの銀太と遊んでくれてありがとね。今、代わるわね」
 そう告げると保留中になり、しばらくして銀太が電話に出た。
「よう、さとり、悪いんだけど今日の初詣行けなくなった……。ちょっと熱があって体調も悪くてさ。ホントごめんよ。ああ、昨夜のご馳走、食いすぎたのかなぁ……」
「いや、大丈夫、気にしないよ。ゆっくり休んでくれ。治ったらこの冬休みの間にどこか出かけよう。お大事に!」
「ああ、悪いな。じゃあ、また……」

 僕は電話を切った。銀太が病気とは珍しい。彼のことだ、すぐに良くなることだろう。
 仕方ない、初詣には一人で行こう。
 ベッドに座っていた僕は、重い腰を上げて家の一階に降りた。僕の家は2階建てで、僕と父親と母親の3人暮らし。
 二階に上がって一番奥の東側にある部屋が僕の部屋、そこから廊下を隔てて西側の部屋は空き部屋になっている。空き部屋といっても物置として使われている。
 そして、僕の部屋の隣に父親の書斎、その部屋の隣は父親と母親の寝室だ。残りの西側は吹き抜けになっていて、落下防止で手すりが階段まで続いている。
 階段を降りると正面に玄関があり、右手には廊下を挟んでリビングとキッチン。廊下の先にはトイレや洗面所、バスルーム等がある。位置的には僕の部屋の下がちょうどキッチンになる間取りだ。

 リビングに入ると一階には誰もおらず、テーブルの上に書置きがあった。
『お父さんと初詣に行ってきます。あなたもお友達との初詣には気を付けて行ってきてくださいね。お弁当を作っておきましたので、お腹が空いたら食べてください。冷蔵庫に昨日の残り物もあります。母より』
 僕はキッチンのテーブルに置いてあったお弁当を開けてみた。
 ――見事なまでの可愛いキャラ弁だった。食欲が失せてしまった……が、帰ってきてから食べようと思う。

 僕は玄関に向かい、スニーカーを履いて外へ出た。
 ここは閑静な住宅街なのだが駅からも近く、立地はとても良い。銀太の家もすぐ近くにある。駅に向かう途中に公園があり、子供の頃に、銀太とはそこでよく遊んだり喧嘩をしたりしていた。
 銀太は少しだけ他人に冷たかったり、倫理観が欠けているような行動を取ったりする。悪く言えば反社会的。よく言えば自由人。
 だから、僕は時々、彼の行動を見ていて不安になるようなことがある。僕にとって銀太はかけがえのない親友なのだが、まるで別人になったかのような冷淡で人を見下すような眼をする時には恐怖すら覚える。

 ――そんな風に銀太のことを考えながら公園の近くを歩いていると、髪の毛もきっちりお団子にした和装姿の女の子が、信号のない横断歩道をフラフラと歩いている。女の子は見た感じ、少し小柄な感じもするが、僕と同い年か少し年下だろう。
 そのうち、車が来ているのに、女の子は道の真ん中で止まってしまった。
 彼女はなんだか具合が悪そうだ。和装はきつく締められているため、体調を崩す人もいるのだとか。きっと、あの女の子もそんな感じなのだろう。

 車がクラクションを鳴らしていたので、見るに見かねて女の子のところまで駆け寄って彼女を支えながら横断歩道を速やかに渡り、僕は車の運転手に軽く頭を下げた。女の子も車の方を気にしている様子だった。

 公園のベンチまで連れて行き、近くの自動販売機から飲料水を購入して女の子に手渡した。公園は閑散としていて、枯れた木々に無個性な遊具、どこか冷たく無機質なコンクリートで造られた、心細さすら感じさせる公衆トイレがポツンとあるくらいだ。

「ご親切にありがとうございます……急に体調が悪くなってしまって、本当にごめんなさい」
 女の子は水を飲み、僕にお礼と謝罪を伝えた。その時に見えた左手首に和装とは不釣り合いだが、ひと際目を引くブレスレット……そこには深い青色をした不思議な宝石が埋め込まれていた。なぜだろう、その宝石を見ていると気持ちが安らぐ。
 ――そして、穏やかな気持ちになった僕は優しく言葉を返す。
「そんな! 君だって同じ状況だったなら、僕に手を差し伸べてくれたと思います」
「どうでしょう……? そうだったら、いいな」
 彼女はどこか自信なさげに、それでいて少し微笑みながらそう呟いた。

 僕は女の子と同じベンチにちょっとだけスペースを空けて座っていた。なんとなく、僕は気まずくなってくる。大丈夫そうなら軽く別れを告げて立ち去ろうかと考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大江戸怪物合戦 ~禽獣人譜~

七倉イルカ
歴史・時代
文化14年(1817年)の江戸の町を恐怖に陥れた、犬神憑き、ヌエ、麒麟、死人歩き……。 事件に巻き込まれた、若い町医の戸田研水は、師である杉田玄白の助言を得て、事件解決へと協力することになるが……。 以前、途中で断念した物語です。 話はできているので、今度こそ最終話までできれば… もしかして、ジャンルはSFが正しいのかも?

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...