神殺しの怪物と六人の約束

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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決戦のグレイス城編

第185話 心は無意味か

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大庭園にて。

カナメルは鳳凰を召喚し、空中を飛び回っていた。

ゼウス「いつ秘策とやらを見せてくれるんだ?」

カナメル「お楽しみにってことで」

とはいえそんなものはなく、ゼウスに対抗しうる術は朱雀の炎を吸収した炎剣カーマインで心臓を貫くしか方法はない。

鳳凰の口元に圧縮された魔力の塊が集まる。

そしてそれが大きなビームとなりゼウスに向かって放たれた。

ゼウスはそれを避けることなく、両手で受け止める。

その手から煙が上がっている。

ゼウス「熱いな、これは効いた」

カナメル「ちょっとした火傷で済むような技じゃないんだけど」

鳳凰の光線はヘイスレイブ国王であるマキニウムの黄金の盾をも突き破った。

カナメルがもつ魔法の中でも屈指の破壊力をもつ魔法である。

ゼウス「これが秘策か?確かにこれは避けた方が良いかもしれないが、これが秘策だとしたら拍子抜けだな」

カナメル「まぁまぁ、気長に待ちなよ」

うまく懐に潜り込んで炎帝ディアナを繰り出すにも、ゼウスの雷撃の方が速い。

本気を出せば、今でさえ一瞬で焼け焦げにする事が出来るのだろう。

それをしないのは真の強者の余裕か。

その時、大庭園の入り口に一人の女性が現れた。

見覚えのある顔にカナメルは驚く。

カナメル「なんであんたがこんなところに?」

フォールドーン帝国製の軍服に身を包んでいるのは元帝国のNo.2である大将サチヨだった。

サチヨ「よ!久しぶりだね~炎のマント」

カナメル「まさかあんたが来るとは思ってなかったよ」

サチヨ「トゥール君にはちょっとした借りがあるんでね。あの時はビビってゼウっちゃんと戦うことを選ばなかったけど。今回は違う!私は大将として我が皇帝を討つ。それが散っていった部下やマスターリョウへの償いになる」

グルグルパーマのふざけた容姿だが、その表情には確固たる決意が見て取れる。

カナメル「ふーん、、、んで、一人追加になるらしいけど良いの?ゼウっちゃん」

カナメルは小馬鹿にしたように質問をした。

ゼウス「これで少しは楽しめそうだな。まさかこの援軍がお前の秘策か?」

カナメル「かもね」

願ってもない援軍にカナメルの心は踊っていた。

カナメル「お手並み拝見といこうか、大将」

サチヨ「もう大将じゃないよ。サチヨと呼んでおくれ」

カナメル「ゼウっちゃんに因んで、サッちゃんとでも呼んでおこうか」

サチヨ「お!良いねぇ」

カナメル「良いんかい。。」

ゼウス「どうでも良いが、そろそろ本気を出させてくれねぇか?飽きてきたところだ」

肩を鳴らすゼウスへサチヨが問いかける。

サチヨ「ゼウっちゃんはさ、国をどう思う?フォールドーンにも沢山の人が生きていたんだよ。実際のところ私達兵士や民衆のことをどう思っていたの?」

ゼウス「どうって、何だ?俺にはその質問の意味が分からん。答えるとすればどうとも思っていない、だな」

サチヨ「幼い私を拾って、優秀な科学者達の中で育ててくれたことは感謝してるよ。でも昔からね、頭では味方だと分かっていても心がそうじゃないと言っていたんだよ。今のその言葉で私の心は正しかったんだと確信した」

ゼウスは腕を組み、首を傾げている。

ゼウス「お前の言うことはさっぱり分からん。そもそもとしてこの世には味方も敵もない、それぞれの思惑が交差しているだけだ、人は互いに利用し合っている。俺は軍事力を高めるためにあらゆるものを切り捨ててきた、だがそのおかげで国は守られ、民衆は守られている。犠牲のもとで生まれた新たな兵器のおかげでお前達兵士は戦争の中でも生きて帰ってくることが出来た。それはお前達が皇帝である俺を利用しているとも言えるんじゃないか?」

サチヨ「、、、、そうかもしれない、、けど、、そうじゃないよ!!私が言いたいのはそういうことじゃない!!もっと人に寄り添うことが出来たんじゃないの?ってこと!ゼウっちゃんは全てをシステムとか、歯車とか言って人の心を置き去りにするけどね。人には心ってもんがあるんだよ!力を手にしたから国を捨てたんでしょ?そんな皇帝なんていらないよ!」

ゼウス「強いモノが生き残る。生き残るために強い兵器が必要だった、だから科学者だった俺は兵器を沢山開発した。生き残るために強い国が必要だった、だから皇帝だった俺は強いシステムを構築した。この身体を手に入れた今、必要なものなどなくなった。その気になればお前達なぞ一瞬で殺せる。俺は強さの極地に至ったわけだ、今は本当に極地に至ったのかどうか実験段階だな。要は何が言いたいかって、心なんてモノは無意味だということだ。死んだら全てがおしまいだぞ?お前のその怒りもなかったことになるんだ。じゃあ感情なんてものは意味がないと思わないか?」

サチヨは首を振った。

サチヨ「心や感情が無意味なら、ゼウっちゃんは何のために生きてるのさ!!」

ゼウス「死なないために生きてるんだよ。実験段階として強くなるために強者を探している。だから今はあの怪しげなジジイに手を貸している。その事実があるだけで、何のためにと問われれば、やっぱり死なないために生きているとしか答えようがないな」

感情的になっているサチヨとは対照的にゼウスは終始冷静に淡々と語っている。

サチヨ「もう!!私は悔しいよ!!悲しいよ!!ゼウっちゃんのせいで死んでいった者達が可哀想だよ!マスターリョウや私の部下に優しい言葉をかけてよ。あなたの国で生きられて良かったって、言わせておくれよ!!」

サチヨは唇を噛み締め、地面を見つめている。
焼け焦げた花達が煙を上げていた。

ゼウス「言葉も意味がねぇだろ。お前は何も分かってないな」

すれ違う会話に割って入ったのはやはりこの男である。

カナメル「どっちの言い分も理解は出来るけどね。心が無意味かどうかっていう問題の答えは、これから出るんじゃない?」

涙ぐむサチヨが素直に問いかける。

サチヨ「どういうこと?」

カナメル「無意味に人を殺すような奴に対して、怒りという感情をぶつけようとしてる輩がここに二人いる。この怒りでゼウスを焼き尽くすことが出来れば、心や感情も無意味とは言い切れないんじゃない?」

サチヨ「、、、、どういうこと?」

ゼウス「さっぱり分からんな」

大庭園に沈黙が流れる。

カナメル「、、、、まぁ、簡単に言えば。。。俺とサッちゃんでゼウっちゃんを倒すことが出来れば、死んでいった者達を想った心も無駄じゃないってこと」

サチヨ「なるほど、そうかもしれないね!」

ゼウス「よく分からんが、さっさとかかって来い。実験開始だ」

カナメルは納得がいかないとばかりにため息をついている。

サチヨ「どうしたの?炎のマント。さぁ、二人でゼウっちゃんをやっつけるよ!!元気出して!!」

カナメル「、、、まぁいいや、楽しい共闘になりそうだし」

とは言うものの勝ち筋は未だ見えない。

カナメルの思考は止まることがなかった。



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