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決戦のグレイス城編
第192話 愛だよ
しおりを挟む度重なる電撃により昨夜は一睡も出来なかった。
途中からもう痛みを感じているのかどうかも分からなくなっていた、とにかく長い夜だった。
この部屋には時計がない。
早くユメゾウに会いたい、何故か心からそう思っていた。
ユメゾウ「来たぞ、調子はどうだい?」
ユメゾウの姿を見ると、目から涙が溢れてきた。
ユメゾウ「そうかそうか、しんどかったなぁ」
タマキ「、、、、、、、、」
ユメゾウ「痛みを極力減らすよう私の方から言っておこう」
タマキ「私は何の実験をされているの?」
ユメゾウ「オダルジョーは闇魔法の行使のデメリットを記憶と感情の欠落に限定する実験のサンプルだよ。帝国人は魔力がないけれど魔法の研究については大昔から進められている。強力な闇魔法を放ち続ける魔造生物を使役することが出来れば戦争において重要な戦力になると考えたわけだ。しかし身体が朽ちてしまっては使い物にならない。よって記憶と感情の欠落のみで闇魔法を放つ必要があるんだ」
タマキ「そんなことのためにお母さんとお父さんは殺されたの?そんなことのために私は長い夜を過ごさなきゃならないの?」
タマキの目から大粒の涙が零れ落ちる。
ユメゾウ「、、、そうだなぁ」
タマキ「、、、、、、」
ユメゾウは何やら資料を読みながら、ユメゾウに語りかける。
ユメゾウ「ちなみに隣のボックスには水と一体化する魔造生物の実験が行われている。君と同じ歳くらいの女の子が、、、、いや、こんな話は気休めにもならないな。私には心底オダルジョーの気持ちを察することしかできない。その悲しみと怒りの深さを共に感じることは出来ない。私に出来ることは君に寄り添うことと真実を伝えること、それしか出来ない無能な精神学者だよ」
タマキ「、、、、、、、」
タマキは虚な目で一点を見つめている。
ユメゾウ「精神が崩壊するには十分過ぎる悲しみだよなぁ。やはりこれ以上の電撃は」
タマキ「いいよ」
ユメゾウ「え?」
タマキ「もう、、、、なんでも良いよ」
ユメゾウ「オダルジョー、、、、」
タマキ「でも、ユメゾウに会うこの時間だけは笑顔でいられるように努力するよ」
まだ幼い少女から溢れた言葉に明るさは微塵もなく、この状況を受け入れているようだった。
~~~~~~~~~~~
数ヶ月後
ユメゾウ「元気かい?オダルジョー」
オダルジョー「元気だよ、でも眠いんだ」
ユメゾウ「夜眠れないことが原因だよね」
オダルジョー「うん、日中も色んな実験が増えたんだけど眠くてね、ふぁあ~」
ユメゾウ「実験中も寝てて良いんだよ。研究員が勝手にやるから」
オダルジョー「そうなの?頑張って起きてたけど、今度から寝ちゃおうかな」
ユメゾウ「さて、今日は何の話をしようかな」
オダルジョー「ねぇ、私って他に名前あった気がするんだけど。ユメゾウ何か知ってる?」
ユメゾウ「タマキだよ。でもここではコードネームで呼ぶ決まりになってるんだ」
オダルジョー「ふーん、なんかしっくりこないね。コードネームで良いや」
ユメゾウ「ちなみに私の名前もコードネームだよ」
オダルジョー「そうなの?本当の名前は?」
ユメゾウ「うーん、、、、私は記憶を失っていないのだが、、、なんせ何十年も前のことで忘れてしまった。でも私もこのコードネームが気に入っている。誰が名付けてるんだろうなぁ?センスあるな」
オダルジョー「もっと可愛い名前つけてもらえば良かったのに。まだまだ人生先は長いんだから」
ユメゾウ「長いどころか私の場合は永遠だよ。残念ながら永遠にこの施設に閉じ込められて仕事をする。実験体の方がまだマシかもしれないなぁ、皆いつかは外に出るのだから、まぁその時には自制心なんてものはなくなってるだろうがな」
オダルジョー「というと?」
ユメゾウ「全ての戦闘用の魔造生物は何らかの方法で自我を消され、チップを頭に埋め込んで機械で操作出来るようにされるんだ」
オダルジョー「私もいずれそうなるの?」
ユメゾウ「残念だが、いずれはそうなる」
オダルジョー「そっか、、、そうだよね」
オダルジョーは悲しそうに俯いていた。
~~~~~~~~~~~
数年後
オダルジョー「ユメゾウだね?今日は何の話をしてくれるのかな?」
