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始まりの歌声編
第6話 無の空間
しおりを挟む目覚めた時には、見たことのない部屋にいた。
何もかもが真っ白で、家具もなく、何の飾りもない正方形の部屋。
扉が一つある、だが鍵がかかっているのか開かない。
窓があり、外を見ると、外も果てしなくずっと真っ白があるだけで何もない。
下を覗き込んでも同じだった。
全くもって現実味のない空間だ。
どうやらこの建物はとてつもなく高い建造物なのだろう。
手元を見ると、自分の魂でもある「刀」があった。
着ているものはいつも通りの羽織。
ここはどこだろうか、都の皆は無事だろうか、サクラは無事だろうか。
そう思った時、疑問が浮かんだ。
都の皆とは誰だ、サクラとは。。
その時突然扉が開いた。
トゥールは導かれるように外へ出た。
そこは闘技場のような円形のただだだっ広い、真っ白な空間が広がっていた。
遠くに刀を構える侍が見える。
すると突然襲いかかってきた、身体が勝手に反応して躱す。
彼の目は血走り、正気を失っているように思える。
彼は簡単にトゥールに斬られた。
何だか気持ちが悪くなり、それから元いた部屋に戻ろうと引き返すと、扉は無くなっていた。
背後から扉が開く音が響き渡り、トゥールは振り返った。
一人の女弓士がこの空間に入ってきた。
女弓士は泣いていた。
何故だか分からないが、それからの記憶がない。
気付いた時には、真っ白なただだだっ広いだけの空間は真っ赤に染まり。
羽織を着た者達の死体の山と化していた。
これは、俺が殺ったのだろうか。。
後ろに扉が出現していた。
この気持ち悪い空間から早く脱したくて、扉に入ると。
そこは際限無くただ見渡す限り真っ白な空間だった。
入ってきた扉だけがポツンと立っている。
そこには知らない五人がいて、各々好きに過ごしているようだった。
扉を閉めると扉は影となって消えた。
トゥール「ここは、、、どこだ」
リキッド「ようこそ、どうやら君も、迷い込んだと見える」
~~~~~~~~~~~~~~~~
目を開けると青空が広がっている。トゥールは草原の上に横になっていた。
トゥール「懐かしいな」
今見ていた夢を思い返す。
都とは、サクラとは、未だに答えは分からない。
断片的に記憶はある、おそらく自分はこの大陸の人間ではない。
その証拠に羽織を着ている者も、刀を腰に引っ掛けている者もここにはいない。
都の風景と舞い落ちる桜の花弁、そしてそれを自分と一緒に眺める女性の姿、ふと思い出す光景だ。
もしかするとその女性がサクラという人物なのだろうか?
ふぅ~、、、、、、
結局十年経ってもハッキリとは思い出せない。自分は何者なのか、何故無の神に囚われてしまったのか。
今の自分の唯一のアイデンティティは、桜の花弁が良く似合う女性がいつも隣にいたということだけだ。
訳もなく物悲しい気持ちになり、空を見上げた。
流れる雲だけはあの日と同じで、自分が存在しても良いと肯定してくれている気がする。
モヤモヤとする心をリセットし、深呼吸をした。
長い時を共に過ごしたムー、タクティス、リリ、タカ、それにリキッドという大切な親友に報いなければいけない。
この大陸にやってきて十年、今となっては様々な絆がある。
出会ってくれた絆に恩返しをしなくては。
立ち止まってはいられない。
進むしかない、セリアを守らなければ。
トゥール「俺は、、何を」
また自我を失ってしまったのではないかと手を見つめる、だがそこにはいつも黒く光っている指輪はなかった。
身体を起こすとき心臓のあたりが痛んだ。
見渡すと、草が生えているのはセレスティア様の墓周りだけで、他の植物は全て凍結していた。
どうりで寒いわけだ。
敵は魔法を使える。
一つ情報を手に入れた。
漆黒の騎士は見当たらない。
俺は負けたのか?
なぜ生きている。
着物は破れ、剣に貫かれた跡がある。
だが身体に傷はない。
トゥール「また、あなたに助けられたのか」
トゥールは女王の墓標に跪いた。
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