9 / 229
始まりの歌声編
第9話 駆けろ!ナイトロード!!
しおりを挟む酔いつぶれた者を起こそうとする者、樽を投げつけて戦う者、我先に逃げようとする者、酒場は混沌に包まれていた。
テーブルの上の料理や酒はぶちまけられ、逃げ惑う最中、黒い鎧は一人また一人と斬り伏せていく。
そうしているうちに更に黒い鎧が三人、新たに入ってきた。
その外見は同じように見えて、少しだけ違うようにも見える。
中には兜をつけておらず、顔を確認できる者もいた。焦点は合っておらず、口は開いたままヨダレを垂らしている。
ヨダレは真っ黒で、顔には血管が浮き出ていた。
シンカイ「ツグル!!やばいよ、早く逃げなきゃ!」
ツグル「セリア、起きろ!セリア!!」
テーブルに突っ伏して寝ているセリアの肩を懸命に揺らすが、彼女は起きない。
酒が入ってるわけでもないのに、何故だ。
するとセリアは力なく顔を上げた。
セリア「ツグル、、、私、、何だか、、力が入らないんだ」
ツグル「あいつらと何か関係があるのかもしれない」
考える間も無く、セリアを背中に背負う。
セリア「ご、、、めんね、、」
ツグル「大丈夫だ。モモ!!!」
モモは酒樽の前で倒れていたが、明らかな周囲の異変に気付き、戸惑っていた。
呼ぶとチョコチョコとこっちに向かってきた。
モモ「ちょ、何が起こってるの!?あの鎧何!?」
ツグル「分からない、でも早く逃げなきゃやばそうだ」
モモ「私、ダイス起こしてくる!!」
ツグル「頼んだ」
候補生の数人はビール瓶や食器で必死に応戦するが力及ばず惨殺されていく。
シンカイ「ツグル!!危ない!!!」
後ろを振り返ると、すぐそこまで黒い鎧は来ていた。
ギリギリの所で斬撃を交わしたが、セリアを背負っているため、バランスが悪い。
そのまま体制を崩して、セリアを背負ったまま尻餅をついてしまった。
シンカイ「とりゃぁぁ!!」
シンカイはデッキブラシを槍のように扱い、黒い鎧の兜を弾き飛ばした。
そして露わになった顔面を連続で強打する。
黒い鎧は一瞬よろめいたが、すぐに体制を立て直し、シンカイに襲いかかった。
ツグルは地面に座ったまま足払いをして、黒い鎧を転ばせた。
シンカイ「助かったよ~ツグル」
ツグル「お互い様だ」
モモ「早く出よ!!」
そう言ったモモの背中には、まるで状況を飲み込めていないダイスが眠そうに垂れている。
ダイス「あれぇ、、、何が起こってぇ」
モモ「分からない!!でも逃げなきゃやばいの!」
五人は駆け出した。
王城の中には同じような黒い鎧がたくさんいて、皆どこかしらで見たことがあるような顔をしていた。
その中には指揮官の姿もあった。
ツグルたちはとにかく外に出ようと必死に走った。
ツグル「シンカイ!!俺の鞄の中に短剣が入ってる、そんな木の棒よりはマシだろ」
シンカイ「いいよいいよ、僕短剣なんて使ったことないし、近付くの怖いしリーチ長い方が良いから」
モモ「はぁ、、はぁ、、、」
シンカイ「モモさん大丈夫?僕代わろうか?」
モモ「大丈夫、、少しも立ち止まってる時間はないから」
後方には黒い鎧がぎこちない走り方で追ってきていた。
外に出ると、外も黒い鎧で埋もれていた。
街人は逃げ惑い、泣き叫び、あちらこちらで悲鳴が聞こえる。
ツグルたちはナイトロードを真っ直ぐに駆けた。
途中襲いかかってくる黒い鎧は、シンカイが華麗に体制を崩して時間を稼いだ。
流石は槍兵、剣兵との戦は有利だ。
ツグル「やっぱお前強いな」
シンカイ「そんなことないよ~闇雲に斬りかかってくるだけだから何とかなってるだけ」
ツグル「謙遜ばっかりだな」
シンカイ「ツグルが相手ならこうはいかないからなぁ」
ダイス「おい、おいおいおぃ、これマジれぇどーらってんのぉぉぉ!?」
ダイスの酔いが少しだけ醒めたようだ。
だが、まだろれつが回っていない。
モモ「走れそう?」
ダイス「いや~、、、どうだろうなぁ」
そう言ってダイスはモモから降りるが、まともに走れる状況ではなかった。
横道から一人の黒い鎧がダイス目掛けて突撃する。
すかさずシンカイが小手を打ち、剣を落とす、そのまま頭を何度か叩きつけ、兜を飛ばした。
その瞬間、シンカイは持っていたデッキブラシを落とした。
シンカイ「、、、兄さん、、、、、」
シンカイが兄さんと呼んだ"それ"は顔の半分が半壊していて、脳みそが抜き取られているようだった。
モモ「シンカイくん!!!!!!」
モモの叫びも虚しく、"それ"は剣を振り上げ、、
シンカイの頭は軽々と宙に舞った。
地面に落ちたシンカイの頭は、コロコロと転がり、逃げ惑う街人に踏み潰された。
モモ「いやぁ、、、イヤァァァァァァァ!!!」
モモは立ち尽くしたまま顔を覆っていた。
ツグル「モモ!!行くぞ!!!走れぇぇぇ!!」
だがモモにツグルの声は届いていないようだった。
ツグル「モモ!!!」
セリア「モモちゃ、、ん」
ダイスは千鳥足でモモに駆け寄り
ダイス「おい、モモ行くぞ!、、モモ!!モモ!!!」
パチン!!
