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第2章 夢からさめても
2-29.第14の願いとふたりの願い ダイダロス・タイター ティターニア・タイター
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青空が見えた。
肌に感じる風は日本のそれよりカラッとしていて爽やかだ。
コーン、コーンと教会の鐘の音が聞こえる。
彼には、ダイダロスにはわかった。
この風は故郷の、フィレンツェの空気だと。
戻った……、俺は死んだみたいだな。
設定されたタイムリープのスタート地点、4月1日午前8時2分。
ダイダロスの左手の腕時計はその時刻を示していた。
同時に左手の偽聖痕の数字も10を示す。
その数字を見てダイダロスは心の中でヒャッホーと叫ぶ。
「イヤッフー!!」
口でも叫んでいた。
「兄さん、なんだかご機嫌ね」
目の前にはティターニアがあの朝と変わらない姿で立っていた。
「喜べティターニア! またひとつ”祝福”が減った! これで残りは9! またひとつお前の勝利へ近づいたぜ!」
「そう、そうね」
クルクルと回りながら小躍りするダイダロスとは対照的にティターニアの表情は浮かない。
「ん? どうした? ああ、わかったぜ。祝福が同時に3つも減ってしまったから何か起こるんじゃないかと心配してるんだな。心配いらねぇよ、理由は言えねぇが、とにかく大丈夫だ」
「あ、いや、そういうことじゃないの」
「どういうことだ?」
何かおかしい。
いつもならティターニアはここで祝福が同時に使われたことで誰かがコンボを決めたと言うはずだ。
ダイダロスは妹の態度に違和感を覚えざるを得なかった。
「なんでもないわ。ねぇ、それよりわたし考えが変わったわ」
「変わった? 何がだ」
「最後に残る”祝福者”をわたしにしてって話よ。やっぱり最後に残るのは兄さんにしてあげる。それまでわたしがアシストするわ」
「なにいってやがる! そんなことできるか!」
「やってみせるわよ! なんどでも!」
なんどでも。
その言葉がダイダロスの違和感の正体を明らかにした。
「おい、ティターニア……、まさかとは思うが……」
ダイダロスに思い当たる節はあった。
こういった話はは元はティターニアが好きな話だったじゃないか。
「お前、タイムリープしてないか?」
ダイダロスの口から出たのはタイムリープものの作品でありふれた一言だった。
「どうしてそれを!?」
「やっぱり! なんてことしてやがる!」
「ああもう! いいじゃないの! 兄さんの願いをわたしが叶えてあげるんだから」
「ふっざっけんな! 俺がお前の願いを叶えてやるっつうんだ!」
…
……
………
「兄さん、ひとつ聞くけど……」
「おう、なんだ」
「兄さん、今、何周目?」
ティターニアの口から出たのもありふれた台詞だった。
「……100から先は憶えていねぇよ」
これはちょっと聞いたことがないかなとふたりは思った。
「兄さん、なにやってんの! ”祝福”でタイムリープの能力を手に入れるなんて! 兄さんの願いはどうすんのよ!」
「うるせぇ! お前も同罪だろ! バーカ! バーカ!」
「そんなことないわよ! ちゃんと考えてるの! わたしだけでなく兄さんが死んだら自動でリープが発動するようにしたりとか!」
「自分の好きな時に何度でも発動できるようにしたりか?」
「そうよ! 戻れるリミットをあの鐘が鳴った時に指定したりとか!」
「他の”祝福”や超常能力で精神に影響が出ないようにしたりか?」
ダイダロスの言葉にティターニアは合点がいったかのように手をポンと叩く。
タイムリープが起きているのになぜ兄は記憶を保持しているのだろうという疑念が晴れたからだ。
そして、少し微笑みながら左手の甲をダイダロスに見せる。
「”祝福”の残数がわかるように偽聖痕を手に刻んだりとか!」
ダイダロスも軽く笑いながら左手を出す。
