やはり、父になれず。

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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第四章 やはり、何者にもなれず。

第18話 やはり、利用者になれず。

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会社は一週間ほどお休みを頂いた。
ドクターからは三ヶ月くらい休めば良いのにと言われていたし、上司からも同じことを言われたが、徹はそれが出来なかった。

薬のせいかテンションは低く、動きは遅いが仕事は出来ると見ていた。

一週間休んだことで、風当たりが強くなるのではないかと心配だったがそんなこともなく、職員一同変わらずに接してくれたことが嬉しかった。
利用者の皆には精神に負担がかからないように、山下さんは体調不良で休んでいると伝えられていたらしく、皆から心配された。

復帰後初の作業は義幸さんと誠司さんと一緒にグループホームの清掃作業だった。

二人ももちろん徹は体調不良で休んでいたと思っている。
しかし、勘の良い義幸さんは何か違和感を感じている様子だった。

「山下さんまだ本調子じゃないですよね?」

「あら、元気ないように見えるかい?」

「はい、実は山下さんが一週間休む前から、何かあったんじゃないかと思っていました」

「やっぱ義幸さんの目は誤魔化せないか」

「やっぱりただの体調不良ではないですよね?」

「まぁ、、、二人には本当のことを言っておくか」

真実だとしても利用者の精神が乱れる可能性を加味して言ってはいけないことが沢山存在する。
職員が心療内科に通院したという事実も、本来ならば言ってはいけないことなのだろう。

しかし、信頼しているこの二人には言うべきだろうと徹は判断した。

「俺は精神的におかしくなって、眠れない日々を過ごして、死ぬことまで考えた。そしてこれはいかんと思い、心療内科を通院した。そして今は薬を飲みながら仕事をしている。だから俺はあなた方となんら変わりない状態ということだ」

それを聞いた二人は驚いていた。

「いや~それはヤバいな」

義幸さんがそう言った。
続いて二人の会話を黙って聞いていた誠司さんが大きな声で割り込んできた。

「え!ダメですよ山下さん!その心療内科は入院設備はないですよね!?大丈夫ですよね!?」

突然の大声に徹は驚く。

「おぉ、なんだ急に。入院は出来ないところだけどどうしたの?」

その質問に誠司さんが答える。

「入院したら終わりなんですよ!薬も出来れば飲まない方が良いです!ね、義幸さん!?分かりますよね!?」

「うん、山下さんはこっち側に来るべきじゃない」

二人は徹のことを想って言葉を発している。
この二人は本当に良い奴だなと徹は思った。

「もちろん薬の依存性については俺もよく理解しているつもりだよ。だから出来るだけ早めに薬が必要ない生き方、心の距離の取り方を覚えて、薬の服用をやめるつもりだよ。でも今はどうしても薬が必要だ。飲まなきゃまたおかしな自分が顔を出してしまうからね」

それを聞いた誠司さんは首を振っている。

「ダメですよ!山下さんには家族もいるんだから!俺は絶対に薬は飲まない方が良いと思います!」

それに対して義幸さんが言葉を挟む。

「でも、病状のせいで全てを壊してしまったら本末転倒ですからね。山下さんはそれを考えて、今は薬を飲むという決断をしたということですよね?」

「そういうこと、流石義幸さんだな」

本当に彼は頭が良い。

「山下さん!絶対にこの仕事辞めないでくださいね?俺、山下さんがいなきゃこの事業所辞めますから!また引きこもりになりますから!」

誠司さんは高い熱量で徹へと迫る。

「いやいや、俺がいなくても働けっての。俺も人間だからずっとこの仕事をするっていう保証はないよ。何がどうなっても君達なら大丈夫だよ。頭も良いし、人を想う力もある、誠司さんは家でゲームやりながらストレスなく働ければ人生オールオッケーかもしれないけどさ、今後とも自分の人生をより良くするために生きてくれ。もちろん自分の病状と相談しながらね」

徹も高い熱量をもって言葉を返した。

彼等は徹に生きてほしいと願っている。

やはり死ぬわけにはいかないな。
これからは生きなければならない理由を集めようと思った。

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