ダイスの平手打ちによってモモは正気を取り戻したが、時すでに遅し。
シンカイのお兄さんらしき"それ"はダイスの背後まで迫っていた。
モモ「やめて、、、お願い、、」
モモは呟くと、ダイスの胸倉を掴み、横に投げ飛ばした。
ダイスはよろよろと後ずさりしたあとに仰向けにごろんと倒れた。
モモは祈るように手を組み、硬直している。
ダイス「嘘、、、だろ、、、」
ツグル「クソォっ!!」
振り返るな、セリアを守らなければいけない。
そう心中で叫び、走り出そうと前を見た時、目の前に黒い鎧がいた。
ツグルたちはいつの間にか囲まれていた。
しまった。。。
そう思ったとき、何者かがシンカイのお兄さんらしき"それ"を吹き飛ばし、それは跡形もなく地面に広がった。
モモ「、、何が、、起こったの?」
モモは相変わらず祈るように立ち尽くしている。
モモの目の前には重厚な鎧を纏い、手には盾のようにも見えるとてつもなく大きな大剣を構えた一人の騎士がいた。
騎士はその大剣を地面に突き刺し、魔力を込めると。
地面から大きな剣先が飛び出し、黒い鎧を次々と真っ二つにしていく。
周りに迫っていた黒い鎧も、地面から飛び出す大きな剣先に貫かれ、一瞬で半分になる。
それらの身体からは黒い液体が飛び散った。
真っ二つになっても何かを求めるように地面を這っている。
ツグル「あんたは、、、」
彫りの深い顔立ちの男は言う。
フルネス「グレイス王国守備隊長、フルネス・シンゴニュートだ。遅くなってすまない」
誰もが認めている王国一の守備隊長が目の前にいる。
この国ではヒーローのような存在である彼が、触れられる距離にいて守ってくれた事実に唖然とせざるをえない。
ダイス「フルネスって、フルネス将軍!?」
モモ「あ、、ありがとうございます。ありがとうございます!!!」
モモは泣きながら腰が抜けたようにその場に崩れ落ちた。
フルネス「よくやった、君の勇気で一人の命が助かった」
フルネス将軍はそう言うと、ダイスのことを一瞥して、モモを優しく立たせた。
フルネス「走れるか?」
モモ「大丈夫です!!」
フルネス「君は?」
ダイス「だ、大丈夫っす!!」
ダイスはそう言って立つが、すぐによろよろと倒れてしまう。
フルネス「いいだろう、時間が惜しい、そのまま外門まで走り抜けるぞ!」
フルネスはそう言ってダイスを肩に担ぎ、片手で固定した。
そしてもう片方の手で巨大な大剣を振るい、目の前の黒い鎧をなぎ払っていく。
フルネス将軍を先頭にナイトロードを走る。
外門を抜けた後もフルネス将軍の後を追い、平原を駆け、森に入り、かなりの距離を走った。
体力が底を尽きかけた、その時。
フルネス「ここだ」
フルネス将軍がそう言った場所は、森の中にポツンと立つ墓標だった。
ツグル「どこだ?」
フルネス将軍はダイスを地面にそっと寝かせ、墓標をコツッコツコツコツと、リズミカルに叩いた。
墓標はズズズとズレて、小さな穴を作った。
空いた穴を覗くとそこには階段があり、地下へと続いていた。
モモ「こんなところに地下が」
フルネス「ここは三人のアジトだ、もう十年使っているが未だに敵に見つかっていない」
ツグル「三人?」
フルネス将軍に従い、狭い階段を降りていく。
先頭を歩くフルネス将軍は何の迷いもなく階段を降りていった。
石の壁にはロウソクが灯ってあり薄暗い。
何か化け物でも出そうな雰囲気だ。
階段を降りると石畳の廊下になっていた。
十数メートルほど進むと広い空間が広がっているように見える。
辿り着くとそこは、一人暮らしをするには丁度良い広さの、石に覆われた部屋だった。
家具などの設備は整っているようである。
ダイス「で、、でたぁぁぁぁー!!!!」
ダイスが叫び、指を指す。
その方向を見ると、人間にも見えるが確実に違う、何かが蠢いていた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる