上 下
47 / 229
熱風の闘技場編

第47話 特殊な身体

しおりを挟む
トゥール「ん~、あれだ。棄権するわ」

タカとの決闘を目前にして、トゥールは独り言のように呟いた。

一同「え!?」

ツグル「嘘だろ!?」

強者の戦いを楽しみにしていたツグルは、珍しく大きな声を出す。

トゥール「いや、リアルな話、まぁ100%勝てないわけだ。んで今更だけどタカに会えたんだし戦う理由なんてないわけだ。んでさっきも見て分かったと思うけど、タカは戦闘民族の習性かスイッチが入っちまうと止められなくなる。なんていうか、戦っても良いことなんて一つもないんだよなぁ」

ムー「ごもっともだが、随分とまぁそんなに理由を並べられたものだ。最初から戦うつもりなんてなかったんだろ?」

トゥールはニコっとして答えた。

トゥール「バレてたか」





トゥールの棄権により会場はブーイングの嵐だ

トゥール「まぁ俺は棄権したけど、ツグルはどーする?」

試すような笑顔でトゥールは語りかける。

ツグル「俺は、、、」

もちろん戦ってみたい、でも確かに怖さもある。

フルネス「実際戦ってみての感想だが、相当な訓練を受けていなければ一撃で死に至るだろうな」

モモ「そうだよ!フルネス将軍の戦い見てたでしょ?やめとこうよ」

ダイス「セリアに歌ってもらうことになったらやべぇぞ!マジで」

セリア「危ないことはして欲しくないけど、戦いたいんでしょ?ツグル」

ツグル「、、、」

自分と同じような特殊な身体の持ち主と戦えるチャンスを逃すわけにはいかない、でも皆に迷惑をかけるわけにもいかない。
トゥールの言う通り、危険を冒してまで戦う理由なんて、ないんだから。

一人葛藤をするツグルに、誰かが声をかけた。

カナメル「いいじゃん、戦いなよ」

ツグル「、、、でも」

カナメル「戦いたいなら、戦った方が良い」

カナメルはどこか遠くを見ながら、だがしっかりとツグルに言い放つ。

ツグル「俺は、戦いたい」

カナメルはニヤリと生意気に笑った。

トゥール「了解!もしもの時は、ムー、タクティス、フルネス、ズミ、頼むぞ」

ズミ「任せな」

タチキ「お前何にも出来ねぇだろ!!なんでトゥールもこいつを入れたんだよ!」

ズミ「分かってねぇなぁ、もしもの時ってのは。まぁ良いか。。。ツグル君、まぁ頑張れよ」

ツグル「行ってくる」

ツグルは観客席から飛び出した、両手を翼の形に変形させ、円形の闘技場を滑空する。

フルネス「自分の能力を明かしてしまって大丈夫なのか?あれはただの魔術ではないはずだ」

ムー「問題ねぇよ、魔術なんてオリジナルを極めれば、誰も真似出来ない存在になれるんだから」

カナメル「決勝に相応しい登場だな」

観客のボルテージは最高潮に達する。
ツグルが着地をした頃に、仄暗い闘士入場口からゆっくりと、タカが歩いてきた。

風が男のボロ布を揺らし、身体中に刻まれている魔術刻印が見え隠れする。

タカ「お前も不思議な身体を持っているようだな」

ツグル「この力、試させてもらう」

タカ「全力で来い」

[決勝戦、ツグルvsタカ!! スタート!!]

ここぞとばかりに盛大にゴングの音が鳴り、ツグルは四肢を黒化させる。

タカ「色を変えることで、硬度と身体能力が上がるのか」

タカは構えもせず、興味深そうにツグルを見つめる。

ツグル「悪いけど、見物の時間なんてあげられないぜ」

ツグルは一直線にタカへと飛び込む。
全体重が乗った、ツグルの渾身のパンチが無防備なタカの顔面にヒットする。

しかしタカは何事もなかったかのように立ち止まったまま、風圧でボロ布のフードが脱げただけだった。
端正な顔立ちに色黒の肌、そこに魔術刻印が顔にまで刻まれている。

タカ「硬度が足りない、硬度とは即ち密度だ」

ツグル「ぐぁぁぁー!!!!!」

ツグルは右腕を抑えながらその場に崩れ落ちた。
腕から血が吹き出している。

タカ「お前の力では、俺に擦り傷すらつけることは出来ない」

ツグル「硬度、、?、、、密度、、?」

タカ「ただ四肢を黒く染めただけではナイフを研いだのと同じ、ナイフの材質は変わらない」

目の前に立ちはだかるボロ布の男は仕掛けてくる素振りを見せず、未だに直立不動の姿勢である。
その大きな瞳でツグルを上から見下ろしていた。

タカ「その右腕に、お前の力を集中しろ。手本を見せてやる」

刻印の中を鮮血が移動し、右腕が赤く光り出す。

タカ「こうだ」

そう言うと、突然パンチを繰り出し、ツグルの顔面の前で止めた。
その途端、円形の闘技場の地面は抉れ、壁は半壊、ツグルの姿はなくなっていた。

観客は騒然とし、ざわつき始めた。
審査員達がキョロキョロと辺りを見回していると、半壊した岩を押し除け、ツグルが現れた。

ツグル「、、はぁ、、はぁ、、、、あんたと戦えて、良かった、、」

タカ「それは良かった、終わりだ」

タカは空高く跳躍した。
トゥール達が何やら動きを見せていたその時。

タカとツグルの間に白い扉が出現した。

ガチャと音を立て扉は勝手に開いた。

そこに現れたのは、ローブを身に纏った老人だった。

「久しいのぅ、人形達よ」

その言葉と共にタカは目の色を変えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

処理中です...