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始まりの歌声編
第3話 神速の風トゥール
しおりを挟む城下町では玉座からの演説が放送器具を通して街中に響き渡っていた。
「私たちは!!あの日を忘れてはいけない。
十年たった今でも!私たちの心はセレスティア様と共にある!!!
絶対に、あのようなことを繰り返してはいけない!
今!私たちは強くなるべきだ。何者からも侵略されることのない力を手に入れるべきだ!
我が漆黒の騎士王様と共に、他国を討ち滅ぼそうぞ!!立ち上がれ!!!私たちは、、、」
奇妙にチカチカと光る器具は、フォールドーン帝国製である。
ツグル「十年前はこんな機械が無くても、セレスティア様の歌声がいつも響き渡っていたのにな」
セリア「そうだね、お母様の歌声にこの国は守られていたからね」
民衆達はお祭りといった具合に、セレスティア様が消えたこの日を盛大に祝っていた。
外売りの野菜屋や肉屋は鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの音量で話しかけてくる。
その隣の露店のアクセサリー屋や武器屋も負けじと声を張り上げている。
いつもは平和なこの街も、今日は何だか好きになれない。
セリアは悲しんでいないだろうかと思ったが、何も気にしていないような顔で、どうしたの?と聞いているようだった。
考えすぎなのだろうか。
本当はセリアの方が辛いはずである。
セリア「今日は休日だよ?街も活気があって、良き良き!」
ツグル「無理してないか、セリア」
セリア「ん?どうして?」
ツグル「今日は、セレスティア様がいなくなった日なんだぞ。俺の父さんが消えた日でもある」
セリア「ん~確かにそうなんだけど。今街が盛り上がってるのってさ、皆お母様への感謝とも考えられない?」
ツグル「感謝?」
セリア「うん、だって普通は悲しむでしょ?でも皆お母様がいなくなっても、自分達がこの街を守っていきます!だから安心してくださいぃ!っていう感謝のように、私は見えるかなっ」
ツグル「、、、、」
セリア「なんてねっ、ツグルの気持ちも分かるよ」
ツグル「セリアは強いな」
セリア「え?」
ツグル「セリアは、強いよ」
セリア「どうしたの?いきなり」
ツグル「なんでもない」
街人「きゃー!!!騎士様よ!」
街人の声に、今まで騒いでいた人々が口を閉じた。
一斉に民衆が中央の道を空ける。
王城から外門まで真っ直ぐに伸びるこの長い道は、ナイトロードと呼ばれており。
これから戦いに赴く騎士や兵士が並んで行進する。
逆に、戦いで傷ついた兵士達の帰り道でもある。
その時は街人達が労いの物をお供えするのは、よく見る光景だった。
太陽の光が反射するその鎧の軍勢からは、何とも言えぬ緊張感が漂っていた。
「頑張れー!!!」
「グレイス王国に勝利を!!」
「貴方達は俺たちの希望だあ!!!」
「頼むぞぉぉ!!!!」
先頭を歩くのは、守備隊長のフルネス将軍だ。
彼はセレスティア様の側近のノッチー将軍の実の息子で、王都陥落の日も城内にいたらしい。
彼はその日の光景を目の当たりにしているのだろうか?
しかし、そんなことを聞けるような身分でもない。
これから戦場へ赴く彼等の姿を眺めることしか出来なかった。
ツグル「近くで見ると、フルネス将軍って意外と小さいな」
セリア「でも胸板凄いねぇ、フルネス将軍だけじゃなくて、皆強そうだよ~」
ツグル「ふん、別に身体のデカさが強さとイコールじゃないんだよ」
前を見て堂々と行進するフルネス将軍が目の前を通り過ぎるとき、一瞬こちらを見たような気がした。
甲冑姿だからしっかりとは分からなかったが、気のせいだろうか。
鎧の軍勢は長い行列を作り行進している。
彼らは無事にこの街に帰ってこれるのだろうか。
だが、それもツグルにとっては関係のないこと、この国がどうなろうとセリアさえいればそれで良い。
鎧の軍勢がいなくなると、街はまた騒がしくなった。
街の喧騒の中、ツグルとセリアは王国の門を出た。
検問を抜けると見渡す限りの平原が広がっている。
先程の鎧の軍勢が、ずっと向こうを歩いて行き、粒のように見えた。
風が吹き抜け、横になって昼寝でもしたら気持ち良いんだろうなと思ったが、今日はお墓参りだ。
ちらほらと見える木の小屋は馬小屋で、その横の小屋には鶏や牛が飼われている。
こんなに平和なのに、今もどこかで誰かが戦っている。戦の匂いなんて微塵もない。
この景色を見て、誰も戦のことなど想像しないだろうなとツグルは思った。
偽りの平和な国である。
森へ入ると様々な生物達が元気に駆けている。
この森には獰猛な動物はおらず、傍には水が流れていて綺麗な花が咲いている。
セリアも何だか嬉しそうだ。
少し歩くと、塀が見えた。
苔が生え、石と石の間にはタンポポが咲いている。
アーチ型の門の前まで来て、セリアが何やらネックレスを両手に呪文を唱え始めた。
おそらくこの先に入るにはこの儀式が必要なのだろう。
ここにお墓を建てて欲しいというのは、セレスティア様ご自身が望まれたことらしい。
王城の中庭にも墓所はある。
かつての英雄達が眠っているが、セレスティア様はあえてこの森の中で眠りたいと生前仰っていたということで、この高い塀が建てられた。
セリアが呪文を唱え終わると、スタスタと歩き始めた。
実際見た感じでは何の変化も見られない、本当に結界なんて張られていたのだろうか?と思う。しかし、空気が明らかに塀の中と外とでは全く違う。
塀の中は霧がかかっていて前がよく見えない。
セリアはどんどん前へと進んでいく。
はぐれてしまうと危ないので、ツグルはセリアの手を掴んだ。
この塀の中はどれくらいの広さなのだろうか。
そんなことを考えていると、セリアが急に立ち止まった。
セリア「誰?」
視線の先の小さなお墓の前に、薄っすらと人影が見える。
「お前達こそ誰だ、何故この場所を知っている」
男の声だ。
男は東方の剣、カタナを腰から抜くと同時に突風が襲って来た。
強風があたりの霧を一気に巻き込み上空へと消えていく。
咄嗟にセリアを庇う。
セリアはツグルを後ろから抱きしめ、辛うじて強風に耐えている。
視界の開けたその空間には、カタナを構えた見たことのない衣装を纏う男がいた。
男「何者だ、答えろ」
ツグル「お前こそ誰だ!!ここはセレスティア様の墓前だぞ」
男「貴様、何故それを」
セリア「あ、あのぅ~」
ツグル「セリア、下がっていろ。ここは俺に任せろ」
セリア「えっ!?」
右手に漆黒の短剣を持ち、真っ直ぐに男の元へと駆け出した。
男「セリア?」
ツグル「問答無用!!」
!!!!!!!
ツグル「えっ」
一瞬の出来事だった。
男は目の前から消え、気がつくとツグルは後ろから拘束されていた。
短剣を弾かれ無力になったツグルに、男は静かに言った。
男「落ち着け、とりあえず話し合おうじゃないか」
セリア「は、離しなさい!!ツ、ツグルを、離しなさい!!」
セリアは弾かれた漆黒の短剣を手に、剣先を男の背中に向けている、しかしその声は震えている。
男「分かった、離そう。だが俺と話すことも許してくれるか、駄洒落じゃないぞ?はっはっは!」
男はセリアに背を向けながらそう言うと、ツグルの拘束を解いた。
男「君の攻撃は遅すぎる」
ツグル「何だと!!」
男「だが良い目をしている。申し遅れた、俺の名前はトゥール、訳あって放浪中の旅人だ」
トゥールと名乗るその男は、この大陸では見たことのない衣装をヒラヒラとさせている。
トゥール「君はツグルと呼ばれていたね、いきなり拘束してしまって悪い。そして君は、、、」
男がそう言ってセリアの方を見ると、血相を変えて跪いた。
トゥール「まさか、、まさか!!本当に出会えるとは、、フルネスの情報は正しかった、、10年探した甲斐があった。良かった、本当に良かった。。。」
トゥールと名乗る謎の旅人は、セリアを見るなり突然声を上げて泣き始めた。
セリア「え、あ、、あのぅ~」
旅人はその後数分間泣きじゃくり、落ち着いてから静かに話し始めた、その内容は信じ難いものだった。
彼は10年前に空から降って来て、王都を陥落させたうちの一人だという。
それを聞き、ツグルはすぐさま短剣を取るが、男の顔を見て短剣を下ろした。
トゥール「どこから話せば良いか分からなくて、すまない。順を追って説明する。説明した後で殺すなら殺してくれても構わない」
そう言った。
彼は思い出すように淡々と話し出すのであった。
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