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第2章 夢からさめても
2-23.策謀のコマンド エゴルト・エボルト
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”元祝福者”エゴルト・エボルトがプライベートジェットで空港に降りたのは日本時間で4月2日の19時を回ったころだった。
ゲートを出た所でエゴルトを側近のレイニィが出迎える。
「申し訳ございません、仕損じました」
ホテルでのティターニア襲撃の失敗にレイニィは頭を下げる。
「構わないよ。それより感想を聞かせてくれ。邪魔が入らなければ彼女が意識を失っている間に上手くやれたかね?」
「おそらくですが、出来たかと」
「上出来だ」
エゴルトがレイニィに出した指示は”祝福者”の暗殺。
だが、ただ殺せばいいというわけではない。
死の間際に”祝福”を使わせることなく命を奪え。
そうしなければ”祝福”はエゴルトの手に渡らない。
暗殺に成功すれば満点、金で懐柔出来たなら及第、逃げられたのなら良し。
今、エゴルトが最も避けたいのは”祝福”の価値もわからない無知蒙昧な者がロクでもない願いを叶えてしまうことだった。
「では次の検証に移ろう」
「はい、車を用意しています」
レイニィの案内され、エゴルトは用意されたリムジンに乗りエボルトテック社の東京支店へと移動する。
一棟を丸々占有するそのビルは並の企業なら本社と呼んで差し支えないほどの規模だった。
そこのVIPルームでエゴルトの信頼できる精鋭が待ち受ける。
信頼できる精鋭というのは、どんな業務でも任せられるという意味だ。
「ターゲットの居場所は把握しているかね?」
高級ビジネスチェアに腰掛け、エゴルトがレイニィに問いかける。
「はい、福岡の逸果と藤堂は依然として動いていません。鈴成凛悟と花畑蜜子は4時間ほど前に北陸の糸魚川にいたのを確認しています。また、グッドマンが名古屋方面に移動中です、おそらくティターニアも同行しています。ダイダロスの行方は不明ですが妹と合流する可能性が高いかと」
部屋の大型モニターにはターゲットとなる”祝福者”の位置が表示されている。
もちろん”祝福者”は世界中に散らばっているが、これほど多くの人数が確認されている国は日本しかない。
エゴルトが拠点を日本に移したのは当然の判断だった。
「CEO、おそらくですが凛悟と蜜子は名古屋へ向かっているものと思われます」
「根拠は?」
「グッドマンが今朝方借りたスマホへの履歴を入手しました。凛悟から『糸魚川駅で待つ』とメールがあったのを確認しています。ですがこれはフェイクだと思われます」
「続けたまえ」
「凛悟はスマホの発信履歴が傍受されていることに気付いています。だからあえて北陸方面にいるという情報をSNSで発信し、”糸魚川”というキーワードをことさらに強調したメールを送ったのかと。北陸にいると見せかけて名古屋でグッドマンたちと合流するものと思われます」
令状なしに個人の通信内容を閲覧するのは無論違法。
だが、この中にはそれを気にする者はいない。
「さらにこれをご覧下さい。今朝、グッドマンが凛悟たちの宿泊したホテルの部屋から出た時の映像です」
レイニィが手を動かすと、モニターに新しい窓が表示されグッドマンの姿が映される。
「手に紙を持っています。通信は傍受されていると気付いての行動でしょう。この紙で合流先の連絡をしたのだと推測されます。これが凛悟氏たちも北陸から名古屋方面に移動中と判断した根拠です」
彼女の報告は正しそうに聞こえる。
だが、エゴルトは知っていた。
政財界のトップを欺く最良の方法は、トップが信頼している側近を欺くことだと。
東洋の格言で言えば『将を射んとする者はまず馬を射よ』。
そしてこの優秀な側近たちを欺けるとしたら……。
「今、だな」
「なにかおっしゃいましたか?」
「今だと言ったのだ。僕がここに入る、このタイミングこそが一番の隙だ。君たちが報告に手を取られている時間だよ」
そう言ってエゴルトは時計をチラリを見る。
時刻は20時半を回った所だった。
「19時から今までの東京駅のカメラをAIで解析したまえ」
エゴルトの指示でスタッフがPCの画面に食いつく。
10分ほどの間を置いて、スタッフのひとりが声を上げる。
「いました! 20時10分ごろです! グッドマンとティターニアと思われるふたりが新幹線に搭乗しています。行き先は金沢、途中停車駅は糸魚川! 糸魚川到着予定は22時30分ごろです!」
「そんな!? グッドマンたちの車が高速を降りた履歴はないのに!?」
「なるほど、糸魚川は偽物と見せかけた本物か」
レイニィの驚きの声をよそにエゴルトは口の端を上げる。
相手はエゴルトたちが『凛悟たちは裏をかこうとしているな、見え見えだ』と考えると読んでさらにその裏をかいてきた。
こんなことを考えるのは誰か?