「ふっ、ふふふっ、あははっ、あははははっ!」
「クッ、クククッ、ハハハ、ハーハッハ!」
そしてふたりは大声で笑いだした。
「わたしたち気が合うわね。やっぱ兄妹だわ」
「お前、バカだろ。俺の願いを叶えるために”祝福”を使っちまうなんてよ!」
「兄さんバカの方が先よ。早く言ってくれればいいのに。そうしておけば、わたしは兄さんが銃に撃たれて死にそうになっても心配なんてしなかったのに」
「そいつは薄情だな。だが、俺がお前に隠し事をしちまったのが悪かった。すまねぇな、お前の願いを叶えられそうにないわ」
「いいのよ、そこまでの願いじゃないから。ねえ、兄さん。もし、自分のために”祝福”を使うとしたら、どんなことを願った?」
「さあな。俺はただお前が幸せそうに暮らしていればそれでよかったのさ」
何気なく言い放つダイダロスの言葉にティターニアは腹を押えながらさらに笑う。
「なんだ、そんなこと。そんなことでいいの」
「そんなことでいいんだ。お前こそどうなんだ?」
「わたしも同じよ。兄さんが幸せそうにして、一緒に過ごせたらそれでいいの。あ、でもそろそろ兄さんにはまともな職に就いて欲しいな」
「そんなことでいいのか?」
「そんなことでいいのよ」
そしてふたりは再び笑い合った。
「あー、笑った、笑った。こんなに笑ったのは何周ぶりかな」
「憶えていないんでしょ、バカだから。その調子で嫌なことは忘れちゃいなさいよ」
「そうするぜ。あ、でも、ひとつだけ忘れちゃいけないことがあったな」
笑みを湛えたまま、ダイダロスは遠くを、太陽の方角を見る。
「忘れちゃいけないことって?」
「ティターニア、タイムリープの能力だがしばらく使わないでおこうぜ。この数字がゼロになるまで」
「別にいいけど。どうして?」
「男の約束さ」
そう言ってダイダロスはスマホを取り出しメールを打つ。
「あとは、ちょっとだけアイツにサービスしておくか」
ダイダロスは忘れるはずがなかった。
何度もチェックして覚えたアドレスを。
鈴成凛悟のアドレスを。
文面は至ってシンプルだった。
『逸果 実に気を付けろ。あれはヤバイ女だ』
ダイダロスは空の向こうからスマホの着信音が聞こえた気がした。
肌に感じる風は日本のそれよりカラッとしていて爽やかだ。
コーン、コーンと教会の鐘の音が聞こえる。
彼には、ダイダロスにはわかった。
この風は故郷の、フィレンツェの空気だと。
戻った……、俺は死んだみたいだな。
設定されたタイムリープのスタート地点、4月1日午前8時2分。
ダイダロスの左手の腕時計はその時刻を示していた。
同時に左手の偽聖痕の数字も10を示す。
その数字を見てダイダロスは心の中でヒャッホーと叫ぶ。
「イヤッフー!!」
口でも叫んでいた。
「兄さん、なんだかご機嫌ね」
目の前にはティターニアがあの朝と変わらない姿で立っていた。
「喜べティターニア! またひとつ”祝福”が減った! これで残りは9! またひとつお前の勝利へ近づいたぜ!」
「そう、そうね」
クルクルと回りながら小躍りするダイダロスとは対照的にティターニアの表情は浮かない。
「ん? どうした? ああ、わかったぜ。祝福が同時に3つも減ってしまったから何か起こるんじゃないかと心配してるんだな。心配いらねぇよ、理由は言えねぇが、とにかく大丈夫だ」
「あ、いや、そういうことじゃないの」
「どういうことだ?」
何かおかしい。
いつもならティターニアはここで祝福が同時に使われたことで誰かがコンボを決めたと言うはずだ。
ダイダロスは妹の態度に違和感を覚えざるを得なかった。
「なんでもないわ。ねぇ、それよりわたし考えが変わったわ」
「変わった? 何がだ」
「最後に残る”祝福者”をわたしにしてって話よ。やっぱり最後に残るのは兄さんにしてあげる。それまでわたしがアシストするわ」
「なにいってやがる! そんなことできるか!」
「やってみせるわよ! なんどでも!」
なんどでも。
その言葉がダイダロスの違和感の正体を明らかにした。
