6 / 100
第1章 夢のおわり
1-4.始まりの朝 鈴成 凛悟(すずなり りんご)
しおりを挟む
ピピ
時計のアラームと同時に鈴成 凛悟は目を覚ます。
そして、左手の数字を見て後悔する。
あれは夢じゃなかった、もっと早く目覚めるべきだった。
数字が示すのは”21”。
出遅れた! 凛悟は跳び起きてテレビのニュースとパソコンのブラウザを立ち上げる。
いつもなら暢気にトップニュースのチェックをする所だが、今日は違う。
「ふぅ、特に何もなしか」
そうひとりで呟いた凛悟はもう一度左手の数字を見る。
”21”
変化なし。
その事実に凛悟は再び安堵し、書き連ねる。
神の座での出来事を。
「どんな願いでも叶える権利、それが”祝福”。ただし願いには制限があって、総数は増えない、人は生き返らない、死ぬと権利は誰かに渡る」
”祝福ゲーム”のルールを書き、次に彼は”祝福者”の情報を思い出す。
「”祝福者”の数は24人。集まった人の人種は多様、おそらく国籍も。子供から老人まで年齢も多岐に渡る」
彼は読唇術が使えるわけではない、だが発音と口の動きの差くらいはわかる。
あの神の座では全ての言語が日本語に聞こえた。
いや、日本語として理解出来た。
しかし、しゃべっている人の口の動きは日本語とは明らかに違った。
「直接脳内に情報が入っているのかもしれないな。……神の力か。そして、既に叶えられた願いは3つ」
ブツブツと呟きながら室内を回り、凛悟は思案を続けるが、ふと我に帰る。
──そもそもあれは現実のことだったのか?
左手の数字はそれを裏付ける材料ではあるが、確証にはならない。
「”情報”を集めなくては。まずは他の”祝福者”からだ。そして”祝福ゲーム”の勝利ルートを確立する」
凛悟の趣味は旅。
車で自転車で徒歩で、日本中を駆け巡りその土地の名物や名所を回る。
その脚は高校の時には自転車で日本一周をやりとげるほどに太い。
旅で最も重要なのは”情報”。
道の選択から、どこを楽しむかまで。
”情報”如何によって旅が楽しいものになるか、疲労だけに終わるか変わるものだと彼は知っていた。
そしてそれはこの”祝福ゲーム”にとっても同じものだと感じていた。
「あれはやはり蜜子だったよな……」
神の座で見た制服、それは彼が昨年まで通っていた全方位学園のもの。
しかも、その人物に彼は見覚えがあった。
制服の主は学園の後輩の蜜子。
「よし、連絡してみよう」
スマホを手にメッセージを書いた所で、凛悟の指が止まる。
『やったぜ蜜子! 俺達は神に選ばれた! いっしょに幸せになろう!』
…
……
……止めよう、これでもし神の座のことが夢だったり、俺の思い違いだったら『センパイ 気でも狂ったのですか!?』と返信があってもおかしくない。
制服を着てたということは学校へ行こうとしていたところだよな。
だとすると、補講か。
あいつは素直で可愛いが、成績は少し残念なんだよな。
そんなことを考えながら凛悟はメッセージを打ち直す。
「凛悟だ。久しぶり。少し話したいことがある。補講が終わったらランチでもどうだ?」
送信ボタンを押し、凛悟はしばし待つ。
『センパイ! あたしもちょうどセンパイとお話したかったです! ランチご一緒します!』
相変わらずだな。
メッセージに満足した凛悟は身だしなみを整え始める。
鏡をみると、そこにはにやけた自身の顔。
「いけない、こういう時こそ冷静に」
大きく深呼吸しながら凛悟は高鳴る鼓動を抑え、家を出る。
そう思いながらも彼は昂りを抑えられず、駆け出し始めた。
自分は絶対的にこのレースの有利に立っていることに喜びながら。
時計のアラームと同時に鈴成 凛悟は目を覚ます。
そして、左手の数字を見て後悔する。
あれは夢じゃなかった、もっと早く目覚めるべきだった。
数字が示すのは”21”。
出遅れた! 凛悟は跳び起きてテレビのニュースとパソコンのブラウザを立ち上げる。
いつもなら暢気にトップニュースのチェックをする所だが、今日は違う。
「ふぅ、特に何もなしか」
そうひとりで呟いた凛悟はもう一度左手の数字を見る。
”21”
変化なし。
その事実に凛悟は再び安堵し、書き連ねる。
神の座での出来事を。
「どんな願いでも叶える権利、それが”祝福”。ただし願いには制限があって、総数は増えない、人は生き返らない、死ぬと権利は誰かに渡る」
”祝福ゲーム”のルールを書き、次に彼は”祝福者”の情報を思い出す。
「”祝福者”の数は24人。集まった人の人種は多様、おそらく国籍も。子供から老人まで年齢も多岐に渡る」
彼は読唇術が使えるわけではない、だが発音と口の動きの差くらいはわかる。
あの神の座では全ての言語が日本語に聞こえた。
いや、日本語として理解出来た。
しかし、しゃべっている人の口の動きは日本語とは明らかに違った。
「直接脳内に情報が入っているのかもしれないな。……神の力か。そして、既に叶えられた願いは3つ」
ブツブツと呟きながら室内を回り、凛悟は思案を続けるが、ふと我に帰る。
──そもそもあれは現実のことだったのか?
左手の数字はそれを裏付ける材料ではあるが、確証にはならない。
「”情報”を集めなくては。まずは他の”祝福者”からだ。そして”祝福ゲーム”の勝利ルートを確立する」
凛悟の趣味は旅。
車で自転車で徒歩で、日本中を駆け巡りその土地の名物や名所を回る。
その脚は高校の時には自転車で日本一周をやりとげるほどに太い。
旅で最も重要なのは”情報”。
道の選択から、どこを楽しむかまで。
”情報”如何によって旅が楽しいものになるか、疲労だけに終わるか変わるものだと彼は知っていた。
そしてそれはこの”祝福ゲーム”にとっても同じものだと感じていた。
「あれはやはり蜜子だったよな……」
神の座で見た制服、それは彼が昨年まで通っていた全方位学園のもの。
しかも、その人物に彼は見覚えがあった。
制服の主は学園の後輩の蜜子。
「よし、連絡してみよう」
スマホを手にメッセージを書いた所で、凛悟の指が止まる。
『やったぜ蜜子! 俺達は神に選ばれた! いっしょに幸せになろう!』
…
……
……止めよう、これでもし神の座のことが夢だったり、俺の思い違いだったら『センパイ 気でも狂ったのですか!?』と返信があってもおかしくない。
制服を着てたということは学校へ行こうとしていたところだよな。
だとすると、補講か。
あいつは素直で可愛いが、成績は少し残念なんだよな。
そんなことを考えながら凛悟はメッセージを打ち直す。
「凛悟だ。久しぶり。少し話したいことがある。補講が終わったらランチでもどうだ?」
送信ボタンを押し、凛悟はしばし待つ。
『センパイ! あたしもちょうどセンパイとお話したかったです! ランチご一緒します!』
相変わらずだな。
メッセージに満足した凛悟は身だしなみを整え始める。
鏡をみると、そこにはにやけた自身の顔。
「いけない、こういう時こそ冷静に」
大きく深呼吸しながら凛悟は高鳴る鼓動を抑え、家を出る。
そう思いながらも彼は昂りを抑えられず、駆け出し始めた。
自分は絶対的にこのレースの有利に立っていることに喜びながら。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ザイニンタチノマツロ
板倉恭司
ミステリー
前科者、覚醒剤中毒者、路上格闘家、謎の窓際サラリーマン……社会の底辺にて蠢く四人の人生が、ある連続殺人事件をきっかけに交錯し、変化していくノワール群像劇です。犯罪に関する描写が多々ありますが、犯罪行為を推奨しているわけではありません。また、時代設定は西暦二〇〇〇年代です。
【R18】インテリ系貞淑美人妻の欲望
牧村燈
ミステリー
人間不信で人を愛せない妻は、不倫相手が見せる激しい『欲望』に身を委ねることで自らの生きる意味を探していた。その妻を愛しながらも、上手にそれを表現出来ない妻以外の素人童貞の夫は、博愛の風俗嬢のかりそめの愛に癒しを求めた。
すれ違う夫婦の情景を、妻目線のサイドMと夫目線のサイドKの両サイドから交互に描く。女と男、内と外、裏と表、静と動。そして、穴と棒。その全く違うはずのものが、すべて表裏一体であり一心同体であり、もともとひとつだったことに、この夫婦は気付くことが出来るだろうか。
母からの電話
naomikoryo
ミステリー
東京の静かな夜、30歳の男性ヒロシは、突然亡き母からの電話を受け取る。
母は数年前に他界したはずなのに、その声ははっきりとスマートフォンから聞こえてきた。
最初は信じられないヒロシだが、母の声が語る言葉には深い意味があり、彼は次第にその真実に引き寄せられていく。
母が命を懸けて守ろうとしていた秘密、そしてヒロシが知らなかった母の仕事。
それを追い求める中で、彼は恐ろしい陰謀と向き合わなければならない。
彼の未来を決定づける「最後の電話」に込められた母の思いとは一体何なのか?
真実と向き合うため、ヒロシはどんな犠牲を払う覚悟を決めるのか。
最後の母の電話と、選択の連続が織り成すサスペンスフルな物語。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
イグニッション
佐藤遼空
ミステリー
所轄の刑事、佐水和真は武道『十六段の男』。ある朝、和真はひったくりを制圧するが、その時、警察を名乗る娘が現れる。その娘は中条今日子。実はキャリアで、配属後に和真とのペアを希望した。二人はマンションからの飛び降り事件の捜査に向かうが、そこで和真は幼馴染である国枝佑一と再会する。佑一は和真の高校の剣道仲間であったが、大学卒業後はアメリカに留学し、帰国後は公安に所属していた。
ただの自殺に見える事件に公安がからむ。不審に思いながらも、和真と今日子、そして佑一は事件の真相に迫る。そこには防衛システムを巡る国際的な陰謀が潜んでいた……
武道バカと公安エリートの、バディもの警察小説。 ※ミステリー要素低し
月・水・金更新
絶叫ゲーム
みなと
ミステリー
東京にある小学校に通う「音川湊斗」と「雨野芽衣」がさまざまなところで「絶叫ゲーム」に参加させられて……
※現在、ふりがな対応中です。
一部ふりがなありと、ふりがな無しが混同しています。
ヨハネの傲慢(上) 神の処刑
真波馨
ミステリー
K県立浜市で市議会議員の連続失踪事件が発生し、県警察本部は市議会から極秘依頼を受けて議員たちの護衛を任される。公安課に所属する新宮時也もその一端を担うことになった。謎めいた失踪が、やがて汚職事件や殺人へ発展するとは知る由もなく——。
両面コピーと世界について考える(仮題)
クロサワ
ミステリー
「彼はなぜ両面コピーができないのだろう」
両面コピーや食券販売機の操作ができない彼らの不可解な言動について考える。
次第におかしくなっていく世界に気づいた小島は苦悩する。
そして彼らの驚くべき目的が明らかとなる(予定)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる