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始まりの歌声編

第9話 駆けろ!ナイトロード!!

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酔いつぶれた者を起こそうとする者、樽を投げつけて戦う者、我先に逃げようとする者、酒場は混沌に包まれていた。

テーブルの上の料理や酒はぶちまけられ、逃げ惑う最中、黒い鎧は一人また一人と斬り伏せていく。

そうしているうちに更に黒い鎧が三人、新たに入ってきた。
その外見は同じように見えて、少しだけ違うようにも見える。
中には兜をつけておらず、顔を確認できる者もいた。焦点は合っておらず、口は開いたままヨダレを垂らしている。
ヨダレは真っ黒で、顔には血管が浮き出ていた。


シンカイ「ツグル!!やばいよ、早く逃げなきゃ!」

ツグル「セリア、起きろ!セリア!!」

テーブルに突っ伏して寝ているセリアの肩を懸命に揺らすが、彼女は起きない。
酒が入ってるわけでもないのに、何故だ。

するとセリアは力なく顔を上げた。

セリア「ツグル、、、私、、何だか、、力が入らないんだ」

ツグル「あいつらと何か関係があるのかもしれない」

考える間も無く、セリアを背中に背負う。

セリア「ご、、、めんね、、」

ツグル「大丈夫だ。モモ!!!」


モモは酒樽の前で倒れていたが、明らかな周囲の異変に気付き、戸惑っていた。

呼ぶとチョコチョコとこっちに向かってきた。

モモ「ちょ、何が起こってるの!?あの鎧何!?」

ツグル「分からない、でも早く逃げなきゃやばそうだ」

モモ「私、ダイス起こしてくる!!」

ツグル「頼んだ」

候補生の数人はビール瓶や食器で必死に応戦するが力及ばず惨殺されていく。

シンカイ「ツグル!!危ない!!!」

後ろを振り返ると、すぐそこまで黒い鎧は来ていた。

ギリギリの所で斬撃を交わしたが、セリアを背負っているため、バランスが悪い。

そのまま体制を崩して、セリアを背負ったまま尻餅をついてしまった。

シンカイ「とりゃぁぁ!!」

シンカイはデッキブラシを槍のように扱い、黒い鎧の兜を弾き飛ばした。

そして露わになった顔面を連続で強打する。

黒い鎧は一瞬よろめいたが、すぐに体制を立て直し、シンカイに襲いかかった。

ツグルは地面に座ったまま足払いをして、黒い鎧を転ばせた。

シンカイ「助かったよ~ツグル」

ツグル「お互い様だ」

モモ「早く出よ!!」

そう言ったモモの背中には、まるで状況を飲み込めていないダイスが眠そうに垂れている。

ダイス「あれぇ、、、何が起こってぇ」

モモ「分からない!!でも逃げなきゃやばいの!」

五人は駆け出した。




王城の中には同じような黒い鎧がたくさんいて、皆どこかしらで見たことがあるような顔をしていた。
その中には指揮官の姿もあった。

ツグルたちはとにかく外に出ようと必死に走った。

ツグル「シンカイ!!俺の鞄の中に短剣が入ってる、そんな木の棒よりはマシだろ」

シンカイ「いいよいいよ、僕短剣なんて使ったことないし、近付くの怖いしリーチ長い方が良いから」

モモ「はぁ、、はぁ、、、」

シンカイ「モモさん大丈夫?僕代わろうか?」

モモ「大丈夫、、少しも立ち止まってる時間はないから」

後方には黒い鎧がぎこちない走り方で追ってきていた。


外に出ると、外も黒い鎧で埋もれていた。
街人は逃げ惑い、泣き叫び、あちらこちらで悲鳴が聞こえる。

ツグルたちはナイトロードを真っ直ぐに駆けた。

途中襲いかかってくる黒い鎧は、シンカイが華麗に体制を崩して時間を稼いだ。

流石は槍兵、剣兵との戦は有利だ。

ツグル「やっぱお前強いな」

シンカイ「そんなことないよ~闇雲に斬りかかってくるだけだから何とかなってるだけ」

ツグル「謙遜ばっかりだな」

シンカイ「ツグルが相手ならこうはいかないからなぁ」

ダイス「おい、おいおいおぃ、これマジれぇどーらってんのぉぉぉ!?」

ダイスの酔いが少しだけ醒めたようだ。
だが、まだろれつが回っていない。

モモ「走れそう?」

ダイス「いや~、、、どうだろうなぁ」

そう言ってダイスはモモから降りるが、まともに走れる状況ではなかった。

横道から一人の黒い鎧がダイス目掛けて突撃する。

すかさずシンカイが小手を打ち、剣を落とす、そのまま頭を何度か叩きつけ、兜を飛ばした。


その瞬間、シンカイは持っていたデッキブラシを落とした。






シンカイ「、、、兄さん、、、、、」






シンカイが兄さんと呼んだ"それ"は顔の半分が半壊していて、脳みそが抜き取られているようだった。

