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第3章 夢よもういちど
3-6.密室の談合 湊 藤堂
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「ごめーん、まったー」
「ううん、今来たとこやー」
ホテルのロビーで待っていた藤堂はやってきた実にお決まりの台詞を返す。
「で、どこで話すの? あたしふたりっきりの所がいいな」
藤堂の腕に自らの腕をからませ実はしなだれかかるように体重を預ける。
ほとんどの男を落とせる実のテクニックのひとつだが、藤堂は落ちそうになる心を必死に堪えた。
「部屋を取ってあるんや、そこでおしゃべりしよや」
カッコイイやろとばかりに鍵をクルンと回しエレベータへと進む藤堂。
慣れてないわねと心で思うが口にしない実。
サングラス姿の女性と冴えない男の組み合わせは傍から見ると釣り合わないようにも見えたが、ふたりは周囲の目など気にしていなかった。
ふたりとも心の中では、これで運命が決まると思っていたから。
部屋に入りチェーンをかけた所で藤堂は動きを止め、実をじっと見つめる。
「どうしたの? お話するんでしょ」
部屋に備え付けの椅子に座り実はあなたも座りなさいとばかりにもうひとつの椅子を叩く。
「いや、こういう場面やと実ちゃんが豹変してガサツで粗野な口ぶりに変わったり、うっふん色仕掛けに走るってパターンがよくあると思たんやけど、あんま変わらんのやな」
「なにそれ、今時うっふんあっはんいやんばかんなんて流行らないわよ。そういうのをウリにするのはありかもしれないけど」
クスクスと笑う実の姿は藤堂のイメージの中と同じ姿だった。
いや、公開されたメディアの映像から藤堂の頭の中で再生される姿と同じだった。
「まず最初に自己紹介からや。僕の名は藤堂、君は狙わている」
「誰か説明してくれよぉ! とでも言えばいいのかしら」
「5分だけワイのわがままをそっと言わせてや」
ふたりが会話しているのはネタだ。
40年近く前のロボットアニメの。
「ふふふ、あなた物知りなのね」
「実ちゃんこそ、どこで知ったん?」
「そういうのを知っていると喜ぶ人もいるのよ。必要だから知ったの。それより早くしてくれないかしら。リハまでの休憩時間に抜け出してきたのよ」
実は藤堂の手を引き、強引に椅子に座らせる。
「藤堂さん、まず最初に教えて。どうしてあたしが”祝福者”だってわかったの? ファンデと手袋で完全に隠してたのに」
「顔や、最初の説明の時、神様の所に実ちゃんもおったろ。ワイは最初から気付いとったで」
「ウソ! あのときあたしスッピンだったのよ!?」
「デラべっぴんやったで」
「うわっ! サイテー」
「ごめんちゃいな。でもここからは真面目な話や」
姿勢を正し藤堂は実に向かい合う。
「ワイらと協力せんか。きっと幸せにしたるで」
「そういった演出的な言い方はいいから。本当に時間があまりないの」
「そうやな、明日はコンサートやからな。ワイも実ちゃんの活躍を邪魔する気はあらへん。簡潔に説明するで」
そして藤堂は語った。
”祝福者”が死ぬとエゴルトに”祝福”を奪われてしまうこと。
コンサート後にエゴルトの刺客が現れるかもしれないということ。
藤堂の協力者の凛悟が”祝福”で”本”を手に入れ、そこには今まで叶えられた願いや残りの”祝福者”の情報が載っていること。
もうひとりの協力者蜜子のこと。
藤堂と蜜子、そしてもうひとつの”祝福者”が手を組めば、死んだみんなが生き返った上で、”祝福者”全員が幸せになること。
その話を実は時に驚き、時に真剣に、時に思案の表情を浮かべながら聞いた。
「わかったわ。あたしのプライバシーもその”本”に載ってたってわけね」
「せや、情報は何よりも強い力やけん。これは凛悟はんの受け売りやけどな。で、どげんする? 断る理由はなかろ」
これで決まりやろとばかりに藤堂は実の手を握る。
「そうね。とてもいい申し出だわ。最後にみんなが幸せになれるってとこが。あの神様があたしたちが”祝福”に翻弄される姿を楽しんでいるとしたら特にね」
「あー、それもよくあるパターンやな。うんうん、神さんの思惑なんてケチョンケチョンにしたろで」
藤堂がそう言った時、実は笑った。
今までとはちょっと違う、少し含んだ表情で。
「でもね、ひとつだけあるの。断る理由は」
「え、どしてや?」
「この話が信頼できるかってことよ」
「ワイは絶対実ちゃんを謀ったり裏切ったりせんで! 誓う! 絶対の約束や!」
「貴方のことは信じてるわ。だけど、その凛悟と蜜子って子。ううん、”祝福”をもう持っていない凛悟君はいいとして、蜜子の方ね。女はしたたか君だから。もちろんあたしも含めてね」
クスクスと笑いながら実は椅子から立ち上がる。
「ごめんなさい、この話は保留にさせて。君の話を信じないわけじゃないわ。もう少し時間をちょうだい。そうね、明日のコンサート終了後に返事をするわ」
「そ、それは止めといた方がええと思うで」
「どうして?}
「実ちゃんは命を狙われとるんや」
「だからよ、貴方いつも一番乗りじゃない。終了後1番に楽屋に来て。もし悪いヤツらが来たら一緒に撃退しましょ」
実は藤堂の手を取り、それにChuと唇をあてる。
藤堂の顔が一気に上気した。
「ま、まかせとき、実ちゃんんは絶対にワイが守っちゃる」
「うん嬉しいわ。とってもいい情報をもらったし、おかけであたしも気づかなかったことも気づけたし……」
顎に指を当て実は少し考える。
「ひとつだけ約束してあげる。君の命だけは見逃してあげるわ」
アイドルというよりも、悪の女幹部のような表情で実は言った。
だけど、藤堂にはそれが彼女の本当の顔のように見えた。
「ううん、今来たとこやー」
ホテルのロビーで待っていた藤堂はやってきた実にお決まりの台詞を返す。
「で、どこで話すの? あたしふたりっきりの所がいいな」
藤堂の腕に自らの腕をからませ実はしなだれかかるように体重を預ける。
ほとんどの男を落とせる実のテクニックのひとつだが、藤堂は落ちそうになる心を必死に堪えた。
「部屋を取ってあるんや、そこでおしゃべりしよや」
カッコイイやろとばかりに鍵をクルンと回しエレベータへと進む藤堂。
慣れてないわねと心で思うが口にしない実。
サングラス姿の女性と冴えない男の組み合わせは傍から見ると釣り合わないようにも見えたが、ふたりは周囲の目など気にしていなかった。
ふたりとも心の中では、これで運命が決まると思っていたから。
部屋に入りチェーンをかけた所で藤堂は動きを止め、実をじっと見つめる。
「どうしたの? お話するんでしょ」
部屋に備え付けの椅子に座り実はあなたも座りなさいとばかりにもうひとつの椅子を叩く。
「いや、こういう場面やと実ちゃんが豹変してガサツで粗野な口ぶりに変わったり、うっふん色仕掛けに走るってパターンがよくあると思たんやけど、あんま変わらんのやな」
「なにそれ、今時うっふんあっはんいやんばかんなんて流行らないわよ。そういうのをウリにするのはありかもしれないけど」
クスクスと笑う実の姿は藤堂のイメージの中と同じ姿だった。
いや、公開されたメディアの映像から藤堂の頭の中で再生される姿と同じだった。
「まず最初に自己紹介からや。僕の名は藤堂、君は狙わている」
「誰か説明してくれよぉ! とでも言えばいいのかしら」
「5分だけワイのわがままをそっと言わせてや」
ふたりが会話しているのはネタだ。
40年近く前のロボットアニメの。
