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第3章 夢よもういちど
3-39.“祝福”の祝福 鈴成 凛悟
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グッドマンが消えた光の座で凛悟は肩の荷が下りたように力を抜く。
全てをやり遂げた顔をして。
「賭けは俺の勝ちだな」
「そのようだ。では清算しよう。汝が賭けたものは”命”、ならばその対価は”命”で支払うのが妥当であろうな」
「忘れないでくれよ。俺が勝つ可能性は億にひとつもないって言ったことをな」
「そうであったな。では倍率通り億の”命”で返そう。これで汝は不死ともいえるくらいの”命”を手に入れた。その傷も瞬く間に癒えよう」
「おおっと、忘れてもらっては困るぜ。俺は、この祝福ゲームが始まってから死んだ者も含めた全ての人類を代表して賭けに臨んだ。だったら、その報酬は死者も含めた全人類に渡すのがスジってものだろ」
「なるほど、汝は最初からそれが目的だったのか」
「そうさ。できるんだろ? 俺の問いに答えてくれよ、いつもみたいにさ」
確信はある、だけど不安もある。
それが、ほんの少し、少しだけ凛悟の声を震えさせた。
その震えを吹き飛ばすように、神は快活に、いつものように、彼の期待に応える。
「その問いに答えよう。もちろんだとも! 賭けの報酬の”命”、それは死者も含めた全人類に配ろう」
「ありがとな。俺の願いを叶えてくれて」
「我はただルール通りに行動していただけだ」
「知ってる。神様は全知じゃなくても全能だってことも、縛られるのは己の言葉と行動だけってことも」
「その問いに答えよう。その通りだ。我はこう見えても結構スゴイんだぞ」
神は、”神”を名乗る光の塊は自慢そうに胸を張る。
パチパチパチ
「おめでとう。見事な勝利でしたわ」
「あなたたちの願いのおかげだ。ミラ・ミュラー」
「どういうことですの?」
「わたくしたちはただの傍観者ですのよ。なにもしていませんわ」
ふたりは確かに何もしていない。
この神の座で”祝福ゲーム”の趨勢を鑑賞していただけ。
だが、凛悟は”本”で彼女の願いを誰よりも正確に把握していた。
「さっきの続きさ。どうして俺がエゴルトが死んだ時、俺に”祝福”が移るって確信していたのかってことの」
「それそれ、どうしてですの?」
「それに貴方ってばグッドマンも奇跡に選ばれるとも確信しているようでしたわ」
「話はもう決まってたのさ。ミラさんの願いの一節『面白おかしく』、それが俺とグッドマンさんをここに導いた。こんな終盤で新キャラ登場してパッと出の願いでハッピーエンドってな終わりになったら、面白くないだろ」
あるあるだろ、そんな凛悟の口ぶりにふたりのミラはクスクスと笑う。
「そうですわね。そんなことになったら神様にポップコーンを叩きつけるところでしたわ」
「ありがとうございます。わたくしの願いをちゃんと叶えてくれまして」
「どういたしまして。こう見えても我はサービス精神旺盛なのだよ」
ふたりの礼に応えるように神は軽く手を上げる。
「でも、よく思いつきましたわね。”命”をチップにして、死者を生き返らせようだなんて」
「俺だけじゃ思いつかなかったさ。他の”祝福者”のおかげさ」
「といいますと?」
「グンマさんやダイダロスのようにタイムリープで人が生き返ることもわかった。実ちゃんの願いで”命”はストック出来て、それがあればどう見ても死んでいるのに復活することもわかった。あとは優しい子のおかげだな」
「優しい子?」
「第2の願いさ。それで犬が生き返った。神様は俺たちとは次元が違う。神様にとっては人間も犬も大して違わないさ。だとすると、人間だけが生き返らないのは神様自身が決めた”祝福ゲーム”の制約で、それを外すに足る理由があれば人間だって生き返る。そう思ったのさ。そうだろ?」
凛悟はこれが最後の会話になるだろうと思いながら、神へと問いかける。
「その問いに答えよう。それは……」
神は少し意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「自分の目で確かめるがいい」と。
その言葉を耳に残し、凛悟の意識は再びレセプションルームへと戻る。
よみがえる胸の痛みと息苦しさ、それが凛悟に命の機能の大半が失われていると告げる。
「センパイ、センパイ、しっかりして下さい。お願い、死なないで」
彼のぼやけた視界に映るのは女性の顔。
彼女は凛悟の頭を膝にのせ、覗きこむように見つめていた。