エゴルトは頭の中で情報を分析する。
グッドマンではない、ヤツはバカ正直過ぎる。
ダイダロスとティターニアが日本の地理にこんなに明るいはずがない。
すると凛悟か蜜子に対象は絞られる。
おそらく、男の方だろう。
SNSの情報は全て男の方から発信されている。
女の方の情報を絞っているのか、それとも自分が盾になるつもりなのか。
どちらでもいい、少なくともバカではないことがわかれば十分だ。
”祝福”を愚かな使い方で無駄にしないからな。
「レイニィ、北陸方面の人員は?」
「申し訳ありません、名古屋方面に移動させていた者を至急戻させます。おそらく新幹線の到着時刻にはギリギリ間にあうかと」
「人数は?」
「ふたりです」
「ふたりか、出来ればもうひとり欲しかったな。交渉と実証を任せられるよう」
「申し訳ございません」
深々と頭を下げるレイニィにエゴルトはいいよとばかりに手を振る。
「次の実証実験だが狙撃を試そう。視認外から一発で頭を吹き飛ばすんだ。”祝福”を使う刹那すら与えずにね」
「かしこまりました。交渉はどうしましょうか?」
「僕からメールしておこう。一度やってみたかった、最後通牒ってやつをね」
そう言ってエゴルトは少し楽しそうにスマホを振った。
ゲートを出た所でエゴルトを側近のレイニィが出迎える。
「申し訳ございません、仕損じました」
ホテルでのティターニア襲撃の失敗にレイニィは頭を下げる。
「構わないよ。それより感想を聞かせてくれ。邪魔が入らなければ彼女が意識を失っている間に上手くやれたかね?」
「おそらくですが、出来たかと」
「上出来だ」
エゴルトがレイニィに出した指示は”祝福者”の暗殺。
だが、ただ殺せばいいというわけではない。
死の間際に”祝福”を使わせることなく命を奪え。
そうしなければ”祝福”はエゴルトの手に渡らない。
暗殺に成功すれば満点、金で懐柔出来たなら及第、逃げられたのなら良し。
今、エゴルトが最も避けたいのは”祝福”の価値もわからない無知蒙昧な者がロクでもない願いを叶えてしまうことだった。
「では次の検証に移ろう」
「はい、車を用意しています」
レイニィの案内され、エゴルトは用意されたリムジンに乗りエボルトテック社の東京支店へと移動する。
一棟を丸々占有するそのビルは並の企業なら本社と呼んで差し支えないほどの規模だった。
そこのVIPルームでエゴルトの信頼できる精鋭が待ち受ける。
信頼できる精鋭というのは、どんな業務でも任せられるという意味だ。
「ターゲットの居場所は把握しているかね?」
高級ビジネスチェアに腰掛け、エゴルトがレイニィに問いかける。
「はい、福岡の逸果と藤堂は依然として動いていません。鈴成凛悟と花畑蜜子は4時間ほど前に北陸の糸魚川にいたのを確認しています。また、グッドマンが名古屋方面に移動中です、おそらくティターニアも同行しています。ダイダロスの行方は不明ですが妹と合流する可能性が高いかと」
部屋の大型モニターにはターゲットとなる”祝福者”の位置が表示されている。
もちろん”祝福者”は世界中に散らばっているが、これほど多くの人数が確認されている国は日本しかない。
エゴルトが拠点を日本に移したのは当然の判断だった。
「CEO、おそらくですが凛悟と蜜子は名古屋へ向かっているものと思われます」
「根拠は?」
「グッドマンが今朝方借りたスマホへの履歴を入手しました。凛悟から『糸魚川駅で待つ』とメールがあったのを確認しています。ですがこれはフェイクだと思われます」
「続けたまえ」
