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フォールドーン帝国編

第76話 ネギッチャの真実

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髑髏山地下坑道を抜け、薄暗い下水道を駆け上がると、そこは煙がもくもくと立ち昇るフォールドーン帝国の路地裏だった。

機械の油とゴミで敷き詰められた川がユラユラと流れている。
その横をネギッチャのバイクは駆け抜ける。

ツグル「本当にフォールドーン帝国の中に入ることが出来たんだな」

ネギッチャ「当たり前だろ?」

ツグル「さっきから銃声が鳴り響いているけど、俺たちの侵入はバレているのか?」

ネギッチャ「いや、バレちゃいない。おまけにこの路地裏からゴッドタワーまでは手薄な手筈だ」

ツグル「手筈?」

ネギッチャの言う通り敵兵の姿はほとんど見かけず、ポツリポツリと倒れている兵士がいるだけだった。

ネギッチャ「ツグル、お前にはちゃんと説明をしなければならない。この戦いは全て、俺が仕組んだものだ」

ツグル「どういうことだ?」

ネギッチャ「お前を信じて正直に全て話そう、実はフォールドーン帝国に侵入しているのは俺たちだけではない」

ツグル「???」

ネギッチャ「お前の仲間は全員来ているはずだ」

ツグル「なんだって?」

トゥール達が帝国に戦いを挑むとしても体制を整えてからになるとツグルは思っていた。

ネギッチャ「俺は最初から一人のサイボーグと共謀していたんだ。名はハヤシ。奴は元々髑髏山出身で子供の頃からの俺の友達だ。ゼウスを倒すため自らサイボーグ手術を受け、見事にサイボーグとなった。マスターリョウ、アイザワに次ぐ最強のサイボーグとなったんだ」

遠くに見えるゴッドタワーへとフルスロットルで近づいていく。

ネギッチャ「俺は帝国の全ての情報をハヤシから聞いていた、ゼウスを倒す機会を何年も窺っていた。そんな時、再生の女神がスラム街にやってきた。相当な手練れを引き連れて、だ」

トゥール、ムー、タクティス、フルネス将軍、カナメル、、、確かに相当な手練れであることは確かだ。

ネギッチャ「このチャンスを逃すまいと、俺はハヤシと作戦を立てた。そしてあの夜、帝国に再生の女神を誘拐させた」

ツグル「!!!!」

思わずツグルはネギッチャの背を飛び降りる。
ネギッチャもその場にバイクを停め、じっとツグルを見据える。

ツグル「お前のせいでセリアは危険な目に遭っているということか」

ネギッチャ「そうだ、それは間違いない」

ツグル「、、、、、そうだとすれば、俺はお前を許すことが出来ない」

ネギッチャ「だろうな。だが、言い訳に聞こえるかもしれないが、ゼウスを打ち負かし、再生の女神を助ける予定だ。それは当初から、今も変わらない」

ツグル「信用出来るわけないだろ、そんな都合の良い話があるか!!」

ツグルは静かに短剣へと手を伸ばす。

ネギッチャ「俺はトゥールからお前たちの戦術、戦力、全てを聞き出した。あの夜だって出来るだけ被害が出ないように最も強いであろうトゥールとムーを帝国の門の前へ飛ばし、時間を稼いだ。あえて砂嵐の夜に決行したのもそのためだ、出来るだけ血を流さずに迅速に再生の女神を誘拐するためだ」

ツグル「そんな気遣い、無意味なんだよ!!」

ツグルは足を黒化し、猛スピードでネギッチャへと襲いかかる。
ネギッチャもアクセルを入れ、急速にバイクを走らせる。

それでも背後をとったツグルはネギッチャの首を狙って短剣を振りかざす。

ツグルの動きに驚きながらもネギッチャは防護シールドを起動し、透明の膜がツグルの攻撃をガードした。

ネギッチャはすぐにショットガンを構え、引き金を引いた。

ツグルは腕を翼の形に変形させ、黒化による硬質化を試みる。
翼で正面を覆い、ネギッチャの強力なショットガンを受け止める。
反動で飛ばされ民家の壁を突き破り、煉瓦がボロボロと崩れ落ちた。
砲弾を受けたかのような衝撃にツグルは驚いた。

あの巨大なショットガンをこの翼以外で受けたら即死だった。

ツグルの頭から汗が噴き出る。

外からネギッチャが語りかける。

ネギッチャ「当初の予定では、焦るお前たちを煽り、全員で帝国に戦いを挑ませ、ハヤシの力でお前達を所定の位置へ飛ばし、帝国との戦いを拮抗させる。その隙に俺は単身でタワーを駆け上がり、ゼウスにタイマンを挑む。ゼウスを倒した後はお前達の誰かが再生の女神を救い出すはずだった」

ツグルは瓦礫を押し退け、ゆっくりと立ち上がる。

ツグル「帝国との戦いを拮抗させると言ったが、それは俺たちの匙加減によるんじゃないか?ネギッチャ、お前はゼウスにタイマンで勝てる保証はあったのか?その予定は不確定な要素が多すぎるだろ」

ネギッチャ「ああ、確かに不確定なことだ、部外者であるお前たちを信頼しなければ為し得ない計画だ。ゼウスを倒すのはお前たちがスラム街に来るまでは不可能だった、だがお前達の仲間に腕の良い技術者がいた、ゼウスを殺す兵器が完成した。それと今まで何度も何度も何度も繰り返し行ってきた戦闘シュミレーションを繋げば、ゼウスを倒すことが出来る。これは確定的だ」

ツグル「トゥールの話が嘘で、俺たちの戦力が想像よりも低かった場合はどうするつもりだったんだ?」

ネギッチャ「俺はこの数ヶ月、お前達をずっと見ていた。懸命に働く者達、強くなろうと必死な者達、優しい心を持った者達。信頼するには十分過ぎる光景だった。何よりもトゥールはそんな小細工をするような男じゃない、奴は潔く、誠実な男だ」

ツグル「そんな俺たちを利用することに罪悪感はなかったのか」

ネギッチャ「あった。もちろんあった。だがな、俺は大切な人を失い過ぎた、もう失うわけにはいかない。それにこの作戦は成功しようが失敗しようがハヤシの死は、、、、免れない。友の死を無駄に出来ない。どんな手を使ってでもゼウスを倒し、大勢の命を、これからのフォールドーンを救う必要があった」

ツグル「、、、、俺たちはそのための犠牲か」

ネギッチャ「だから、拮抗するように戦力を分散させた。出来るだけ、誰も死ぬことのないように」

ツグル「そんな優しさが何になる!!もしそれで仲間が死んだら、俺はお前を殺してやる」

ネギッチャ「好きにしろ、この作戦が成功するとき、俺はこの世にいないからな」

ツグル「何だと?」

ネギッチャの言葉にツグルは顔をしかめる。

ネギッチャ「ゼウスは超合金アーマーを纏っている。それはあらゆる攻撃を無力化する最強の鎧だ。それを剥がせたとしても、奴自身が人体実験により硬質化した皮膚を纏い、あらゆる銃弾を無力化する。奴を貫き、確実に殺すためにはこっちもそれ相応の武力を用意するしかない。確定的に奴を殺すことが出来る武器は完成したが、その代償は使用者の死だ。だが俺はそれでも良い、俺は死んでいった者達への、ハヤシへの、反乱軍のあいつらへの、責任を果たす」

ツグルはネギッチャの覚悟に、心を揺さぶられる。
セリアとトゥール達を利用し、この戦いを引き起こしたネギッチャのことを許すことは出来ない。
しかし、全てを一人で背負い、自分の命と引き換えに大切なものを守ろうとする彼を間違っていると否定も出来ない。

今までのツグルならば、セリアに危険を及ぼす者は全て敵だった。

ネギッチャとの出会いがツグルに変化をもたらしていた。

ネギッチャ「誤算があるとすれば、帝国がセリアと風貌の似ているネアを誤って共に誘拐してしまったことだ。それにより焦るお前達を煽る前に、俺自身が焦って飛び出してしまった。ハヤシの盗聴器を聞く限り、お前達が門の前にやってきたことを聞き、作戦の変更はせずに済んだ。もう一つ、当初の予定に無かったことといえばツグル、お前が一人でスラム街を飛び出して行ったことだ」

ツグル「ネギッチャと同じだ、セリアが誘拐されたと知り、居ても立っても居られなくなったんだ」

ネギッチャはタバコに火を付けた。

ネギッチャ「結果的に今のところ作戦に影響はない。どうなろうと俺の作戦に変更はない、このまま俺に挑むのであれば、俺はお前を殺すしかない。だが出来れば戦いたくない、俺はお前のことが嫌いじゃない」

確かに、ツグルもネギッチャのことを嫌いにはなれなかった。恨むことも出来なかった。

ツグル「セリアを助け出せなかったその時は、ゼウスを殺した後にあんたを殺しても構わないか?」

ネギッチャ「さっきも言ったが、ゼウスが死ぬ時は俺が死ぬ時だ。俺の屍は好きにしやがれ」

ツグル「ゼウスを倒してあんたを生かす。そしてセリアもネアも助ける。仲間達も誰も死なずに生還させる。理想だが、もしそうなった場合は一発殴らせろ、それでこの件については許してやるよ」

ネギッチャ「ふっ、、、悪くねぇな。その時は一発と言わず、気が済むまで殴れば良い」

ツグルは再度ネギッチャのバイクに跨る。

ツグル「仕切り直しだ」

ネギッチャ「これが男の友情ってやつだ」

バイクは一直線にゴッドタワーを目指す。




グングンとゴッドタワーが大きく見え、もはや頂上は雲の上である。

ツグル「どうやって中に入るんだ?」

ネギッチャ「良いことを思いついた、中に入らない」

ツグル「は?」

ネギッチャ「翼を広げろ、ツグル」

ツグルは言われた通りに腕を翼へと変形させる。

ネギッチャ「超絶フルスロットルで行くぞ」

ツグル「え?」

ネギッチャはそのまま前輪を持ち上げ、タワーの外壁と平行になるようにタイヤを近付ける。

壊れそうな機械音が響き渡るとバイクはタワーの壁を走り出した。

ツグル「うわぁあ!!!何してんだよ!!」

ネギッチャ「翼でバランスを取れ!!浮力が弱い時は羽ばたけ!!」

ツグル「無茶言うんじゃねぇよ!!」

ネギッチャ「無茶じゃねぇ、このモンスターバイクの力はこんなもんじゃねぇぞ?それにお前の翼がありゃ、どこまでも行けるってもんだ」

タワーの中腹あたりまで登ってしまい、意を決したツグル。

ツグル「落ちるか登るかなら、、、もう登ってやるよ!!」

二人を乗せたバイクは雲の中へと入って行った。
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