206 / 229
決戦のグレイス城編
第206話 青龍
しおりを挟むトゥールは刀を鞘に抑えたままムーの合図を待っている。
目の前に巨大な敵が聳え立っているが気にもせず、じっと目を瞑ってその時を待っていた。
タクティス「く、、目がまわる」
タクティスはリキッドと共にアイスロードを高速で滑っていた。
片手でリキッドに捕まり、もう片方の手には巨斧レオニダスを握りしめている。
リキッド「多数の触手の攻撃を避けるには複雑なルートをチョイスする他ない。酔ってもその手だけは離すなよ?」
タクティス「ああ、問題ない!!!」
タクティスは片手の巨斧で横切る触手を叩き斬った。
緑のオーラを纏っているタクティスの腕力ならば魔法を使わなくとも切断が可能である。
バキューン!!シュルシュルシュル
リリは着々と触手の数を減らしていた。
リリ「流石リキッド、これならガンガン数を減らせるね!」
目のない触手が誰を狙っているのかを把握するのは難しい、しかしタカの研ぎ澄まされた動体視力は触手の微細な初動を見逃さない。
身体中の魔術刻印がグリュグリュと動き、タカは人間離れした跳躍で高く飛び上がった。
そして渾身のストレートを叩き込む。
すると当たった触手の直線上にいる奥の触手が、巨大な怪物に喰われたかのように千切れた。
タカは完全に集中していた。
タカの身体は人の三倍の睡眠時間を要する。
性格も相まってタカは超スロースターターなのだが今は違う。なぜなら守るものがあるからだ。
タカ「フ、、、、」
横目でトゥールとムーの様子を窺った。
もう少し時間がかかりそうである。
二人のために時間を稼ぐどころか触手は残り数本となっていた。
リキッド「このまま押し切る!!」
リキッドがルートを変え、殲滅に向かったその時。
更に多くの触手が再生した。
リリ「嘘でしょ!?」
標的が突然増えたことでリリは動揺していた。
リキッドはすぐにルートを改め、触手の森を抜けようと模索した。
しかし抜け道がない。
リキッド「再生スピードが早すぎる、迂闊だったか」
ルートは上へ抜ける他ないが、触手はハエを叩くかの如く先端を振り上げている。
振り下ろされれば最後、二人の命はないだろう。
その時、タクティスはリキッドを片手で持ち上げた。
リキッド「何をする」
タクティス「これが最善の策だ、そうだろう?」
リキッド「、、、、ああ」
タクティスは思いっきりリキッドを上へと投げた。
緑のオーラによって身体能力が上限を超えているタクティスの投擲は一瞬にしてリキッドを触手の森から脱却させた。
リキッド「犠牲、とするにはまだ早いぞ。タクティス」
リキッドは膨大な魔力を消費して剣を十字に振り抜いた。
リキッド「アイスワールド」
パキパキと音をたてて刻まれた十字は触手の森へと侵入する。
すると触手達は根本から徐々に凍り出した。
リキッド「完全に凍らせることは出来ないだろうが動きを鈍らせることは出来る」
リキッドは空中からタカを見た。
そこにタカはいなかった。
リキッド「ふっ、このチームに指揮なんて必要ない」
リキッドはアイスロードで地上へ向かった。
一人取り残されたタクティスは凍りついていく触手を一本ずつ薙ぎ倒していた。
タクティス「道は開けないか、数が多すぎる」
すると正面の触手から風穴が空き、そこにタカが現れた。
タカ「こっちだ」
タカはタクティスの胸ぐらを掴んだ。
タクティス「お、、、」
魔力を足に集中させて猛スピードで触手の樹海を抜ける。
タクティス「おおおおおー!!!目がまわる!!」
あっという間に樹海の外へと抜けると、いつの間にか六人が集結していた。
ムー「ご苦労、十分な時間稼ぎだてめぇ等。そして時間切れだデストロイヤー」
ニヤけが止まらないムー。
リキッド「お手並み拝見といこうか」
剣を納め、腕組みをするリキッド。
タクティス「、、、、酔った」
白い床に倒れ込むタクティス。
リリ「あんたも移動系魔法習得しなさいよ」
タクティスをくすぐるリリ。
タカ「俺は少し寝、、、Zzz、、る」
仁王立ちで眠るタカ。
トゥール「よっしゃ、さっさとやっちまおうぜ」
トゥールは刀に手をかけた。
ムー「いつでも良いぞトゥール」
トゥール「んじゃ、やりまっせ!!」
トゥールは刀を抜いた。
トゥール「彼岸花!!」
トゥールが繰り出したのはかつてタケルを打ち破った全てを断ち切る斬撃、彼岸花。
蒼い斬撃が飛び交う、そしてそれらは空中で動きを止めている。
トゥール「お、、お!?」
ムー「ショータイムだ」
ムーの月魔法によりその斬撃が一点に集められる。
辺りに大量の水が流れ込むがそれらも何かに吸い上げられるように一点に吸い込まれていく。
トゥールの身体から湧き出る青いオーラもスルスルと吸い込まれていく。
トゥール「お、、、なんか一気に疲れたぞ」
ムー「魔力は出来るだけ僕のを使っているから多少の体力の消費は我慢してくれ」
ムーの身体から紫のオーラが湧き出る。
風、水、青のオーラを吸い込んだ一点には澄んだ青色の水晶玉のようなものが出来ていた。
紫のオーラがその水晶玉を包み込んだ。
ムー「さぁ、感じるだろ?あとは言霊を乗せて破壊しろ!!」
トゥールは言われるがまま刀を振るった。
頭に浮かぶ言葉は一つ、何も迷うことはない。
トゥール「青龍!!!!!!」
トゥールの一振りが水晶玉を割った。
すると、見る見るうちにそこに実体のない半透明な巨大な龍が姿を現した。
トゥール「おおおおお!!!なんぞや!!」
デストロイヤーをも凌ぐ大きさに一同は驚きを隠せない。
半透明な体の中には何かが渦巻いているようだ。
リリ「凄い!!綺麗!!」
龍に触れようとしたリリをリキッドが静止した。
リキッド「触れるな!指が消し飛ぶぞ」
リリ「え!?」
ムー「ふん、その通りだ」
タクティス「どういうことだ?」
ムー「見てりゃゴリラでも分かる」
青龍はゆっくりと動き出し、デストロイヤーの触手に触れた。
実体のない青龍をデストロイヤーの触手は通り抜ける、はずだった。
しかしそこに触手は無くなっていた。
そのまま青龍はデストロイヤーを包むようにゆっくりとただ通り過ぎた。
「、、、、、、、、、」
一同は唖然とした。
トゥール「おいおい、マジかよ」
そこには確かに巨大な怪物がいたはずだった。
しかし青龍が通り抜けるとそこには何も無くなっていた。
リリ「どーなってんの!?」
ムー「見てたか?説明なんていらねぇだろ、粉々になったってハナシだ」
タクティス「いや、見ていたが分からん」
いつの間にか青龍は消えていた。
リキッド「青龍の体内の渦はムーの月魔法が操った風と水だ。それらがトゥールの青のオーラによって極限まで鋭く磨がれた上で、紫のオーラで圧縮されていた。要するに動くミキサーのようなものだ」
リリ「待って、私がもし触ってたら」
ムー「てめぇの指は無くなっていたってハナシだ」
リリ「マジで洒落になんないっての!!」
トゥール「まぁ、お疲れってことで!」
リリ「いやいや!!あんたね!」
タカ「ふわぁ、、終わったか」
「そのようだね」
後ろからの声に一同は振り返った。
そこにはマイケルがいた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる