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7. 来訪
しおりを挟む「すみません、このあたりの方でしょうか?」
背後から声をかけられ振り返ると、そこには二人の男が立っていた。一人は長い赤髪を一つに結い上げた細身の男で、仕立ての良さそうなスーツを着込んでいる。線が細く女性と見間違うような美貌だが、骨格や筋肉のつき方からすると恐らく男性だ。身につけているものやさらさらに整えられた髪、身のこなしから、彼の身分の高さが伺える。
もう一人はやけに身体の大きいこれまた赤髪の男で、村でも大柄な方であるウィルより更に頭一つ分は背が高い。かなり鍛えているのか、ゆったりと着ているシャツ越しにも分厚い筋肉をまとっている様子が見て取れる。彼だけが旅行鞄のような荷物を持っていて、恐らく長髪の男の従者か何かだろう。
なぜだか、俺はその二人組の姿に違和感を覚えた。
「そうですが……ノルエンデ村に何かご用でしょうか」
首を傾げながらウィルが言った。
俺の両親は村の顔役もしているが、今日は特別な客人が来るなどという話は聞いていない。
「山向こうを目指して歩いていたのですが雨に降られてしまって、この木の下に逃げ込んできたというわけです。近くに村があるんですね?」
「何もない小さな村ですが……あなた方は行商か何かですか?」
「まぁ、そのようなものです」
ウィルが二人組に一歩近付きながら会話を続ける。俺は二人を見比べながら違和感の正体を探していた。
にこにこと話す長髪の男に対し、大男の方は黙ったまま俺たちをじっと見つめている。
「それなら食堂が一軒あるので雨が止むまでそちらにいたらどうですか? 案内しますよ」
なぁ、とウィルが俺を振り返りながら言った。
「いえ、それには及びません」
「というと?」
「目的はすぐに果たせそうですので」
風が吹き抜け、男の前髪がさらりと揺れる。
ーーそうか。
俺はウィルの腕を引き後ろに下がらせ、長髪の男の前に歩み出た。
「……あなたたち、何者ですか」
「行商のようなものと、先程言った通りです」
「違いますよね。行商人がそんな少ない荷物でこんな山奥に来るわけがありません」
「ようなもの、というだけで実際には商人ではありませんから」
男が肩をすくめて言った。
「それだけじゃないーーあんたら、なんで濡れてないんだ?」
山越えの峠道からこの広場まではやや距離がある。歩いていて雨に降られたとして、この土砂降りだ、木の下に入るまでに濡れ鼠になってしまうだろう。
なのにこの二人は雨に打たれた形跡がまるで無い。雨に降られて逃げ込んできたというのは嘘だ。
それこそ、魔術でここに湧き出てきたとしか思えない。
「ーーだから雨の日は嫌なんだ」
男の貼り付けたような笑顔が一変し、ぐっと眉根を寄せ不機嫌そうな顔を見せたかと思うと、俺が瞬きをした次の瞬間、二人の男の姿はまるきり違うものとなっていた。
藍色の軍服を身に纏った騎士ーー目にするのは初めてだがーー間違いない、王立騎士団第一部隊だ。
長髪の方は髪の色まで変わっている。真っ赤だった髪は氷を思わせるような水色に変化していた。青色を身に纏う者ーーつまりこの男は魔術師だ。それも、かなり力の強い。
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