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フォールドーン帝国編
第84話 ムーの賭け
しおりを挟むムーが魔法を発動すると、無の神の足元から巨大なトルネードが姿を現した。
渦の中では切れ味を最大限に高めた風の刃が荒れ狂う。
無の神「即座にこのレベルの魔法を発動するとは、流石は死の大陸ブルーフォレスト出身の魔術師と言ったところか」
風の刃は無の神をすり抜け、巨大なトルネードは徐々に小さな渦へと姿を変え、消えていった。
ムー「やっぱり魔法攻撃は身体に当たらずに消滅するんだな」
言い終えるのと同時に次は無の神の足元の大地が本のようにパタンと閉じ、無の神を挟んだ。
常人であればペシャンコになり、跡形もないはずである。
やはり無の神は畳まれた大地からヌルッと幽霊のように姿を現した。
ムー「物理魔法は当たらずすり抜ける、闇魔法の一種か、だが闇魔法にはデメリットが存在する、繰り返し発動させれば」
無の神はムーの言葉の途中で笑い声をあげた。
無の神「そうじゃ、闇魔法は強力かつ不条理な効果を発揮する反面、使用者の肉体や記憶、感情を蝕む。しかし膿は長年生き、そのリスクを回避する術を身につけておる」
ムー「闇魔法のデメリットを回避する術があるのか?僕もまだまだ学びが足りないみてぇだな」
ムーは言葉を交わしながらも、次の一手の準備を進めていた。
属性魔法は消滅、中でも鉄や大地、風の刃などの物理魔法はすり抜ける。
やるしかねぇな
ムーの周りに黒い魔力が渦を巻く。
無の神「ほう、また肉体を犠牲にするか、それとも記憶か?はたまた感情の欠落か?さて、何を失うかのぅ」
無の神は楽しそうにムーのことを見ている。
ムー「自分の中で何を失ったって、もはや何も惜しくはねぇよ」
空に大きな黒い空間が広がる。
その空間は民家を巻き上げ、全てを吸い込もうとする。
無の神「ブラックホールか」
ムー「大きなリスクを払って、実体の無いてめぇも吸い込むように細工してある」
ブラックホールの強力な吸引力で地割れを起こし、床のコンクリートが浮き上がる。
しかし、無の神の身体が浮き上がる様子は見られない。
無の神「実体の無いと言ったな、膿は幽霊ではない。実体はしっかりとここにある、無駄なリスクだったのぅ」
ムーが動かすことの出来る唯一の手が黒く染まってゆく。
ムーは舌打ちをし、闇魔法を鎮めた。
ブラックホールは閉じ、浮き上がっていた鉄屑が落下する。
無の神「人形じゃ、膿には勝てぬ」
ムー「それはどうかな」
グサ!!
無の神「なんじゃと、、、」
無の神の胸に、黒い剣が刺さっていた。
無の神「これは、、、なんじゃ、、」
ムー「とある怪物から吸い上げた魔力を実体化してみた、かなりの量を吸い上げたはずだが、こんな頼りない剣一本しか精製出来なかったよ」
無の神「ほう、、マイケルの秘密兵器か」
無の神は悔しそうに黒い剣を引き抜く。
ムー「闘技場で、てめぇの黒い手に囚われても自我失しなかったあいつは、やっぱり神殺しになり得ることが今証明されたな?」
無の神「攻撃が通るとして、あの小僧が膿に勝てると思っているのか?」
ムー「侮るなよ、あいつはまだまだ強くなる。僕の教え子は皆優秀なのさ」
無の神「ふ、戯けが」
無の神は闇魔法を行使すると床から黒く大きな針がムーの心臓を目掛けて伸びる。
速い、、!!!
