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決戦のグレイス城編

第186話 太陽と炎の協奏曲

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サチヨはラッパのような銃から太陽球をいくつも発射した。

そして警棒からは赤い鞭が伸び、太陽球を融合させていく。

サチヨ「私に準備の時間をくれるなんて随分と余裕なんだね、ゼウっちゃん」

ゼウス「魔法を使わないでお前達を倒す方法を考えていた」

カナメル「考えなきゃいけないくらいには余裕がないんだね」

サチヨ「そりゃあね、私結構強いから」

カナメル「ふーん」

サチヨは太陽球を空間に散りばめた。
赤い鞭の先には大きな太陽球がくっついている。

サチヨ「準備完了!!やるよ!炎のマント!」

カナメル「カナメルで良いよ」

サチヨ「了解!!援護任せた!!カナメル」

サチヨは赤い鞭を振り回しながらゼウスへと駆けて行く。

ゼウス「うーん、、、流石に無理か」

ゼウスはその巨体からは想像も出来ない素早い動きでサチヨの攻撃を避けている。

カナメル「流石に太陽属性の攻撃は避けざるを得ないよね」

カナメルは炎の鳥を放つ。

ゼウスはカナメルの攻撃には目もくれず、その硬い皮膚で受け止める。
しかし少しの火傷すら見当たらない。

カナメル「完全無視ってわけね、その方がやりやすいや」

ゼウスは隙を見て渾身のストレートをサチヨへとお見舞いするが、サチヨは軽い身のこなしでかわしていく。

しかし常人ではないゼウスの肉体は考えられないスピードで蓮撃を繰り出す。

サチヨ「シールド展開!!!」

サチヨは太陽属性が付与されたシールドを展開した。

触れる寸前でゼウスの拳が止まった。

ゼウスは距離をとり、遠距離から拳を引き絞る。

カナメル「サッちゃん、シールドごと飛ばされるよ」

サチヨ「承知!!」

サチヨは分かっていたかのように鞭を振り回して太陽球を集めた。

先端についている太陽球がどんどんと膨張し、大きな球となってゼウスへと向かう。

ゼウスはそのまま渾身のストレートを放ち、風圧で広範囲の花々が舞う。

しかし太陽球は速度を落とすことなく全てを溶かしながらゼウスへと向かう。

ゼウス「仕方ないか」

ゼウスは両手に大量の雷を溜め、大きな太陽球へと向けた。

サチヨ「そうはさせないよ!」

サチヨはスライディングをしながら太陽球の下をくぐり抜け、ゼウスの目の前へと移動した。

カナメル「おい!!それはリスキーだろ!!」

サチヨ「私は本気だよってことだよ。ゼウっちゃん」

ゼウス「なるほどな」

サチヨが鞭を振るうと大きな太陽球は円を描くように軌道を変えてゼウスを横から襲う。

サチヨ「私を撃ってこの球を受けるか、この球を破壊するか、、、、選んでおくれよ」

カナメル「へぇ、やるじゃん」

層の厚いフォールドーン帝国でまだ若いこの女性が大将まで昇り詰めた理由が分かった。

特殊な魔法を使える、という理由だけではない。
的確な状況判断能力、咄嗟の直感力、それを踏まえた上での行動力、しなやかな身のこなし、どれをとってもトップレベルの戦闘能力に加え、この明るい性格によって部下からの信頼も高かったのだろう。

彼女となら、ゼウスを倒せる。

カナメルは炎系最終魔法、朱雀を展開した。

朱雀の魔力消費はとてつもないものだが、サチヨに続いて今攻めなければ次のチャンスはないかもしれない。

ゼウスはきっと対応してくる。

カーマインに巨大な炎の鳥が吸収されていく。

炎帝ディアナを放つ準備は整った。

ゼウスは大きな太陽球へと掌を向けた。

サチヨ「そう、ゼウっちゃんはリスクをとらない。そうすると思ったよ」

サチヨは鞭を操りながら、もう片方の手に持つラッパ銃を撃ち込んだ。

横から迫る大きな太陽球と正面から迫る幾つもの太陽球。

ゼウス「捉えたつもりか?」

ゼウスは雷を放つのをやめ、大きく跳躍するために膝を曲げた。

カナメル「気付いてないだろうけど、王手だよ」

ゼウス「!!!」

空から降ってきたのは燃え盛る細剣を構えたカナメルだ。

ここからでは心臓は狙えない。
でもそれで良い、本命はサチヨの攻撃だ。

カナメル「炎帝、、、ディアナ!!!」

守るようにゼウスは手を伸ばした。
カーマインがその手を貫き、朱雀を吸収した大量の炎がその手からゼウスの身体へと流れ込む。

ゼウス「ぐ、、、ぐぁ!!!!」

剣を刺したままカナメルはすぐにエンハツで離脱し、太陽球から距離をとった。

カナメル「いっけぇええええ!!!!」

炎に苦しむゼウスを包むように大きな太陽球が覆い被さった。

その熱で地面は溶け、大きな円形の穴が出来ている。

カナメル「やったか?」

太陽球は煙を上げて消え去った。

ゼウスは太陽球に潰されて溶けたのか?

