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第十一話 お湯をかける少女
お湯をかける少女
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「カポーン」
巴子が擬音を声にする。
「ねえ、お風呂のカポーンって何の音かな」
「桶を置く音じゃないかな」
あたしは答える。
「よし、やってみよう!」
ザバッと露天風呂より巴子が出ると、手近な桶を床に叩き付けた。
ガゴン! 桶は鈍い音を立てる。
「カポーンじゃないじゃねえか!」
巴子はバカだ。
「もっと優し目にリズミカルに叩き付けるんじゃないかな?」
静子はボケだ。
コーン、コーン、コーン
「やっぱ違うじゃねぇか!」
「あなたたち馬鹿ね。可能性を探る知性に欠けているわ」
大和盛さんがまた挑戦的な事を言う。
彼女はギャンブラーだ。
いや、勝負好きだからゲーマーの方が近いかな。
「発想を広げるのよ。『カポーン』という音を聴くシチュエーションで必ずその場にある物を想像してみなさい」
「うん、桶や洗面器じゃねぇのか?」
「ひょっとしてシャンプーやタオルかな」
「もっと単純よ。例えば山奥の秘湯、完全な天然温泉でもカポーンという音は鳴るわ。例えば、雪山で遭難して、ビームサーベルで温泉を創るようなシチュでも『カポーン』って音がしてもおかしくないわ」
いやいや、大和盛さん、それはおかしいでしょ。
「ひょっとしてお湯かな?」
静子は相変わらずボケている。
「やってみようぜ!」
巴子がザブンと湯に飛び込む。
ザバッ、ザバッ、パンパン!
「だましやがったな大和盛!」
訂正、巴子は大バカだ。
「これだから大バカさんは困るわ」
大和盛さんは冷静に判断する。
さすが学年トップの成績を誇るだけはあるわ。
「もっと根源的なものよ。音が聞こえる時、必ずある物、それは……」
「それは!?」
巴子がゴクリと喉を鳴らす。
「それは?」
静子が息を飲んで続きを待つ。
「この肉体そのものよ!」
そう言って、大和盛さんは温泉の中で立ち上がり、自らの脇に掌を当てると、その隙間で真空を作り、音を奏で始めた。
かぽっ、カポッ、カポーン!
「すごい! 本当にカポーンって聞こえた」
「くっ、悔しいが今日の所は、あたいの負けだ」
「ふふふっ、思い知ったかしら」
うん、大和盛さんは開拓者だ。
残念美人とも言うが。
あたしの名は飛鳥、今日は友達とストロング温泉に湯治に来ている。
「すげぇ! 本当に肌がツルツルになってる!」
「雑誌で美人の湯として特集されるだけの事はあるね」
「ありがとう、飛鳥さん。招待券をくれて」
「ううん、バイト先で余った物をもらっただけだから」
ここの宿泊券はビクターにもらったのだ。
『最近疲れているだろうし、養生してきな』
そう言って四枚の招待券を渡された。
アイツもたまには良い事をするもんだ。
「でも、ストロング温泉って、強そうだよな」
「うんうん、力が湧きそうだよね」
「温泉の成分のストロンチウムから来ているそうよ。『なんか強そう』って巴子さんが思うのも無理ないわね」
「色は赤茶色で不気味だったけどな」
「それは酸化鉄の色ね」
「さすが大和盛さん。博識ね」
ホント、スペックは高いんだけどな。
「肌も良い感じにキレイになったし、今度は潤いを補充だ! 大和盛! フルーツ牛乳一気飲み勝負しようぜ!」
「いいわよ! 一リットルね!」
「おうさ!」
勝負に熱中する二人を後目に静子とあたしはゴクゴクとコーヒー牛乳を飲む。
もちろん200mlだ。
「飛鳥ちゃん。大丈夫、身体の方は」
静子があたしを心配してくれる。無理もない、半年前は入院していたのだ。
お医者さんが言うには、学会に発表したくなる奇跡の例らしい。
そこはビクターとメイちゃんに感謝だ。
この招待券もひょっとしたらアイツなりのケアのつもりなのかしら。
この温泉は成分だけでなく、霊的にも優れているっぽい。
お湯がうっすらと霊的な光を放っていた。
風水とか霊脈とかの集中点だから温泉になったのかしら。
霊体になって『コテラ』に行ったり、霊体クッキーを食べ続けているからだろうか、あたしはそういう体質になっていた。
「くそうっ! まさかあたいが負けるとは!」
「鍛錬が足りんわぁ!」
二人の勝負は大和盛さんが勝利した。
半裸で、片手で一リットルの紙パックを掲げ、もう片手を腰に当てて勝利のポーズを取る。
ほんっと、スペックは高いんだけどなぁ。
夜中、あたしは目を覚ます。
寝相が悪い巴子と大和盛さんのせいではない。
何か胸騒ぎがするのだ。
灯りの減った館内で、あたしは胸騒ぎの方向へ進む。
庭に出ると、何か居る。
あたしの第六感なのか霊感なのかが警鐘を鳴らす。
「……∵∬」
「☆彡※」
何者かの声が聞こえる。
そして、あたしはその声に安堵する。
「メイちゃん」
あたしは声を掛ける。
庭の影に隠れていたのは、メイちゃんと、何か。おそらく異星人だろう。
「あ、ああ飛鳥さん。こんな夜更けに起きてきちゃお肌に悪いですよ」
「ΨΔ〈!?」
隣の異星人が何かを話すが、理解出来ない。
あたしは翻訳機がないと銀河標準語の初級の挨拶くらいしか理解できないのだ。
しかし、月明かりは煌々と照らしているのに異星人の姿は良く見えない、メイちゃんの姿は見えるのにだ。
目を凝らし、霊的な姿も視てみる。
メイちゃんの姿が消え、異星人の姿が露わになる。
だが、その姿でも人の身長ほどの指のような姿しか視えない。おそらく、本当にそんな姿なのだろう。
その姿を例えるならエジプト壁画のメジェドラ様のようだ。
静子のキーホルダーで識った、身体のパーツが無いシルエットそのもののデザインなのだ。
あれ、でもこれ、どっかで見たような……。
「飛鳥さん。定刻になりましたから、こちらで失礼します」
そそくさと急ぐように、メイちゃんと異星人は迷彩で隠された降下艇で飛び立っていった。
夜空の星の一つと化した降下艇を見送り、飛鳥はふと考える。
「あー!」
そう叫ぶと、飛鳥は部屋に戻り、そして布団に潜り込んだ。
「今日も地球はなべて事もなしか」
地上のテレビニュースを眺めながら、ビクターはいつものようにコーヒーを啜る。
あたしは、その水面をカタカタと揺らし、爆発させる。
「あちち、あち」
何事かとビクターは振り向いた。
「や、やあ飛鳥じゃないか。挨拶にしてはちょっと過激じゃないかな」
ビクターが怒らなかったのは、きっとあたしの怒りの方が大きい事を感じ取ったからだ。
あたしは霊体の腕でビクターの胸倉を掴む。
「ちょっとビクター! よくも騙してくれたわね!」
「だます!? な、なんの事かな?」
「とぼけないで! あ、あたしの、あたしのお友達の純潔を何だと思っているのよ!」
あの異星人を見た時、どこかで見たような感じ、ようなではなく、視ていたのだ。
露天風呂で感じた、お湯から霊的な感じ、あれは地脈とか霊脈の類ではなかったのだ。
あのお湯は、本当に生きていたのだ。
お湯そのものが、いや、大半が異星人だったのだ。
「あの軟体の異星人をお風呂に入れていたわね」
「ち、違う、スパーリ星人は軟体ではなく、地球で言う所のアメーバから進化した……ぐ、くるしい」
「やっぱり! このエロ星人たちが!」
「いや、僕やスパーリ星人は現地猿なんかに欲情したりはしな……ぎぎぎ、ぎぶぎぶ」
あたしの腕に力が籠もる。
「大変です、マスター! お客様の体調が急に、って飛鳥さん何でそこに居るんですか!?」
「わかった、わかった、飛鳥、僕が悪かった! ちゃんと謝罪するから、今はスパーリ星人の手当をさせてくれ頼む!」
「しょうがないわね。逃げないでよ」
あたしが力を緩めると、ほうほうの体でビクターは艦橋へ向かって行った。
待つこと数時間、扉を開けてメイちゃんが戻ってきた。
「飛鳥さんお待たせしました。マスターも間もなく来ると思います」
「失礼しちゃうわ。あたし達に、あんな、あんな、スライム責めのようなエロゲの真似事をさせるなんて」
あたしは、静子から得た、役に立たなそうで、今、役に立ってしまった知識を思い起こしていた。
「エロくなんてないですよ。あれはグルメツアーですから」
「は?」
「あれ? マスターからの説明がまだでしたか? スパーリ星人様は、地球で言う所のアメーバから進化した方で」
「それは聞いた」
「だったらお分かりかと思いますが、彼らの食事は全身から水中に漂う有機物を摂ってらっしゃるのですよ。今回の場合は地球人の老廃物ですね。あと温泉のミネラルですね。ピリッとしたアクセントになるらしいですよ」
「げっ、あたし達の垢を食べてったって事!?」
「そうなりますね」
そういえば、今までにないお肌のツルツル具合の湯上りだった。
雑誌で特集されるわけだ。
「特に地球人に害は無いですよ。ドクターフィッシュのようなもんだとマスターはおっしゃってました」
メイちゃんはそう言うが、可愛いお魚に脚の角質を食べて貰うドクターフィッシュとは訳が違う。
ビクターから見れば同じかもしれないが、生理的には別物だ。
ビクターが戻ったら、とっちめてやるんだからとあたしは決意を新たにする。
扉が開いた。
「ちょ、ビク……」
「すまなかったぁ!」
ビクターはダッシュで駆け寄ると、あたしの前で土下座した。
「えっ」
「僕が悪かった。二度と女湯にスパーリ星人を入れるような真似はしない! だから、だから今回だけは許してくれ! 頼む!」
そう言ってビクターは何度も頭を床に擦りつける。
「嘘じゃない! 誓って!」
うーん、ここまでされるとなぁ。
「しょうがない、あたしと友達の遊園地と食事のタダ券で許してあげるわ」
あたしは寛容なのだ。
ビクターは涙を流し、あたしの慈悲に感謝した。
「ふぅ、飛鳥は帰ったようだな」
「はい。ところでスパーリ星人様の容態はどうですか」
「ただの食あたりだよ。ほっとくと危険だったが、ちゃんと処置したので大丈夫さ」
「温泉に現地生物の死骸でも入っていたのでしょうか」
「いや、それだったら彼らは気付くさ。食べてはいけないものだと」
「じゃあ、原因は何でしょうか」
「血さ、正確には地球人の白血球だな。スパーリ星人はそれを摂取してしまったのさ。あれは非常に攻撃的で、しかもヒトの血管内だけではなく、組織内にも移動出来る。あんな物を摂ってしまったら、スパーリ星人の体組織なんて攻撃されまくって、ボロボロにされてしまうさ」
「そ、それは危険ですね。でも血なんて、どうして温泉に入っていたのでしょうか」
「おそらく、生理中の奴でもいたんだろうな。今度から気を付けないと」
その後、ストロング温泉は女性客の減少により、一時的に寂れる事となる。
女性客のリピーターが以前より肌のツルツル感が減ったとSNSに書き、湯を薄めたのではないかという疑惑が起きたからだ。
だが、その後、加齢臭に非常に効くとして男性客が増える事となるのだが、それはまた別のお話。
地球のとある温泉には注意書きがある。
『傷のある方、出血の恐れのある方のご入浴はご遠慮下さい』と。
--------------------------------------------------------------------------------
はい、今回は温泉回ですね。
お色気シーンてんこ盛りですよー、少し生生しいですが(目を逸らしながら)
雪山でのビームサーベル温泉はガンダム08小隊から。
「ストロンチウムッ♪ なんか強そう」はエレメントハンターのEDからですね。
サブタイトルの『お湯をかける少女』は『時をかける少女』からですが、実はそれのパロディの1980年代のカップ麺CMそのものです。
歳がばれますな……
--------------------------------------------------------------------------------
巴子が擬音を声にする。
「ねえ、お風呂のカポーンって何の音かな」
「桶を置く音じゃないかな」
あたしは答える。
「よし、やってみよう!」
ザバッと露天風呂より巴子が出ると、手近な桶を床に叩き付けた。
ガゴン! 桶は鈍い音を立てる。
「カポーンじゃないじゃねえか!」
巴子はバカだ。
「もっと優し目にリズミカルに叩き付けるんじゃないかな?」
静子はボケだ。
コーン、コーン、コーン
「やっぱ違うじゃねぇか!」
「あなたたち馬鹿ね。可能性を探る知性に欠けているわ」
大和盛さんがまた挑戦的な事を言う。
彼女はギャンブラーだ。
いや、勝負好きだからゲーマーの方が近いかな。
「発想を広げるのよ。『カポーン』という音を聴くシチュエーションで必ずその場にある物を想像してみなさい」
「うん、桶や洗面器じゃねぇのか?」
「ひょっとしてシャンプーやタオルかな」
「もっと単純よ。例えば山奥の秘湯、完全な天然温泉でもカポーンという音は鳴るわ。例えば、雪山で遭難して、ビームサーベルで温泉を創るようなシチュでも『カポーン』って音がしてもおかしくないわ」
いやいや、大和盛さん、それはおかしいでしょ。
「ひょっとしてお湯かな?」
静子は相変わらずボケている。
「やってみようぜ!」
巴子がザブンと湯に飛び込む。
ザバッ、ザバッ、パンパン!
「だましやがったな大和盛!」
訂正、巴子は大バカだ。
「これだから大バカさんは困るわ」
大和盛さんは冷静に判断する。
さすが学年トップの成績を誇るだけはあるわ。
「もっと根源的なものよ。音が聞こえる時、必ずある物、それは……」
「それは!?」
巴子がゴクリと喉を鳴らす。
「それは?」
静子が息を飲んで続きを待つ。
「この肉体そのものよ!」
そう言って、大和盛さんは温泉の中で立ち上がり、自らの脇に掌を当てると、その隙間で真空を作り、音を奏で始めた。
かぽっ、カポッ、カポーン!
「すごい! 本当にカポーンって聞こえた」
「くっ、悔しいが今日の所は、あたいの負けだ」
「ふふふっ、思い知ったかしら」
うん、大和盛さんは開拓者だ。
残念美人とも言うが。
あたしの名は飛鳥、今日は友達とストロング温泉に湯治に来ている。
「すげぇ! 本当に肌がツルツルになってる!」
「雑誌で美人の湯として特集されるだけの事はあるね」
「ありがとう、飛鳥さん。招待券をくれて」
「ううん、バイト先で余った物をもらっただけだから」
ここの宿泊券はビクターにもらったのだ。
『最近疲れているだろうし、養生してきな』
そう言って四枚の招待券を渡された。
アイツもたまには良い事をするもんだ。
「でも、ストロング温泉って、強そうだよな」
「うんうん、力が湧きそうだよね」
「温泉の成分のストロンチウムから来ているそうよ。『なんか強そう』って巴子さんが思うのも無理ないわね」
「色は赤茶色で不気味だったけどな」
「それは酸化鉄の色ね」
「さすが大和盛さん。博識ね」
ホント、スペックは高いんだけどな。
「肌も良い感じにキレイになったし、今度は潤いを補充だ! 大和盛! フルーツ牛乳一気飲み勝負しようぜ!」
「いいわよ! 一リットルね!」
「おうさ!」
勝負に熱中する二人を後目に静子とあたしはゴクゴクとコーヒー牛乳を飲む。
もちろん200mlだ。
「飛鳥ちゃん。大丈夫、身体の方は」
静子があたしを心配してくれる。無理もない、半年前は入院していたのだ。
お医者さんが言うには、学会に発表したくなる奇跡の例らしい。
そこはビクターとメイちゃんに感謝だ。
この招待券もひょっとしたらアイツなりのケアのつもりなのかしら。
この温泉は成分だけでなく、霊的にも優れているっぽい。
お湯がうっすらと霊的な光を放っていた。
風水とか霊脈とかの集中点だから温泉になったのかしら。
霊体になって『コテラ』に行ったり、霊体クッキーを食べ続けているからだろうか、あたしはそういう体質になっていた。
「くそうっ! まさかあたいが負けるとは!」
「鍛錬が足りんわぁ!」
二人の勝負は大和盛さんが勝利した。
半裸で、片手で一リットルの紙パックを掲げ、もう片手を腰に当てて勝利のポーズを取る。
ほんっと、スペックは高いんだけどなぁ。
夜中、あたしは目を覚ます。
寝相が悪い巴子と大和盛さんのせいではない。
何か胸騒ぎがするのだ。
灯りの減った館内で、あたしは胸騒ぎの方向へ進む。
庭に出ると、何か居る。
あたしの第六感なのか霊感なのかが警鐘を鳴らす。
「……∵∬」
「☆彡※」
何者かの声が聞こえる。
そして、あたしはその声に安堵する。
「メイちゃん」
あたしは声を掛ける。
庭の影に隠れていたのは、メイちゃんと、何か。おそらく異星人だろう。
「あ、ああ飛鳥さん。こんな夜更けに起きてきちゃお肌に悪いですよ」
「ΨΔ〈!?」
隣の異星人が何かを話すが、理解出来ない。
あたしは翻訳機がないと銀河標準語の初級の挨拶くらいしか理解できないのだ。
しかし、月明かりは煌々と照らしているのに異星人の姿は良く見えない、メイちゃんの姿は見えるのにだ。
目を凝らし、霊的な姿も視てみる。
メイちゃんの姿が消え、異星人の姿が露わになる。
だが、その姿でも人の身長ほどの指のような姿しか視えない。おそらく、本当にそんな姿なのだろう。
その姿を例えるならエジプト壁画のメジェドラ様のようだ。
静子のキーホルダーで識った、身体のパーツが無いシルエットそのもののデザインなのだ。
あれ、でもこれ、どっかで見たような……。
「飛鳥さん。定刻になりましたから、こちらで失礼します」
そそくさと急ぐように、メイちゃんと異星人は迷彩で隠された降下艇で飛び立っていった。
夜空の星の一つと化した降下艇を見送り、飛鳥はふと考える。
「あー!」
そう叫ぶと、飛鳥は部屋に戻り、そして布団に潜り込んだ。
「今日も地球はなべて事もなしか」
地上のテレビニュースを眺めながら、ビクターはいつものようにコーヒーを啜る。
あたしは、その水面をカタカタと揺らし、爆発させる。
「あちち、あち」
何事かとビクターは振り向いた。
「や、やあ飛鳥じゃないか。挨拶にしてはちょっと過激じゃないかな」
ビクターが怒らなかったのは、きっとあたしの怒りの方が大きい事を感じ取ったからだ。
あたしは霊体の腕でビクターの胸倉を掴む。
「ちょっとビクター! よくも騙してくれたわね!」
「だます!? な、なんの事かな?」
「とぼけないで! あ、あたしの、あたしのお友達の純潔を何だと思っているのよ!」
あの異星人を見た時、どこかで見たような感じ、ようなではなく、視ていたのだ。
露天風呂で感じた、お湯から霊的な感じ、あれは地脈とか霊脈の類ではなかったのだ。
あのお湯は、本当に生きていたのだ。
お湯そのものが、いや、大半が異星人だったのだ。
「あの軟体の異星人をお風呂に入れていたわね」
「ち、違う、スパーリ星人は軟体ではなく、地球で言う所のアメーバから進化した……ぐ、くるしい」
「やっぱり! このエロ星人たちが!」
「いや、僕やスパーリ星人は現地猿なんかに欲情したりはしな……ぎぎぎ、ぎぶぎぶ」
あたしの腕に力が籠もる。
「大変です、マスター! お客様の体調が急に、って飛鳥さん何でそこに居るんですか!?」
「わかった、わかった、飛鳥、僕が悪かった! ちゃんと謝罪するから、今はスパーリ星人の手当をさせてくれ頼む!」
「しょうがないわね。逃げないでよ」
あたしが力を緩めると、ほうほうの体でビクターは艦橋へ向かって行った。
待つこと数時間、扉を開けてメイちゃんが戻ってきた。
「飛鳥さんお待たせしました。マスターも間もなく来ると思います」
「失礼しちゃうわ。あたし達に、あんな、あんな、スライム責めのようなエロゲの真似事をさせるなんて」
あたしは、静子から得た、役に立たなそうで、今、役に立ってしまった知識を思い起こしていた。
「エロくなんてないですよ。あれはグルメツアーですから」
「は?」
「あれ? マスターからの説明がまだでしたか? スパーリ星人様は、地球で言う所のアメーバから進化した方で」
「それは聞いた」
「だったらお分かりかと思いますが、彼らの食事は全身から水中に漂う有機物を摂ってらっしゃるのですよ。今回の場合は地球人の老廃物ですね。あと温泉のミネラルですね。ピリッとしたアクセントになるらしいですよ」
「げっ、あたし達の垢を食べてったって事!?」
「そうなりますね」
そういえば、今までにないお肌のツルツル具合の湯上りだった。
雑誌で特集されるわけだ。
「特に地球人に害は無いですよ。ドクターフィッシュのようなもんだとマスターはおっしゃってました」
メイちゃんはそう言うが、可愛いお魚に脚の角質を食べて貰うドクターフィッシュとは訳が違う。
ビクターから見れば同じかもしれないが、生理的には別物だ。
ビクターが戻ったら、とっちめてやるんだからとあたしは決意を新たにする。
扉が開いた。
「ちょ、ビク……」
「すまなかったぁ!」
ビクターはダッシュで駆け寄ると、あたしの前で土下座した。
「えっ」
「僕が悪かった。二度と女湯にスパーリ星人を入れるような真似はしない! だから、だから今回だけは許してくれ! 頼む!」
そう言ってビクターは何度も頭を床に擦りつける。
「嘘じゃない! 誓って!」
うーん、ここまでされるとなぁ。
「しょうがない、あたしと友達の遊園地と食事のタダ券で許してあげるわ」
あたしは寛容なのだ。
ビクターは涙を流し、あたしの慈悲に感謝した。
「ふぅ、飛鳥は帰ったようだな」
「はい。ところでスパーリ星人様の容態はどうですか」
「ただの食あたりだよ。ほっとくと危険だったが、ちゃんと処置したので大丈夫さ」
「温泉に現地生物の死骸でも入っていたのでしょうか」
「いや、それだったら彼らは気付くさ。食べてはいけないものだと」
「じゃあ、原因は何でしょうか」
「血さ、正確には地球人の白血球だな。スパーリ星人はそれを摂取してしまったのさ。あれは非常に攻撃的で、しかもヒトの血管内だけではなく、組織内にも移動出来る。あんな物を摂ってしまったら、スパーリ星人の体組織なんて攻撃されまくって、ボロボロにされてしまうさ」
「そ、それは危険ですね。でも血なんて、どうして温泉に入っていたのでしょうか」
「おそらく、生理中の奴でもいたんだろうな。今度から気を付けないと」
その後、ストロング温泉は女性客の減少により、一時的に寂れる事となる。
女性客のリピーターが以前より肌のツルツル感が減ったとSNSに書き、湯を薄めたのではないかという疑惑が起きたからだ。
だが、その後、加齢臭に非常に効くとして男性客が増える事となるのだが、それはまた別のお話。
地球のとある温泉には注意書きがある。
『傷のある方、出血の恐れのある方のご入浴はご遠慮下さい』と。
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はい、今回は温泉回ですね。
お色気シーンてんこ盛りですよー、少し生生しいですが(目を逸らしながら)
雪山でのビームサーベル温泉はガンダム08小隊から。
「ストロンチウムッ♪ なんか強そう」はエレメントハンターのEDからですね。
サブタイトルの『お湯をかける少女』は『時をかける少女』からですが、実はそれのパロディの1980年代のカップ麺CMそのものです。
歳がばれますな……
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