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第2章 夢からさめても
2-16.未来の袋小路 鈴成 凛悟
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イタリア時間 4月1日 午前8時2分。
同時刻、日本時間 4月1日 午後3時2分。
それは鈴成 凛悟と花畑 蜜子が乗ろうとしていた東京行きの新幹線の出発時刻。
「ねえ、センパイ。藤堂さん間に合うかしら」
「間に合うとは思う、だが救えるかはわからない。今後も俺たちに協力してくれるかは神のみぞ知るってとこだ」
かつての祝福者、タイムリープで人生をやりなおした男、新田 群馬がふたりに語った未来。
藤堂が信奉するアイドル 逸果 実の死。
それは4月3日の夜に起こる。
彼はそうふたりに告げた。
そしてさらにふたりが得た情報がある。
実も”祝福者”であることだ。
これは凛悟が”祝福”を使って手に入れた“本”から得た情報だ。
エゴルトの願い、そしてコンサート後に実が殺されることを藤堂に告げたら、彼は一目散に『実ちゃんはワイが助けるんや!』と彼女の下へ向かっている。
ふたりと藤堂は後で合流することになっているが、凛悟はそう上手く行くとは思っていなかった。
「とにかく早く藤堂と合流しよう」
「はい、センパイ」
ふたりが駅の階段に足をかけた時、それがダイダロスの設定した時刻だった。
「センパイ!? 見て下さい! 今、ふたつの”祝福”が!」
蜜子が手の甲を突き出す。
その数字は11に減っていた。
「センパイ?」
階段の途中で足を止める凛悟に蜜子が声をかける。
「蜜子、行くぞ! ふたりっきりになれる所へ」
「えっ? ええっ? えええええ!?」
蜜子の腕をガシッとつかみ、凛悟は階段を駆け下りる。
そして、駅前のホテルへとチェックインした。
ビジネスホテルへ。
「せ、センパイ。ど、どうせホテルに入るんでしたら、もっとやらしい感じの方が……」
「そんなことより、これを見てくれ。こいつをどう思う?」
「すっごく、おおいいです」
パシッ
「あうち!」
「今は冗談を言っている場合じゃない。いや、場合なのか……」
凛悟が見せたのは”祝福”によって手に入れた”本”。
祝福者の各種情報やどんな願いを叶えたのかが記載されている”本”だ。
「だって、これ文字数が多すぎます。能力バトル漫画のクドい説明回くらいの量ですよ。えーっと……」
蜜子が読み始めたのはダイダロスのページ。
第12の願いが載っているページだ。
…
……
「なにこのインチキ!? 好き勝手にタイムリープできる上に、他の人の祝福の効果も無くしちゃうじゃない。しかも殺しても”死に戻り”するし、精神攻撃も無効!? こんなの相手じゃ”祝福”がいくらあっても足りないよ~」
「それだけじゃない、次のページを見てみろ」
凛悟の声に蜜子はページをペラッとめくる。
「えっと、第13の願い。あら、これって素敵。ハッピーエンドが約束される願いだわ」
「見るべき所はそこじゃない。願いを叶えた時刻だ」
「時刻? イタリア時間4月1日20時55分……。西から昇った太陽が東に沈むので、日本時間だと13時55分くらいかしら」
パシッ
「あうち!」
「それでよくない! 逆だ逆」
「ギャクだけに。なーんて冗談はこれくらいにしときまして、これってマズくありません? イタリア時間の4月1日20時55分って日本だと4月2日の朝4時くらいですよね」
現在時刻は4月1日の午後3時45分
未来で叶えられた願い。
それが”祝福”で手に入れた”本”には載っていた。
「そうだ。これが意味することはひとつ。このダイダロスがラーヴァに”祝福”を使わせて、そしてタイムリープで過去に戻りなかったことにしたのだろう。この男はそうやって”祝福”をひとつずつ無効にしていくつもりだ」
凛悟の読みは正確で、まさにその通りだった。
「するとターゲットの中にあたしも入っているってことですか?」
「そう考えるべきだろうな」
「で、でも、あたしの居場所なんてわからないですよね。日本にいるくらいはわかるかもしれないですけど」
「コイツは好きなだけやり直すことが出来る。何千、何万回の試行の中で、蜜子が見つからずに済むとは思えない」
ダイダロスが蜜子を発見する確率は低い。
だが、ゼロではない。
無限に探索を繰り返せば、いつかは必ずダイダロスは蜜子を見つけ出すだろう。
そしてそれは蜜子だけに限らない、他の祝福者にとっても同じ。
「で、でも、あたしが”祝福”を使わなければいいだけの話ですよね」
「命を脅かす、金で懐柔する、薬で前後不覚にさせる、蜜子ではなく俺を痛めつけて脅す。蜜子が”祝福”を使わざるを得なくさせる方法はいくらでもあるさ。しかも、コイツは成功するまでやり直しが出来る」
「逆に返り討ちにするとか」
「発動条件を見てみろ。そうしたらまたやり直しされるだけだ」
「ほ、ほら、この祝福者の妹さん。文脈からするに彼の大切な人みたいですよ。彼女を人質に逆に脅せば……」
「妹がピンチになったら、またやり直しするだろうな。アニメや漫画の”死に戻り”とは違って、コイツは自分の意志でタイムリープが発動できる」
…
……
「みつけました! 穴! ほら、ここ! この能力は他の”祝福”で無効化されないってあるじゃないですか。でも、”祝福”を使ってこの部分を消してもらえばいいんですよ! そして、その後で”祝福”を使ってタイムリープの能力を無効化すればいいんです!」
「それだと祝福がふたつ必要だな」
「それです! センパイの”本”では奪うことでペナルティが発生する願いはありませんでした! あたしの”祝福”で他の人から奪っちゃえば!」
以前、夢の中で他人を殺したり、祝福を奪うのは危険だと会話したことを蜜子は憶えていた。
だが、今ならそれが成り立つと左手を握しめる。
「蜜子が”祝福”を使った瞬間、ダイダロスは喜び勇んでタイムリープを使うだろうな。そうすると蜜子の”祝福”だけが無くなり、他の”祝福”は元に戻る」
ダイダロスの願いの詳細、『タイムリープが起きた時、使用された”祝福”は復活しない』の部分を指差し凛悟は指摘する。
「ぐっ! そうですね……」
「それにだ」
「まだ何か?」
「どうやら”祝福”には色々付帯事項が付けられるようだ。試しに俺の”本”の願いが叶うタイミングを次の願いが叶う直前に出来ないかと神に聞いたら、出来ると回答があった」
”祝福者”でなくなったなら神の座にはもう赴けない。
凛悟はならばと出来る限りの情報を引き出そうとあの時質問していた。
「するとどうなるんです?」
「誰かが既に『”祝福”を奪うと死ぬ。ただしこの願いが叶えられるのは誰かがそう言った時で』といった願いを予約している可能性がある。これなら俺の”本”には反映されないし、聖痕の数も減らないだろう」
「はえー、そこまで考えるものなんですね」
「デスゲーム系ではよくあることさ」
「ひょっとして、センパイって経験豊富ですか?」
「まだ童貞だ。経験はしてなくても想像は出来る」
「へぇ~、想像でねー。ひょっとしてセンパイの頭の中のあたしも色々と想像させられちゃったりして」
ペコッ
「あうちっ」
ぐへへと笑う蜜子に軽いツッコミが入る。
「脳内をお花畑にするのは”祝福ゲーム”が終わってからにしろ。俺達の敵はそれだけじゃないだろ」
「まだあるんですか!?」
「ダイダロスの他にもうひとりヤバイやつがいるだろ」
本をパラリとめくり、凛悟はひとつ前のページを見せる。
そこは第11の願いのページ。
内容を要約すれば、 ”祝福者”が”祝福”を使わずに死亡した場合、”祝福”はランダムではなく、エゴルト・エボルトの手に渡る。
「蜜子と藤堂の祝福を失えば、俺たちの約束された幸せがパーになるだけなく。この男を止める方法が無くなる。この男に”祝福”を複数集めさせたらどうなると思う?」
「えっと……、実はこの人、良い人だったりしない? みんなを幸せにしてくれる願いを叶えてくれるとか」
「こんな願いをするヤツが良いヤツだと思うか?」
…
……
………
「ねぇ、センパイ」
「なんだ?」
「あたしたちって詰んでません?」
「そうだ。詰んでいる」
凛悟は”本”を手に深い溜息を吐いた。
同時刻、日本時間 4月1日 午後3時2分。
それは鈴成 凛悟と花畑 蜜子が乗ろうとしていた東京行きの新幹線の出発時刻。
「ねえ、センパイ。藤堂さん間に合うかしら」
「間に合うとは思う、だが救えるかはわからない。今後も俺たちに協力してくれるかは神のみぞ知るってとこだ」
かつての祝福者、タイムリープで人生をやりなおした男、新田 群馬がふたりに語った未来。
藤堂が信奉するアイドル 逸果 実の死。
それは4月3日の夜に起こる。
彼はそうふたりに告げた。
そしてさらにふたりが得た情報がある。
実も”祝福者”であることだ。
これは凛悟が”祝福”を使って手に入れた“本”から得た情報だ。
エゴルトの願い、そしてコンサート後に実が殺されることを藤堂に告げたら、彼は一目散に『実ちゃんはワイが助けるんや!』と彼女の下へ向かっている。
ふたりと藤堂は後で合流することになっているが、凛悟はそう上手く行くとは思っていなかった。
「とにかく早く藤堂と合流しよう」
「はい、センパイ」
ふたりが駅の階段に足をかけた時、それがダイダロスの設定した時刻だった。
「センパイ!? 見て下さい! 今、ふたつの”祝福”が!」
蜜子が手の甲を突き出す。
その数字は11に減っていた。
「センパイ?」
階段の途中で足を止める凛悟に蜜子が声をかける。
「蜜子、行くぞ! ふたりっきりになれる所へ」
「えっ? ええっ? えええええ!?」
蜜子の腕をガシッとつかみ、凛悟は階段を駆け下りる。
そして、駅前のホテルへとチェックインした。
ビジネスホテルへ。
「せ、センパイ。ど、どうせホテルに入るんでしたら、もっとやらしい感じの方が……」
「そんなことより、これを見てくれ。こいつをどう思う?」
「すっごく、おおいいです」
パシッ
「あうち!」
「今は冗談を言っている場合じゃない。いや、場合なのか……」
凛悟が見せたのは”祝福”によって手に入れた”本”。
祝福者の各種情報やどんな願いを叶えたのかが記載されている”本”だ。
「だって、これ文字数が多すぎます。能力バトル漫画のクドい説明回くらいの量ですよ。えーっと……」
蜜子が読み始めたのはダイダロスのページ。
第12の願いが載っているページだ。
…
……
「なにこのインチキ!? 好き勝手にタイムリープできる上に、他の人の祝福の効果も無くしちゃうじゃない。しかも殺しても”死に戻り”するし、精神攻撃も無効!? こんなの相手じゃ”祝福”がいくらあっても足りないよ~」
「それだけじゃない、次のページを見てみろ」
凛悟の声に蜜子はページをペラッとめくる。
「えっと、第13の願い。あら、これって素敵。ハッピーエンドが約束される願いだわ」
「見るべき所はそこじゃない。願いを叶えた時刻だ」
「時刻? イタリア時間4月1日20時55分……。西から昇った太陽が東に沈むので、日本時間だと13時55分くらいかしら」
パシッ
「あうち!」
「それでよくない! 逆だ逆」
「ギャクだけに。なーんて冗談はこれくらいにしときまして、これってマズくありません? イタリア時間の4月1日20時55分って日本だと4月2日の朝4時くらいですよね」
現在時刻は4月1日の午後3時45分
未来で叶えられた願い。
それが”祝福”で手に入れた”本”には載っていた。
「そうだ。これが意味することはひとつ。このダイダロスがラーヴァに”祝福”を使わせて、そしてタイムリープで過去に戻りなかったことにしたのだろう。この男はそうやって”祝福”をひとつずつ無効にしていくつもりだ」
凛悟の読みは正確で、まさにその通りだった。
「するとターゲットの中にあたしも入っているってことですか?」
「そう考えるべきだろうな」
「で、でも、あたしの居場所なんてわからないですよね。日本にいるくらいはわかるかもしれないですけど」
「コイツは好きなだけやり直すことが出来る。何千、何万回の試行の中で、蜜子が見つからずに済むとは思えない」
ダイダロスが蜜子を発見する確率は低い。
だが、ゼロではない。
無限に探索を繰り返せば、いつかは必ずダイダロスは蜜子を見つけ出すだろう。
そしてそれは蜜子だけに限らない、他の祝福者にとっても同じ。
「で、でも、あたしが”祝福”を使わなければいいだけの話ですよね」
「命を脅かす、金で懐柔する、薬で前後不覚にさせる、蜜子ではなく俺を痛めつけて脅す。蜜子が”祝福”を使わざるを得なくさせる方法はいくらでもあるさ。しかも、コイツは成功するまでやり直しが出来る」
「逆に返り討ちにするとか」
「発動条件を見てみろ。そうしたらまたやり直しされるだけだ」
「ほ、ほら、この祝福者の妹さん。文脈からするに彼の大切な人みたいですよ。彼女を人質に逆に脅せば……」
「妹がピンチになったら、またやり直しするだろうな。アニメや漫画の”死に戻り”とは違って、コイツは自分の意志でタイムリープが発動できる」
…
……
「みつけました! 穴! ほら、ここ! この能力は他の”祝福”で無効化されないってあるじゃないですか。でも、”祝福”を使ってこの部分を消してもらえばいいんですよ! そして、その後で”祝福”を使ってタイムリープの能力を無効化すればいいんです!」
「それだと祝福がふたつ必要だな」
「それです! センパイの”本”では奪うことでペナルティが発生する願いはありませんでした! あたしの”祝福”で他の人から奪っちゃえば!」
以前、夢の中で他人を殺したり、祝福を奪うのは危険だと会話したことを蜜子は憶えていた。
だが、今ならそれが成り立つと左手を握しめる。
「蜜子が”祝福”を使った瞬間、ダイダロスは喜び勇んでタイムリープを使うだろうな。そうすると蜜子の”祝福”だけが無くなり、他の”祝福”は元に戻る」
ダイダロスの願いの詳細、『タイムリープが起きた時、使用された”祝福”は復活しない』の部分を指差し凛悟は指摘する。
「ぐっ! そうですね……」
「それにだ」
「まだ何か?」
「どうやら”祝福”には色々付帯事項が付けられるようだ。試しに俺の”本”の願いが叶うタイミングを次の願いが叶う直前に出来ないかと神に聞いたら、出来ると回答があった」
”祝福者”でなくなったなら神の座にはもう赴けない。
凛悟はならばと出来る限りの情報を引き出そうとあの時質問していた。
「するとどうなるんです?」
「誰かが既に『”祝福”を奪うと死ぬ。ただしこの願いが叶えられるのは誰かがそう言った時で』といった願いを予約している可能性がある。これなら俺の”本”には反映されないし、聖痕の数も減らないだろう」
「はえー、そこまで考えるものなんですね」
「デスゲーム系ではよくあることさ」
「ひょっとして、センパイって経験豊富ですか?」
「まだ童貞だ。経験はしてなくても想像は出来る」
「へぇ~、想像でねー。ひょっとしてセンパイの頭の中のあたしも色々と想像させられちゃったりして」
ペコッ
「あうちっ」
ぐへへと笑う蜜子に軽いツッコミが入る。
「脳内をお花畑にするのは”祝福ゲーム”が終わってからにしろ。俺達の敵はそれだけじゃないだろ」
「まだあるんですか!?」
「ダイダロスの他にもうひとりヤバイやつがいるだろ」
本をパラリとめくり、凛悟はひとつ前のページを見せる。
そこは第11の願いのページ。
内容を要約すれば、 ”祝福者”が”祝福”を使わずに死亡した場合、”祝福”はランダムではなく、エゴルト・エボルトの手に渡る。
「蜜子と藤堂の祝福を失えば、俺たちの約束された幸せがパーになるだけなく。この男を止める方法が無くなる。この男に”祝福”を複数集めさせたらどうなると思う?」
「えっと……、実はこの人、良い人だったりしない? みんなを幸せにしてくれる願いを叶えてくれるとか」
「こんな願いをするヤツが良いヤツだと思うか?」
…
……
………
「ねぇ、センパイ」
「なんだ?」
「あたしたちって詰んでません?」
「そうだ。詰んでいる」
凛悟は”本”を手に深い溜息を吐いた。
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