「おい、ティターニア……、まさかとは思うが……」
ダイダロスに思い当たる節はあった。
こういった話はは元はティターニアが好きな話だったじゃないか。
「お前、タイムリープしてないか?」
ダイダロスの口から出たのはタイムリープものの作品でありふれた一言だった。
「どうしてそれを!?」
「やっぱり! なんてことしてやがる!」
「ああもう! いいじゃないの! 兄さんの願いをわたしが叶えてあげるんだから」
「ふっざっけんな! 俺がお前の願いを叶えてやるっつうんだ!」
…
……
………
「兄さん、ひとつ聞くけど……」
「おう、なんだ」
「兄さん、今、何周目?」
ティターニアの口から出たのもありふれた台詞だった。
「……100から先は憶えていねぇよ」
これはちょっと聞いたことがないかなとふたりは思った。
「兄さん、なにやってんの! ”祝福”でタイムリープの能力を手に入れるなんて! 兄さんの願いはどうすんのよ!」
「うるせぇ! お前も同罪だろ! バーカ! バーカ!」
「そんなことないわよ! ちゃんと考えてるの! わたしだけでなく兄さんが死んだら自動でリープが発動するようにしたりとか!」
「自分の好きな時に何度でも発動できるようにしたりか?」
「そうよ! 戻れるリミットをあの鐘が鳴った時に指定したりとか!」
「他の”祝福”や超常能力で精神に影響が出ないようにしたりか?」
ダイダロスの言葉にティターニアは合点がいったかのように手をポンと叩く。
タイムリープが起きているのになぜ兄は記憶を保持しているのだろうという疑念が晴れたからだ。
そして、少し微笑みながら左手の甲をダイダロスに見せる。
「”祝福”の残数がわかるように偽聖痕を手に刻んだりとか!」
ダイダロスも軽く笑いながら左手を出す。
「ふっ、ふふふっ、あははっ、あははははっ!」
「クッ、クククッ、ハハハ、ハーハッハ!」
そしてふたりは大声で笑いだした。
「わたしたち気が合うわね。やっぱ兄妹だわ」
「お前、バカだろ。俺の願いを叶えるために”祝福”を使っちまうなんてよ!」
「兄さんバカの方が先よ。早く言ってくれればいいのに。そうしておけば、わたしは兄さんが銃に撃たれて死にそうになっても心配なんてしなかったのに」
「そいつは薄情だな。だが、俺がお前に隠し事をしちまったのが悪かった。すまねぇな、お前の願いを叶えられそうにないわ」
「いいのよ、そこまでの願いじゃないから。ねえ、兄さん。もし、自分のために”祝福”を使うとしたら、どんなことを願った?」
「さあな。俺はただお前が幸せそうに暮らしていればそれでよかったのさ」
何気なく言い放つダイダロスの言葉にティターニアは腹を押えながらさらに笑う。
「なんだ、そんなこと。そんなことでいいの」
「そんなことでいいんだ。お前こそどうなんだ?」
「わたしも同じよ。兄さんが幸せそうにして、一緒に過ごせたらそれでいいの。あ、でもそろそろ兄さんにはまともな職に就いて欲しいな」
「そんなことでいいのか?」
「そんなことでいいのよ」
そしてふたりは再び笑い合った。
「あー、笑った、笑った。こんなに笑ったのは何周ぶりかな」
「憶えていないんでしょ、バカだから。その調子で嫌なことは忘れちゃいなさいよ」
「そうするぜ。あ、でも、ひとつだけ忘れちゃいけないことがあったな」
笑みを湛えたまま、ダイダロスは遠くを、太陽の方角を見る。
「忘れちゃいけないことって?」
「ティターニア、タイムリープの能力だがしばらく使わないでおこうぜ。この数字がゼロになるまで」
「別にいいけど。どうして?」
「男の約束さ」
そう言ってダイダロスはスマホを取り出しメールを打つ。
「あとは、ちょっとだけアイツにサービスしておくか」
ダイダロスは忘れるはずがなかった。
何度もチェックして覚えたアドレスを。
鈴成凛悟のアドレスを。
文面は至ってシンプルだった。
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