モモ「シンカイくん!!!!!!」

モモの叫びも虚しく、"それ"は剣を振り上げ、、




シンカイの頭は軽々と宙に舞った。




地面に落ちたシンカイの頭は、コロコロと転がり、逃げ惑う街人に踏み潰された。


モモ「いやぁ、、、イヤァァァァァァァ!!!」


モモは立ち尽くしたまま顔を覆っていた。


ツグル「モモ!!行くぞ!!!走れぇぇぇ!!」


だがモモにツグルの声は届いていないようだった。


ツグル「モモ!!!」

セリア「モモちゃ、、ん」


ダイスは千鳥足でモモに駆け寄り


ダイス「おい、モモ行くぞ!、、モモ!!モモ!!!」


パチン!!


ダイスの平手打ちによってモモは正気を取り戻したが、時すでに遅し。

シンカイのお兄さんらしき"それ"はダイスの背後まで迫っていた。



モモ「やめて、、、お願い、、」


モモは呟くと、ダイスの胸倉を掴み、横に投げ飛ばした。

ダイスはよろよろと後ずさりしたあとに仰向けにごろんと倒れた。

モモは祈るように手を組み、硬直している。



ダイス「嘘、、、だろ、、、」



ツグル「クソォっ!!」


振り返るな、セリアを守らなければいけない。

そう心中で叫び、走り出そうと前を見た時、目の前に黒い鎧がいた。
ツグルたちはいつの間にか囲まれていた。

しまった。。。

そう思ったとき、何者かがシンカイのお兄さんらしき"それ"を吹き飛ばし、それは跡形もなく地面に広がった。

モモ「、、何が、、起こったの?」

モモは相変わらず祈るように立ち尽くしている。

モモの目の前には重厚な鎧を纏い、手には盾のようにも見えるとてつもなく大きな大剣を構えた一人の騎士がいた。

騎士はその大剣を地面に突き刺し、魔力を込めると。

地面から大きな剣先が飛び出し、黒い鎧を次々と真っ二つにしていく。

周りに迫っていた黒い鎧も、地面から飛び出す大きな剣先に貫かれ、一瞬で半分になる。

それらの身体からは黒い液体が飛び散った。

真っ二つになっても何かを求めるように地面を這っている。


ツグル「あんたは、、、」

彫りの深い顔立ちの男は言う。

フルネス「グレイス王国守備隊長、フルネス・シンゴニュートだ。遅くなってすまない」

誰もが認めている王国一の守備隊長が目の前にいる。
この国ではヒーローのような存在である彼が、触れられる距離にいて守ってくれた事実に唖然とせざるをえない。

ダイス「フルネスって、フルネス将軍!?」

モモ「あ、、ありがとうございます。ありがとうございます!!!」

モモは泣きながら腰が抜けたようにその場に崩れ落ちた。

フルネス「よくやった、君の勇気で一人の命が助かった」

フルネス将軍はそう言うと、ダイスのことを一瞥して、モモを優しく立たせた。

フルネス「走れるか?」

モモ「大丈夫です!!」

フルネス「君は?」

ダイス「だ、大丈夫っす!!」

ダイスはそう言って立つが、すぐによろよろと倒れてしまう。

フルネス「いいだろう、時間が惜しい、そのまま外門まで走り抜けるぞ!」

フルネスはそう言ってダイスを肩に担ぎ、片手で固定した。
そしてもう片方の手で巨大な大剣を振るい、目の前の黒い鎧をなぎ払っていく。

フルネス将軍を先頭にナイトロードを走る。

外門を抜けた後もフルネス将軍の後を追い、平原を駆け、森に入り、かなりの距離を走った。
体力が底を尽きかけた、その時。



フルネス「ここだ」



フルネス将軍がそう言った場所は、森の中にポツンと立つ墓標だった。

ツグル「どこだ?」

フルネス将軍はダイスを地面にそっと寝かせ、墓標をコツッコツコツコツと、リズミカルに叩いた。
墓標はズズズとズレて、小さな穴を作った。
空いた穴を覗くとそこには階段があり、地下へと続いていた。

モモ「こんなところに地下が」

フルネス「ここは三人のアジトだ、もう十年使っているが未だに敵に見つかっていない」

ツグル「三人?」


フルネス将軍に従い、狭い階段を降りていく。
先頭を歩くフルネス将軍は何の迷いもなく階段を降りていった。
石の壁にはロウソクが灯ってあり薄暗い。
何か化け物でも出そうな雰囲気だ。

階段を降りると石畳の廊下になっていた。
十数メートルほど進むと広い空間が広がっているように見える。

辿り着くとそこは、一人暮らしをするには丁度良い広さの、石に覆われた部屋だった。
家具などの設備は整っているようである。

ダイス「で、、でたぁぁぁぁー!!!!」

ダイスが叫び、指を指す。
その方向を見ると、人間にも見えるが確実に違う、何かが蠢いていた。

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