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第2章 夢からさめても
2-18.乙女の希望 花畑 蜜子
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「ねえ、センパイ。何してるんですか?」
凛悟と蜜子がホテルを抜け出したのは夜明け前、その足でレンタカーを借りて西へ出発した。
今は高速道路のパーキングエリアで朝食中である。
「FactBookに登録中。ここで写真を撮って投稿するつもりだ」
サンドイッチを頬張りながら凛悟は言う。
「FactBookって、以前センパイはやらないって言ってませんでした。ほら、SNSで顔出しするなんて自殺行為だって」
FactBookは世界的に人気なSNSのひとつ。
その特徴は実名顔出しであること。
匿名タイプのSNSとは違い、真実性の高さが特徴だ。
「その通り、特にこの”祝福ゲーム”では自殺行為に等しい。これでPAの写真なんてアップした日には、一瞬で場所が特定されるだろうな」
「じゃあどうして? あの悪いヤツの使いにまた見つかるかもしれませんよ。あんなことしちゃったから怒ってるかも」
悪いヤツとはエゴルトのこと。
その使いとはグッドマンのことだ。
「それだけじゃない。あのタイムリーパーにも見つかるだろうな。実名なんて出したら」
「ますますもってわかりません。センパイは何がしたいんです?」
そう言って蜜子は細身の身体に似つかわしくない大型のおにぎりをあんぐりと食べる。
「蜜子、そのおにぎり美味いか?」
「普通においしいですよ」
「じゃあ、そこの人がメソメソと泣いてたら?」
早朝のPAは男の世界。
凛悟が指さす先には朝から大盛肉うどんをガツガツと食べるトラック運転手の姿があった。
「あまり良い気はしませんね。誰かが悲しい想いをしているとご飯がおいしくなくなります。ま、あの人は涙とは縁遠そうですけど」
「だろうな。俺もだ。俺達の目的は幸せになることだろ」
「もちろんですとも。センパイとふたりで幸せになることがあたしの夢です」
「だとすると、悲しむ人がたくさんいる状態は良くないよな。飯が不味くなる」
「あー、前時代的な家長風の言い方。でも、そうですよねあたしも食事するなら笑顔の中がいいです」
シュンとなっておにぎりを見る蜜子。
だが、少しの間を置いてその目が輝きだした。
凛悟の言葉の裏を、真意を感じて。
「センパイ!? もしかして!?」
「俺の目的は最初から変わらない。幸せになることだ。不幸なヤツの隣だと幸せにケチが付く。蜜子もそうだろ」
「も、もっちろん! あたしはそんな悪い子じゃないですから」
「だとしたら、俺達がやるべきことはひとつ。夢で死んでしまった人を生き返らせて、その上で幸せになるように”祝福”を使おう。幸せになるなら、ふたり一緒に、みんな一緒にだ」
「それでこそです! でも、あたしたちって詰んでませんでしたっけ?」
蜜子はホテルで見た本の内容を思い出す。
他人の”祝福”を無駄撃ちさせようとするタイムリーパー。
祝福を『殺してでも奪い取る』、そんな願いを叶えた悪辣CEO。
そんなのを相手に打つ手なしと結論付けたのではないか。
「昨日はそう思ってたさ。でもな、蜜子のひと事がヒントになった。まだ俺達は詰んでない」
「あれ? あたしって何か重要なこと言いましたっけ?」
「言ったさ。『こんなの相手じゃ”祝福”がいくらあっても足りないよ~』ってな」
「確かにそんなこと言いましたけど。”祝福”は絶対に増えないんじゃなかったですか?」
「ああ、増えない。だが手がないわけじゃない。確証は持てないが可能性はある。やはりこの”祝福ゲーム”は情報を制したものが勝利する。1周目の俺の真意はそれだったと思う」
”祝福”で手に入れた祝福者の情報が載った”本”、凛悟はそれをポンと叩く。
1周目よりも早く願ったことで、凛悟はダイダロスの設定したタイムリープの起点以前に”本”を手に入れた。
それがふたりにとっての唯一の武器であり、希望だった。
「だが、何よりも重要なのはタイムリーパーを何とかすることだ。そうしないと俺たちは未来へ進めなくなる」
凛悟の重たい口調はそれが困難であることを示していた。
「わかりました! まずはセンパイの言う通りタイムリーパーをやっつけましょう!」
「やっつけるとは少し違うが……。作戦がある。協力してくれるよな」
「はいっ、何でもします!」
決意を込めて蜜子は言った。
「いや、お願いだから何もしないでくれ」
決心を決めて凛悟は返した。
凛悟と蜜子がホテルを抜け出したのは夜明け前、その足でレンタカーを借りて西へ出発した。
今は高速道路のパーキングエリアで朝食中である。
「FactBookに登録中。ここで写真を撮って投稿するつもりだ」
サンドイッチを頬張りながら凛悟は言う。
「FactBookって、以前センパイはやらないって言ってませんでした。ほら、SNSで顔出しするなんて自殺行為だって」
FactBookは世界的に人気なSNSのひとつ。
その特徴は実名顔出しであること。
匿名タイプのSNSとは違い、真実性の高さが特徴だ。
「その通り、特にこの”祝福ゲーム”では自殺行為に等しい。これでPAの写真なんてアップした日には、一瞬で場所が特定されるだろうな」
「じゃあどうして? あの悪いヤツの使いにまた見つかるかもしれませんよ。あんなことしちゃったから怒ってるかも」
悪いヤツとはエゴルトのこと。
その使いとはグッドマンのことだ。
「それだけじゃない。あのタイムリーパーにも見つかるだろうな。実名なんて出したら」
「ますますもってわかりません。センパイは何がしたいんです?」
そう言って蜜子は細身の身体に似つかわしくない大型のおにぎりをあんぐりと食べる。
「蜜子、そのおにぎり美味いか?」
「普通においしいですよ」
「じゃあ、そこの人がメソメソと泣いてたら?」
早朝のPAは男の世界。
凛悟が指さす先には朝から大盛肉うどんをガツガツと食べるトラック運転手の姿があった。
「あまり良い気はしませんね。誰かが悲しい想いをしているとご飯がおいしくなくなります。ま、あの人は涙とは縁遠そうですけど」
「だろうな。俺もだ。俺達の目的は幸せになることだろ」
「もちろんですとも。センパイとふたりで幸せになることがあたしの夢です」
「だとすると、悲しむ人がたくさんいる状態は良くないよな。飯が不味くなる」
「あー、前時代的な家長風の言い方。でも、そうですよねあたしも食事するなら笑顔の中がいいです」
シュンとなっておにぎりを見る蜜子。
だが、少しの間を置いてその目が輝きだした。
凛悟の言葉の裏を、真意を感じて。
「センパイ!? もしかして!?」
「俺の目的は最初から変わらない。幸せになることだ。不幸なヤツの隣だと幸せにケチが付く。蜜子もそうだろ」
「も、もっちろん! あたしはそんな悪い子じゃないですから」
「だとしたら、俺達がやるべきことはひとつ。夢で死んでしまった人を生き返らせて、その上で幸せになるように”祝福”を使おう。幸せになるなら、ふたり一緒に、みんな一緒にだ」
「それでこそです! でも、あたしたちって詰んでませんでしたっけ?」
蜜子はホテルで見た本の内容を思い出す。
他人の”祝福”を無駄撃ちさせようとするタイムリーパー。
祝福を『殺してでも奪い取る』、そんな願いを叶えた悪辣CEO。
そんなのを相手に打つ手なしと結論付けたのではないか。
「昨日はそう思ってたさ。でもな、蜜子のひと事がヒントになった。まだ俺達は詰んでない」
「あれ? あたしって何か重要なこと言いましたっけ?」
「言ったさ。『こんなの相手じゃ”祝福”がいくらあっても足りないよ~』ってな」
「確かにそんなこと言いましたけど。”祝福”は絶対に増えないんじゃなかったですか?」
「ああ、増えない。だが手がないわけじゃない。確証は持てないが可能性はある。やはりこの”祝福ゲーム”は情報を制したものが勝利する。1周目の俺の真意はそれだったと思う」
”祝福”で手に入れた祝福者の情報が載った”本”、凛悟はそれをポンと叩く。
1周目よりも早く願ったことで、凛悟はダイダロスの設定したタイムリープの起点以前に”本”を手に入れた。
それがふたりにとっての唯一の武器であり、希望だった。
「だが、何よりも重要なのはタイムリーパーを何とかすることだ。そうしないと俺たちは未来へ進めなくなる」
凛悟の重たい口調はそれが困難であることを示していた。
「わかりました! まずはセンパイの言う通りタイムリーパーをやっつけましょう!」
「やっつけるとは少し違うが……。作戦がある。協力してくれるよな」
「はいっ、何でもします!」
決意を込めて蜜子は言った。
「いや、お願いだから何もしないでくれ」
決心を決めて凛悟は返した。
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