神殺しの怪物と六人の約束

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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決戦のグレイス城編

第202話 変動する勝率

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また取り残されたカナメルは慎重にゼウスの状態を観察していた。

ネギッチャの攻撃によってゼウスの皮膚は脆くなっている。

ゼウスの表情からはもう余裕の色が感じられない、おそらく相当なダメージを与えることが出来たのだろう。

更にアンチマジックが心臓に刺さっている。
もうゼウスは雷を纏うことも放出することも出来ない。

風向きが変わった、しかしカナメルの魔力も残りわずかである。

赤のオーラさえ湧き出れば、、、

ゼウス「見事な策だな、だがこれで勝てるなんて浅はかな考えはやめた方が良い」

カナメル「まだ勝てるとは思ってないよ、確実に勝率は上がったけどね」

そう、まだ優勢ではない。

雷が纏えなくともゼウスは超人的な速度で動き、建物諸共消し去る破壊的なパンチを放つことが出来る。

それに皮膚が脆くなったとはいえ、貫通系の魔法しか通らないだろう。

勝率はまだまだ低い。

ゼウス「お前は逃げないのか?反乱軍の小僧は逃げたようだな。所詮腰抜けか」

カナメル「いや、利口な判断だと思うね。勝てる見込みのない戦いは早々に捨てた方が良い」

ゼウス「ほう、お前はまだ俺に勝てると思っているんだな?」

カナメル「かもね」

魔力残量は残りわずか、大技を放てば即座に空になるだろう。

そうなれば勝率ゼロが確定する。

避けるためのエンハツは使わざるを得ないだろう、常に優勢で戦い続け、ちょっとしたチャンスをモノにするしか勝つパターンはない。

ゼウス「そういえばお前の秘策とやらをまだ見ていないんだが?」

そうだ、秘策なんて存在しない。

あるとすれば大将サチヨやネギッチャなどのトゥールの人間性による助けのみである。

しかし、BBによってランダムに飛ばされるこの入り組んだ空間で他の強敵を打ち負かしてたまたまここへ辿り着く者など稀だろう。

カナメル「ここからが面白いところだよ」

ゼウス「そろそろ時間切れだ、出し惜しみしている時間はないぞ」

ゼウスは猛スピードで突進してきた、カナメルはそれをエンハツで避ける。

比較的魔力消費の少ないエンハツですら出来れば使いたくない、しかしゼウスの体術をこの身体で受ければ骨は粉々となり再起不能になるだろう。

ゼウスはそのまま猛攻を仕掛ける、先程までの遊びとは違い、カナメルを確実に殺しに来ている。

このままでは消耗戦となり魔力が尽きてしまう。

何か策はないのか!!、、、

頭をフル回転させながら、ゼウスの攻撃を避け続ける。

何かが視界に入り、扉の方を見た。
焼け焦げた大庭園の花々を踏んで立つ、二つの影があった。

その姿を確認して、カナメルはそっと呟いた。

カナメル「詰みだな」

カナメルは動くのを止め、その場に立ち止まった。

ゼウス「ようやく諦めたか」

ゼウスはスピードを緩めず、立ち止まるカナメルへと突進する。

カナメル「奴等が来たことで勝率はゼロになった」

ゼウスは容赦なくカナメルの小さな身体に破壊的なパンチを繰り出した。

カナメルは吹き飛び、庭園の壁にもたれかかった。

胸を強く打ち、呼吸が乱れる。

しかし身体に大きなダメージはない。

身体は何故かびしょ濡れになり、前髪が皮膚に張り付いて視界を邪魔する。

髪をかき上げ、良好になる視界の先に見慣れた二人がカナメルを守るように立ちはだかっていた。

カナメル「スイハツ、、、、」

カナメルはすぐにピンときた。

カナメルが受けたのはゼウスのパンチではなく、ホーリーのスイハツである。

カナメル「これはどういう状況だ?」

ゼウスは蜘蛛の巣に磔になっていた。

オダルジョー「さあね、私にも分からないよ。強いて言えば罪滅ぼしなのかな」

ホーリー「いや、違うよ。多分だけどカナメルを助けたかったんだよ」

オダルジョー「そんな気持ちが私に残ってるのかなぁ?」

いずれにしてもこれは好機だ。

カナメル「今は味方と見て良いんだよな?」

オダルジョー「お好きにどーぞ」

ホーリー「アカデミー時代の試験を思い出しますね、、、、あぁ、、、エモい」

カナメル「報告、奴は今魔法を使えないが人間離れした身体能力を有している、皮膚は硬くて貫通系魔法しか通さないと見ている。俺の魔力もあと僅か。他に必要な情報はあるか?」

オダルジョー「いや、十分だよ」

オダルジョーによってあらゆる属性の槍がゼウスを取り囲むように出現する。

ホーリー「皇帝の肉を引き裂けるなんて、、、あぁああ!興奮してきた!!」

ホーリーは大鎌を振り上げた。
圧縮された水が鎌へと蓄積され、技の準備を始める。

カナメル「加勢する必要は無さそうだな」

勝率は90%を超えた。

ゼウス「お前達は無の神とやらの仲間じゃないのか?」

身動きが取れないゼウスが口を開けた。

オダルジョー「んー、分かんない」

ゼウス「まぁ、俺も仲間ではないからな。咎めたりはせんよ」

オダルジョー「話は変わるけど皇帝さん、死ぬのは怖いかい?」

ゼウス「人は生まれた瞬間から死に向かう。それが早いか遅いか、それだけの話だ」

オダルジョー「怖くないってことかい?」

ゼウス「ああ、形あるものは滅ぶ定めだ。そこに感情を乗せるなど無意味だな」

オダルジョー「そうか~じゃあ遠慮なく殺しても良いんだね」

カナメル「ちなみにお前は怖いのか?」

カナメルはオダルジョーに問いかける。

オダルジョー「分かんない、怖いって感情はもう欠落しているからね」

ホーリー「オダルジョー、私はもう我慢の限界である。早くこの鎌に、、、皇帝の血を、、、はぁあ、、はぁ、」

オダルジョー「はいはい、ちゃっちゃと殺っちゃおうか」

四方八方から多属性の槍が放たれる。
それらはしっかりとゼウスを貫通し、それぞれの属性で爆発を繰り返している。

ホーリー「頂きます」

ホーリーはグニャリと曲げた身体を解放し、高速回転しながらゼウスの横を通り過ぎた。

嵐が過ぎ去ったかのように、バラバラになったゼウスの残骸が床に散らばっている。

ホーリーの大鎌の刃先にはゼウスの心臓が刺さっていた。

ホーリー「綺麗に抉り取りました」

オダルジョー「なーんだ、こんなに簡単に倒せるならもっと早くやっておけば良かったよ。別に恨んでないけどさ」

緊迫感のない空気が流れている中、カナメルはその異変に気が付いた。

カナメル「待て、まだだ!」

ゼウスの残骸からキラキラと黄色いオーラが湧き出ている。

カナメル「オダルジョー、ホーリー!!もう一度だ!!」

カナメルが声を発した時には、もうそこに完全体の姿を取り戻したゼウスがいた。

その身体にはバチバチと電撃が走っている。











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