ムーは咄嗟に闇魔法を行使し、一瞬時間を止め、微かに身体の向きを変えた。
避けきれずに黒い針がムーの肩を貫いた。
立て続けに何本も黒い針が伸び、一瞬でムーは蜂の巣になった。
しかしそこにムーはいなかった。
無の神「闇魔法を使い過ぎだ、顔が黒化すれば喋れなくなるぞ?」
無の神の後ろにムーはいた。
無の神「空間転移の即時強制発動。大きなリスクを払ったのぅ」
しかしムーの身体の黒化は進行していなかった。
無の神「感情の欠落か、記憶の忘却か、、、肉体の黒化以外は何を失ったのか確認する術が無い」
ムー「何でも良いさ、感情なんてあってもなくても良い。おそらく喜びやら悲しみの感情は既に欠落しちまってる。記憶はテメェに囚われて失ったしな」
無の神「記憶が欲しいか?死ぬ前に返してやっても良いぞ?」
ムー「別に興味は無い。僕は未来しか見ないと決めている」
無の神「マイカの死を乗り越えたか」
ムー「マイカ?、、誰だそれは」
そうは言ったものの、心の内から知らない感情が湧き上がる。
無の神「お主の黒化のほとんどは、そのマイカという女性を助けるために使ったリスクじゃよ」
ムー「事実だろうがハッタリだろうが、覚えてねぇからなぁ」
全く記憶にない、それなのに、胸の奥が締め付けられる。
知らない感情に戸惑っていると、目から涙が溢れて来た。
無の神「クックック!!泣いておるではないか、お主は自分を犠牲にし過ぎた、そろそろ眠るが良い」
腕が動かない、涙すら拭えない。
知らない女性の名前を聞いて、涙が溢れ続ける。
しかし、溢れているのは涙だけではなかった。
全身からゆらゆらと溢れ出るのは紫色の不可思議なオーラである。
無の神「そうじゃ、お主もオーラ所持者であったな」
ムー「らしいな、だが何も変化はないようだが」
無の神「紫のオーラ、変幻自在の魔力と言われておる」
ムー「変幻自在の魔力?」
無の神「魔法の行使は基本的に魔力総量内の魔力を支払うことによって成り立つ、魔力総量を超えた場合は魔法は使えない。それに魔法というものは万能ではなく、不可能なことばかりだ。その二点を可能にするのが闇魔法である。しかしそれを扱うリスクは、言うまでもないな」
ムー「ふん、魔法学校の一年生の授業か何かか?」
無の神「否、紫のオーラは不可能を可能にするという点では闇魔法の行使に似ておる。しかしながらリスクとして賭けられるものすら自分で操ることが出来る」
ムー「なるほどな」
ムーは魔法を発動した。
灼熱の風を巻き起こし、無の神を包んだ。
しかし、鉄屑達は燃えるどころか、凍結した。
ムー「こういうことも出来るってわけだ、ちなみに今は魔力総量内で支払いを済ませてある」
無の神「ほう、良き発想じゃ。紫のオーラは珍しいわけではない。しかし、使いこなす者を膿は見たことがない。大概のものは都合が良すぎる魔法を使い、リスクを計算出来ずに自害するか、全く活かせず生涯を終えるか。。。」
ムー「確かに、使い方を間違えれば自分の魔法でくたばっちまうこともあるわけだ」
無の神「さて、追い詰められた者が次にとる行動は見ものじゃな」
ムー「せっかくの力だ、上手く使ってやるよ」
無の神「くれぐれも自害しないように」
ムー「リスクの計算は、闇魔法を使いまくっている僕にとっては簡単なものだ。紫のオーラを使うにあたって僕ほどの適任者はいないんじゃないか?」
紫のオーラがムーを中心にぐるぐると回り出す。
ムー「ちなみに聞くが、今までにリスクとして意図的に自分の命を差し出した輩はいたか?」
無の神「流石にいなかったのぅ、皆意図せずに死んでいったよ」
ムー「そうか。良いことを思いついたんだ」
無の神「ほう?」
無の神はワクワクした様子でムーの言葉を待っている。
ムー「人の身体を乗っ取ることが大好きなてめぇの身体を、乗っ取ることが出来たら、、、面白いだろうなぁ」
無の神「、、、ほう、、」
無の神の表情が曇り出す。
無の神「そんなこと、出来るわけがなかろう」
ムー「不可能を可能にするのが紫のオーラなんだろ?」
無の神「そんな凄技に賭けられるリスクなどありはしない、身体が耐えられずにあの世行きじゃ」
ムー「賭けたものは残っている膨大な魔力量と、この身体だ」
無の神「残念ながら、お主は死ぬぞ?」
ムー「僕の価値を見誤らないで欲しいね」
ムーが魔法を発動すると、紫のオーラが一帯を包み込んだ。
無の神「ぐ、、ぐぁぁぁぁあ!!!!!!」
紫のオーラは無の神の鼻へと吸い込まれ、無くなった。
そこにムーの姿はなかった。
無の神は自分の掌を見つめ、ニヤリと笑った。
無の神「クックック、、、、愚か者よ、惜しい友を失った」
無の神は転送魔法でその場から消えた。
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