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第1章 夢のおわり
1-2.第2の願い 犬飼 優子(いぬかい やこ)
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暗い部屋、少女は毛布を涙で濡らす。
いや、毛布ではない。
いや、毛布かもしれない。
だってそれは昨日までは彼女の大切な生きている毛布のようなものだったのだから。
「ううっ……、ぐすっ、ペロ、ペロぉ~~、どうしてしんじゃったの~」
少女の名は犬飼 優子。
彼女の涙が濡らすのは、生まれてから5年間ずっと一緒だった犬のペロ。
毎日、毎晩、ペロは彼女を守り、助け、温め続けた。
だけど、昨日その温かさは失われた、永遠に。
「ペロ、ペロ、いやだよ、ずっといっしょにいたいよ」
とめどなく流れる涙を彼女は手でぬぐう。
そして見た。
そこにある”23”の数字を。
そうだ!
彼女は思い出す、あの暗い所で聞いた言葉を。
『どんな願いでも叶う』
『死んだ人間は生き返らない』
でも、ペロなら!?
それに気づいた時、彼女は願った。
その瞬間、彼女は再び現れる、神の座へ。
ペロを腕に抱いて。
「こんばんは、いやそろそろおはようかな優子ちゃん。願いは決まったかな?」
神は優しい声で少女に語りかける。
「あのね、ペロがしんじゃったの。だいすきなペロが」
「うん、それは悲しいね」
「じゅみょうなんだって、パパがいってた」
「そうなんだ」
「だからね、あたしおねがいしにきたの。ペロをいきかえらせてほしいの。できるよね、にんげんはいきかえらないっていってたけど、ペロだったらだいじょうぶだよね?」
目の端に涙を浮かべ少し不安げな表情で少女は言う。
「その問いに答えよう。もちろんだとも。ペロを生き返らせることできるよ」
「やったあ! じゃあ、おねがい、します、かみさま」
「だけどね、ちょっと考えてみて」
「なにを?」
「ペロは寿命で死んじゃったのだろう。だったら生き返ってもまた寿命で死んじゃうのは悲しいと思わないかい?」
「おもう! またじゅみょうでしんじゃうなんてヤだ!」
「そうだろう。だったらお願いはどうした方がいいかな?」
神の声に少女はうーん、うーんと考える。
「そっか! ねえ、かみさま、おねがいごとかえてもいい?」
「もちろんだとも。まだ君のお願いを叶えていないからね」
「じゃあおねがい! ペロをいきかえらせて、ずっとげんきでながいきさせて!」
「長生きとは、どれくらいかな?」
「いっぱい! いっぱい! たくさん!」
両手を上げてバンザイする少女の腕からペロが滑り落ちる。
ワンッ!
ペロは見事な着地を見せ、ひと声ほえた。
少女の視界が明るくなり、見覚えのあるベッドの上にカーテンからの朝日が降り注いだ。
ワン、ワンッ! ハッハッハッ!
嬉しそうに尻尾を振り、ペロは、数時間前は物を言わぬ肉塊だった犬は少女の周りを回る。
「やったあ! ペロげんきになった! ヤコうれしい!」
ワンッ! ワンッアンッ!
ペロの首に抱き付き少女は満面の笑みを浮かべた。
「どうしたの優子、犬の声が聞こえたけど」
「しかもペロの声に似ていた、いや、そんなはずが……」
「パパ! ママ! みて! ペロがいきかえったの! ヤコがかみさまにおねがいしたんだよ!」
ハッハッハッとペロは少女の両親の足元で元気な姿を見せる。
確かに昨日、ペロは死んだはず。
動物病院でも寿命と診断されたはず。
彼女の両親は不思議なことがあるものだと首を傾げたが、それは物語の序章。
後に彼女が成人しても元気なペロの姿にふたりは首を傾げ続けることになるが、それはまた別の物語。
いや、毛布ではない。
いや、毛布かもしれない。
だってそれは昨日までは彼女の大切な生きている毛布のようなものだったのだから。
「ううっ……、ぐすっ、ペロ、ペロぉ~~、どうしてしんじゃったの~」
少女の名は犬飼 優子。
彼女の涙が濡らすのは、生まれてから5年間ずっと一緒だった犬のペロ。
毎日、毎晩、ペロは彼女を守り、助け、温め続けた。
だけど、昨日その温かさは失われた、永遠に。
「ペロ、ペロ、いやだよ、ずっといっしょにいたいよ」
とめどなく流れる涙を彼女は手でぬぐう。
そして見た。
そこにある”23”の数字を。
そうだ!
彼女は思い出す、あの暗い所で聞いた言葉を。
『どんな願いでも叶う』
『死んだ人間は生き返らない』
でも、ペロなら!?
それに気づいた時、彼女は願った。
その瞬間、彼女は再び現れる、神の座へ。
ペロを腕に抱いて。
「こんばんは、いやそろそろおはようかな優子ちゃん。願いは決まったかな?」
神は優しい声で少女に語りかける。
「あのね、ペロがしんじゃったの。だいすきなペロが」
「うん、それは悲しいね」
「じゅみょうなんだって、パパがいってた」
「そうなんだ」
「だからね、あたしおねがいしにきたの。ペロをいきかえらせてほしいの。できるよね、にんげんはいきかえらないっていってたけど、ペロだったらだいじょうぶだよね?」
目の端に涙を浮かべ少し不安げな表情で少女は言う。
「その問いに答えよう。もちろんだとも。ペロを生き返らせることできるよ」
「やったあ! じゃあ、おねがい、します、かみさま」
「だけどね、ちょっと考えてみて」
「なにを?」
「ペロは寿命で死んじゃったのだろう。だったら生き返ってもまた寿命で死んじゃうのは悲しいと思わないかい?」
「おもう! またじゅみょうでしんじゃうなんてヤだ!」
「そうだろう。だったらお願いはどうした方がいいかな?」
神の声に少女はうーん、うーんと考える。
「そっか! ねえ、かみさま、おねがいごとかえてもいい?」
「もちろんだとも。まだ君のお願いを叶えていないからね」
「じゃあおねがい! ペロをいきかえらせて、ずっとげんきでながいきさせて!」
「長生きとは、どれくらいかな?」
「いっぱい! いっぱい! たくさん!」
両手を上げてバンザイする少女の腕からペロが滑り落ちる。
ワンッ!
ペロは見事な着地を見せ、ひと声ほえた。
少女の視界が明るくなり、見覚えのあるベッドの上にカーテンからの朝日が降り注いだ。
ワン、ワンッ! ハッハッハッ!
嬉しそうに尻尾を振り、ペロは、数時間前は物を言わぬ肉塊だった犬は少女の周りを回る。
「やったあ! ペロげんきになった! ヤコうれしい!」
ワンッ! ワンッアンッ!
ペロの首に抱き付き少女は満面の笑みを浮かべた。
「どうしたの優子、犬の声が聞こえたけど」
「しかもペロの声に似ていた、いや、そんなはずが……」
「パパ! ママ! みて! ペロがいきかえったの! ヤコがかみさまにおねがいしたんだよ!」
ハッハッハッとペロは少女の両親の足元で元気な姿を見せる。
確かに昨日、ペロは死んだはず。
動物病院でも寿命と診断されたはず。
彼女の両親は不思議なことがあるものだと首を傾げたが、それは物語の序章。
後に彼女が成人しても元気なペロの姿にふたりは首を傾げ続けることになるが、それはまた別の物語。
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