上 下
4 / 100
第1章 夢のおわり

1-2.第2の願い 犬飼 優子(いぬかい やこ)

しおりを挟む
 暗い部屋、少女は毛布を涙で濡らす。
 いや、毛布ではない。
 いや、毛布かもしれない。
 だってそれは昨日までは彼女の大切なのようなものだったのだから。

「ううっ……、ぐすっ、ペロ、ペロぉ~~、どうしてしんじゃったの~」

 少女の名は犬飼いぬかい 優子やこ
 彼女の涙が濡らすのは、生まれてから5年間ずっと一緒だった犬のペロ。
 毎日、毎晩、ペロは彼女を守り、助け、温め続けた。
 だけど、昨日その温かさは失われた、永遠に。

「ペロ、ペロ、いやだよ、ずっといっしょにいたいよ」

 とめどなく流れる涙を彼女は手でぬぐう。
 そして見た。
 そこにある”23”の数字を。
 そうだ! 
 彼女は思い出す、あの暗い所で聞いた言葉を。

『どんな願いでも叶う』
『死んだ人間は生き返らない』

 でも、ペロなら!?
 それに気づいた時、彼女は願った。
 その瞬間、彼女は再び現れる、神の座へ。
 ペロを腕に抱いて。

「こんばんは、いやそろそろおはようかな優子やこちゃん。願いは決まったかな?」

 神は優しい声で少女に語りかける。

「あのね、ペロがしんじゃったの。だいすきなペロが」
「うん、それは悲しいね」
「じゅみょうなんだって、パパがいってた」
「そうなんだ」
「だからね、あたしおねがいしにきたの。ペロをいきかえらせてほしいの。できるよね、にんげんはいきかえらないっていってたけど、ペロだったらだいじょうぶだよね?」

 目の端に涙を浮かべ少し不安げな表情で少女は言う。

「その問いに答えよう。もちろんだとも。ペロを生き返らせることできるよ」
「やったあ! じゃあ、おねがい、します、かみさま」
「だけどね、ちょっと考えてみて」
「なにを?」
「ペロは寿命で死んじゃったのだろう。だったら生き返ってもまた寿命で死んじゃうのは悲しいと思わないかい?」
「おもう! またじゅみょうでしんじゃうなんてヤだ!」
「そうだろう。だったらお願いはどうした方がいいかな?」

 神の声に少女はうーん、うーんと考える。

「そっか! ねえ、かみさま、おねがいごとかえてもいい?」
「もちろんだとも。まだ君のお願いを叶えていないからね」
「じゃあおねがい! ペロをいきかえらせて、ずっとげんきでながいきさせて!」
「長生きとは、どれくらいかな?」
「いっぱい! いっぱい! たくさん!」

 両手を上げてバンザイする少女の腕からペロが滑り落ちる。

 ワンッ!

 ペロは見事な着地を見せ、ひと声ほえた。
 少女の視界が明るくなり、見覚えのあるベッドの上にカーテンからの朝日が降り注いだ。
 
 ワン、ワンッ! ハッハッハッ!

 嬉しそうに尻尾を振り、ペロは、数時間前は物を言わぬ肉塊だった犬は少女の周りを回る。
 
「やったあ! ペロげんきになった! ヤコうれしい!」

 ワンッ! ワンッアンッ!
 ペロの首に抱き付き少女は満面の笑みを浮かべた。

「どうしたの優子やこ、犬の声が聞こえたけど」
「しかもペロの声に似ていた、いや、そんなはずが……」
「パパ! ママ! みて! ペロがいきかえったの! ヤコがかみさまにおねがいしたんだよ!」

 ハッハッハッとペロは少女の両親の足元で元気な姿を見せる。
 確かに昨日、ペロは死んだはず。
 動物病院でも寿命と診断されたはず。
 彼女の両親は不思議なことがあるものだと首をかしげたが、それは物語の序章。
 後に彼女が成人しても元気なペロの姿にふたりは首を傾げ続けることになるが、それはまた別の物語。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ザイニンタチノマツロ

板倉恭司
ミステリー
 前科者、覚醒剤中毒者、路上格闘家、謎の窓際サラリーマン……社会の底辺にて蠢く四人の人生が、ある連続殺人事件をきっかけに交錯し、変化していくノワール群像劇です。犯罪に関する描写が多々ありますが、犯罪行為を推奨しているわけではありません。また、時代設定は西暦二〇〇〇年代です。

【R18】インテリ系貞淑美人妻の欲望

牧村燈
ミステリー
 人間不信で人を愛せない妻は、不倫相手が見せる激しい『欲望』に身を委ねることで自らの生きる意味を探していた。その妻を愛しながらも、上手にそれを表現出来ない妻以外の素人童貞の夫は、博愛の風俗嬢のかりそめの愛に癒しを求めた。  すれ違う夫婦の情景を、妻目線のサイドMと夫目線のサイドKの両サイドから交互に描く。女と男、内と外、裏と表、静と動。そして、穴と棒。その全く違うはずのものが、すべて表裏一体であり一心同体であり、もともとひとつだったことに、この夫婦は気付くことが出来るだろうか。

母からの電話

naomikoryo
ミステリー
東京の静かな夜、30歳の男性ヒロシは、突然亡き母からの電話を受け取る。 母は数年前に他界したはずなのに、その声ははっきりとスマートフォンから聞こえてきた。 最初は信じられないヒロシだが、母の声が語る言葉には深い意味があり、彼は次第にその真実に引き寄せられていく。 母が命を懸けて守ろうとしていた秘密、そしてヒロシが知らなかった母の仕事。 それを追い求める中で、彼は恐ろしい陰謀と向き合わなければならない。 彼の未来を決定づける「最後の電話」に込められた母の思いとは一体何なのか? 真実と向き合うため、ヒロシはどんな犠牲を払う覚悟を決めるのか。 最後の母の電話と、選択の連続が織り成すサスペンスフルな物語。

イグニッション

佐藤遼空
ミステリー
所轄の刑事、佐水和真は武道『十六段の男』。ある朝、和真はひったくりを制圧するが、その時、警察を名乗る娘が現れる。その娘は中条今日子。実はキャリアで、配属後に和真とのペアを希望した。二人はマンションからの飛び降り事件の捜査に向かうが、そこで和真は幼馴染である国枝佑一と再会する。佑一は和真の高校の剣道仲間であったが、大学卒業後はアメリカに留学し、帰国後は公安に所属していた。 ただの自殺に見える事件に公安がからむ。不審に思いながらも、和真と今日子、そして佑一は事件の真相に迫る。そこには防衛システムを巡る国際的な陰謀が潜んでいた…… 武道バカと公安エリートの、バディもの警察小説。 ※ミステリー要素低し 月・水・金更新

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

絶叫ゲーム

みなと
ミステリー
東京にある小学校に通う「音川湊斗」と「雨野芽衣」がさまざまなところで「絶叫ゲーム」に参加させられて…… ※現在、ふりがな対応中です。 一部ふりがなありと、ふりがな無しが混同しています。

魔界沼の怪魚

瀬能アキラ
ミステリー
 得体の知れない沼や湖に出没する謎の巨大怪魚を追う。  新感覚 フィッシング・ミステリー登場。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...