ユメゾウ「おっと、まだガラスを可視化していないのによく分かったね」
オダルジョー「何となーく、いやユメゾウに嘘はダメだね。薄らと魔力が見えるんだよ、こんなこと今までなかったのに不思議だよね」
ユメゾウ「実験の過程で何かしらの能力が覚醒する者は多数いる。精神の面で変化はあるか?」
オダルジョー「特に、落ち着いているよ。お母さんとお父さんのこともまだ覚えてる。でも悲しいって思わないんだ。悲しいって何だっけなぁ」
オダルジョーはあくびをしながら眠そうに言った。
ユメゾウ「悲しみはもう欠落しているのかもなぁ」
ユメゾウは用紙に何かを記入している。
オダルジョー「どんどん兵器に近付いていくわけだ」
ユメゾウ「それについては悲しいかい?」
オダルジョー「んー、どーでも良いって感じかな。ユメゾウとお話が出来ればここにいるのも悪くないし」
ユメゾウ「じゃあ私が死んだら悲しいかい?」
突拍子もない質問にオダルジョーは驚いた。
オダルジョー「ユメゾウ死なないじゃん」
ユメゾウ「確かに、それもそうか。ところでオダルジョーには夢はあるのかい?」
オダルジョー「夢?、、、昔お母さんに言ったことあるなぁ。何だっけなぁ~花屋かな」
ユメゾウ「ほう、花屋。ヘイスレイブの子供達は皆アカデミーに入学するのかと思っていたよ」
オダルジョー「魔法なんて興味ないよ。村の近くに咲いてる花が綺麗でね、それを色んな人に見せるのが私の夢だった、はず。あれ、なんかこれも薄れてるのかも」
ユメゾウはまた何かを記入している。
オダルジョー「もしかして今のも書いたの?書かなくて良いよ、別に今は何とも思ってないし」
ユメゾウ「花屋かぁ~良いな。私も若い頃にボーイフレンドがいてね、花をプレゼントされたことがあるんだ」
オダルジョーの表情が緩んだ。
オダルジョー「へぇ、面白そうじゃん」
ユメゾウ「彼は今何歳かなぁ、元気だと良いなぁ。でもその時は照れてありがとうと言えなかったんだ、逆に花なんて何に使うのって怒ったフリをしてしまってね。彼にありがとうって伝えることが、私の夢だなぁ」
オダルジョー「なんか、素敵だね」
ユメゾウ「でも残念ながらこの夢は叶わない。私はここから出ることが出来ないからな」
オダルジョー「ここを出る時はバケモノだからね、私も花屋は諦めよーっと」
ユメゾウの表情が曇る。
ユメゾウ「諦めるのはまだ早いぞ、オダルジョー」
オダルジョー「ふぇ?」
ユメゾウ「私は全ての自我をもつ実験体とコミュニケーションをとっている。やはり皆には夢があるんだな、隣の少女は母の意思を継いで修道女になりたいそうだ。君達と話すうちに私は自分の仕事を誇れなくなってきた」
オダルジョー「どういうこと?」
ユメゾウ「私は君達に幸せになってほしいんだ」
オダルジョー「何言ってんのユメゾウ。何か実験でもされた?」
ユメゾウ「これは私の本心だよ、オダルジョー。実は一度似たような気持ちになって、一人の実験体のボックスの扉を開けたことがある。そのせいで私がこの施設に閉じ込められることになったわけだが、今になってあれは正しかったと思い始めた」
オダルジョー「ユメゾウらしい発想だけど、私のボックスの扉は開けなくても良いよ。そんなことしたらユメゾウがどうなるか分からないから」
ユメゾウの目から涙が溢れた。
ユメゾウ「私の身を案じてくれる人がまだいたとはなぁ。。。嬉しいよ。。」
オダルジョー「ちょっと、どうしたのユメゾウ」
ユメゾウ「オダルジョー、聞いてくれ。闇魔法を使わずとも実験で感情は消すことが出来る、魔造生物は基本的に全ての感情を消される。でもね、消えない感情があることを私は知ってるんだ」
ユメゾウは泣きながら訴えかけている。
ユメゾウ「私の果てしない時間の中で辿り着いた精神における絶対に消えない感情。それはね」
ユメゾウはガラスに手をつき、オダルジョーを見つめた。
ユメゾウ「愛だよ」
オダルジョー「もう分かったから今日は寝た方が良いよ」
オダルジョーは照れ隠しのつもりで寝たふりをした。
ユメゾウ「きっといずれ分かる時がくる。何を忘れたって、愛されたこと、誰かを愛したいと思う気持ちは誰にも消せない。皆の夢を消させやしないから」
そう言ってユメゾウはいなくなった。
オダルジョーは胸の辺りが騒つくのを感じていた。
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