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分裂のトルコネ編

第137話 スナック・ラジーヌ

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計画実行日当日の朝。

ビーーーーーーー!!

リリは呼び出しブザーの音に起こされた。

リリ「はぁ、なんなの朝から」

盛大に寝癖をつけたまま、リリは扉へと向かう。

ガチャ

扉を開けると、そこにはズーマー博士がいた。

ズーマー「おはよう」

ねっとりとした低音がたった4文字を無駄に響かせる。

リリ「はいおはよう、朝から何ですか」

ズーマー「計画実行日だってのに、随分呑気な奴だな」

リリ「別に計画通りにやるだけなんだから、何も意気込む必要なんてないでしょ?」

ズーマー「まぁな、だが想定外のことってのは常に起こり得る。というわけでお前にこれを渡しに来た」

ズーマーは何やらスイッチのついた小さな装置を手渡した。

リリ「これは?」

ズーマー「計画通り、俺は研究ラボからお前の姿をモニタリングする。要するに飛び立つお前の側にはいないってことだ、もし何かしらの非常事態が訪れた時、そのスイッチを押せ」

リリ「押すとどうなるの?」

ズーマー「さぁな、それは押してからのお楽しみだ。俺の覚悟をそのスイッチに詰め込んでみた」

リリ「ふーん、今押してみても良い?」

ズーマー「良いけど、計画は台無しになるぞ?」

リリ「じゃあ押さない。わざわざどーもね~」

リリはそのまま扉を閉めようとした。

ズーマー「まぁ待て、今日でこの大陸とはおさらばだ。三日前に少々キツイことを言ったが、友人に最後の別れくらいはしておけよ?くれぐれも計画のことは内密にだが」

リリ「ああ、大丈夫。私友人なんて1人もいないから」

ズーマー「悲しい奴だな。まぁ、俺もだが。じゃあ今日の夜に例の場所で」

リリ「はいはーい」

ガチャン

リリ「友達ね~」

リリは1人の部屋で思考を巡らせる。

幼い頃からお世話になったフランさんと、何かと愚痴を聞いてくれたバビにはサヨナラを告げようかとリリは思った。



その日の昼過ぎ。



リリはスナック・ラジーヌへとやってきた。

開店前ということもあり、正面の扉は閉まっている。

幼い頃に父を亡くし、それから面倒をみてくれたフランさんは第二の父親みたいなものである。

成人になるまで、リリは整備工場の女性寮にいた。

それから一人暮らしをして数年、友達という友達もおらず、基本的には仕事終わりにスナック・ラジーヌへ。軽くお酒を飲んでから帰宅し、また日が昇ると出勤する毎日。

振り返れば、バビは唯一の友達と呼んでも良いのかもしれない。店の外で会ったことはないが、、、、

ガチャ

リリは裏口から店内へと入った。

バビ「お!!リリじゃん!!!!どうしたの?裏口から入っちゃって」

リリ「お、バビ~!!開店準備中かい?」

バビ「そうそう!!、、、、、あー、、なんか大丈夫?」

リリ「ん?何が?」

バビ「いや、ほら、三日前から来てなかったし。三日前にあの~、ほら、なんか深い話してたじゃん?」

リリ「あー大丈夫だよ。ちょっと体調崩しちゃってさ、有り余ってた有休でゆったりしてた」

バビ「なーんだ、そーだったの?フランさんなら奥にいるよ」

そうは言うもののバビの表情は晴れず、何かソワソワとしているように見える。

フラン「ん?リリの声がすると思ったら」

リリの声に反応したフランが奥から歩いてきた。

リリ「フランさん、おつ」

フラン「おつ。なんかあったか?」

いつもと変わらぬ表情でフランはリリの前へとやってきた。

リリ「いや、何もないんだけどね。夜まで暇だから寄ってみただけだよ」

フラン「そうかそうか」

リリ「・・・・・・」

フラン「ほぅ~」

フランはリリの顔を見て、試すように口を尖らせた。

リリ「、、、え、何?」

フラン「いや、ふと思い出してな。ちょっと待ってて」

フランは物置小屋へと歩いて行った。

バビ「あー、、、、あー!!!」

バビは何やら仕事をするフリをしながらリリのことをチラチラと見ていた。

リリ「どうしたん?」

バビ「リリは、どこかに行っちゃうの?」

リリ「え?」

バビ「三日前の話、嘘じゃないんでしょ?隠したって無駄だよ。私たち友達なんだから」

リリ「、、、、、、」

頭の中にズーマー博士の顔が浮かぶ。
絶対に失敗出来ないこの計画を口外することは出来ない。

リリ「、、、、友達って、良いね」

バビ「え?当たり前っしょ」

リリ「三十路の女の友情って、どーなの?」

バビ「やめて!!その言葉で考えるとしょーもな!!三十路の友情、ダサ!!」

リリ「わろた」

フラン「あら、なんか盛り上がってるね」

フランは大型のスナイパーライフルを担いできた。

バビ「え、ちょっとフランさん!!何それ!めっちゃウケるんですけど」

バビは何故か腹を抱えて笑っている。

リリ「でもマジで何それ、見たことないんだけど」

リリの脳にはズーマーが開発したあらゆる機械武器の構造が記憶されている。

その中にこんな大型のスナイパーライフルは存在しなかった。

フラン「これはお前の父さんが残した最高傑作のスナイパーライフルだよ。若い頃俺達は機械いじりが好きでね、誰にもバレないようにクソみたいな機械を朝までかけて作ったもんだ。その中でもこれは唯一と言っていいほどにパーフェクトな出来の機械銃だ。パーフェクト過ぎて、俺たちはこれを捨てることも出来ず、だからと言ってお披露目することも出来ず、ずっと倉庫に眠ったままだったのさ」

リリ「そうなんだ~」

フラン「これをお前にやるよ」

リリ「はいはーい、、、え?なんで?」

フラン「ん?いや、倉庫の場所とって邪魔だから」

フランはケラケラと笑いながらリリへと差し出した。

リリ「えー、そんな理由?、、、、ねぇ、これにさ。スナック・ラジーヌって書いてよ」

フラン「別に良いけど、俺の字で良いの?」

リリ「じゃあ分かった、スナックはフランさんで、ラジーヌはバビが書いてよ」

バビ「お!!良いね、任せて」

キュッキュッ

2人は順番に文字を書いた。

フラン「よーし、これで倉庫を広く使えるぞ~」

フランは倉庫へと消えていった。

リリ「よし!、、、、ありがとう」

バビ「え?ああ、うん!!夜に予定あるんでしょ?終わったら店に来なよ」

リリ「来れたら来るわ」

バビ「うわ、それ来ない奴のセリフじゃん!!」

リリ「そろそろ行くね!!んじゃ、おつっした」

リリは敬礼して店を出ようとした。

バビ「あ、、待っ」

バビの声をかき消すようにリリは扉を閉めた。




リリ「、、、、、ぐすっ、、、」

リリはスナイパーライフルを担ぎ、町外れの荒野を目指した。



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