23 / 29
第十二話 ロスト・サムライ(全五部)
その5
しおりを挟む
「その後、皇女様は女王となり、叛乱軍のケガイは部下の裏切りによって殺されたそうだ。『失敗者は要らないのでしたよね』と言われたらしい」
コーヒーを片手にビクターは飛鳥に語り掛けた。
「良い話ね。ちょっと目が潤んできちゃった」
飛鳥は手にしたハンカチで目頭を拭った。
「ははっ、だから地球人は未熟で論理的思考に欠けてるんだ」
カップをソーサーに置きながらビクターがクスクスと笑う。
「何よ、どこがおかしいのよ」
少しムッっとした声色で飛鳥が言った。
「では、未熟なお前たちに知恵を授けてやろう。いいか、繁栄する種族には必須と言える優先思考がある。
それは、
1.個の繁栄
即ち、自らの安寧と利得を優先する行動
2.一族の繁栄
それ即ち、子や血族の隆盛を慮る心
3.種の繁栄
それ、まさしく、種族を栄華へ導く活動、だ。
この三つは状況に応じて優先順位は変われども、これに則った行動をしない種族は繁栄しない」
指を一本一本立てながら丁寧にビクターが説明する。
「何よ、あの鍋山さんが、その優先思考に反して自らの命を散らしたから、そんな事を言うの」
飛鳥の声にビクターはさらにクククと笑う。
「違うさ、彼の行動に不自然な事は無い。遠い異星に行ってしまったのだ。環境の変化に耐えられず心が病んでしまったのだろう。彼が自らの命を優先しない行動を採ったのは納得できる」
「じゃあ何よ、何がおかしいのよ」
「おかしいのはお前さ飛鳥。お前は彼の話に共感し感涙さえした。彼の行動はお前にも、地球人にも利をもたらさないのにな。だからお前たちは未熟だと笑ったのさ」
「何よ、いいじゃないの。そう思っても」
「ああ、自由さ。だが、その自由さがある限り、地球人が銀河連盟の一員となるのは、まだまだ遠いな」
飛鳥は憤慨し、ビクターはクスクスと笑い続けた。
飛鳥の愚かしさを笑いながらも、それを少し愛おしむように。
王家の墳墓には当然ながら王家の者しか埋葬されない。
そこには歴代の王族が埋葬されている。
現女王が戴冠してから百年が経過し、何度も繰り返された前王を悼む式典終了の後、墳墓の一角を訪れる影があった。
現女王である。
地球人より遥かに寿命が長い種族ではあるが、百年という月日は、あどけなさを残す少女を麗しい女性に成長させていた。
かつて少女だった者はひとり墳墓の一角に立つ。
その足元には石を積んだだけの粗末な墓が佇んでいた。
王家の墳墓に埋葬された王族を除く唯一の存在である。
「なあ、イヌよ、あの日から長い時が過ぎたな。今や叔父上も我を傀儡とするのに手を焼いておるぞ。なんせ国民の人気は我の方が上じゃからの。これもイヌの教えてくれた仁の心のおかげじゃ。ハガクレとかいうお前の遺品の本も面白いの。銀河連盟の基準からは外れておるが実に興味深い」
女王は膝を折り、語り続ける。
「我が女王になれたのも、今の栄光も全てイヌのおかけだ。感謝している」
「だが、それでも、そんなものはなくとも、今一度お前と野を駆け巡りたかった。お前の胸に抱かれていたかった」
石が水滴に濡れた。
式典の後、女王がひとりでペットの墓に参るのは公然の秘密である。
だが、それを見る者がいた。
かつてペットに言葉を教え、クーデターを生き延びた侍女である。
「女王様、お気に入りのペットが死んでしまって悲しいのですね。ならば、侍女として姫様、いや女王様のために尽力いたしましょう」
決意を胸に侍女は宮殿に戻る。
「マスター、ブラウ女王の侍女さんから注文が来ていますよ」
「んー、何だ?」
「前に買った、サムライの追加注文ですって」
メイの声にビクターは少し考えた。
「メイ、侍女さんに返事をしてくれ」
「はい、何と返事致しましょうか?」
「サムライは絶滅しました、と」
--------------------------------------------------------------------------------
この話はもっと短い予定でした。
書きたかったのは最後のビクターと飛鳥のやり取りの部分でした。
銀河連盟人の合理性と飛鳥の感性の違いを書きたかったのですね。
最後の侍女の、お気に入りのペットが亡くなったので、新品を再購入して女王を喜ばせようという本人はいたって真面目なのですが、そうじゃない、という部分にもその差が現れています。