彼の想い人の、愛しい人の涙が、冷たくなっていく凛悟の顔にポツリと落ちる。
「……あったかいな」
凛悟は確かめた。
命の温かさを。
全てをやり遂げた顔をして。
「賭けは俺の勝ちだな」
「そのようだ。では清算しよう。汝が賭けたものは”命”、ならばその対価は”命”で支払うのが妥当であろうな」
「忘れないでくれよ。俺が勝つ可能性は億にひとつもないって言ったことをな」
「そうであったな。では倍率通り億の”命”で返そう。これで汝は不死ともいえるくらいの”命”を手に入れた。その傷も瞬く間に癒えよう」
「おおっと、忘れてもらっては困るぜ。俺は、この祝福ゲームが始まってから死んだ者も含めた全ての人類を代表して賭けに臨んだ。だったら、その報酬は死者も含めた全人類に渡すのがスジってものだろ」
「なるほど、汝は最初からそれが目的だったのか」
「そうさ。できるんだろ? 俺の問いに答えてくれよ、いつもみたいにさ」
確信はある、だけど不安もある。
それが、ほんの少し、少しだけ凛悟の声を震えさせた。
その震えを吹き飛ばすように、神は快活に、いつものように、彼の期待に応える。
「その問いに答えよう。もちろんだとも! 賭けの報酬の”命”、それは死者も含めた全人類に配ろう」
「ありがとな。俺の願いを叶えてくれて」
「我はただルール通りに行動していただけだ」
「知ってる。神様は全知じゃなくても全能だってことも、縛られるのは己の言葉と行動だけってことも」
「その問いに答えよう。その通りだ。我はこう見えても結構スゴイんだぞ」
神は、”神”を名乗る光の塊は自慢そうに胸を張る。
パチパチパチ
「おめでとう。見事な勝利でしたわ」
「あなたたちの願いのおかげだ。ミラ・ミュラー」
「どういうことですの?」
「わたくしたちはただの傍観者ですのよ。なにもしていませんわ」
ふたりは確かに何もしていない。
この神の座で”祝福ゲーム”の趨勢を鑑賞していただけ。
だが、凛悟は”本”で彼女の願いを誰よりも正確に把握していた。
「さっきの続きさ。どうして俺がエゴルトが死んだ時、俺に”祝福”が移るって確信していたのかってことの」
「それそれ、どうしてですの?」
「それに貴方ってばグッドマンも奇跡に選ばれるとも確信しているようでしたわ」
「話はもう決まってたのさ。ミラさんの願いの一節『面白おかしく』、それが俺とグッドマンさんをここに導いた。こんな終盤で新キャラ登場してパッと出の願いでハッピーエンドってな終わりになったら、面白くないだろ」
あるあるだろ、そんな凛悟の口ぶりにふたりのミラはクスクスと笑う。
「そうですわね。そんなことになったら神様にポップコーンを叩きつけるところでしたわ」
「ありがとうございます。わたくしの願いをちゃんと叶えてくれまして」
「どういたしまして。こう見えても我はサービス精神旺盛なのだよ」
ふたりの礼に応えるように神は軽く手を上げる。
「でも、よく思いつきましたわね。”命”をチップにして、死者を生き返らせようだなんて」
「俺だけじゃ思いつかなかったさ。他の”祝福者”のおかげさ」
「といいますと?」
「グンマさんやダイダロスのようにタイムリープで人が生き返ることもわかった。実ちゃんの願いで”命”はストック出来て、それがあればどう見ても死んでいるのに復活することもわかった。あとは優しい子のおかげだな」
「優しい子?」
「第2の願いさ。それで犬が生き返った。神様は俺たちとは次元が違う。神様にとっては人間も犬も大して違わないさ。だとすると、人間だけが生き返らないのは神様自身が決めた”祝福ゲーム”の制約で、それを外すに足る理由があれば人間だって生き返る。そう思ったのさ。そうだろ?」
凛悟はこれが最後の会話になるだろうと思いながら、神へと問いかける。
「その問いに答えよう。それは……」
神は少し意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「自分の目で確かめるがいい」と。
その言葉を耳に残し、凛悟の意識は再びレセプションルームへと戻る。
よみがえる胸の痛みと息苦しさ、それが凛悟に命の機能の大半が失われていると告げる。
「センパイ、センパイ、しっかりして下さい。お願い、死なないで」
彼のぼやけた視界に映るのは女性の顔。
彼女は凛悟の頭を膝にのせ、覗きこむように見つめていた。
彼の想い人の、愛しい人の涙が、冷たくなっていく凛悟の顔にポツリと落ちる。
「……あったかいな」
凛悟は確かめた。
命の温かさを。
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