神殺しの怪物と六人の約束

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

文字の大きさ
上 下
198 / 229
決戦のグレイス城編

第198話 それでも、それでも

しおりを挟む

リョーガ「仕方ありませんね、グレイスウォールの破壊の前に君を殺す必要がある」

リョーガはダイスへと槍を向けた。

ダイス「マジで一騎討ちになっちまった!!」

リョーガ「君は弓と木属性魔法を使うようですね、良いでしょう。弓使いの攻撃隊長は沢山いますので、その中でも最強と言われたアルテミスの弓で仕留めてあげましょう」

リョーガは槍を空間に放り投げ、新たに紫色の大弓を取り出した。

その指にはキラキラと指輪が光っている。

ダイス「その指輪が倉庫になってるのか」

リョーガ「倉庫?いやいや、宝庫と言って欲しいですね。この指輪は歴代の攻撃隊長と守備隊長の武具が封印されてあるグレイスの宝具です。残念ながら君の使う木の弓のような安っぽい物はありませんけどね」

ダイス「重要なのは武器じゃねぇ、アイディアだよ」

ダイスはいつかムーに言われた言葉を思い出した。

「木の弓、木の弓矢を使え。そうすればきっと猿知恵が働く」

その猿知恵を肯定してくれたのはカナメルで知恵を形にする訓練に付き合ってくれたのがリリさんである。

ダイスは自分のことを強者とは思っていない、しかし今までやってきたことに間違いはない。

強者である師達には到底及ばない、それでも自分にしか出来ないことがあると確信していた。

リョーガ「魔術師ならば魔術の鍛錬を誰よりもしなければならない、戦士ならば武具の鍛錬を誰よりもしなければならない、さらに魔術にも武具にも種類がある、その一つ一つのエキスパートになってこそ戦場にて生き残ることが出来るのですよ」

この男はきっと途方もない時間を武具の鍛錬に費やしてきたのだろう、槍や剣の扱いが素人の動きじゃなかった。

指輪の扱いも簡単ではないということを、創造魔法を鍛えてきた今のダイスにならば理解出来る。
あの指輪は設計図に過ぎない、実際に武具を召喚するには術者の知識とイメージ、それに足る魔力が必要なはずだ。

ダイス「弓の扱いも魔力量もお前の方が上ってわけか」

リョーガ「そうですね、基本的に侮らないようにはしていますが、君は俺より弱いのは確かですね。戦意は失せましたか?」

ダイスはニヤリと笑った。

ダイス「いや、でもやっぱりアイディアと創造魔法の練度は俺の方が上だな」

リョーガ「そのアイディアとやらが戦力に何の関係があるんですかね?」

ダイス「お前、炎のマントと戦ったことがあるか?」

リョーガ「炎のマント?ああ、元四天王の人ですか」

ダイス「そう、あいつは準備の天才なんだよ」

リョーガは興味がないと言わんばかりに首を傾げた。

リョーガ「ゴシップはその辺にして、殺し合いを始めましょうか」

ダイス「だーかーら、もう始まってんだよってハナシ」

ダイスが指を鳴らすと、あらゆる場所から大きな花が咲いた。

リョーガ「これはヘイスレイブの樹海に咲くと言われている毒花、、、」

ダイス「そう、ポイズンフラワー。でもその中に稀にデスフラワーという希少種が存在するんだ」

花弁が赤く染まり出す。

そして、それらは液体のようなものを噴出し始めた。

リョーガは空間から分厚いマントを取り出し、身体を覆った。

液体はマントに付着するとジュワジュワと音を立てて蒸発し出した。

リョーガはすぐにアルテミスから紫色の光線を放ち、デスフラワーを消滅させた。

リョーガ「毒花は皮膚に炎症を起こすと言われ、その後数日間発熱に苦しまされると聞きます。ですがこの花は骨まで溶かしてしまいそうですね」

ダイス「そう!!これがデスフラワー、、、、って何だよそのマント!!おかしいだろ!!」

無傷のリョーガを見てダイスは落胆した。

リョーガ「このマントは守備隊長ディアマンテの鋼鉄のマントです。あらゆる攻撃を無力化する魔法のマント」

ダイス「そんなに便利な武具を沢山持ってるなら、皆に分け与えたらどうだ?強い集団を作れそうだよな」

リョーガ「武具を扱う者が未熟であれば、どんなに良い武具を持っても意味がない。興味があればこのアルテミスを君に差し上げましょうか?」

ダイスの目が一瞬キラキラと輝いた。

しかしすぐに首を横に振って正気を取り戻す。

ダイス「俺にはそんな物騒な物扱えないや。この世には全てを極めるすげぇ奴もいるけどさ、凡人にはそれは無理だ。でも何か一つ極めることなら努力次第で何とかなると思うんだ。この木の弓の扱いに関しては俺の右に出る者はいない」

ダイスは胸を張って言い切った。

リョーガ「そうですか、では」

リョーガは空に向かってアルテミスを引き絞った。

光の矢を放つとそれらは空中で分裂し、一斉にダイスめがけて飛んできた。

リョーガ「アルテミスの矢は実体を持たない、しかし触れたものを焼き切る」

ダイスは木の矢に魔力を込め、四方八方に放った。

矢が触れた地面や壁から木々が生える。
それらはアルテミスの光の矢を防ごうとしたが、木々は焼き切れ、光の矢は速度を落とさずに向かってくる。

ダイスは転がり、走り、光の矢から逃げるが光は執拗に追いかけてくる。

それら一つ一つが意思を持っているかのように動いている。

リョーガ「生物じゃなくても自在に操ることが出来る、これが鍛錬の極みですよ」

光の矢は分裂を繰り返し、その数を増やしていく。

気がつくと逃げ場はなく、ダイスは光の矢に囲まれていた。

ダイスは大口を叩いた自分を恥じた。

ツグルは何度も強敵と戦い、打ちのめされながらも先へ先へと歩みを進めた。

ダイスはそうじゃなかった。

いつも誰かが身を削って守ってくれた、安全な場所から援護という名の盾を構えて隠れていたのだ。

自分でも分かっていた。

そもそも弓という武器を選んだのは自分の弱さ故の選択だったのかもしれない。

この攻撃隊長は全ての武器の扱いを極め、いくつもの死線を超えてきたのだろう。

逃げてきた自分とは経験値が違いすぎる。

それでも、それでも一矢報いたかった。

ツグルやモモに自分も出来るんだというところを見せたかった。

主役にはなれない、それでもこの物語の重要人物になりたかった。

逃げてきた瞬間は多々ある、それでも自分なりに頑張ってきたつもりだった。

後のことは頼んだ、ツグル。

心の中でカッコつけて言ってみた。

その時、頭の中にツグルの声が響いた。

「ここでお前達に死なれたら、俺はこの先笑って生きていける気がしない」

ツグルとセリア、モモとの思い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

ダイス「そうだな、俺が死んだら皆笑えなくなっちまう」

そう思ったのと同時に身体の底が熱くなり、肌寒いグレイスの夜にダイスはじんわり汗をかいていた。

アルテミスの光の矢に貫かれたのだろうか?

ダイスは眩い光に包まれた。











しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...