「凛悟はスマホの発信履歴が傍受されていることに気付いています。だからあえて北陸方面にいるという情報をSNSで発信し、”糸魚川”というキーワードをことさらに強調したメールを送ったのかと。北陸にいると見せかけて名古屋でグッドマンたちと合流するものと思われます」
令状なしに個人の通信内容を閲覧するのは無論違法。
だが、この中にはそれを気にする者はいない。
「さらにこれをご覧下さい。今朝、グッドマンが凛悟たちの宿泊したホテルの部屋から出た時の映像です」
レイニィが手を動かすと、モニターに新しい窓が表示されグッドマンの姿が映される。
「手に紙を持っています。通信は傍受されていると気付いての行動でしょう。この紙で合流先の連絡をしたのだと推測されます。これが凛悟氏たちも北陸から名古屋方面に移動中と判断した根拠です」
彼女の報告は正しそうに聞こえる。
だが、エゴルトは知っていた。
政財界のトップを欺く最良の方法は、トップが信頼している側近を欺くことだと。
東洋の格言で言えば『将を射んとする者はまず馬を射よ』。
そしてこの優秀な側近たちを欺けるとしたら……。
「今、だな」
「なにかおっしゃいましたか?」
「今だと言ったのだ。僕がここに入る、このタイミングこそが一番の隙だ。君たちが報告に手を取られている時間だよ」
そう言ってエゴルトは時計をチラリを見る。
時刻は20時半を回った所だった。
「19時から今までの東京駅のカメラをAIで解析したまえ」
エゴルトの指示でスタッフがPCの画面に食いつく。
10分ほどの間を置いて、スタッフのひとりが声を上げる。
「いました! 20時10分ごろです! グッドマンとティターニアと思われるふたりが新幹線に搭乗しています。行き先は金沢、途中停車駅は糸魚川! 糸魚川到着予定は22時30分ごろです!」
「そんな!? グッドマンたちの車が高速を降りた履歴はないのに!?」
「なるほど、糸魚川は偽物と見せかけた本物か」
レイニィの驚きの声をよそにエゴルトは口の端を上げる。
相手はエゴルトたちが『凛悟たちは裏をかこうとしているな、見え見えだ』と考えると読んでさらにその裏をかいてきた。
こんなことを考えるのは誰か?
エゴルトは頭の中で情報を分析する。
グッドマンではない、ヤツはバカ正直過ぎる。
ダイダロスとティターニアが日本の地理にこんなに明るいはずがない。
すると凛悟か蜜子に対象は絞られる。
おそらく、男の方だろう。
SNSの情報は全て男の方から発信されている。
女の方の情報を絞っているのか、それとも自分が盾になるつもりなのか。
どちらでもいい、少なくともバカではないことがわかれば十分だ。
”祝福”を愚かな使い方で無駄にしないからな。
「レイニィ、北陸方面の人員は?」
「申し訳ありません、名古屋方面に移動させていた者を至急戻させます。おそらく新幹線の到着時刻にはギリギリ間にあうかと」
「人数は?」
「ふたりです」
「ふたりか、出来ればもうひとり欲しかったな。交渉と実証を任せられるよう」
「申し訳ございません」
深々と頭を下げるレイニィにエゴルトはいいよとばかりに手を振る。
「次の実証実験だが狙撃を試そう。視認外から一発で頭を吹き飛ばすんだ。”祝福”を使う刹那すら与えずにね」
「かしこまりました。交渉はどうしましょうか?」
「僕からメールしておこう。一度やってみたかった、最後通牒ってやつをね」
そう言ってエゴルトは少し楽しそうにスマホを振った。
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