「ふふふ、あなた物知りなのね」
「実ちゃんこそ、どこで知ったん?」
「そういうのを知っていると喜ぶ人もいるのよ。必要だから知ったの。それより早くしてくれないかしら。リハまでの休憩時間に抜け出してきたのよ」
実は藤堂の手を引き、強引に椅子に座らせる。
「藤堂さん、まず最初に教えて。どうしてあたしが”祝福者”だってわかったの? ファンデと手袋で完全に隠してたのに」
「顔や、最初の説明の時、神様の所に実ちゃんもおったろ。ワイは最初から気付いとったで」
「ウソ! あのときあたしスッピンだったのよ!?」
「デラべっぴんやったで」
「うわっ! サイテー」
「ごめんちゃいな。でもここからは真面目な話や」
姿勢を正し藤堂は実に向かい合う。
「ワイらと協力せんか。きっと幸せにしたるで」
「そういった演出的な言い方はいいから。本当に時間があまりないの」
「そうやな、明日はコンサートやからな。ワイも実ちゃんの活躍を邪魔する気はあらへん。簡潔に説明するで」
そして藤堂は語った。
”祝福者”が死ぬとエゴルトに”祝福”を奪われてしまうこと。
コンサート後にエゴルトの刺客が現れるかもしれないということ。
藤堂の協力者の凛悟が”祝福”で”本”を手に入れ、そこには今まで叶えられた願いや残りの”祝福者”の情報が載っていること。
もうひとりの協力者蜜子のこと。
藤堂と蜜子、そしてもうひとつの”祝福者”が手を組めば、死んだみんなが生き返った上で、”祝福者”全員が幸せになること。
その話を実は時に驚き、時に真剣に、時に思案の表情を浮かべながら聞いた。
「わかったわ。あたしのプライバシーもその”本”に載ってたってわけね」
「せや、情報は何よりも強い力やけん。これは凛悟はんの受け売りやけどな。で、どげんする? 断る理由はなかろ」
これで決まりやろとばかりに藤堂は実の手を握る。
「そうね。とてもいい申し出だわ。最後にみんなが幸せになれるってとこが。あの神様があたしたちが”祝福”に翻弄される姿を楽しんでいるとしたら特にね」
「あー、それもよくあるパターンやな。うんうん、神さんの思惑なんてケチョンケチョンにしたろで」
藤堂がそう言った時、実は笑った。
今までとはちょっと違う、少し含んだ表情で。
「でもね、ひとつだけあるの。断る理由は」
「え、どしてや?」
「この話が信頼できるかってことよ」
「ワイは絶対実ちゃんを謀ったり裏切ったりせんで! 誓う! 絶対の約束や!」
「貴方のことは信じてるわ。だけど、その凛悟と蜜子って子。ううん、”祝福”をもう持っていない凛悟君はいいとして、蜜子の方ね。女はしたたか君だから。もちろんあたしも含めてね」
クスクスと笑いながら実は椅子から立ち上がる。
「ごめんなさい、この話は保留にさせて。君の話を信じないわけじゃないわ。もう少し時間をちょうだい。そうね、明日のコンサート終了後に返事をするわ」
「そ、それは止めといた方がええと思うで」
「どうして?}
「実ちゃんは命を狙われとるんや」
「だからよ、貴方いつも一番乗りじゃない。終了後1番に楽屋に来て。もし悪いヤツらが来たら一緒に撃退しましょ」
実は藤堂の手を取り、それにChuと唇をあてる。
藤堂の顔が一気に上気した。
「ま、まかせとき、実ちゃんんは絶対にワイが守っちゃる」
「うん嬉しいわ。とってもいい情報をもらったし、おかけであたしも気づかなかったことも気づけたし……」
顎に指を当て実は少し考える。
「ひとつだけ約束してあげる。君の命だけは見逃してあげるわ」
アイドルというよりも、悪の女幹部のような表情で実は言った。
だけど、藤堂にはそれが彼女の本当の顔のように見えた。
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