でもなぜか長編にになってしまい……
うん、もっと精進が必要ですね。
コーヒーを片手にビクターは飛鳥に語り掛けた。
「良い話ね。ちょっと目が潤んできちゃった」
飛鳥は手にしたハンカチで目頭を拭った。
「ははっ、だから地球人は未熟で論理的思考に欠けてるんだ」
カップをソーサーに置きながらビクターがクスクスと笑う。
「何よ、どこがおかしいのよ」
少しムッっとした声色で飛鳥が言った。
「では、未熟なお前たちに知恵を授けてやろう。いいか、繁栄する種族には必須と言える優先思考がある。
それは、
1.個の繁栄
即ち、自らの安寧と利得を優先する行動
2.一族の繁栄
それ即ち、子や血族の隆盛を慮る心
3.種の繁栄
それ、まさしく、種族を栄華へ導く活動、だ。
この三つは状況に応じて優先順位は変われども、これに則った行動をしない種族は繁栄しない」
指を一本一本立てながら丁寧にビクターが説明する。
「何よ、あの鍋山さんが、その優先思考に反して自らの命を散らしたから、そんな事を言うの」
飛鳥の声にビクターはさらにクククと笑う。
「違うさ、彼の行動に不自然な事は無い。遠い異星に行ってしまったのだ。環境の変化に耐えられず心が病んでしまったのだろう。彼が自らの命を優先しない行動を採ったのは納得できる」
「じゃあ何よ、何がおかしいのよ」
「おかしいのはお前さ飛鳥。お前は彼の話に共感し感涙さえした。彼の行動はお前にも、地球人にも利をもたらさないのにな。だからお前たちは未熟だと笑ったのさ」
「何よ、いいじゃないの。そう思っても」
「ああ、自由さ。だが、その自由さがある限り、地球人が銀河連盟の一員となるのは、まだまだ遠いな」
飛鳥は憤慨し、ビクターはクスクスと笑い続けた。
飛鳥の愚かしさを笑いながらも、それを少し愛おしむように。
王家の墳墓には当然ながら王家の者しか埋葬されない。
そこには歴代の王族が埋葬されている。
現女王が戴冠してから百年が経過し、何度も繰り返された前王を悼む式典終了の後、墳墓の一角を訪れる影があった。
現女王である。
地球人より遥かに寿命が長い種族ではあるが、百年という月日は、あどけなさを残す少女を麗しい女性に成長させていた。
かつて少女だった者はひとり墳墓の一角に立つ。
その足元には石を積んだだけの粗末な墓が佇んでいた。
王家の墳墓に埋葬された王族を除く唯一の存在である。
「なあ、イヌよ、あの日から長い時が過ぎたな。今や叔父上も我を傀儡とするのに手を焼いておるぞ。なんせ国民の人気は我の方が上じゃからの。これもイヌの教えてくれた仁の心のおかげじゃ。ハガクレとかいうお前の遺品の本も面白いの。銀河連盟の基準からは外れておるが実に興味深い」
女王は膝を折り、語り続ける。
「我が女王になれたのも、今の栄光も全てイヌのおかけだ。感謝している」
「だが、それでも、そんなものはなくとも、今一度お前と野を駆け巡りたかった。お前の胸に抱かれていたかった」
石が水滴に濡れた。
式典の後、女王がひとりでペットの墓に参るのは公然の秘密である。
だが、それを見る者がいた。
かつてペットに言葉を教え、クーデターを生き延びた侍女である。
「女王様、お気に入りのペットが死んでしまって悲しいのですね。ならば、侍女として姫様、いや女王様のために尽力いたしましょう」
決意を胸に侍女は宮殿に戻る。
「マスター、ブラウ女王の侍女さんから注文が来ていますよ」
「んー、何だ?」
「前に買った、サムライの追加注文ですって」
メイの声にビクターは少し考えた。
「メイ、侍女さんに返事をしてくれ」
「はい、何と返事致しましょうか?」
「サムライは絶滅しました、と」
--------------------------------------------------------------------------------
この話はもっと短い予定でした。
書きたかったのは最後のビクターと飛鳥のやり取りの部分でした。
銀河連盟人の合理性と飛鳥の感性の違いを書きたかったのですね。
最後の侍女の、お気に入りのペットが亡くなったので、新品を再購入して女王を喜ばせようという本人はいたって真面目なのですが、そうじゃない、という部分にもその差が現れています。
でもなぜか長編にになってしまい……
うん、もっと精進が必要ですね。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる