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フォールドーン帝国編

第70話 大将サチヨ

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北ゲートを爆破し、機械街へと入り込んだカナメルは優雅に中央通りを歩きながらゴッドタワーへと向かっていた。

カナメル「敵兵が全く見当たらないのは、南ゲートで暴れてる誰かのおかげか。または北ゲートの外にいるタカを過信しての采配か?」

遠くで銃撃音が鳴り響いてはいるものの、カナメルの歩く北機械街には異様な静けさが漂っていた。

カナメル「まぁ、いいか。魔力は温存しておきたいし」

モクモクと煙をあげるこの街の空を見上げ、睨みつけた。

この先にそびえ立つあの塔から神の裁きが放たれた、そして故郷と大切な人を失った。
それなのにこの街の人々は研究を続け、更に恐ろしい兵器を生み出そうとしている。

カナメルは両手に炎を灯した。

今ここでこの街に裁きを下せば、北機械街は火の海となる。

カナメル「、、、、、ふっ」

いや、誰も悪くない。

ひとつ悪いものがあるとすれば、それは当時無力だった自分である。

そう思い、カナメルは両手をポケットにしまい、寂しそうに鼻で笑った。



「おっと、ここから先は行かせられないよ!」



咄嗟に前方から声をかけられ、カナメルは歩みを止める。

そこにはグルグルとパーマがかった髪型の若き女性が立っていた。

カナメル「へ~、ここで会っちゃうんだ」

実際に対峙するのは初めてのことだが、カナメルとその女性は互いに面識があった。

サチヨ「フォールドーン帝国大将サチヨです。君はヘイスレイブの炎のマント、カナメル君で間違いないかな?」

カナメル「そうだと思うんなら、そうなんじゃない?」

サチヨ「うわ、何その言い方。噂通りの捻くれ者みたいね」

カナメル「そんなことが噂になるなんて、フォールドーンには暇人が多いんだね」

サチヨ「ブラックジョークも程々にね。確かに私は暇してたけどね。だから、君が来てくれて良かったよ」

カナメル「暇つぶしに付き合ってる暇は無いんだけど」

サチヨ「そんなこと言わずにさ~噂通りの魔法の腕前、披露してよね?」

サチヨは左手にラッパのような形のピストル、右手に警棒を持ち出した。

カナメル「見世物じゃないんだけどなぁ」

そう言いながらも両手に炎を灯し、炎の小鳥達を空へと放つ。
心奪われる情景にサチヨは感嘆の声をあげる。

サチヨ「凄い!!私も負けてられないね!」

サチヨはラッパ銃から燃え盛る球体をいくつも撃ち出した。

球体はゆっくりと空中を浮遊している。

サチヨ「せーのっ!」

サチヨの合図でそれらは膨らみ、大きな球体となった。

フォードーン帝国にて魔法を使うことが出来るのは皇帝ゼウスと大将サチヨのみである。

カナメル「ヘイスレイブの魔術、見せてあげるよ」

カナメルの合図で鳥達が一斉にサチヨに向かって飛翔した。

しかし球体に触れた火の鳥は溶けるように球体に吸収されていった。

何とか球体をかわしてサチヨの元に辿り着いた鳥達が爆発しようとしたその時。

サチヨが警棒を振り回すと、それは熱線の鞭となって火の鳥達を切り裂いた。

カナメル「、、、、、」

正直カナメルは驚いた。

何故ならカナメルの火の鳥の身体は炎で出来ており、触れた瞬間に爆発するように出来ている。

それを溶かしたり切ることは物理的に不可能である。

例え何でも切れる剣があったとして火の鳥を斬ったとしても、それは爆発するだけで切ることは出来ない。

カナメル「見たことのない魔法だ、教えてくれなくても良いけど一応聞くよ。あんたの魔力は属性魔法の分類では火に属するのかい?」

カナメルの問いかけにサチヨは困った表情をしていた。

サチヨ「うーん、ごめん!属性魔法とか変質魔法とか本で読んだことがあるだけで、全然分からないんだ」

カナメル「いや、あんた実際に今魔法使ってたでしょ?それが何属性なのかくらい分かるだろ」

サチヨはモジャモジャ頭を掻きながら答えた。

サチヨ「分からないんだよ~!!魔法が使えるように本を読んだり鍛錬もしてみたけど使えなかった。けど魔力が宿っていることは何故か確信していたんだ。だから私の魔力を放出するこのピストルとこの鞭を開発してもらった。それだけなんだ」

ごめんよ、と手を合わせるサチヨ。

話をしているうちに燃え盛る球体が民家の鉄の壁に接触した。

すると鉄の壁は燃え出した。

慌てたサチヨは鞭を球体に伸ばすと、鞭の先端が球体と融合し、魚を釣るように球体を引っ張った。

サチヨ「ああ!!やってしまった!!」

頭を抱えるサチヨを他所に、カナメルは球体が触れた鉄の壁を眺めていた。

触れた場所が丸く溶けて無くなっていた。

カナメル「、、、、とんでもない魔力だ。あんな一瞬で鉄が溶けてしまうなんて」

鞭から球体を吸収して、ホッと一安心をするサチヨ。

カナメル「あんたがヘイスレイブにいなくて、良かったよ」

カナメルはありったけの火の鳥を放出し、あらゆる角度からサチヨに攻撃を仕掛ける。

それを見たサチヨの表情は引き締まる。

サチヨはピストルから球体を出しながら軽い身のこなしで鞭を振り回し、球体と球体を融合させながら火の鳥を溶かし、カナメルの元へと駆け出す。

火の鳥は一羽たりともサチヨに触れることは叶わず、無惨にも溶けていった。

カナメルの前までやってきた頃には、鞭の先の燃え盛る球体はとんでもない大きさになっていた。

焦ったカナメルは仕込んでいた魔法陣を起動する。

するとサチヨの足元から火柱が上がり、サチヨは火ダルマになる、、、予定だった。

魔法陣の起動を直感で察知したサチヨはすぐさまピストルを地面へと向け、地面を熱で溶かした。

忍ばせていた数羽の火の鳥が奇襲を仕掛けるもサチヨは巨大な球体で全てを溶かす。

迫り来る巨大な球体がカナメルの手の届くところまでやってきた。

カナメル「く、、エンハツ!!!」

触れる寸前でカナメルはその場で跳び上がり、エンハツの爆風で球体との距離をとった。

カナメル「炎槍!!」

すぐに大きな炎の槍を生成し、撃ち放つ。

巨大な球体を盾にサチヨは迫り来る。

このままだと炎の槍は鳥達同様に溶けてしまう。そんなことは分かっていた。

カナメル「第二詠唱、爆散」

カナメルの詠唱と共に炎の槍は球体に触れる前に爆発して消えた。

集中状態で辺りを警戒するサチヨ。

カナメル「第三詠唱、結合」

爆散した炎の槍は消えたように見えてサチヨの周りを漂っていた。
それらは結合しいくつもの小さな槍となる。

気づいた時にはサチヨは炎の槍に囲まれていた。

サチヨ「やばいっての!」

カナメル「詰みだ」

しかし、炎の槍がサチヨを捉えることはなかった。

サチヨの周りには燃え盛る防護膜が張られ、炎の槍は膜に吸い込まれるように溶けていった。

反乱軍が使うような防護シールドと形は同じだが、それはピストルや鞭と同様にサチヨの魔力が反映するように作られているようだった。

カナメル「全てを溶かす魔力、本で読んだことがある。この世には希少な属性魔法が存在するという。あんたの魔法はおそらく、太陽の属性魔法だ」

サチヨ「太陽の属性魔法??火じゃないの?」

カナメル「炎を扱う魔導師に、俺が苦戦するはずがないだろ」

サチヨ「確かに、そうかもしれないね」

サチヨはニコっと笑った。

カナメル「ここで魔力を全て使い切るわけにもいかないんだ、これで終わりにする」

カナメルは正面に手を伸ばす。

カナメル「来い!!鳳凰!!!」

巨大な魔法陣が空中に現れ、そこから神鳥が姿を現す。
その背に乗り、空中へと飛び立つ。

サチヨ「空はズルいぞ、撃ち落としてやる!」

サチヨがピストルをカナメルへと向ける。

カナメル「その必要はない、この攻撃があんたに届けば俺の勝ち、届かなければあんたの勝ちだ」

そう言い放つと鳳凰の口元に高圧力の光が溜まっていく。

あまりの魔力の大きさにサチヨは巨大な球体を盾にし、片手を防護シールドに触れる。

カナメル「終わりだ!!」

カナメルの言葉と共に超高圧力のビームが放たれた。

光線が球体へとぶつかるとジュワジュワと音をたて、盛大に煙が上がる。

しかし数秒の後、鳳凰は口を閉じた。

サチヨ「とりゃぁ!!!」

サチヨは巨大な球体をカナメルへと投げ出す。

鳳凰はそれを華麗に避け、サチヨを見下ろした。

カナメル「今の俺ではあんたに勝てない」

サチヨ「なんだ君は、負けを認めるのかい?」

腰に手を当て、無い胸を張るサチヨ。

カナメル「ああ、このままやっていても俺が魔力切れを起こすだけだ、俺にはやるべきことがある」

サチヨ「お、逃げる気か!?」

そうはさせないとピストルを空へと向けるサチヨ。

カナメル「北ゲート内に敵兵が見当たらない理由が分かったよ。あんたがいるからだ、大将サチヨ」

カナメルは生意気に笑った。

カナメル「いつか必ず、俺はあんたを超えてみせる」

そう言い残し、カナメルは鳳凰と共にゴッドタワーへと飛び立った。

サチヨ「なんだよそれ!!かかってこーい!!」

サチヨはモジャモジャ頭を掻きながら、空へとピストルを乱射した。

ピポパ

プルルル、プルルル

サチヨ「リョウさん!!炎のマントがタワーを飛行し上昇中です!!、、、、、報告はここまでに。もしかすると、本当に今日で私達は救われるのかもしれません」

サチヨは神を睨むように空を見上げた。







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