神殺しの怪物と六人の約束

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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混沌の北ゲート編

第95話 サイラス

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ヤオウ大司教の横暴から数ヶ月。
人々は外の世界での生活に慣れてきていた。

そんなある日のこと。
サイラスがムーのもとへやってきた。

サイラス「俺に、魔法を教えてくれ」

サイラスの突然のお願いにムーは驚いた。

ムー「てめぇは十分に魔法を扱えているだろ」

サイラス「ダメだ、この程度のレベルじゃ意味がない」

ムー「変異体を殺し尽くすつもりか?」

サイラス「殺し尽くすのは合っているが、対象が違う」

ムー「というと?」

サイラスは一呼吸おいてこう言った。

サイラス「教団を潰す」

ムー「だとしたら、確かにその程度のレベルじゃ意味がないな」

教団に妻を殺されたサイラスの身になれば、復讐へと走るのも納得がいく。

サイラス「ムー、お前は俺よりも遥かに強い。炎術しか使えない俺には限界がある」

ムー「限界なんてないね。属性適正に縛られているからそんな凡庸な思考になってしまうんだ」

サイラス「俺は適正属性、無しの人間だ。最初に覚えることが出来た炎術をひたすらに鍛えてきただけさ」

ムー「そうだったのか。てっきり炎の適正属性があるのかと思っていた」

ムーはサイラスを誤解していた。
教団に決められた適正属性にしたがって、教団の中でのうのうと生き、教団の敷いたレールの上を進んだだけの凡庸な人間だと思っていた。

ムー「僕に教えられることがあれば教えてやりてぇところだが、僕は人に魔法を教えたことがない。マイカ姐さんを頼ると良い、あの人は僕よりも強い」

サイラス「そうか、分かった」

サイラスは駆け出した。

~~~~~~~~~~~~~~~~

マイカ「その復讐を達成することで、誰かが幸せになれるのかい?」

マイカの質問にサイラスは真顔で答える。

サイラス「俺の心が満たされる」

マイカ「きっと満たされないよ」

マイカは即答した。

マイカ「その復讐は、誰の心も救わないし、君の心も傷つけるよ。ただ人を殺したっていう罪悪感に襲われると思うよ」

サイラス「そんなことはない。教団に恨みを持つ全ての人の心を救い、俺自身はそこで初めて自由になれる。教団を潰すことには大きなメリットがある」

マイカ「うん、実際はやってみなきゃ分からない。でも私は協力することは出来ない」

サイラス「そうですか」

マイカ「私が教えられる魔法は一つだけ、必要であれば習得しておくと良いよ。大切な誰かを守ることが出来るかもしれないから」

マイカは一枚の紙をサイラスへ手渡した。

サイラス「ありがとうございます」

サイラスは背を向けて歩き出した。








ムー「強くなるのに正当な理由が必要か?」

不意の声がけにマイカは振り向いた。

マイカ「あらムー、盗み聞きなんてらしくないじゃない」

ムー「たまにはらしくないこともしなくちゃ面白くないだろ?話を戻すが、強くなるのに正当な理由が必要か?」

マイカ「魔法っていうのはさ、人の人生を変えてしまうほどの力を持ってるんだよ。だからこそ出来るだけ、出来るだけさ、綺麗な心を持った人が使うべきだと思うんだ」

ムー「僕の心は綺麗だという認識で間違いないか?」

マイカ「うん、間違いないね」

ムー「ふん、、、、サイラスが教団に恨みをもつのは必然だ。僕の意見としては彼は強くなるべきで、教団は彼に潰されるべきだ。それに関して僕は興味ないが、サイラスにとっては意味のあることだと思う」

マイカ「うん、分かるよ、分かるけどね。今の彼に教えられることは何もない」

ムー「そういうものなのか」

マイカ「そういうものなの。あくまでも私はね。ムーはムーの思ったとおりにやれば良いんだよ」

ムー「そうか、、、、、僕はやっぱりサイラスの想いを無視することは難しい。やれるだけやってみる」

マイカ「それで良いと思うよ。さて、私は見回りに行ってくるね」

マイカはスキップをしながら家を出た。

ムー「さて、僕は指導プランを練ろうか」



~~~~~~~~~~~~~

翌日

ムー「サイラス、これを見てくれ」

ムーは一枚の紙をサイラスへ手渡した。

サイラスはその紙に目を通し、目を見開いてムーを見つめる。

ムー「見たら分かると思うが、最強の魔術師になるための手順を記載しておいた。大まかに分けて三つのステップからなっている。魔術総量の上限突破や基礎的なことは、もう既に炎術Sランク相当のてめぇには不必要だと判断して省いてやった。そのうえで一つ目のステップは五属性全てをSランクまで使えるようになること。それが出来れば二つ目のステップだ。属性を掛け合わせて融合系、派生系の属性の開発と性質変化をマスターしてもらう。そうすることで元の五属性は洗練され、尚且つ術のバリエーションが段違いになる」

サイラスの目に闘志が宿っているのを感じ、ムーは少しだけ嬉しかった。

ムー「三つ目のステップは裏属性の習得だ、これは僕もまだ到達出来ていない」

サイラス「裏属性とはなんだ?」

ムー「正直なところ分からない。だが存在する、僕は裏属性の魔法を意図せずに使ったことがあるから存在は確かだ」

サイラス「楽しみだな」

サイラスは笑った。

ムー「笑えるのは今のうちだ、僕はせっかちなんでね、ステップ1は十ヶ月で突破してもらう。本気で強くなる気なら、、、、」

ボォ!!

サイラスはその紙を燃やしてしまった。

サイラス「全て暗記した、よろしく頼む、師匠」

ムー「ふん、先生と呼べ」


ムーはこの時、この選択が最悪の事態を招くということを知る由もなかった。

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