そんな淡い期待をしていたが、現実は違った。

バチバチと発光するゼウスに首を掴まれるサチヨ。

サチヨは黒焦げになり、意識を失っていた。

カナメル「、、、、くそ」

ゼウスはサチヨを乱暴にぶん投げた。

カナメルはエンハツで移動し、サチヨの身体を受け止める。

ゼウス「帯電状態にならざるを得なかった。見事だ」

カナメル「身体に電気を纏うことで筋肉のリミッターを強制的に外し、高速移動を可能にしたのか」

ゼウス「鋭い洞察力だな」

カナメル「似たような魔法を使う人がいるんでね」

ゼウス「常人の身体では筋肉が電気に負けてしまうが、この身体なら大丈夫だ。だがこれを使わなければいけない状況がやってくるとは想定外だな」

ゼウスは腕に刺さる炎剣カーマインを引き抜いた。

そしてそれをカナメルの足元へと放り投げる。

ゼウス「これは流石に効いたな。見事だ」

受け止めた左腕が肩まで真っ黒に焼け焦げていた。

カナメル「全てを懸けた一撃で、腕の一本しか持っていけないってか」

ゼウス「残念だが、まだ動く。王手だ」

ゼウスは黒焦げの腕を大きく回した。

カナメル「嫌な奴だな」

カナメルは地面に転がるカーマインを消滅させ、わざわざ空間から新たにカーマインを引き抜いた。

ゼウス「返さなくても取り返せたってわけか。お前も相当嫌な奴だな」

ピクピクと痙攣しているサチヨの手を握る。

ナイスファイトだ、あとは俺に任せろ。

そう言いたかったが正直勝算がない。

カナメルは勝算のない戦いはしない主義だが、今現在絶望的な戦いを行なっている。

誰一人として死人を出したくなかった。

誰かが死ぬのなら作戦中止、撤退で良いと思っていた。

しかし、この戦いになんの義理もないサチヨが今腕の中で黒焦げになっている。

カナメル「詰みか」

ゼウス「だな、悪くない戦いだった」

ゼウスは片手に雷を溜め、放出した。

眩い雷光が目の前まで迫る。

まさか自分が死ぬことになるとは思っていなかった。

後は頼んだよ、ツグル。

心の中で呟いた。

その時、猛スピードで何かが目の前に割り込んで来た。

ブルン、、ブンブン!!!

大量の排気ガスを吐くモンスターマシンに跨るその男の顔は知っていた。

カナメル「話したことはないだろうけど、助けてもらって悪いね」

雷を反射する特殊なシールドを展開し、男は煙草を吸っていた。

ネギッチャ「ツグルのダチか?だったら助けて正解だったな。突然で悪いが俺はこのゼウスとかいうクズに個人的な恨みがあんだ。助けた礼として手を貸せ」

反乱軍のアジトで見かけたことがある。
彼は反乱軍のリーダーであるネギッチャだ。

カナメル「へぇ~奇遇だね、俺もあの人には個人的な恨みがあるんだ」

ネギッチャは煙草の煙を吐き、カナメルへと問いかける。

ネギッチャ「お前、煙草は吸うか?」

ネギッチャは煙草をカナメルへと手渡す。
カナメルはそれを拒否した。

カナメル「吸ったことないよ。デメリットしかないもの」

ネギッチャ「そうか」

雷光が消え、ゼウスの姿が見えた。

ゼウス「誰かと思えば、反乱軍の若造か」

ネギッチャ「殺したはずの神様がのうのうと生きているという噂を聞いてな。また殺しに来てやったんだ」

ゼウス「あの時の俺と同じだと思わない方が良いぞ」

噂で聞いたことがある。
ゴッドタワーの最上階でゼウスを倒したのはこのネギッチャという男だった。

カナメル「奴の言う通りだ、舐めてかからない方が良い」

ネギッチャの表情は変わらない。

そしてハッキリと言い切った。

ネギッチャ「この日のために、出来うる準備は全てしてきた」

ネギッチャは煙草を吐き捨て、大きなショットガンを構えた。

ネギッチャ「もう語ることはねぇ、やるか」

ゼウス「おう、かかって来い」

ネギッチャのことを警戒しているのか、ゼウスは帯電状態を解かない。

ブルンブルン!!!!!

モンスターマシンはネギッチャの心に応えるように叫ぶ。

シールドを張りながら、ネギッチャは猛スピードでフィールドを駆け回った。

ゼウスも目にも止まらぬ速度で駆け抜ける。

カナメル「諦めるのはまだ早いみたいだ」

カナメルはサチヨを物陰にそっと寝かせて、立ち上がった。











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