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第2章 夢からさめても
2-26.困惑の海 ティターニア・タイター
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ティターニアとグッドマンが1発目の銃声を聞いたのはふたりが糸魚川駅から展望台へと続く道の途中でのことだった。
「え? ひょっとして今の銃声? でもちょっと違う?」
ティターニアが困惑するのも無理はなかった。
日本では銃の所持が禁じられているのは知っていたし、聞こえたのは彼女が初めて感じた響きを持つ音だったからだ。
「今の音って本当に銃声かしら? 漁船の汽笛だったりして?」
この平和な国で銃声なんて聞こえるはずがない。
それにあの音はフィレンツェでも稀に聞こえることがある拳銃の音とは違う。
そんな期待を持ってティターニアはグッドマンの顔を見る。
だが、彼の険しい表情がその期待が間違いだと彼女に告げる。
「止まれ。あれはライフルの、それもスナイパーライフルの音だ。壁に背を付けろ。私の身体で身を隠せ」
今までとは違う強い口調でグッドマンはティターニアをブロック塀に押し付け、手にした双眼鏡を構える。
「用意がいいわね。ひょっとして軍人さん?」
「警察上がりの警備員だ。私の職歴はどうでもいい、それよりも凛悟たちは……」
グッドマンのスマホに届いた凛悟のメール。
それは糸魚川駅から北、海のそばの展望台で待つという内容だった。
「いた。あの展望台の階段の下の方だ。ひとりはリンゴ、怪我をしている。それにもうひとり、ミツコじゃない。あれはひょっとして……。確認してくれ、あれは君の兄さんか?」
暗視機能が付いているのだろう。
渡された双眼鏡から見える画像は白黒ではあるが昼のようにハッキリと見えた。
双眼鏡の先にティターニアはふたりの男の姿を見る。
「兄さん!? 撃たれている!? いえ、撃たれたのはもうひとりの方!?」
兄、ダイダロスが日本人の青年を抱きかかえるように階段を降りている姿をティターニアは見た。
そして、階段を降り切った所で、パァウンと再び銃声が鳴り、兄と男がのけぞった。
「助けなきゃ!」
「待て、動くな」
展望台へ駆けだそうとするティターニアをグッドマンが止める。
「どいて! このままじゃ兄さんが!」
「このままだと君も死ぬ。今ので大体の方角がわかった。今から俺がスナイパーを止めに行く。上手くいったらスマホで連絡する。そうしたらふたりを助けに行ってくれ」
強い剣幕で両肩を塀に押し付けられ、ティターニアは「わ、わかったわ」と頷いた。
そう言わざるを得ないくらい、グッドマンの顔は真剣だった。
「いいか、君は私の希望だ。だから絶対に守る。だから、お願いだから、じっとしていてくれ」
グッドマンはそう言い残して銃声の聞こえた方へ走っていった。
ひとり残されたティターニアは、ただ双眼鏡で兄の姿を見ることしか出来なかった。
ああ、あんなに血が出てる、兄さん大丈夫かしら。
それにあの男の人、凛悟さんだと思うけど大丈夫かしら、全然動いていないわ。
不安に怯えるティターニアに追い打ちをかけるように、遠くでパンッ、パンと銃声が響いた。
それは彼女も何度か聞いたことのあるハンドガンの音だった。
ティターニアはその音の主がグッドマンであることを祈ったが、そうではないこともわかりきっていた。
だって彼は、銃なんて持っていなかったのだから。
「え? ひょっとして今の銃声? でもちょっと違う?」
ティターニアが困惑するのも無理はなかった。
日本では銃の所持が禁じられているのは知っていたし、聞こえたのは彼女が初めて感じた響きを持つ音だったからだ。
「今の音って本当に銃声かしら? 漁船の汽笛だったりして?」
この平和な国で銃声なんて聞こえるはずがない。
それにあの音はフィレンツェでも稀に聞こえることがある拳銃の音とは違う。
そんな期待を持ってティターニアはグッドマンの顔を見る。
だが、彼の険しい表情がその期待が間違いだと彼女に告げる。
「止まれ。あれはライフルの、それもスナイパーライフルの音だ。壁に背を付けろ。私の身体で身を隠せ」
今までとは違う強い口調でグッドマンはティターニアをブロック塀に押し付け、手にした双眼鏡を構える。
「用意がいいわね。ひょっとして軍人さん?」
「警察上がりの警備員だ。私の職歴はどうでもいい、それよりも凛悟たちは……」
グッドマンのスマホに届いた凛悟のメール。
それは糸魚川駅から北、海のそばの展望台で待つという内容だった。
「いた。あの展望台の階段の下の方だ。ひとりはリンゴ、怪我をしている。それにもうひとり、ミツコじゃない。あれはひょっとして……。確認してくれ、あれは君の兄さんか?」
暗視機能が付いているのだろう。
渡された双眼鏡から見える画像は白黒ではあるが昼のようにハッキリと見えた。
双眼鏡の先にティターニアはふたりの男の姿を見る。
「兄さん!? 撃たれている!? いえ、撃たれたのはもうひとりの方!?」
兄、ダイダロスが日本人の青年を抱きかかえるように階段を降りている姿をティターニアは見た。
そして、階段を降り切った所で、パァウンと再び銃声が鳴り、兄と男がのけぞった。
「助けなきゃ!」
「待て、動くな」
展望台へ駆けだそうとするティターニアをグッドマンが止める。
「どいて! このままじゃ兄さんが!」
「このままだと君も死ぬ。今ので大体の方角がわかった。今から俺がスナイパーを止めに行く。上手くいったらスマホで連絡する。そうしたらふたりを助けに行ってくれ」
強い剣幕で両肩を塀に押し付けられ、ティターニアは「わ、わかったわ」と頷いた。
そう言わざるを得ないくらい、グッドマンの顔は真剣だった。
「いいか、君は私の希望だ。だから絶対に守る。だから、お願いだから、じっとしていてくれ」
グッドマンはそう言い残して銃声の聞こえた方へ走っていった。
ひとり残されたティターニアは、ただ双眼鏡で兄の姿を見ることしか出来なかった。
ああ、あんなに血が出てる、兄さん大丈夫かしら。
それにあの男の人、凛悟さんだと思うけど大丈夫かしら、全然動いていないわ。
不安に怯えるティターニアに追い打ちをかけるように、遠くでパンッ、パンと銃声が響いた。
それは彼女も何度か聞いたことのあるハンドガンの音だった。
ティターニアはその音の主がグッドマンであることを祈ったが、そうではないこともわかりきっていた。
だって彼は、銃なんて持っていなかったのだから。
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