神殺しの怪物と六人の約束

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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決戦のグレイス城編

第182話 タケルの影

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トゥールとリョーガは互角の戦いをしていた。

トゥール「あーあ、マージで仕留めときゃ良かったよ」

リョーガ「本気出してないですよね?トゥールさん」

トゥール「いや、本気のつもりなんだけどなぁ」

リョーガ「先程までは殺意を感じましたが、時間が経つにつれて薄まっていますよ、あなたは詰めが甘い。人を信用し過ぎている。まさか俺を説得して仲間にしようなんて思ってないでしょうね?」

トゥール「占い師か何かなのか?別にそんなつもりはないけどさ」

リョーガ「言っておきますが、俺は甘くないですよ。このまま戦っていればきっと俺は負けます。あの褐色の少年もなかなかやるようですし、この二体ニは我々の負けで終わってしまうでしょう」

トゥール「やってみなきゃ分からないだろ。俺が言うのもおかしな話だけど」

リョーガ「いえ、分かりますよ。この世の中は簡単です、少し先の未来なんてものは見通せてしまう」

トゥール「そりゃすげぇな~俺は見えない未来が不安でしょうがねぇってのに。このまま戦えば俺とツグルはお前とフルネスを倒してしまうのか?」

リョーガ「おそらくね。だって殺そうと思えばいつでも殺せるんでしょ?本当は今だってそう出来るくせに」

トゥール「お、じゃあそうだとしてさ。どうせ負けるって分かってて戦うのは論理的じゃないんじゃないか?」

リョーガ「そうですね、このまま戦うのは論理的じゃない」

トゥール「俺は明日すら見通せないけど、先の未来がこうだったら良いなぁっていう妄想はしちゃうんだよなぁ。今俺と戦ってここで死ぬくらいなら、生きて俺の妄想に付き合う気はないか?」

リョーガは笑い出した。

リョーガ「だから、俺は甘くないと言ってるでしょう。きっと無の神を倒して平和な世界を作るとでも言うのでしょう?そんな未来は見通せてしまう。人が統治する世界はね、飽きたんですよ。どこまでも醜く、汚い。どんな聖人君子が大陸を治めようとそれは変わらないんだ。だから俺はいっそのこと神が統治する世界を信じようと思ったんですよ」

リョーガはどこか悲しげな表情をしている。

トゥール「お前も過去に色々あったタイプの人間か」

リョーガ「さぁ、どうでしょうね」

トゥール「醜さや汚さは消えないだろうなぁ~それが人間っていう生き物だ。本当に大切なものを大切にしたいと思いながらも、いつも選択を間違える。そして誰かを傷つけて、結局誰も救えずに破滅する。そういう物語を俺も知ってる。あ~あ神様、あんたなら正解を導けるんだろう?助けてくれよって何度も祈った、きっと皆そうなんだろうさ。神様が統治する世界も悪くないと俺も思うよ、本来そうあるべきなのかもしれん。でもさ」

トゥールは刀を鞘に納めた。

トゥール「間違いまくって初めて、本当に大切なものってのは見えるもんなんじゃないかって俺は思うんだ」

リョーガの目を逸らした。

リョーガ「あなたは何も分かっていない。人間という生き物は残酷だ」

トゥール「ああ、残酷だよ、それに皆心の奥底では利己的だろうさ。大切なものを守って、それが誰かの何かを奪うことになるかもしれないし、恨まれることになるかもしれない。ちょっとしたことで感情がブレて悲しみを怒りで放出して、二度と会えない人になるかもしれない。利己と利己がぶつかり合って死者を多数出す戦争が起こるかもしれない。きっとこれからも人間はそういうしょーもないことをやり続ける!!間違いないさ。でもそれが生きるってことだ」

リョーガ「そこまで分かっていてどうして人を信じられる!?」

トゥール「信じると決めているからだ」

トゥールは手を広げた。

トゥール「お前は悪い奴じゃないんだろ?」

リョーガ「、、、、人間は残酷だ。忠告しておく、刀を構えた方が良い」

トゥール「、、、、、」

トゥールは微動だにしない。

リョーガ「後悔しますよ。俺は甘い人間じゃない」

リョーガは懐から黒い石を取り出し、それを握りつぶした。

黒い光が空高く伸び、偽りの夜空を貫く。

トゥール「何をしたんだ?」

リョーガ「あなたに勝つ、そのための手段を行使した」

空に亀裂が入る。

BBの魔術によりグレイス城はこの城下町も含めて全てに転送魔術が施されている。

空に飛び立とうとしてもグレイス城内のどこかに転移されてしまう。

しかし今、転送ではなく空に亀裂が入り、何者かが侵入しようとしている。

リョーガ「BBさんの魔術で飛ばせるような物体じゃないんですよね。飛ばすなら神の力でも使わないと」

遂に空が裂け、一人の黒い影が侵入してきた。

その影は空中を蹴りながら素早くトゥールの元へと舞い降りた。

ユラユラと揺れるその装衣には見覚えがあった。

黒い影「、、、、、」

黒い靄のようなものがかかり、その姿は目視出来ない。

しかし腰の刀に手を添える居合の構えを見て、トゥールはハッとした。

トゥール「タケルさんか」

抜刀と共に迫り来る黒い斬撃をトゥールはギリギリのところで切り裂いた。

しかしその衝撃で次の一手が遅れ、黒い影が目の前まで迫っていた。

黒い影「、、、、、」

抜刀したままの黒い刀が胸の辺りに振り下ろされる。

後退して避けるが、その刀から物凄い風が溢れ出し、風圧でトゥールは吹き飛ばされた。

トゥール「爆風、、八海山か、、、、」

とてつもない風が吹き荒れ、風迅速が機能しない。

トゥールはそのまま後ろの扉を突き破り、ナイトロードから退場してしまった。

そして黒い影はトゥールを追うように扉の中へと姿を消した。







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