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第2章 夢からさめても
2-20.作戦の間食 花畑 蜜子
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”祝福者”花畑 蜜子は上機嫌だった。
ここ2日間、大好きなセンパイとずっと一緒で、その上、ドライブデートまでしているのだから。
各所の道の駅やPAで信州の名産品に舌鼓を打ち、今は日本海へと移動中である。
ただ、不満がないわけではない。
それは凛悟の態度。
旅の間中、凛悟は地図と祝福で手に入れた”本”とずっとにらめっこしていて、蜜子のことをあまりかまってくれないのだ。
「センパイ、そろそろ明かしてくれません。あのタイムリーパーをやっつける作戦ってのを」
凛悟に何やら作戦がありそうなのはわかっているが、その詳細は蜜子には明かされていない。
わかっているのは『何もするな』という指示だけ。
「作戦もなにも蜜子にやって欲しいことはない。敢えて言うなら安全な所で俺を見ているだけでいい。お勧めはこの車内だ」
蜜子の問いに凛悟は素っ気ない返事をしたまま、運転を続ける。
そんな態度に少しカチンと来たのか蜜子はその首をグイッと自分へ向ける。
車体が揺れ、キキッーとブレーキの音が聞こえた。
「あっぶないな! なにるすんだ!」
「センパイがこっちを見てくれないからです!」
「見てわからないのか!? 運転中だぞ!」
ハンドルを操作し車体を立て直して凛悟が言う。
流石に学んだのかその視線はチラチラと蜜子の方を見ている。
「センパイ言いましたよね。『幸せになるなら、ふたり一緒に、みんな一緒に』って」
「ああ、だから俺はこうやって」
”本”を取り出そうとする凛悟の手を蜜子が止める。
「違います。センパイと一緒にいるべきはあたしです。センパイのために一緒にガンバルのもあたしです。センパイを幸せにしてあたしを幸せにするならふたりでです。そんな”本”じゃありません」
いつになく真剣な蜜子の訴えに凛悟は軽く息を吐く。
「わかった、俺が悪かった。蜜子の言う通りだ。俺たちの幸せには互いの信頼が必要だな。もちろん勝利にもだ」
「センパイ、それじゃあ!」
「ああ、全て話そう。俺の考えている作戦の全てを」
凛悟の手がハンドルを切り、車は高速の出口へと向かう。
高速を降りた先の公園の駐車場で凛悟は周囲の目を警戒し、誰もいないことを確認すると蜜子へと向き合った。
「作戦の前にまずは現在の状況を整理しよう。俺たちの幸せのための障害はふたつ」
「”殺してでも奪い取る”悪辣社長エゴルトと、”勝つまでコンティニュー”タイムリーパーダイダロスですよね」
「そうだ。どちらも注意が必要だが。エゴルトの方の危険だな。思想もそうだが金と権力がある分、厄介だ」
「エボルトテック社ののCEOですもんね。あたしもそこのアプリいくつか入れています」
エボルトテック社はSNSのようなアプリだけでなく、入国管理システムや決済システムまで手掛けている一大IT企業だ。
アメリカで、日本で、いや世界中においてエボルトテック社のサービスを利用していない人などほぼいないだろう。
「そして、その使いを名乗るグッドマンがホテルにやってきたことを考慮すると、エゴルトは既に各所に手を回してソーシャルカメラや決済情報から俺たちを追跡している。SNSの書き込みやメールだって筒抜けだろうな。俺たちだけでなく他の”祝福者”も含めて」
「それって違法なんじゃ!?」
「もちろん違法。だけど”殺してしまえばどうとでもなる”と考えるようなやつだぞ、その程度は気にしてないさ。詫び金を払えばいいだろくらいに思っているさ」
凛悟の想像は当たっていた。
エボルトはその権力を使い各国のソーシャルカメラの情報をAIに分析させ”祝福者”の特定を進め、その行動を逐一トレースするよう指示を出していた。
もちろん”詫び金を払えばいいだろ”と考えている所まで当たっている。
「次にダイダロスの方だが、こっちはエゴルトほどの権力はない。普通の一般人だが……」
「タイムリープで何度でもやり直してくるんですよね。あたしの”祝福”を無駄撃ちさせようとして。でも、こんなのどうやって対処すればいいんです? 対処しても彼は次のループでその対処への対策を練って来るんですよ。いや、今こそが次のループなのかも……」
蜜子は頭を抱える。
相手は成功するまでやり直してくるのだ。
何度倒してもゾンビのように蘇る。
いや、凛悟や蜜子の目線に立てば、無限にレベルアップしてコンティニューしてくるのだ。
「正直、ダイダロスへの根本的な対策はない。だから一時的にやり過ごすしかない。最後までおとなしくしてもらう」
「そんなこと出来るんですか!?」
「わからない。だが、やってみる価値はある。俺には最強の武器”情報”がある」
そう言って凛悟は祝福で手に入れた”本”を取り出し、ダイダロスのページを開く。
そこには彼のプロフィールと、その下には地図と動く点があった。
「センパイ、これって!?」
「俺の願いは”祝福者”の情報が載っている”本”だ。本名や住所、家族構成のみならず、携帯番号やスマホのアカウントまで幅広く網羅している。もちろん現在位置もご覧の通りさ」
ゆっくりと動く点を指差しながら凛悟は少し自慢気味に言う。
「ちょっと見せて下さい」
蜜子は凛悟の手から本を受け取ると、それをパラパラとめくり、自分と凛悟のページを見比べた。
地図にある点は同じ位置を示している。
指でピンチイン・アウトすると拡大縮小までされた。
まるでスマホのマップアプリみたいねと蜜子は思った。
「どうだ、すごいだろう」
「ええ、スゴイです。いいことも書いてありましたし。あたしのスリーサイズが正しく載っていたことには目をつぶります。センパイはこれでダイダロスを迎え撃つつもりですね」
相手が接触してくるタイミングがわかるというの大きなアドバンテージだ。
タイムリープでやり直した場合、ダイダロス以外の人間は前と同じ行動を取る。
ダイダロスの行動に影響されない限りは。
だが、言い換えれば、ダイダロスの行動に影響を受ければ違う行動を取る。
取ることが出来る。
この本から得られるダイダロスの位置情報は、常にダイダロスの行動の影響を受けているのに等しい。
ダイダロスがタイムリープを使って前回と違うタイミングで接触しようとしても、こちらはそれに合わせて対応出来る。
言い換えれば、世界の中で唯一、”本”を持つ凛悟たちだけが、ダイダロスの行動に応じて臨機応変に行動出来るのだ。
「迎え撃つのは半分正解。それだけじゃない、これから次の手も打つ」
スマホを操作し凛悟はメールを打つ。
その宛先はグッドマン。
”本”には”祝福者”の情報が記載されている。
”元祝福者”であっても例外ではない。
「センパイ、その宛先ってグッドマンさんでしょ。いったいどうするんですか?」
「来てもらうのさ、ダイダロス攻略の切り札に」
「センパイ、ひょっとして悪辣CEOの手先とタイムリーパーをぶつけるつもりですか!?」
蜜子の顔が少し興奮気味になる。
どうしようもない強敵、しかもふたり。
そんなシチュエーションで盛り上がる展開を頭に浮かべながら。
だが、それに対する凛悟の返事は全く逆だった。
「違うな。ぶつけるのさ。ふたつの勢力を俺に」
蜜子の顔が青ざめる。
最悪の事態が頭に浮かんで。
「それってとってもマズイことになりません?」
「下手すると死ぬな。いや、十中八九死ぬだろうな」
あっさりとした口調で凛悟は言った。
まるで、彼自身もやり直せるかのように。
ここ2日間、大好きなセンパイとずっと一緒で、その上、ドライブデートまでしているのだから。
各所の道の駅やPAで信州の名産品に舌鼓を打ち、今は日本海へと移動中である。
ただ、不満がないわけではない。
それは凛悟の態度。
旅の間中、凛悟は地図と祝福で手に入れた”本”とずっとにらめっこしていて、蜜子のことをあまりかまってくれないのだ。
「センパイ、そろそろ明かしてくれません。あのタイムリーパーをやっつける作戦ってのを」
凛悟に何やら作戦がありそうなのはわかっているが、その詳細は蜜子には明かされていない。
わかっているのは『何もするな』という指示だけ。
「作戦もなにも蜜子にやって欲しいことはない。敢えて言うなら安全な所で俺を見ているだけでいい。お勧めはこの車内だ」
蜜子の問いに凛悟は素っ気ない返事をしたまま、運転を続ける。
そんな態度に少しカチンと来たのか蜜子はその首をグイッと自分へ向ける。
車体が揺れ、キキッーとブレーキの音が聞こえた。
「あっぶないな! なにるすんだ!」
「センパイがこっちを見てくれないからです!」
「見てわからないのか!? 運転中だぞ!」
ハンドルを操作し車体を立て直して凛悟が言う。
流石に学んだのかその視線はチラチラと蜜子の方を見ている。
「センパイ言いましたよね。『幸せになるなら、ふたり一緒に、みんな一緒に』って」
「ああ、だから俺はこうやって」
”本”を取り出そうとする凛悟の手を蜜子が止める。
「違います。センパイと一緒にいるべきはあたしです。センパイのために一緒にガンバルのもあたしです。センパイを幸せにしてあたしを幸せにするならふたりでです。そんな”本”じゃありません」
いつになく真剣な蜜子の訴えに凛悟は軽く息を吐く。
「わかった、俺が悪かった。蜜子の言う通りだ。俺たちの幸せには互いの信頼が必要だな。もちろん勝利にもだ」
「センパイ、それじゃあ!」
「ああ、全て話そう。俺の考えている作戦の全てを」
凛悟の手がハンドルを切り、車は高速の出口へと向かう。
高速を降りた先の公園の駐車場で凛悟は周囲の目を警戒し、誰もいないことを確認すると蜜子へと向き合った。
「作戦の前にまずは現在の状況を整理しよう。俺たちの幸せのための障害はふたつ」
「”殺してでも奪い取る”悪辣社長エゴルトと、”勝つまでコンティニュー”タイムリーパーダイダロスですよね」
「そうだ。どちらも注意が必要だが。エゴルトの方の危険だな。思想もそうだが金と権力がある分、厄介だ」
「エボルトテック社ののCEOですもんね。あたしもそこのアプリいくつか入れています」
エボルトテック社はSNSのようなアプリだけでなく、入国管理システムや決済システムまで手掛けている一大IT企業だ。
アメリカで、日本で、いや世界中においてエボルトテック社のサービスを利用していない人などほぼいないだろう。
「そして、その使いを名乗るグッドマンがホテルにやってきたことを考慮すると、エゴルトは既に各所に手を回してソーシャルカメラや決済情報から俺たちを追跡している。SNSの書き込みやメールだって筒抜けだろうな。俺たちだけでなく他の”祝福者”も含めて」
「それって違法なんじゃ!?」
「もちろん違法。だけど”殺してしまえばどうとでもなる”と考えるようなやつだぞ、その程度は気にしてないさ。詫び金を払えばいいだろくらいに思っているさ」
凛悟の想像は当たっていた。
エボルトはその権力を使い各国のソーシャルカメラの情報をAIに分析させ”祝福者”の特定を進め、その行動を逐一トレースするよう指示を出していた。
もちろん”詫び金を払えばいいだろ”と考えている所まで当たっている。
「次にダイダロスの方だが、こっちはエゴルトほどの権力はない。普通の一般人だが……」
「タイムリープで何度でもやり直してくるんですよね。あたしの”祝福”を無駄撃ちさせようとして。でも、こんなのどうやって対処すればいいんです? 対処しても彼は次のループでその対処への対策を練って来るんですよ。いや、今こそが次のループなのかも……」
蜜子は頭を抱える。
相手は成功するまでやり直してくるのだ。
何度倒してもゾンビのように蘇る。
いや、凛悟や蜜子の目線に立てば、無限にレベルアップしてコンティニューしてくるのだ。
「正直、ダイダロスへの根本的な対策はない。だから一時的にやり過ごすしかない。最後までおとなしくしてもらう」
「そんなこと出来るんですか!?」
「わからない。だが、やってみる価値はある。俺には最強の武器”情報”がある」
そう言って凛悟は祝福で手に入れた”本”を取り出し、ダイダロスのページを開く。
そこには彼のプロフィールと、その下には地図と動く点があった。
「センパイ、これって!?」
「俺の願いは”祝福者”の情報が載っている”本”だ。本名や住所、家族構成のみならず、携帯番号やスマホのアカウントまで幅広く網羅している。もちろん現在位置もご覧の通りさ」
ゆっくりと動く点を指差しながら凛悟は少し自慢気味に言う。
「ちょっと見せて下さい」
蜜子は凛悟の手から本を受け取ると、それをパラパラとめくり、自分と凛悟のページを見比べた。
地図にある点は同じ位置を示している。
指でピンチイン・アウトすると拡大縮小までされた。
まるでスマホのマップアプリみたいねと蜜子は思った。
「どうだ、すごいだろう」
「ええ、スゴイです。いいことも書いてありましたし。あたしのスリーサイズが正しく載っていたことには目をつぶります。センパイはこれでダイダロスを迎え撃つつもりですね」
相手が接触してくるタイミングがわかるというの大きなアドバンテージだ。
タイムリープでやり直した場合、ダイダロス以外の人間は前と同じ行動を取る。
ダイダロスの行動に影響されない限りは。
だが、言い換えれば、ダイダロスの行動に影響を受ければ違う行動を取る。
取ることが出来る。
この本から得られるダイダロスの位置情報は、常にダイダロスの行動の影響を受けているのに等しい。
ダイダロスがタイムリープを使って前回と違うタイミングで接触しようとしても、こちらはそれに合わせて対応出来る。
言い換えれば、世界の中で唯一、”本”を持つ凛悟たちだけが、ダイダロスの行動に応じて臨機応変に行動出来るのだ。
「迎え撃つのは半分正解。それだけじゃない、これから次の手も打つ」
スマホを操作し凛悟はメールを打つ。
その宛先はグッドマン。
”本”には”祝福者”の情報が記載されている。
”元祝福者”であっても例外ではない。
「センパイ、その宛先ってグッドマンさんでしょ。いったいどうするんですか?」
「来てもらうのさ、ダイダロス攻略の切り札に」
「センパイ、ひょっとして悪辣CEOの手先とタイムリーパーをぶつけるつもりですか!?」
蜜子の顔が少し興奮気味になる。
どうしようもない強敵、しかもふたり。
そんなシチュエーションで盛り上がる展開を頭に浮かべながら。
だが、それに対する凛悟の返事は全く逆だった。
「違うな。ぶつけるのさ。ふたつの勢力を俺に」
蜜子の顔が青ざめる。
最悪の事態が頭に浮かんで。
「それってとってもマズイことになりません?」
「下手すると死ぬな。いや、十中八九死ぬだろうな」
あっさりとした口調で凛悟は言った。
まるで、彼自身もやり直せるかのように。
応援ありがとうございます!
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